繰延税金資産の回収可能性
(課税所得の合理的な見積もりを行うに当たっての留意事項)
42.
第21項(1)では、将来の課税所得の合理的な見積もりを行うことを求めている。一般的に当期における課税所得が将来減算一時差異額(将来加算一時差異控除後)に比べて相当に多額であり、将来の所得の発生に重大な不確実性が存在しない限り、十分な課税所得が期待できると考えられる。このような状況の下では、将来減算一時差異はその解消年度及び繰戻・繰越期間において税金の減額効果を合理的に期待できるからである。
これに対して、会社が過年度から当年度までの数年間にわたり、税務上の欠損金を計上している状況の下では、一般的に将来の課税所得額を合理的に見積もることは困難であろう。したがって、過去に税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実があった場合、繰越期限切れとなることが合理的に予想される場合のほか、税務上の欠損金を計上している場合において、繰延税金資産を計上するときは、将来減算一時差異の解消年度及び繰戻・繰越期間又は税務上の繰越欠損金の繰越期間における課税所得の発生する可能性を合理的な証拠によって裏付けなければならないことに留意すべきである。つまり、そのような合理的な証拠に乏しい場合は、繰延税金資産を計上することはできない。
(将来減算一時差異の解消年度及び繰戻・繰越期間に将来加算一時差異の解消がある場合の例示)
43.
第21項(3)@では、解消年度及び繰戻・繰越期間において将来減算一時差異の解消額と将来加算一時差異の解消額とが相殺されるならば、将来減算一時差異のうち将来相殺される部分に係る繰延税金資産は実現する(回収される)ことを示している。この関係を例示すると、以下のとおりである。
X1年(当期)に発生した将来減算一時差異合計額と将来加算一時差異合計額は、それぞれ380及び370であったと仮定する。X1年末に計上すべき繰延税金資産額を見積もるためには、X1年末に存在する一時差異が解消される将来の年度及び解消金額をまず見積もらなければならない。以下の表は、X1年末における一時差異の将来の年度における解消予想額を解消年度別に示したものである。
| 発生 | 解消年度及び解消額の見積もり |
| X1年末 | X2年 | X3年 | … | X8年 |
将来減算一時差異合計 | (380) | (100) | (200) |
| (80) |
将来加算一時差異合計 | 370 | 150 | 120 |
| 100 |
差 引 | (10) | 50 | 80 |
| 20 |
上記の表によれば、X2年に解消される見込の将来減算一時差異100は、同年に解消される見込の将来加算一時差異150と完全に相殺されるから、当該将来減算一時差異100に対する繰延税金資産が回収可能となる。次に、X3年に解消される見込みの将来減算一時差異に100のうち120は同年に解消される見込みの将来加算一時差異120と相殺されるため、繰延税金資産が回収可能となるが、相殺できない将来減算一時差異80は、税効果会計の適用上、解消年度に発生した税務上の欠損金と同様に取り扱われる。例示では、X3年に相殺ではない将来減算一時差異の解消見込み額80は、税務上の欠損金と同様とみなし、法人税法上の欠損金の繰戻し規定を適用し、税務上の欠損金の繰戻し期間であるX2年に解消する見込みの将来加算一時差異150のうち同年に解消する見込みの将来減算一時差異100と相殺されない部分50とまず相殺される。したがって、X3年に相殺されない将来減算一時差異の解消額80のうち、当該相殺額50に等しい将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収されることになる。さらに、X3年に相殺し切れない将来減算一時差異の解消残高30は、X3年を基準として税務上の欠損金の繰越可能期間であるX4年からX8年までの5年間に解消される見込みの将来加算一時差異100のうち同期間に解消される見込みの将来減算一時差異80と相殺した後の残高20と相殺される。その結果、X3年に解消される見込みの将来減算一時差異200のうち10(30−20)が解消年度及び繰戻・繰越期間に将来加算一時差異の解消見込み額と相殺し切れないことになる。したがって、この10に係る税効果は第21項(3)@の判断要件を満たさないため、同項の(1)@又は(2)の要件を満たさない限り、X1年(当期)において繰延税金資産として計上することはできない。
なお、上記の例示では、欠損金の繰戻期間を繰戻・繰越期間に含めているが、現行(平成10年)の住民税及び事業税法上は欠損金の繰戻し規定が存在しないため、その部分を繰戻・繰越期間に含めることはできない。同様に、法人税法上、X3年が欠損金繰戻し規定の停止期間に該当すれば、繰戻・繰越期間に含めることはできない。この場合、上の例示による繰延税金資産としてX1年に計上できない将来減算一時差異は60(80−20)となることに留意すべきである。
(繰越期間に税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異の解消がある場合の例示)
44.
第21項(3)Aにおける、税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異の解消がある場合とは、次の例示による場合を想定している。以下の表は、X0年及びX1年に将来加算一時差異及び税務上の繰越欠損金が発生し、X1年末(当期末)におけ税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性を検討するために作成したものである。
| 発生 | 発生 | 解消/消滅年度及び解消額/消滅額の見積り |
| X0年 | X1年 | X2年 | X3年 | X4年 | X5年 | X6年 | X7年 |
将来加算一時差異 | 50 | 110 | 20 | 30 | 0 | 40 | 60 | 10 |
税務上の繰越欠損金額 | (110) | (120) | (20) | (30) | 0 | (50) | (120) | - |
差引 | (50) | (10) | 0 | 0 | 0 | (10) | (60) | 10 |
X1年末に存在する将来加算一時差異合計160(50+110)が翌期以降解消される年度と解消額を、まず見積もらなければならない。税効果会計の適用上、将来加算一時差異の解消額は解消年度において発生した所得と同等とみなされる。さらに、X1年末において同期以降繰越される税務上の欠損金額220(100+120)が欠損金の繰越期間(発生年度の翌期首から5年以内開始事業年度まで)に生ずる所得(将来加算一時差異の解消見込額)と相殺されることになる。言い換えれば、税務上の繰越欠損金のうち、欠損金の繰越期間に解消する見込みの将来加算一時差異額と相殺できる部分が繰延税金資産として計上できる税務上の繰越欠損金額である。
すなわち、上の例示では、X0年に発生した税務上の繰越欠損金額100のうち90は、X1年からX5年までの繰越期間に解消される見込みの将来加算一時差異合計90(20+30+40)と相殺され、当該税務上の繰越欠損金90に対する繰延税金資産は回収されるが、X5年までに相殺し切れない残高10(100−90)に対しては、第21項(1)A又は(2)の判断要件を満たさない限り、X1年末(当期)において繰延税金資産を計上することはできない。同様に、X1年に発生した税務上の繰越欠損金額120のうち60は、その繰越期間(X2年からX6年まで)に将来加算一時差異合計の解消見込額のうちX0年に発生した税務上の繰越欠損金と相殺されないX6年における解消見込額60と相殺される。X6年末の税務上の繰越欠損金残高60(120−60)は相殺し切れないでX6年末に繰越期限切れとなるため、他の判断要件を満たさない限り、X1年末(当期)において残額60に対して繰延税金資産を計上することはできない。
上の例示では、X7年において将来加算一時差異の解消見込額10が存在するが、X1年末に発生した税務上の繰越欠損金のうちX6年までに相殺し切れない税務上の繰越欠損金残額60と相殺することはできない。当該税務上の繰越欠損金は、X6年末において既に期限切れとなるためである。