適用初年度における税効果会計の取扱い
(適用初年度における過年度に発生した一時差異等に係る税効果の取扱い)
48.
税効果会計が適用される最初の事業年度において、その直前事業年度末に存在した一時差異 等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は、過年度において法人税等調整額として計上すべきであった金額の累積残高である。我が国の企業会計は、株主総会で確定した決算に基づいて財務報告及び納税申告がなされるという、いわゆる確定決算主義に基づいて決算がなされており、遡って過去の当該累積残高について決算の組直しを行うということはない。してがって、その趣旨からすると、過年度の事業年度において法人税等調整額として計上すべきであった金額については、当期の法人税等調整額とは区別し、損益計算書上、過年度税効果調整額として法人税等調整額に含めて処理する方法も考えられる。しかしながら、過年度税効果調整額を当期純利益の計算に含めることは、適用初年度の損益にじゅうようなえいきょうとして法人税等調整額に含めて処理する方法も考えられる。しかしながら、過年度税効果調整額を当期純利益の計算に含めることは、適用初年度の損益に重要な影響を与えることになるため、これを当期純利益の計算から外し、損益計算書の当期末処分利益の計算区分において前期繰越利益(損失)の調整項目として処理することとされている。
第19項によれば、税効果会計に適用される税率が変更された場合には、決算日現在における改正後の税率を用いて過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正し、税率の変更が行われた結果生じた期首の繰延税金資産及び繰延税金負債の修正額は、損益計算書上、税率変更年度の法人税等調整額に加減して処理されなければならない。つまり、税率変更の影響額は、その変更年度の損益計算に含めて処理することになる。
ただし、適用初年度に限り、当該年度中に税率が変更された場合は、第19項の定めにかかわらず、適用初年度の期首における繰延税金資産と繰延税金負債の計算には、決算日現在の変更後の税率を使用して計算し、税率変更の影響は、前期繰越利益(損失)に含めて計上することとされている。
以下に簡単な設例により、適用初年度における過年度に発生した一時差異に係る税効果の取扱いを示す。
(設例)
当事業年度より税効果会計を適用することとした場合、前事業年度までに発生した一時差異等に係る税効果相当額を求め、損益計算書の当期未処分利益の計算区分において、前期繰越利益(損失)の調整項目として処理する。
| 前事業年度末 | 当事業年度末 |
将来減算一時差異 |
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貸倒引当金損金算入限度超過額 | 500 | 800 |
退職給与引当金損金算入限度超過額 | 500 | 500 |
賞与引当金損金算入限度超過額 | 400 | 900 |
減価償却費損金算入限度超過額 | 1,000 | 700 |
棚卸資産評価損 | 1,000 | - |
将来加算一時差異 | △200 | △100 |
圧縮積立金 |
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計 | 3,200 | 2,80 |
法定実効税率(注) | 40% | 40% |
繰延税金資産(純額) | 1,280 | 1,120 |
繰延税金資産(純額)減少額 | - | 160 |
(注) なお、税率は事業税の損金算入の影響を考慮した税率を使用しているが、単純化のため事業税に係る一時差異は考慮していない。
損益計算書
… |
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… |
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税引前当期純利益 |
| 10,900 |
法人税、住民税及び事業税 | 4,200 |
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法人税等調整額 | 160 |
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計 |
| 4,360 |
当期純利益 |
| 6,540 |
前期繰越利益 |
| 4,500 |
過年度税効果調整額 |
| 1,280 |
税効果会計適用に伴う圧縮積立金取崩高 |
| 80(200×40%) |
当期未処分利益 |
| 12,400 |
貸借対照表
当事業年度末 |
(資産の部) |
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流動資産 |
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繰延税金資産 | 680 |
投資その他の資産 |
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繰延税金資産 | 440 |
(負債の部) |
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… |
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(資本の部) |
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… |
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圧縮積立金 | 120 |
当期未処分利益 | 12,400 |
利益処分案
当期未処分利益 | 12,400 |
圧縮積立金取崩高(注) | 60(100×(1−0.4)) |
利益処分 |
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配当金 | ××× |
利益準備金 | ××× |
次期繰越利益 | ××× |
(注) 圧縮積立金取崩高の税効果額40については、法人税等調整額に含まれている。
(税効果会計適用に伴う長期納税引当金の取扱い)
49.
長期納税引当金は、税効果会計が導入される前の段階での過渡的な処置として計上が認められた商法第287条の2の引当金であるが、税効果会計の導入に伴い、その計上根拠を失うことになる。しかし、長期納税引当金と税効果会計適用に伴う繰延税金負債とは本来類似した性格であるとの認識から、長期納税引当金を直接繰延税金負債に振り替えることとした。
ただし、当該一時差異に係る過年度税効果調整額が、当該長期納税引当金の金額と異なる場合には、その差額については、損益計算書の当期未処分利益の計算区分において「過年度税効果調整額」に含めて前期繰越利益(損失)に加減し、当事業年度の法人税等調整額には含めないこととした。
以下に、長期納税引当金を計上している場合の例を示す。
(長期納税引当金がある場合の例)
税効果会計適用初年度の期首において、長期納税引当金100が負債に計上されている。この長期納税引当金に係る一時差異についての税効果相当額を期末日現在の税率で再計算すると90であった。これ以外に過年度に発生した一時差異等に係る税効果額は繰延税金資産200であった。
第33項の本文の適用 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
長期納税引当金 | 100 | 繰延税金負債 | 100 |
第33項ただし書の適用 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
繰延税金負債 | 10 | 過年度税効果調整額 | 10 |
注意:金額の計算(100−90=10)
第31項による過年度一時差異等に係る税効果額の計上 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
繰延税金資産 | 200 | 過年度税効果調整額 | 200 |