設例1 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算


A社は、以下の各資料に基づき、X2年の税金の期間配分計算を行う。

(計算の手順)

  1. 一時差異等の金額を計算する。
  2. 一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を計算する。
  3. 繰延税金資産について回収可能性を検討し、その見直しを行う。


1.一時差異等と繰延税金資産及び繰延税金負債の計算

(A社の課税所得の計算)

A社のX1年及びX2年の法人税等として納付すべき額の内訳は、次のとおりである。


X1年
X2年
差異の種類

税引前当期純利益
9,670
11,648

加算貸倒引当金損金算入限度超過額
1,000
500
一時差異
賞与引当金損金算入限度超過額
400
300
一時差異
棚卸資産評価損
800
-
一時差異
退職給与引当金損金算入限度超過額
2,000
1,000
一時差異
固定資産圧縮積立金取崩高
-
100
一時差異
未払罰科金
300
-

交際費損金不算入額
200
-

加算計
4,700
1,900

減算賞与引当金損金算入限度超過額認容
-
400
一時差異
棚卸資産評価損認容
-
800
一時差異
固定資産圧縮積立金繰入額
1,000
-
一時差異
未払事業税認容
-
1,470
一時差異
減算計
1,000
2,670

課税所得
13,370
10,878

未納付税金
法人税・住民税
5,410
3,753

事業税
1,470
1,088



(注) X0年以前において、税務申告上の調整項目はないものとする。また、事業税の未納付額は一時差異に該当することに留意する。なお、財務諸表等規則の改正により、事業税は、平成11年3月31日以後終了する事業年度から、法人税、住民税に含めて処理されることとなっているため、それを前提に記述した。


(税率及び納付税額)

  1. 各年の税率及び法人税等として納付すべき額は、次のとおりである。

    (税率)

    X1年
    X2年
    法人税34.5%30%
    住民税5.9685%(34.5%×17.3%)4.5%(30%×15%)
    事業税11%10%


    (納付税額)

    X1年
    X2年
    法人税・住民税13,370×(34.5%+5.9685%)≒5,41010,878×(30%+4.5%)≒3,753
    事業税13,370×11%≒1,47010,878×10%≒1,088



  2. 繰延税金資産及び繰延税金負債を計算するに際して適用する各年の法定実効税率は、次のとおりである。


X1年:(34.5%×(1+17.3%)+11%)÷(1+11%)=46.3680…%≒46%
X2年:(30%×(1+15%)+10%)÷(1+10%)=40.4545…%≒40%

なお、X2年において税率の変更が行われているが、当該変更はX1年においては公布されていないものと仮定して、X1年の繰延税金資産及び繰延税金負債はX1年における課税計算に適用される税率により計算している。


(A社の調整項目の説明と仕訳)

1―1.貸倒引当金


個別の債権の回収可能見こみにより必要と認めた額を計上しているため、税務上の損金算入限度超過額がそれぞれX1年に1,000、X2年に500生じており、X2年末における税務上の損金算入限度超過額の累計は1,500となる。

当該損金算入限度超過額は、会計上の債権計上額が決済されたとき(貸倒償却を実施したとき、貸倒引当金の取崩が行われたとき等)に、課税所得の計算上減算されるため、将来減算一時差異に該当する。したがって、これに係る繰延税金資産を計上する。

仕訳
(X1年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金資産
460
法人税等調整額
460


@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 1,000×46%=460
B.繰延税金資産増加額 A−@=460

(X2年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金資産
140
法人税等調整額
140


@.期首繰延税金資産 1,000×46%=460
A.期末繰延税金資産 1,500×46%=600
B.繰延税金資産増加額 A−@=140

1−2 賞与引当金


支給見込み額を計上しているため、税務上の損金算入限度超過額がそれぞれX1年に400、X2年に300発生している。X1年における税務上の損金算入限度超過額400は、賞与の支出年度であるX2年に損金に認容される。

当該損金算入限度超過額は、賞与支給時に課税所得の計算上減算されるため、将来減算一時差異に該当する。したがって、これに係る繰延税金資産を計上する。

仕訳

(X1年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金資産
184
法人税等調整額
184


@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 400×46%=184
B.繰延税金資産増加額 A−@=184

(X2年)
借方
金額
貸方
金額
法人税等調整額
64
繰延税金資産
64


@.期首繰延税金資産 400×46%=184
A.期末繰延税金資産 300×40%=120
B.繰延税金資産減少額 A−@=−64


1−3 棚卸資産


X1年に、長期滞留品につき、税務上の損金扱いはされないが、ある一定の基準により会計上800の評価損を計上した。X2年に当該滞留品をすべて処分したため、X1年に会計上で計上した評価損800がX2年に課税所得の計算上損金に認容される。

その結果、X1年では会計上の棚卸資産の額が税務上の簿価を下回っており、将来減算一時差異が生じてしたが、X2年に当該滞留品をすべて処分したため、X2年において、将来減算一時差異は解消する。

仕訳

(X1年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金資産
368
法人税等調整額
368


@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 800×46%=368
B.繰延税金資産増加額 A−@=368

(X2年)
借方金額貸方金額
法人税等調整額
368
繰延税金資産
368


@.期首繰延税金資産 800×46%=368
A.期末繰延税金資産 0×40%=0
B.繰延税金資産減少額 A−@=−368


1−4 退職給与引当金


期末自己都合要支給額を計上しているため、税務上の損金算入限度超過額がそれぞれX1年に2,000、X2年に1,000発生している。

当該損金算入限度超過額は、退職金給与引当金の取崩時に税務上、課税所得の減少をもたらすため、将来減算一時差異に該当する。したがって、これに係る繰延税金資産を計上する。

仕訳

(X1年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金資産
920
法人税等調整額
920


@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 2,000×46%=920
B.繰延税金資産増加額 A−@=920

(X2年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金資産
280
法人税等調整額
280


@.期首繰延税金資産 2,000×46%=920
A.期末繰延税金資産 3,000×40%=1,200
B.繰延税金資産増加額 A−@=280


1−5 圧縮記帳


X1年度に税務上1,000の固定資産の圧縮記帳を利益処分方式により行った。X2年度以降10年間にわたり毎期固定資産圧縮積立金を100づつ取崩し、当該取崩高を課税所得に加算することになる。

減価償却資産を利益処分方式により圧縮記帳した場合、翌期以降会計上の減価償却額が税務上の減価償却額を上回ることになるが、その上回る額に相当する額については、残存耐用期間を通じて税務上の圧縮記帳額(固定資産圧縮積立金及びこれに対応する繰延税金負債)の取崩しを行い、同額が課税所得の計算上損益の額に算入されることになる。また、その後当該減価償却資産の売却又は除却が行われた場合には、会計上の売却益(又は売却損)が税務上の益金(又は損金)の額を下回る(又は上回る)ことになり、売却(除去)時における税務上の圧縮記帳額残高(固定資産圧縮積立金の残高及びこれに対応する繰延税金負債)が取り崩され、益金に算入されることになる。このように、利益処分方式による圧縮記帳額は将来加算一時差異に該当するから、税効果会計の適用に当たっては、これに係る繰延税金負債を計上することになる。

仕訳

(X1年)
借方
金額
貸方
金額
法人税等調整額
460
繰延税金負債
460


@.期首繰延税金負債 0
A.期末繰延税金負債 1,000×46%=460
B.繰延税金負債増加額 A−@=460

(X1年利益処分)
借方
金額
貸方
金額
未処分利益
540
固定資産圧縮積立金
540


(X2年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金負債
100
法人税等調整額
100


@.期首繰延税金負債 1,000×46%=460
A.期末繰延税金負債 (1,000−100)×40%=360
B.繰延税金負債減少額 A−@=−100

(X2年利益処分)
借方
金額
貸方
金額
未処分利益
60
固定資産圧縮積立金
60

税率変更による固定資産圧縮積立金の調整額:1,000×(46−40)%=60

借方
金額
貸方
金額
固定資産圧縮積立金
60
未処分利益
60

税務上の取崩し100による固定資産圧縮積立金の取崩高:100−40=60

@.税率変更による固定資産圧縮積立金への加算額 1,000×(46−40)%=60
A.税務上100の取崩しの税効果控除後の金額 100×(100−40)%=60
B.固定資産圧縮積立金の純増額 A−@=0


1−6 未払罰科金


X1年に関係当局より罰科金の支払通知を受けたので損失処理し、未払計上した。税務上は損金不算入項目である。
X1年に計上された未払罰科金は、課税所得の計算上で永久に損金算入されないため、一時差異には該当しない。

仕訳

なし


1−7 交際費

X1年に交際費の損金不算入額が200ある。
交際費の損金算入限度超過額は、課税所得の計算上で永久に損金に算入されないため、一時差異には該当しない。

仕訳

なし


1−8 未払事業税


課税所得に対する事業税額をそれぞれX1年末に1,470、X2年末に1,088未払計上している。なお、中間納付はないものとする。納付時には未払事業税が取り崩されることから、X2年に1,470が損金算入される。

未払事業税については、税務上の損金算入時期と会計上の費用認識時期との間に相違があり、会計上の負債計上時に税務上の負債として計上されないため、両者に差異を生じることとなる。

この差異は、事業税の納付時に課税所得の計算上減算されるものであり、将来減算一時差異に該当する。

仕訳

(X1年)
借方
金額
貸方
金額
繰延税金負債
676
法人税等調整額
676

@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 1,470×46%=676
B.繰延税金資産増加額 A−@=676

(X2年)
借方
金額
貸方
金額
法人税等調整額
241
繰延税金資産
241


@.期首繰延税金資産 1,470×46%=676
A.期末繰延税金資産 1,088×40%=435
B.繰延税金資産減少額 A−@=−241



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