譜面のモーツァルトV

アンダンテの変奏は、テーマを引用するにとどめよう。私はこれ以上に美しい歌を知らない。

これは取るにたりない貧弱な主題である!だがなんという敏捷さだろう!

きわめて美しくも的確な無償の業くらべである。

喜びも少なく、作品の乏しい、この貧相な夏にさし込んだ一条の光である!

もしこの世に《合奏的》旋律が存在すれば、まさにこのアレグロの歌である。

そしてすぐに、小夜鳴き鳥(ナイチンゲール)のコロラトゥラが続く。

平凡さと紙一重でありながら−彼の偉大さはここにあるのだが−新鮮そのものの旋律を彼は見出したのである。

ロマンスと呼んで、どうしていけないだろうか?クラリネットがこれを短調で受け継ぐと、また別の世界が開ける。

第一主題の提示の後、ヴァイオリンが鋭く天使の嘆きを探し求める、あのわななく瞬間、霊妙なあの一瞬を。

短調の第三変奏で、魂は突如メランコリーの力を借りて遁走する。

皮肉なアレグロで勢いよく終える。

私は、ここで、突然、憂鬱の影につき進む四小節に注目したい。

それに続いて、似てはいるが、それを追うことを拒む別の四小節。

彼が自分のみじめさをを洩らす場合、常にそれは心ならずもか、無意識のうちである。

弦のささやきはグルックやリュリーですでに大いに親しんだ手法である!

これはまたなんというたのしさだろう!

前例のない不振に見舞われて息づまるようなこの年に、めぼしいものと言えば・・・

単純な手がかりのなかに、なんという決断、なんという確かなタッチが示されていることだろう。

旋回したり、展開したり、二重の効果を秘めているロンドのテーマである。

魅惑的ではあるが突飛な手法による、ニ長調からホ短調への《パッサージュ》を引用するにとどめよう。

一小節の休止があって、同じようなアラベスクで二調に戻り、一瞬われわれをとまどわせる。

そして、経過的転調もなく突然イ調となる。これは優雅で、巧みで・・・

みずから選んだ小さな新芽を光の渦のなかで見事な喬木にまで育て上げることができるのである。

嘆きも恨みもなく、かろやかな悦びにあふれて書かれている。・・・そして今や彼はまたしても仕事がなかった。

・・・声を失う八ヶ月前の、天使の鶯の霊感にあたえられた唯一のはけ口だった。

われわれは群がる舞踏者のさなかに導かれる。

そこへ突然《トリオ》が弱音の弦楽器で短調の微妙な世界へと進む。

二重の下降する半音階は、重みから解き放たれたかのようにそのまま再び上昇する。

消えそうで消えまいとする。四つのそれぞれ澄みきった和音が、主和音へと降りる。

人間的条件へいささかも隷属していない作品。・・・せめて第一主題の始まりを数小節だけ引用したい。

あらゆる主題が近親である『五重奏曲変ホ長調』は、・・・

《武装した従者たち》のコラールを支えるのに、彼がいかに荘重さを加えたか賞賛に価しよう。

大向こうを喜ばせるため、駄洒落や鈴でたったいま切り抜けたその同じ手である。

音楽芸術の最初にして最後の言葉はメロディーである。・・・裸身の歌を創りだすこと。

序奏

歌 *音色が歌に合うものがなく弦楽で

第一小節の上昇する最後の拍で、左手の《ト》は右手の《変ロ》と結ばれる。― この《ト》の音をわからせなくてはいけ
ないのだが、 ジッドはそれを感じさせてくれた ― それで充分である。香気が立ち昇り、天国が開け、魂が現れるのだ。

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