今週のメッセージ「2003.8.3]

尺布無私

 

タイトルの「尺布無私」は、聖隷福祉事業団(医療・教育・福祉の三分野で多大の社会貢献をしている)の創始者故長谷川保氏が、好んで色紙等に書かれた言葉だそうです。その意味は、一尺の布も自分のものではない、即ち、越中褌一枚も神さまからお借りしたもので、自分のもの所有物ではないという意味とのことです。

私事ですが、先週三日間ほど、ある検査の為に聖隷三方原病院に入院しました。病気治療の為の入院ではなかったので安静の必要もなく、そこで院内にある“医学情報プラザ”(患者図書館)に行き、「ヤコブの梯子」という本を借りて読みました。1994年、長谷川保氏が89歳の生涯を終えて天に召された時に発行された記念誌です。その終わりの方で紹介されていたのが「尺布無私」です。

氏は、それをただ色紙に書かれただけでなく、それを実践して生きられた方でした。山内喜美子という方の書いた「日本で初めてホスピスを作った聖隷 長谷川保の生涯」という本が1996年に文芸春秋から出ていますが、その中に、氏の死後、息子さんが金銭的な整理で相談した時、故人の預金の少なさに税理士さんに笑われたとあります。また、銀行の窓口係の人に、“長谷川さん、あれほど寄付していたら、そんなに残っているはずがありませんよ”と言われたとも記されてあります。

古い病棟や借家に住んで、最後まで一軒の家も持たず、資産といえるほどの貯金も残さず、遺体は医大に献体、墓も建てず、聖隷や子どもたちにはその精神だけを残された、という生涯でした。「天に、宝をたくわえなさい」(マタイ6:20)との主イエスの言葉に従ってその生涯を全うされた氏を偲びつつ、氏の建てた病院でお世話になった三日間でした。