今週のメッセージ 2006.2.19

ノウブレス・オブリージの手本

 

西洋で貴族など高貴な人が社会的に負うべき義務を“ノウブレス・オブリージ”というそうです。

わたしたちの郷土浜松にはそのお手本ともいえる方がおられました。それは聖隷事業団の創始者の故長谷川保氏です。氏は一代で医療・福祉・教育を内容とする事業団を創設され、今や日本全国のみならず海外においてそのすばらしい働きが展開されています。

氏は色紙に「自分のようにあなたの隣人を愛しなさい」という聖書のみことばをよく書かれたそうですが、それと共に「尺布無私」ということばも好んで書かれたと言われています。その意味するところは、一尺の布も自分のものではない。即ち、越中褌一枚も神からお借りしたもので自分のものではない、というのです。

末のご子息新氏によると、長谷川氏の死後、遺産を申告するために税理士に相談された時、「それしかないの?」と笑われたそうです。本人名義の預金を合わせても300万円足らずで、株券等は一切所有していなかったそうです。八十、九十になっても年収800万円位あったそうですが、寄付の依頼などが来ると、みんなそれにあててしまっていたとのことです。住いも古い病棟や借家住まいで、最後まで一軒の家も持たず、夫人共々遺体は医大に献体し、墓も立てず、子どもたちや聖隷事業団にはその精神だけを遺して逝かれたそうです。文字通り「尺布無私」の生涯を貫かれた方だったといえます。ノウブレス・オブリージ以上のことを果たされた方です。

所得格差の拡大、中流の下流化などが取りざたされ、将来の経済的生活に不安を抱く方々も少なくない昨近です。殺伐とした世の中にならないために、ノウブレス・オブリージの精神が求められる社会となりました。