今週のメッセージ 2007.5.20

人間のすべて

 

今からちょうど10年前になりますが、19971月に朝日新聞の「論壇」で、「日本の可能性」と題してシリ−ズ記事が掲載され、その最終回で後に故人となられる作家中野孝次氏が次のような主張を書いておられました。

現代社会を覆っている暗さの原因を一般社会は経済不況のせいにしたがっているようだが、自分はその要因は倫理的退廃にあると考える。戦後五十年、日本が経済発展だけを最重要視し、生産だの販売だの数量的価値を唯一の価値とし、心だの精神だの見えない領域の問題をあまりに無視してきた報いを受けているのだ。この暗い日本から明るい日本へと再生されるためには伝統的文化を大切にしながら、新しい倫理観を創る以外にない。

先週は、政府の教育再生会議のメンバーで“ヤンキー先生”として知られる義家弘介氏が最近、国会で述べられた主張を紹介しましたが、幼児から小学校低学年までの間に道徳心を涵養することの大切さを強調されていました。学校のみならず社会全体の道徳の退廃を憂いてのご発言でしょう。

してみると、10年前も今も余り代わり映えがしていないのです。むしろ殺伐としてきている感があります。

そこで義家氏は道徳の教科化を提言されていますが、教科として教えるだけでは十分ではありません。道徳心を底支えするものとして“神を畏れ敬う”宗教心が必要です。故人となられた三浦綾子氏も“教育の根本は熟語でいうと宗教”とある講演で述べておられました。

旧約聖書に次のようなことばがあります。

「すべてに耳を傾けて得た結論。『神を畏れ、その命令を守れ。』これこそ、人間のすべて。」(コヘレトの言葉12:13)

この一点を喪失すると、人間はすべてを失うことになるのです。