今週のメッセージ 2011.2.13

ただ、お言葉を下さい

 

「ただ、お言葉を下さい。そうすれば僕(しもべ)はなおります。」

(新約聖書・マタイによる福音書8:8、口語訳)

これは、ローマの百人隊長が、中風を患い苦しんでいる自分のしもべのいやしを、主イエスに願い出た際の言葉です。最初、主イエスは百人隊長の家に出向こうとされるのですが、異邦人の身である彼は、わたしの屋根の下にあなたをお迎えする資格はありませんと言い、それに続くのがこの言葉です。

さらに彼は、「ただ、お言葉を下さい」と申し上げるその理由(わけ)を自分の軍隊体験における上官の命令の言葉を引き合いに出して言うのです。わざわざお出でいただかなくとも、しもべがいやされるためのお言葉をいただければそれで十分、というわけです。

わたしは、これを読むたびに、あのフィリピンのルバング島で戦争の終結を知らずに30年もの長きにわたってジャングルの中にこもっていた小野田寛郎氏と百人隊長が重なるのです。

この小野田氏をジャングルから祖国日本に帰るきっかけをつくったのは、冒険家の鈴木紀夫氏でした。1974年、ルバングのジャングルでテントを張っていたとき、彼は偶然小野田氏と遭遇したのです。鈴木氏は終戦を告げ、祖国に帰ろうと勧めたのです。しかし、小野田氏は、「自分は命令を受けてここに残留している。その命令が解除されない限り勝手に帰るわけにはいかない」でした。

後日、当時の上官であった谷口義美元少佐がジャングルに出向き、命令の解除を告げてやっと小野田氏は30年の戦闘生活を終えて帰国されるのですが、あらためて言葉の重さを感じさせられるエピソードです。