世界は「複雑系」に満ちている (2) 98/9/29
「カオスの定義」は「決定論的な系において起こる確率論的なふるまい」だという。数学者の
イアン・スチュアートはこれを「もっぱら法則によって支配されながら、法則性のないふるまい」
と易しく?言い換えている。
近代科学(保守科学)の基本的な道具は「微分法」であり、これは「十分に拡大すれば、曲線も直線と
みなせる」という発想だった。ところがマンデルブロー(フラクタル理論の創始者)が簡単な式(関数)を
見つけ、いくら拡大し、細部を見ても決して直線にはならないことに気づいた。つまり世の中には
微分不可能な曲線がいっぱいあるということだ(非線形問題)。
「太陽系・惑星の動きは安定的か?」
日食、月食の日時やハレー彗星の接近が正確に予測できるのだから、安定的だと考えるのは早計だ。
ニュートン力学によって、太陽と地球のような2体問題は正確に解けるが、これに月を加えた3体問題は
近似的にしか解けないことが証明されている。
たとえば、小惑星の運動を計算するには太陽と木星の影響を考えなければならない。しかし、木星は
太陽に比べるとはるかに質量が小さく、従って小惑星への重力の影響も太陽からのそれに比べれば、
十分に小さいと考えられる。そこで、まずは太陽と小惑星の2体問題を解き、そこに木星からの影響の
補正項を加えることで、小惑星の運動の近似解を求める。
この補正を繰り返すごとに、解の精度は増し、次第に「本当の解」に近づくというのが、当時の物理学の
常識であり、信念であった。ところが、ポアンカレが示したことは、或るケースでは補正を繰り返して
いくと、逆に軌道が不安定になることがあり得るという事実であった。
(太陽系はおのれ自身の内部のメカニズムそれ自体にによって不安定になりうる可能性を内包している、
この「内なる棘」こそ、カオスにほかならない)
1954年ソ連の3人の研究ーKAM理論ーによって、太陽系の安定化のための条件が求められた。
その一つに「惑星の公転周期の比は無理数でなければならない」という条件がある(準周期運動)。
もし公転周期の比が有理数を取れば、何回か回った後にかならず元の状態と同じ状態を取る。すると
第3の物体からの重力の影響が繰り返される事によって小さな変動が増幅されていき、いずれは軌道の
安定性を破壊してしまう。KAM理論を適用すると、たとえば土星の輪に欠けた部分が存在する謎も解ける。
★ 近代科学(保守科学)が自然界のごく狭い領域しか扱っていなかったという実例を上に示した。
そして、自然界や人間社会などを広く理解するためには新しい科学が必要であり、それに取り組んでいるのが
「複雑系の科学」ということになる。
★ カオスの研究は1950年代に始まり1980年代にまとまってきた。カオスを発展させる複雑系の科学に
大きく貢献したのが「サンタフェ研究所」(1987年創設)、研究が始まってわずか10年位しかたっていない。
これらの最先端の研究の結果は、まだ学校で教える段階に来ていないから、皆さんが「学校では習わなかった」
のは当然だ。(私も数年前までカオス(理論)という言葉を知らなかった)
★ 人間関係で「ボタンの掛け違い」というのがある。始めちょっとした言葉の使い方の間違いで、どんどん誤解が
拡大し収拾がつかなくなるような場合に使う。下手をすると親友や恋人と縁切り状態になったりする。
元へ戻そうと言葉・釈明を重ねれば重ねるほど事態は悪化していく場合がある。これなどは、先の天体の運動に
補正項を追加すると逆に軌道が不安定になるのと似ていないだろうか?
★ 私達は学校で近代科学(保守科学)を学んだので、全てのことに「線形で考える」癖がついていると思う。
しかし、世の中には「非線形」のもの、事柄がいっぱいある訳だから、これらを「線形的に解こう」としても
出来ない事になる。「非線形には非線形の思考法が必要」だと思うがどうだろうか。
★複雑系の科学の概念図(これは私のオリジナル図なので、ひょっとしたら間違いの可能性もある)
を描いてみたので参考に挙げる。