セル・オートマトン 98/10/ 5
単純な規則から複雑なふるまいが出現する現象はカオス系の特徴だが、そこでは反復(イテレーション)という
操作が本質的な役目を果たしている。いわば、そうした反復の効果だけを取り出して見せたものが「セルオートマトン」
(CA)である。
セルオートマトンはもともと、フォン・ノイマンの頭脳から生まれたアイデアだ。(中略)。
彼は後に経済学に一大ブームを巻き起こす「ゲームの理論」を創造したが、晩年のノイマンの関心を引いたのは
生物と機械との関係だった。ノイマンによれば、生物は一種の機械であり、生命現象とは情報処理のプロセスに
ほかならない。逆に言えば、情報処理のプロセスをもつ機械は生命現象のようなふるまいをするはずだ。
例えば、生命現象の基本的な特性の一つである自己増殖を行う機械も可能であろう。
そこで、ノイマンは、格子上に石を並べていく論理ゲームのような機械を考案した。この機械はある格子の
状態を、周りの格子の状態に一定の論理規則に当てはめることによって、次の状態へと自動的に変化され、
この操作が無限に反復されていく。格子を細胞(セル)に見立てれば、これはセルがひとりでに自分自身の
状態を作り替えて行く自働機械(オートマトン)、すなわちセルオートマトンである。
(ただし、この命名はノイマンの関連論文を編集したアーサー・バークスによる)
セルオートマトンについて、ノイマン自身は完全な理論を作ったわけではなく、コンピュータシミュレーション
もしなかった。理由は時代が早すぎたこと(コンピュータ未発達)と彼のモデルが複雑すぎた為である。
ノイマンの古文書のほこりをはらって、セルオートマトンの中興の祖となったのは、イギリスの数学者
ジョン・ホートン・コンウェーで、彼の発案した「ライフ・ゲーム」は世界に公開され70年代前半にマニアの
間で一大ブームを巻き起こした。
ライフ・ゲームよりももっと簡単なモデルが可能であることに突破口を開いたのが「短気だが優秀で若い」
イギリスの科学者スティーブン・ウォルホラム(写真)で、彼は一次元のセルオートマトンの有効性を示した。
【ウォルホラムの一次元モデル】
有限個のセル(格子)が横一列につながったリボンを考え、各セルは黒か白の状態にあるとする。
このリボンの下に同形のリボンを配置していく。この操作は離散時系列で行われるので、最初のリボンを
第1世代、次を第2世代、以下第3世代、第4世代などと呼ぶ。ここで、一つの世代から次の世代への状態の
変化を局所的に定める規則を導入する。すなわち、あるセルの状態は、それ自身および左右のセル、合わせて
3つのセルの状態で決定されるとする。
3つのセルの状態は各セルが黒か白なので、2の3乗すなわち8通りの可能性がある。結果(次の世代)
は黒か白の2通り。よって規則の定め方は2の8乗すなわち256通りである。
8つの規則を1組の表にしておいて、初期状態としての第1世代に適用して第2世代を得、第2世代に
適用して第3世代を得、以下同様に反復操作を行っていくと、2次元の長方形の中におのずと一つの絵模様
が生成される。これが1次元のセル・オートマトンである。
問題は、どのような規則表を導入するかだ。もし、結果を全部白か黒にすれば、長方形は真っ白か真っ黒に
なってしまうし、規則表の取り方次第ではグジャグジャに出てくることもある。では、規則表の取り方と
そこから生成される絵模様との間にはどんな関係があるのだろうかーーと考えたところに、ウォルホラムの
ひらめきと創見があった。
これは、たかだか256通りの規則群しかないセル・オートマトンだからこそ、思いつき、かつ実行に
移すことの出来たアイデアである。仮に2次元(ノイマンのセルやコンウェーのライフゲーム)なら、1個の
セルの近傍に自分自身を含め9個のセルがある。よって初期状態が2の9乗で512通り。結果を2通り
(白か黒)とすると可能な規則群の総数は2の256通りとなり、それだけの規則群をしらみつぶしに調べる
ことは事実上不可能である。
ウォルフラムはわずか256通りの規則群を調べることで、セル・オートマトンの大域的なふるまいを
統べているらしい上位にある一種の法則性の存在に気づいた。そして、その直観をもとに規則群を4つの
クラスに分類した。 (1982年)
第1のクラスは、世代を追っていくうちにいずれは真っ白か真っ黒になってしまうケース。(結果を全部
白か黒にする規則表のような場合)
第2のクラスは、最初バラバラな動きをしていても、ある安定した絵模様に落ち着くケース。いったん黒白の
配置が固定されてしまうと、後続の世代には変動が起きず、絵柄は何本かの縞模様が走っているだけの
つまらないものになってしまう。
第3のクラスは、いつまでたってもバラバラに現れるケース。一見ランダムに見える絵模様が出来るが、
むろん黒と白のデタラメな出現も規則に従っている以上、実際には決定論的である。すなわちカオスである。
問題は、これまでの3つのクラスのどれにも分類不可能な絵模様を生成する規則群が残ったことである。
複雑だが、秩序がないわけではない。それはあたかも生き物のように枝や触手を伸ばしていく。乱れたかと思うば、
何世代か後に突然、意味ありげな絵柄を生成したりする。最も興味深い不可解な規則群を、ウォルフラムは一括して
「クラス4」と名付けることにした。
では、クラス4の正体とは何なのか。これこそ複雑適応系の生息領域として、後に注目を集めることになる
のだが、ウォルフラムはなだそのことを自覚していなかった。
(これは後にパッカードによる「カオスの縁」の名前が一般化した。)
★ 会社の中で「○○運動」「XX活動」などを始めるが、しばらくすると下火になってしまうことが多い。これらは
上のクラス1,クラス2などに似ていないだろうか?そうだとしたら規則の決め方(選び方)が良くないとも解釈できる。
★ もし、うまい規則を定めることが出来たら、活動はクラス4のように、形を変化させながら発展していくだろう。
それを探すのが私達の仕事なのかも知れない。
★ このウォルホラムの1次元セル・オートマトンの実験は、自分でプログラムを作って追認するのは難しくは
なさそうですね。だれか、やってみませんか?