よみきり短編
シンジとカヲル
−たくさん 作−
それは、ある日の放課後のことです。
下校したはずのアスカさんが、学校へと戻ってきました。
「もぅ、ホントやんなっちゃう。お弁当箱を忘れるなんて…」
お弁当箱を持ち帰るのを忘れたりしたら、優しいシンジ君はアスカさんに自分のお弁当箱を譲ってしまい、自分は購買部のパンで済まそうとしてしまうでしょう。
アスカさんは、シンジ君と同じものを食べていると言うことに喜びを感じていましたから、急いで取りに戻ってきたのです。
誰もいない学校、階段、廊下を駆け抜けて、自分の教室へと飛び込もうとしました。
しかし、誰かいます。
アスカさんは、思わず足を止めました。
「シンジとカヲル?」
教室にいたのは、碇シンジ君と渚カヲル君でした。
二人は、紅い夕日に照らされながら見つめ合っています。その光景は、なんだかとても美しくて声をかけることもためらわれるほどでした。
(何をしてるんだろう?)
アスカさんは、息を潜めて、ふたりの会話に聞き耳を立てます。
「シンジ君…本当にいいのかい?」
「うん、いいんだ。僕も、カヲル君の気持ちに応えたんだ」
ふたりの会話の内容に、アスカさんは強いショックを受けました。
(な、な、な…なんですってぇー。シンジ、あんたあたしってモノがありながら、カヲルなんかとぉぉ…く、くやしぃぃぃ)
「そう、嬉しいよ…じゃ早速、やろうか」
(へっ、ちょっと待ってよ、何をしようって言うのよ…ま、まさか…)
「うん…だけど、ここじゃあ人に見られちゃうかも知れないよ。恥ずかしいよ」
(何が、恥ずかしいって言うのよぉぉぉぉ)
「じゃあ、どうするんだい?」
「えっと…やっぱり音楽室がいいよ。あそこなら防音だし、人も来ないから」
「そうだね。二人っきりになれるね」
アスカさんは、二人に見つからないように、廊下の物陰へと隠れました。
音楽室に向かうシンジ君とカヲル君。
アスカさんは、二人に気づかれないよう、そっと後をつけました。
二人はとても仲良さそうに並んで歩いて、音楽室へと入って行きます。
ドアは閉じられて、音楽室は密室になってしまいました。
アスカさんは、ドア越しに中の様子をうかがおうと耳を押しつけました。
すると二人の会話が、どうにかやっと聞こえてきます。
「で、シンジ君。僕はどうすればいいんだい?」
「じゃあ、最初は抱いてみて」
(だ、抱くぅぅぅぅ?)
音楽室内で進行している出来事を、想像してしまうアスカさん。
何を考えてるんですか?顔が、真っ赤ですよ。
(うるさいわねっ!……はぁ、はぁ、はぁ…シンジ、あんた自分が何をしようとしているか、わかってるの?いいの?)
「これで、どうだい?シンジ君」
「もうちょっと、力を抜いた方がいいかな?」
「そう…こうかな?」
「いいよ。そんな感じ」
「なかなかいいねぇ。すべすべだよ」
「ちゃんと、お手入れしてるからかな」
「僕のためにかい?シンジ君、嬉しいよ」
(違うわよ。シンジが、綺麗にしてるのはあたしの為なんだからね!)
「…じゃ、じゃあ…今度はこれを持って」
「どういう風に持てばいいんだい?」
「人差し指と親指で、こうして…」
「よく見ると、シンジ君のこれって、微妙に反ってるんだね?」
(反ってるって…何がよ?ナニが、微妙に曲がってるって言うのよ…)
「そうかなぁ、みんなそうだと、思うけど」
「この毛は?随分と硬いね?」
「…カヲル君。そんなところさわっちゃダメだよ、あっ」
「ん、なんだい、この白いのは」
(し、白いのってなに?)
グビッとつばを飲み込むアスカさん。
呼吸が荒いですね。心拍数も上昇してます…大丈夫ですか?
黙ってろって言ってるでしょ!
「ほら、手が汚れちゃったじゃないか…ちょっと待ってて、いま拭くから」
「いいよ、シンジ君」
「ダメだよ、ちゃんと拭かないと。なんかの拍子に目に入ったら痛いんだから」
「わかったよシンジ君」
「…これで、いいかな?」
「そうだね?」
「ところで、左手はどうすればいいんだい?」
「あ、左手はね、包むようにして…指先をこうして。優しく、そっと…そこを抑えて…うん、いい感じかな」
「じゃあ、そろそろ…やってみていいかい?」
(ダメ、絶対にダメよ)
「いいよ。カヲル君、力を抜いてね。そっとだよ」
(だからダメなんだって…やめてシンジ、お願い)
「わかったよ、じゃいくよ…」
(!!!!!!)
「あんたたちっ!何をやってるのよ!」
堪えきれなくなったアスカさん。思わず音楽室のドアを、蹴破って突入しました。その姿は、バスに強行突入するSATみたいです。かっこいいっ!
音楽室には、チェロを抱えたカヲル君と、シンジ君の姿がありました。
こんなの書いてみました。いかがですか?