サードインパクトは起こった。
完全ではないにしろ、その破壊力たるや凄まじいものであった。
しかし、それでもなおヒトは地上で生き長らえていた。
そう、碇シンジがそう願ったからである。
全ての人類が補完された混沌とし曖昧な世界で、「これは間違っている」と彼は言った。
その結果がこれである。
木々は薙ぎ倒され、地上は荒れ、海、湖が紅く染められた絶望の世界。

少年、碇シンジは眼前に広がる紅い世界を前に呆然と立ち尽くしていた。
黒髪黒瞳の中性的な顔立ちの少年であるが、その顔には生気がまるで無く憔悴しきっていた。

こんなはずじゃなかった。こんな世界じゃない。
僕が・・・僕が望んだのは・・・・
ただ普通の生活がしたかっただけなんだ。
毎日、学校に行っては友達と、バカなことを言い合ったり、
家に帰ってからはぼぉーっとTVを観たり、時には宿題をしたり
普通に風呂に入って寝る。

何事もない、何の変哲もない毎日・・・・・・
それらの日々を享受している人々は、くだらないと言うかもしれない、
でも僕が望んでも手に入らなかった世界。

こんなのは嘘だ。僕が望んだ世界は・・・僕が望んだ世界は・・・

しかし、サラサラと打ち寄せる波の音、頬を撫でる生暖かい風、それらを感じる自分の感覚が「それは現実だ」と告げていた。

今、少年の心は、その世界と同様に絶望に支配されていた。
脱力感、虚無感・・・・・・・もうどうでもいい、結局最後までこうだった。
少年は隣に横たわる少女に目を向けた。
惣流・アスカ・ラングレー、嘗ては自信という輝きに充ちていた彼女も、今や見る影もない。
頬はこけ、蒼い瞳は淀み、紅茶色の髪もくすんでいた。


ごめんよ、アスカ、ごめん。
結局、僕は君を苦しめることしか出来なかった。
君にこんな世界しか与えることが出来なかった。

最期に僕に出来ることは・・・・・
なら、いっそのこと僕は・・・・・・・・・・


自然に身体が動き出していた。
無意識のうちに少年は、彼女に馬乗りになり、そのか細い首に手をかけていた。
それでも、彼女は虚ろな瞳で虚空を見つめるだけ、微動だしない。
まるで使い古された人形の様だった。
ただ、その掌に感じる彼女の体温が、唯一彼女が生きている証だった。


今、楽にしてあげるからね。


彼は徐々に、そして確実に力をこめ、彼女の首を締める。


もうすぐだよ。そして、その後・・・・・僕もすぐに・・・・・


頬を撫でる感触がした。温かい温もりを感じた。
気が付くと、彼女の掌が自分の頬に当てられていた。それは、一瞬の出来事であったけれど彼女の温もりを感じるには十分だった。


あぁ・・・・・・・、僕は・・・僕は・・・・・


「・・・・・・・・・気持ち悪い。」


そして、少年の嗚咽が静寂の中に響いた。



Forever with You
Written by Shinkyo ( shinkyo@ringo.sakura.ne.jp )




それは補完された世界。

それは全てが溶け合う世界。

それは痛みも苦しみのない世界。

それ故、何も無い世界。

光も闇も、天も地も、未来も過去も・・・・・・・・。

そこにあるのは『無』。

ただひたすらに続く『無』。

何も無ければ、苦しむことも傷つくこともない。

そこに意識は無いのだから・・・



身体を包む温かなぬくもりとともにシンジは目を覚ました。
身体に感じる浮遊感、そして、額を頬を伝う優しさが心地良かった。

しばらくして、レイに膝枕されている自分に気づく。
レイは何も言わずただ口元に微笑みを称えながら、シンジの髪や頬を撫で続けていた。
子どもをあやす母親のように。ぬくもりや優しさはレイのものだった。

まだもう少し、ほんの少しだけこうしていたかった。
僕が求めた居た場所は、此処なのかも知れない・・・・・・・



夢を見たんだ・・・・・・酷い夢だった。

何も無いんだ、そこには。

希望も、未来も、光も・・・・・あるのは、絶望だけ。

そこに、僕は居るんだ。アスカと2人きりで。

でも、アスカは何も言わないんだ。

まるで、壊れてしまった人形のように、僕を見つめるんだ。

「アンタがいけないのよ」「アンタがいなければ・・・・・」

そう言ってるんだ。何も言わないけど、目がそう言っているんだ。

僕を責めるんだ。

だってしょうがないじゃないかっ!!

僕にはそうするしかなかったんだ。・・・・そうするしか。

僕がいけないの? 僕がいたからこんなことになったの?

僕はやっぱりいらないの?

僕は何も望んじゃいけないの?

こんな思いをするんだったら、生まれてこなければよかった。



じゃあ、ずっと此処にいれば。

ここは何も無い世界。

ここにいれば貴方は、痛みも苦しみも味わうことはないわ。



僕は此処に居てもいいの?



これは貴方が望んだ世界。貴方の好きにしていいの。



そっか・・・・・じゃあ、僕はずっとこうして居たい。

綾波と2人でずっとこうして居たい。



貴方の御心のままに・・・・・・・・・・・・・アダム








終劇


琥珀のコメント

私が書いているEVA二次小説の中に、逆行物がありますが、

逆行物はだいたいサードインパクト後の流れから、『こんな世界は望んでいない』という考えで、

時を戻る・・・・・・というものが他の逆行作品の作者さまにも見られます(例外もありますが)

だけど、シンジ君が現状を変えようとする勇気、

変えたいと思う気持ちが無かったら、こういう結果になるのだろうな〜という感じです。


モドル