あいのあかし

BY mom




どこにでもある風景。

教室の朝の喧騒。

活気付く教室だが、ごく一部、そんなさわやかの朝の空気とは無関係な空気を放つ少女がいた。

イライライライライライライライライライラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ねえ、碇君・・・・・・・・・・・」

イライライライライライライライライライラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「碇君、それでね・・・・・・・・・」

イライライライライライライライライライラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あははは、碇君たら・・・・・・・」

イライライライライライライライライライラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そうそう、知ってる・・・・・・・」

イライライライライライライライライライラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でね、もし・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

イライライライライライライライライライラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・たら、貸して欲しいんだけど・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・プチ・・・・・・・・・・・・

「ちょっと!!あんたたちいいかげんにしなさいよ!!!!

 黙って見てりゃあ、いちゃいちゃいちゃいちゃ・・・・・・・・

 バカシンジ!!あんたが女といちゃつくなんて十年はやいのよ!!!!」

ビシッと指差し、わけもわからずぽかんとしているシンジに詰め寄る。

その額に、人差し指をぐりぐり押し付けながら、ドスのきいた声で止めをさす。

「・・・わかったわね・・・・シ・ン・ジ?」

そう言われれば、この気の弱い少年には、断る手段はない。

「・・・・わ、わかってるよ・・・・」

しかし、そこに居たのは少年だけではない。

もうひとりの少女は、猛然と反撃する。

「ちょっと!!あなたこそ何様のつもりよ!!

 碇君はただわたしと話してただけじゃない。

 そんなことあなたに言われる筋合いはないわよ!!

 大体、ただの幼馴染、なんでしょ?」

一気にまくし立てる、その少女、もちろん、綾波レイだ。

ただの幼馴染、に必要以上の強調がされている。

それは、常日頃アスカが口にしている言葉だ。

「アスカ・・・・・何をそんなに怒ってるのか知らないけど、綾波にあたるのはよくないよ。

 いつもどおりに、僕に怒ればいいじゃないか。」

シンジは、レイの言葉に黙ってしまったアスカにそう言った。

アスカにはこう聞こえた。

『アスカ・・・・・何をそんなに怒ってるのか知らないけどさ、僕の綾波にあたらないでくれよ。

 かわいそうに、おびえてるじゃないか。

 彼女を怒るぐらいなら、代わりに僕を怒ってよ。』

・・・・・・・大体のニュアンスはあってるような、ぜんぜん違うような・・・

シンジにしてみれば、自分が怒られるのはいつものことだからとして、

よくわからないけど、綾波は何もしてないのに、綾波に怒るのはおかしい、

という、鈍さの局地の思考からであった。

アスカは、悔しさに涙まで出そうになるが、

ぐっとこらえて、シンジに言い放つ。

「・・・・あ〜ら、そう。だったら、そうなさいよ!!!!!」

アスカはそう言うと、廊下に駆け出した。

もちろん、シンジに一発入れるのは忘れなかったが。

シンジは、きれいなもみじを作った頬をなでながら、

ポツリとつぶやく。

「・・・・・アスカ・・・なに怒ってるんだろ?」

(・・・・・碇君って、バカなのかしら?)

自分が招いた事態にもかかわらず、失礼なことを考えるレイ。

そして、ライバルである少女に心から同情した。
















放課後、シンジはトウジたちと屋上にきていた。

あれから、アスカは口を聞いてくれない。

半端ではない、その怒りにシンジも近寄ることは出来なかった。

もちろん、クラスメート達も。

そう、ヒカリでさえも。

「ねえ、トウジ。アスカは何を怒ってるのかな?」

その質問に思わずずっこけるトウジとケンスケ。

大事な話がある、ときいてきてみればこれである。

無理もない話だ。

「・・・おまえなぁ・・・・・・・」

あきれるトウジとケンスケだが、シンジに話してしまっていいものか悩む。

(・・・・う〜ん、わしはまだ馬にけられて何とか、にはなりたないしな。)

(はぁ、碇もここまで鈍いと、ある意味すごいよ。うん。)

シンジは二人の悩みとは無関係に、言葉を続ける。

「昔はさ、あんなじゃなかったんだ。

 確かに、僕はよく怒られたけど、

 アスカは僕のことを思って怒ってくれてるんだ、っていうのがわかったんだ。

 アスカは、間違ったことは言わなかったし、正しいことに怒るなんてことしなかった。

 ・・・・・でも、最近のアスカは・・・

 綾波は来たばっかりで、友達も少ないのに、あんな態度取って・・・・・・・

 それに、今日だって・・・・・・・・・・・

 別に僕が悪いことしたわけじゃないのに・・・・・

 僕は慣れてるから、いいとしても、綾波にまであたるなんて・・・

 ・・・・・・・・アスカ・・・・どうしちゃったんだろ・・・」

その横顔は真剣に悩んでいる顔だった。

「・・な、なんちゅうたらええのか・・・・・」

言葉を濁すトウジは、目でケンスケに話をふる。

ぶんぶんと頭を振って、拒否するケンスケ。

(親友のピンチやないか!助けてやらんかい!)

(それを言うなら、トウジだって・・・・・・)

ヒソヒソと小声で言い争う二人だが、街を見下ろして考え込むシンジは気づかない。

「・・・・アスカ・・・・どうしちゃったんだろ・・・・・」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

その背中に、二人は何もいえなかった。





「・・・・・・・・・・・・シンジ・・・・・・・・」

アスカは、シンジに謝るつもりで、シンジを探していた。

ヒカリが、トウジ達と屋上に行った、というので屋上に来たのだ。

三人の雰囲気に、というよりシンジの雰囲気に何故か出て行けなくなり、

話が終わるまで、待とうと階段のところに座ったとき、だった。

シンジのつぶやくようなその声は、アスカの耳にも届いた。

けして、大きな声ではなかったのに、アスカには一言一句はっきりと聞こえた。

いや、聞こえてしまった、と言うべきか。

(・・・・シンジ・・・あんなふうに考えてくれてたんだ・・・・・・・・・・)

シンジのそのやさしさに、アスカはやたらと怒鳴り散らしていた自分が恥ずかしくなった。

鈍いことには変わりないが、そのやさしさは本物であった。

(・・・・・・・・・・決めた!)

アスカは、勢いよく立ち上がると階段を飛ぶように駆け下りていった。


















朝の教室はにぎやかだ。

だが、何故かその日は静まり返っていた。

いや、ひそひそ声と、男女の声だけは聞こえていた。

「・・・・・でね、母さんたらそんなこと言うのよ。」

「あははは。」

相変わらず、仲良く笑いあうシンジとレイ。

転校して間もないのに、二人の距離は一気に近づいたようだ。

そんな二人を、クラスメート達はハラハラしながら見守っていた。

ちらちらと、二人とそこからやや離れた位置に座る少女を見ていた。

その少女は、後姿からもわかるぐらい不機嫌なオーラを放っていた。

クラスメート達は死人が出ないようにと願うのだった。

しかし、そんな周りの思惑とは無関係に二人の会話は進んでいた。

「あ、それで昨日言ってたやつ。はい、これ。」

シンジは鞄から何か取り出すと、レイに手渡す。

それを見たレイの表情はぱっと輝く。

「きゃ〜〜!?うそ!?ありがとう!碇君!!」

レイは嬉しさのあまり目の前に座った少年に抱きついてしまった。

((((((((((((あ・・・・・・・・・・・・))))))))))))

このとき教室の温度が下がったような気がしたのは気のせいではないかもしれない。

クラスメート達はこれから起こるであろう惨劇に、シンジに同情を禁じえない。

ガタッ!

アスカが席を立つ。

・・・・・・ゴクッ・・・・・・・

全員ののどがなった。

しかし、アスカはそのまま一瞥もせずに教室を出て行った。

その様子は、まったく変わったところも無く、いたって普通であった。

あれ???

意外な事態に、困惑の色を隠せない。

ところが、シンジはそんな周りの様子にはまったく気がつかず、

レイと談笑していた。

・・・・・なんて鈍いやつだ・・・・・

それは一歩間違えれば、犯罪にも成りかねない鈍さだった。

(・・・・アスカ、どうしたのかしら。)

こちらはレイ。

彼女はシンジと違って、教室の空気や、アスカの態度を見た上だやってのけていたのである。

(まあ、いいか。)

意識を再びシンジに戻して、話を続ける。

(碇君の笑顔ってかわいいな・・・・・)

その無理につくらない、自然な笑みに見入ってしまう。

結局、ミサト先生がくるまで、シンジはその教室の異様な雰囲気に気がつかなかった。



















「・・・・・アスカ・・・何かあったの?」

昼休み。ヒカリはアスカと屋上でご飯を食べながら、思い切ってきいてみた。

昨日とは、うってかわったその様子に聞かずにはいられなかった。

「・・・・・あのね・・・・・・・・・・」

アスカは箸を置いて、昨日の出来事をポツリポツリと話しはじめた。






「・・・・・・・というわけなの。」

「そんなことがあったんだ・・・・・・」

(な〜んだ。碇君、アスカのことそんなふうに思ってたんだ。)

アスカは少し頬を赤らめて話す。

その横顔はどことなく嬉しそうだった。

ヒカリはそんな二人をほほえましく思いながら、親友の背中をたたく。

「頑張ってね。アスカ。」

「うん、私、もうシンジを殴らない・・・・・」

こぶしを高々と掲げ、そう宣言するのだった。

その瞳はめらめらと燃えていた。

(はぁ、こんなこと宣言しなきゃいけない女の子なんていないわよね・・・・・)

ヒカリは燃えるその背中に、そう思ったのだった。




















それから一週間が過ぎた。

加速度的に、新密度を増すシンジとレイ。

というのもレイの積極性がアップしたからだ。

クラスメート達もだんだんと慣れたのか、そんな光景が当たり前になっていた。

ヒカリは、それでもハラハラ、妹を見守る姉のような心境で見ていた。

アスカはそれでも、我慢強く耐えていた。

時折、握られた鉛筆が悲鳴をあげていたのはこの際よしとしよう。

レイは、なんだかよくわからないが、このチャンスを物にしようと何かにつけてシンジの所に行っていた。

さりげなく腕を組んでみたり、背中から抱きついてみたり、

恥ずかしさに顔が真っ赤になりながら、懸命にアタックしていた。

普段のシンジなら、そんなレイのアタックに真っ赤になってうろたえているはずだが、

シンジは別のことを考えていた。

そのため、そんなレイの懸命な努力にも気がついていなかった。

(アスカ・・・・・・どうしたんだろう?・・・最近、元気ないな・・・・)

レイと何気ない話をしながら、その目はアスカの姿を捉えて離さない。

(・・・・・・・・こんなときぐらい、僕に相談してくれればいいのに・・・・・

 やっぱり僕じゃ、頼りにならないのかな・・・・・・・)

そう思ったとき、シンジは鈍い痛みを感じた。

もやもやとした不安が心を埋め尽くす。

(・・・・・あれ?・・・・・なんだろ、この気持ち・・・・・・・・・・・)

シンジは、律儀にレイの話を聞いていたが、それもここまでだった。




















「じゃあね、ヒカリ。」

「うん、バイバイ。」

アスカはヒカリとわかれてから、ひとり歩いていた。

少しうつむいたその視界に、ほっそりとしたシルエットがはいった。

アスカは、顔をあげる。

その前には、何故か懐かしい幼馴染の顔。

「・・・・・シンジ・・・・・・」

そのやさしげな顔立ちをこうしてまっすぐ見るのは何日ぶりだろう。

「アスカ・・・・・・その・・・・話があるんだ・・・・・・」

二人は連れ立って、近くの公園に来た。

目に入ったベンチに腰を下ろす。

「・・・・・・何よ・・・・・・話って・・・・・」

しばらくの沈黙を破り、アスカは、不機嫌な声をだす。

「・・・・・うん・・・・・・アスカ、何か悩み事でもあるの?」

「は?悩み事?」

「うん・・・・・最近さ・・・あんまり僕を怒ったり、その、殴ったりしなくなっただろ・・・・・

 どうしたのかな・・・・・って思って・・・・・・何か悩み事があるなら・・・・」

アスカは、

(誰のためにやってると思ってんのよ!!!)

という言葉はかろうじて飲み込んで、その鈍さに閉口する。

「なんでアンタがそんな心配するのよ・・・・・・・・・・」

「え?・・・・・・あ・・・・・なんでだろ?」

アスカはそのシンジの言葉に、あきらめたような、怒ったようなため息をつく。

「・・・もう、いいわ。心配しなくてもいいわよ。あんたはレイと仲良くやってなさい!!」

怒らないつもりだったが、その言葉には怒気が含まれる。

もうアスカは、シンジを振り返りもせず、走り去った。

シンジはもう見えなくなったアスカの後姿を見ていた。

(・・・・・・あ・・・・まただ。・・・・なんだろ、胸が・・・・・痛いよ・・・)

シンジは去り際に見せたアスカの泣きそうな、怒ったような顔が頭から離れなかった。

「・・・・・・・・・・・アスカ・・・・・・・」

その幼馴染の名を呼ぶ。

誰もいない公園で、シンジは空を見上げた。

夕暮れちかい空は、きれいなオレンジ色だった。

アスカの髪の色だった。














「あのバカッ!!!!!」

アスカは走って帰ってくると、乱れる息もそのままに部屋に駆け込んだ。

そして、鞄を投げ捨てると枕を持ち上げて、こぶしを叩き込む。

やわらかい羽毛の枕は、殴られたその形に変形する。

それでもまだたりないのか、アスカは両手で持って、床にたたきつける。

「ほんっとに鈍いんだから!!!!!!」

なおもその手を止めないアスカ。

枕を殴るのに夢中だったアスカは、部屋の外の音に気づかなかった。







ピンポ〜ン

「あら、いらっしゃい、シンジ君。」

そう言ってドアを開けてくれたのはアスカのお母さんだった。

「あ、こんばんわ。・・・アスカ、いますか?」

「あら、あの子なら部屋にいるわよ。」

「そうですか・・・・おじゃまします。」

「じゃあ、お留守番頼むわね。」

アスカのお母さんは特売のチラシを片手に入れ違いに出て行く。

さっきから心臓がドキドキして止まらない。

それは、走ってきたからだけではないと思う。

シンジは深呼吸すると
、意を決してドアをノックする。

「アスカ?僕だけど・・・・・・」

(ちょっと!なんでシンジがここにいるの!?)

その声にアスカは枕を殴る手を止めて、慌てふためくが、シンジの手前、落ち着き払った声で答える。

「・・・・・・何の用よ・・・・」

「その、話があるんだ。」

追い返そうとしたアスカだが、そのシンジの並々ならぬ声につい、中に入れてしまった。












「で、何の話?」

アスカは、ベッドの上に座って腕組をし、床に正座するシンジを見下ろす。

まるで、姉に怒られる弟といった構図だ。

ひらひらと羽毛が舞ってるが、今のシンジの目には映っていなかった。

シンジは、ずっと考えていたことを、ゆっくり話しはじめた。

「・・・・・なんで、こんなにアスカが心配なんだろう・・・って考えてたんだ。」

(・・・・・まだ考えてたの・・・・どうせ、にぶちんのアンタじゃ結果は見えてるけどね・・・)

アスカはうんざりしたように、目をそらす。

そのアスカの横顔を見ながら、シンジは少し考えて、言葉を続ける。

自分の出した答えに、少し赤面する。

それでも、勇気を出して声を振り絞る。

「・・・えっと・・・・やっぱり、アスカは怒ってても、いつもの元気なアスカが、僕は好きだから・・・・」

(・・・・え!?)

「・・・えっと、あれ?なに言ってるんだろ?」
 
考えていたのとは、ちょっと違う自分の言葉。

でも、言いたいことはあっていたと思う。

アスカは、その言葉を反芻していた。

『僕は好きだから・・・・

(・・・・シンジ・・・・・・シンジ・・・・・)

下唇を噛んで耐えるが、その目には涙が浮かんでくる。

それを見られまいとアスカは、うつむく。

こらえきれずにこぼれた涙が、ひざの上に跡を残す。

「・・・・アスカ・・・・?」

シンジはアスカの口から漏れた嗚咽にアスカの顔を覗き込んだ。

「・・・・・・・・・・バカシンジ・・・・・・・」

「え?」

声にならないつぶやき。

「バカシンジ!!!!!!」

今度ははっきりと。

そして、いままでのストレスとか、シンジの鈍さへの怒りとか、シンジへの想いとか。

いろんなものをのせたその平手は、まっすぐにシンジの頬に吸い込まれていった。

まさかそうくるとは思ってなかったシンジは、まともにくらって吹っ飛ぶ。

「♀Φ∇‡※〒・・・・・・・・・」

あまりの痛みに、声にならないシンジ。

真っ赤に腫れあがった頬をさすりながら、涙目になっていた。

いや、もう泣きかけていた。

「ひ、ひどいじゃないか!なに・・・・・ん」

そこまで言った時、シンジの言葉はアスカの唇にふさがれた。

あまりのことに、目をつぶるのすら忘れていた。

目の前、ほんの数センチの所にアスカのまぶたが見える。

どのぐらいだっただろう、時が止まったような静寂の中、アスカはゆっくりと唇を離した。

「・・・・・ごめんね。」

そのひんやりとした手が、シンジの頬を包む。

シンジは、殴られてないほうの頬も真っ赤に染めて、ただ無言でうなづくのが精一杯だった。

涙はもう、止まっていた。







































momの自爆コメント

こんばんは。
え〜と。
ありかわらずいや〜んなかんじの腐敗小説を書いております。
カヲル君は出てきませんが、
勘弁してやってください。
自分のSSに後書きをつけるのは、なんだか恥ずかしいですね。
じゃあ、こんなもんで。
以上、琥珀さんの相方、momでした。


琥珀のへっぽこコメント

アスカちゃん、かーわーいーいー(笑)

コレのどこが腐敗小説ですか!

めっちゃラヴラヴで、それでいて切ない、青春の香り(どんなやねん)

シンジ君とアスカちゃん、不器用な二人だけど、なんだかHAPPYで、よかったです。

最後なんか、チュウなんてしちゃったりして♪

琥珀は読みながら、きゃあきゃあもだえてました(爆)

ではでは、投稿していただき、どうもありがとうございます☆


モドル