後藤氏は若い頃、時間があれば人気がある温泉地や京都、軽井沢といった観光地を訪ね歩き、なぜここには人が集まるのか、自分の目で確かめて回った。耳を澄まして旅行客の話に聞き耳を立てた。この場所の何をすごいと思っているのか、何を喜んでいるのか、そして何を求めているのか。そこで気づいたのは、客がお金を払って泊まりにくるのは、癒しとくつろぎを求めたいからということだった。
たまったストレスを解消し、日常生活では決して味わうことのできない時間の流れと、あるがままの自然という空間に身を置き、思う存分開放されたいという気持ちにどう応えるかが、旅館の使命ではないか。風呂は、時空を超えて心も体も最も癒される場だ。だから日本一の露天風呂を作ろう。後藤氏は決意する。
そして零細経営に危機感を感じていた23歳のときに、敷地内の岩山を掘りぬいて客が感動するような幻想的な露天風呂を作ることに取り組む。以後、10年をかけて岩山を穿ち、現在の洞窟風呂を完成させる。さらに京都の庭から独学で学び、樹木の配置等にも気を配り、よりリラックスできる空間を演出した。評判は口コミで広がり、後藤氏の勤める新明館はたちまちお客で溢れかえった。
なお、新明館は日本名湯百選に選ばれている。