vol.7 ユーザーズ・マニュアル(取り扱い・操作説明書) |
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last updated:Sunday, January 31, 2010 |
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ここでは,ユーザー向け取扱説明書やパソコンなどの「取扱い説明書」に関するマニュアルを取り上げます。
ユーザーズ・マニュアルとは−−利用者向けの取り扱い説明書
情報システムの操作方法を記述した「マニュアル」は必要不可欠のものだが,現実には手抜きのマニュアルが少なくない。システムの利用者の視点に立って,マニュアルを作り直すことで,システムの利用度合いはぐんと高まる。見直しのカギは,利用者が業務の流れとシステムとの関係を理解できる記述にすること。各操作画面ごとに利用者が疑問に思う点を整理しておくことも必要だ。
岩井 孝夫
企業情報システムを構築するプロジェクトの成果物は何か。一つはもちろん,企業情報システムそのものである。もう一つ,忘れてはならないものがある。そのシステムの利用方法を記述したマニュアルだ。
完成したシステムが現場の利用者にしっかり使ってもらってこそ,そのプロジェクトは成功したと言える。そのカギを握るのがマニュアルである。
ところが,企業の情報化の現場に行くと,驚くほどいい加減なマニュアルしか用意されていないことが多い。システム構築プロジェクトのメンバーは稼働直前まで開発作業に追いまくられ,マニュアルにはなかなか手が回らない。数十億円を投資したシステムに,数人の担当者が2週間くらいで作ったマニュアルという組み合わせは,あまりにもアンバランスである。
最近はERPパッケージ(統合業務パッケージ)を使ったプロジェクトが増え,さらにマニュアルがいい加減になっていることが多い。ERPパッケージには,操作画面ごとにヘルプ画面が一応用意されている。それを使えば一通りの処理ができるという考えから,マニュアルをほとんど作らなかったりする。これは,現場の利用者を無視した暴挙であろう。
ERPパッケージの導入により,現場が不満を抱くという話はよく聞く。その原因は,業務プロセスの見直しに伴うあつれきということより,操作画面がわかりにくいという単純な,だが利用者にとっては深刻な理由だったりする。高価なERPパッケージを買っておきながら,まったくもったいない話である。
システム部門の評価を高める近道
おそまつなマニュアルが出回る理由として,マニュアル作りにお金と時間をかけていないことに加え,情報システム部門あるいはベンダーの開発担当者がマニュアルを書いていることが挙げられるのではないだろうか。情報システム部門やベンダーはどうしても,システムの作り手の視点に立ってしまい,実際にシステムを使う利用者の目で,マニュアルをなかなか書けない。作り手の視点からではなく,システムを使う利用者がどこでひっかかるのか,何がわからないのか,といったように,使う人の気持ちになって考え,マニュアルを整備する必要がある。
筆者は情報システム部門が企業の中でもっと評価されるための,一番の近道として,マニュアルの見直しがあると考えている。企業は,経営に役立つ情報システムを求めている。それは,現場の利用者がしっかり使えるシステムということでもある。ともすれば,情報技術(IT)に気を取られがちなシステム部門が,経営に役立つシステムという基本に戻る第一歩が,マニュアルの見直しと言える。
情報システム部門が,利用者が喜ぶようなマニュアルを提供できれば,システム部門の評価はぐんと高まる。これは間違いないことである。逆に利用者の立場を理解したマニュアルを作れないようなシステム部門が,「利用部門に改革を提案するシステム部門を目指す」とか,「経営企画に近いシステム部門が目標」などと言うのは僭越ではないだろうか。
二つの内容を盛り込むことがカギ
企業情報システムのマニュアルは,大きく二つの内容を備えている必要がある。まず,実際の業務の流れと,システムの関係,特に操作画面との関係をわかりやすく記述することである。これは意外に見落とされがちな点だ。もう一つは,個々の操作画面で利用者が戸惑わないようにするガイド/ヘルプを充実させることである。
企業情報システムは,ワープロや表計算ソフトとは違って,企業の業務の流れに組み込まれて使われる。したがって,ガイド/ヘルプを記述した操作マニュアルだけでは不十分である。
各業務がどのような処理の流れになっており,各処理にはどのような意味があるのか。だれがいつ処理をするのか。そして,各処理には,どのような操作画面が必要なのか。こうしたことをわかりやすくまとめておかないと,仕事の中でシステムを使いこなせない。
システム設計の効率追究が理由で,実際の仕事の流れと,システムの操作画面の順番があっていない場合もある。その場合,仕事の流れの中で,操作画面の説明をしておかないと,利用者は混乱してしまう。
もちろん,操作画面ごとのガイド/ヘルプ情報も重要である。利用者はシステム部員が思うようには,システムを操作しないことが多い。この操作画面で入れてよい数値はこれ,入れてはいけないものはこれ,といったことまで,記述しておけば,利用者にとって親切なマニュアルになる。
最近の情報システムは,単なる計数を扱うだけではなく,カスタマ・リレーションシップ・マネジメント(CRM)システムのように顧客情報という非定型な情報を扱うものまである。顧客情報をどのような形で入力していくか,この点に注意して入力せよ,といったガイド/ヘルプが求められるだろう。
設計書から業務の流れを書き起こす
マニュアルを作り直すプロセスを図1に示す。まず,「だれがどういう目的で,どんな場面で,どのように使う」マニュアルなのかをはっきりさせる必要がある。それによって,先に述べたマニュアルの持つべき二つの内容のどちらを重視すべきかが明確になる。
図1●情報システムのマニュアルを作り直すプロセス
マニュアルの再整備にあたっては,業務の流れに力点を置くのか,操作を重視するのか,のいずれかにポイントを絞ったほうがよいだろう。理想は両方の内容を兼ね備えたものを作ることだが,それには相当な人材とコストが必要になる。それよりまずは,どちらかだけでも充実させ,現場の利用者の評価を得ていくことが先決だ。
どちらに力点を置くにせよ,見直しにあたって,現場の利用者の声を聞くことが欠かせない。開発側では思いもよらない指摘がきっとあるはずだ。次に,そのシステムの仕様書や設計書までさかのぼる必要がある。仕様書や設計書を見て,実際の業務の流れを書き起こしていく。また,操作画面ごとのガイド/ヘルプは,システムの入出力設計書に記述された入力項目や条件などを基に作っていく。
作り直したマニュアルはできれば,電子化することが望ましい。デジタル・データにしておき,CD-ROMで配布するか,イントラネットから閲覧できるようにする。電子化しておくと,なんといっても,変更内容を反映するのが楽である。
マニュアルを再整備し,成果を上げている実例として,東京電力の「配電総合管理システム」をここでは紹介する。同システムのマニュアルは2200ページに及ぶ膨大なもので,東電はこれらを電子化し,関係会社にCD-ROMで配布するとともに,社内ではイントラネットから利用している。以下,東京電力配電部業務システムグループの谷潤太主任の話を参考に,電子マニュアルについて紹介する。
万6000人が利用する巨大システム
「配電」というのは各地域にある変電所から,家庭や工場まで電気を送る業務を指している。つまり,電柱や電線といった最終顧客に近い設備の建設・保守管理業務のことである。
配電総合管理システムは,電柱や電線の建設計画,設計・精算,工程管理,設備管理,図面管理までを支援する。こう書くと1行ですむが,極めて大規模なシステムだ。なにしろ,年間で200万件ほどの工事がある。管理している電柱は540万本にも及ぶ。東京電力の社員4万人のうち配電部門の職員7000人,関連会社のシステム利用者などを含めると,合計で1万6000人が利用している。
配電総合管理システムは,おそらく日本で最大の地図情報システムの一つでもある。東京電力の全営業エリア内の地形図上に,電柱や電線の位置,さらには建物の形状までがすべて記録されているからだ。540万本にも及ぶ電柱のうち,これから設置する新しい電柱は赤丸で,新しい電線は赤線で,といった具合に,それぞれ地形図上に表示される。仕掛かり中の工事図面も,地形図上から検索できるとともに工事内容や住所,進ちょくなどが確認できる。工事が完了すると,地形図上で白く表示されるようになり,保守の対象になる。
現在の配電総合管理システムが稼働したのは1997年6月。開発は東京電力のシステム関連会社である東電ソフトウェア(現・テプコシステムズ)が担当した。この段階では,マニュアルはファイル3冊からなる紙を使ったものだった。東京電力はこのマニュアルを「手引書」と呼んでいる。
手引書の作成は,システム開発と並行して進められた。もともと東京電力が持っていた「業務運行手引書」という業務の流れを記述したマニュアルに,新規に作った操作説明マニュアルを合体した。
これは,従来の手引書を見ただけでは,画面の入力必須項目やエラーの内容などがすぐわからないことがある,とする現場からの声にこたえたものだ。操作説明マニュアルは,配電総合管理システムの詳細設計書を基にして作成した。入出力設計書に書かれているとおりに,入力が必須な項目や,留意事項,画面遷移などを整理し,業務運行手引書との関連性も示した。
これらをまとめた手引書は製本して,各拠点(東京電力各支店・営業所,関連会社)に送付したが,当初でも1000ページを超えるものだったので,印刷して450近い拠点に配布するだけでもたいへんだった。特に,絶えずシステム改訂を加えているため差し替えが発生した場合には,450拠点に配布し,しかも正しいページと交換しなければならず,これも相当な手間だった。
マニュアルを階層構造に変換
そこで東京電力は1997年12月から1998年3月にかけて,手引書全体の電子化を進めた。電子化にはアドビシステムズのドキュメント処理ソフト「Adobe Acrobat」を使用し,手引書をPDF(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)ファイルに置き換えた。
PDFファイルを選定した理由の一つは,東京電力の各支店・営業所と関連会社を含めたすべてのコンピュータ環境で動作可能であること。特にクライアント側にはアドビシステムズが無償配布している「Adobe Acrobat Reader」だけがあればよいことが決め手となった。
電子化に際して,マニュアルのドキュメントを階層化した(図2)。全体の業務の流れを示す「ステータスマップ」(図2の画面3)が用意され,詳細な説明を知りたい業務名をクリックすると,手引書の目次欄(図2の画面4)に飛ぶ仕組み。こうして,1000ページを超える手引書の中から見たい場所を容易に検索できるようにした。この階層化は,Acrobatの機能により文書ファイル間にリンクを張ることで実現した。同時にそれまでの紙の手引書の利用者からの要望も取り入れて,内容や表記方法にも手を入れた。
これらのPDFファイルをCD-Rに焼き付けて,1998年4月から合計850セットを,工事会社を含めた約350の利用拠点に配布した。この電子手引書は配電総合管理システムのクライアント・パソコンのハードディスクに格納して現在も利用している。さらに,1998年の夏には東京電力社内で電子手引書をイントラネット上で公開し始めた。
操作マニュアルは,各操作について,その操作の対象となる「業務概要」,「入力項目・留意点」,「画面の動き方」を1画面にまとめてある(図2の画面5)。こうすることで,利用者は常に業務と操作を関連付けられる。入力項目や画面の動き方は利用者の視点から,詳しく記述されており,利用者が入力作業で戸惑わないようにした。
電子化したことで,複数の人が同時に手引書を参照できるようになった。従来は各拠点にはファイルの手引書が1〜2セットしかなかった。そのためだれかが手引書を使っている間は待つ必要があった。また,手引書の作成や配布にかかる合計費用を当初2年間で4320万円かかると見込んでいたが,電子化により260万円に激減した。
一連の工夫により,新しい電子版の手引書の評価は利用者の間で高く,評判を聞いた東京電力社内外からも問い合わせがあったという。東京電力は1998年4月の電子化以降も,電子手引書の保守と拡張を続けている。3年あまりが経過した現在では,電子手引書の総量は2200ページという膨大なものになっている。
ITマネジメント
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