不眠症

  よい眠りにはよい朝があります。不眠症を心配する方に、 「睡眠」を一般的に説明すると、それだけでも安心してよく眠れるようになる方もいらっしゃるので一通りのことをお話しています。

“時間”=睡眠時間は新生児で15時間、だんだん短くなって成人で7〜8時間が平均です。

“深さとパターン”=睡眠は深さに関係して、深い睡眠がとれれば時間は短くて事足りるようです。深さは一様ではなく宵型と朝型があり、宵型は眠り始めの2〜3時間眠りが深く、朝型は寝覚めまえの2〜3時間眠りが深くなります。 

“脳波”=眠りが深くなるにつれて7〜14Hzの混在から2Hz前後のゆったりした波形が多くなります。

“レム睡眠”=振幅が狭い脳波を多く含んでいる睡眠帯では睡眠中の眼球運動が 素早く多く、この特徴から“レム睡眠” rapid eye movement sleepと呼んでいます。

“ノンレム睡眠”=振幅が広いゆったりした脳波を多く含んでいる睡眠帯は 、睡眠中に表れる眼球運動 が遅くてゆっくりという特徴から“ノンレム睡眠” non rapid eye movement sleep と呼ばれています。

 睡眠中、意識は低下し筋肉は緩み感覚は鈍くなります。基礎代謝は低下し、体温は下がり呼吸循環が減少し、自律機能が低下します。レム睡眠中は80%夢を見ているようです。副交感神経が休んでいることで船頭のいない船同様 、身体はコントロールを失い、呼吸が乱れ、血圧は上がったり下がったり、脳内血流量はノンレム睡眠に比較して30〜50%増加、など など不安定状態になっています。睡眠中の脳溢血の発作、喘息発作、子供の寝小便はレム睡眠中起きることが多いのです。

 余談ですが、普段とは違って、睡眠中に男性自身が大変立派になることに気づ くことがあると思います。これもレム睡眠中に起こることです。 睡眠中、血圧が上がったり呼吸が乱れたり、おまけに勃起したりしながらも身体を回復させているのです。 

 動物実験で睡眠中の脳波をとりながら、レム睡眠が現れたときに 、故意にレム睡眠を打ち消すようにすると、打ち消し操作中止直後に、睡眠を消された分を取り戻すかのように倍付けになってレム睡眠が現れたそうです。レム睡眠を無理になくすと精神的肉体的に異常が起こるといわれています。レム睡眠は体の回復には絶対に必要で、何らかの理由で少なくなると、機をうかがってその倍もレム睡眠が現れるようになっているようです。

 一晩の眠りの内20%以下がレム睡眠で、90分から120分ごとに現れて20〜30分つづきます。「ああぐっすりよく寝むれた」の内容は ノンレムとレムが交互にリズミカルに現れて、比率が約4:1で、全体に振幅が広いゆったりしている脳波が多かった、ということ になります。

不眠症改善例とツボ

 不眠症改善で ハリ治療を希望する人の訴えを大きく分けてみると1、なかなか寝付けない 2、寝てもすぐに目がさめる、それから眠れない 3 、眠りが浅く一晩中寝たり起きたりしている 4、朝早く眼が覚める、という4パターンになります。実際には一晩中一睡も出来ないという状態を除けば 、1から4まで混合状態で悩んでいると思われます。

 不眠に伴って頭重、頭痛、頭がぼやけて集中できない、耳鳴りがして怒りっぽくなって精神不安、インポ、早漏 、遺精、生理不順、不感症、食欲不振で胃腸が不調、そのほかさまざまな症状が現れて不眠に追い討ちをかけるので益々眠れなくなります。不眠症を解消するだけで同時に多くの不定愁訴も解消できるのですから言うまでも無く健康維持にとって快眠は重大要素です。 

 不眠症になる経緯には、原因 になる精神的ストレスを自覚しているケースと、自覚していないケースがあります。ストレスを自覚していない例は、数ヶ月間気力体力の消耗に気づかず、楽しく激しく仕事を消化した直後後でポッと時間 に余裕ができた時など。自覚している例は、日々の活動の中で自己評価と周囲からの評価にずれを感じ始めた時などです。いずれもなぜかぐっすり眠れなくな ったことに気付いて、不眠症になったのかなと思っているうちに精神不安が 大きくなって不眠症になります。 

 頑固な不眠症の治療は、ハリ麻酔式不眠治療を施術します。効果は100%に近い (下記、治験報告論文参照)ものです。大女優Yさん (お名前の掲載許可を頂いていますがここでは控えます)の安眠のためにこの施術をしたときにお褒めの言葉を頂いて います。その後、学会、研究会などでその施術法を公にしています。 

 ビジネスマンのU氏四十三歳、医師から精神的なものだからあまり気にしないで 、と説明を受け安定剤と睡眠剤を処方していただいています。やはり不眠症だったAさんからのご紹介で来院なさいました。東洋医学は不眠症も五臓六腑の機能バランスの崩れが原因と考えています。近代医学で言う交感神経と副交感神経の興奮と抑制のバランスが崩れているというイメージです。U氏の五臓六腑のバランスは肝経と膀胱経に異常な興奮がありました。それは不眠、目の異常、後頭部の凝り、腰背部の違和感があることを意味します。「眠れないばかりか背中一面が凝っているのでは」と質問しますと「そのとうりです」とお答えでした。

 不眠症の治療中、大半の方が寝息を立て、中にはぐっすりと寝入って起こしてさしあげることもあります。U氏も例外ではありませんでした。U氏の不眠症は四回の治療で治りました。その後しばらく健康管理の意味で治療を続けました。

 不眠症の特効穴というべきツボはいくつもあります。 誰にでも共通する代表的なものを紹介します。

・「神門」 、手首の手のひら側の横シワの上で、小指側の端のところにある。心を落ち着けてくれる効果。

・「膈愈 かくゆ」、胃を穏やかにし胸を緩やかにするツボで、背中で第七胸椎棘突起下の両外約2センチのところ。

・「巨闕 こけつ」神経を鎮める、胃を緩やかに胸を穏やかにするツボで、みぞおちの中央、胸骨体 下端の下約4センチのところ。

 不眠症の人は背中の膈愈を中心に肩甲骨の間から腰の辺りまで筋肉が緊張しているのでこれを緩めます。同時にみぞおちから脇にかけての緊張をとることで自然に眠りにつくことが出来ます 。気持ちが悪くない程度に押して、ゆっくり揉むと良いでしょう。「経済界」連載、ビジネスリーダーに役立つツボ刺激療法より

睡眠障害のはり治療

日本良導絡自律神経学会治験報告論文要点 小淵徹

 通常、睡眠障害は、一次性睡眠障害すなわち、大脳興奮性の異常亢進(精神神経疾患、脳充血、コーヒー)によるものと、二次性睡眠障害すなわち大脳興奮性のみられない(疼痛、頻尿)ものに大別されている。

 今回、18歳から88歳の一次性睡眠障害を訴える新規患者の中で、神経症的素因により、通常睡眠時間が保ちえない、すなわち1入眠障害、2熟眠障害、3早朝覚醒、4途中覚醒のいずれか、あるいは複数を訴えるもの15例を対照とし、はり治療を施術した 結果報告。

・治癒基準

 「このごろ眠れるようになった」「前回治療以来良く眠れている」自己の申告を転機とし、眠れ始めてから一週間以上、通常睡眠を続けたものを治癒とした。

 治癒とした日から30日後の状況を確認した。

治癒後30日の状況

症例 障害の有無  服薬 症例 障害の有無   服薬
1    なし      有→無  9    なし       無→無
2    不明 10   入眠障害 OH依存 有→有
3    なし      有→同処方有 11   なし       有→無
4    なし      有→同処方有 12   なし       無→無
5    なし      無→無 13   なし       無→無
6    なし      無→無 14   なし       無→無
7    なし      無→無 15   なし       無→無
8    なし      有→同処方有  

・治癒率

 
11/15×100 = 73.3% 治癒       11 11/12×100 = 91.6%
無効         1
治療継続中    1  
不明                  2

 治癒率が91.6%である。治癒率の基礎となる治癒基準には治療期間の限定がないため、その点批判があると思う。

・年齢別障害傾向

 男性9女性6計15例。年代別睡眠障害の内容(表1)であるが、40代までの入眠障害6例に対し熟眠障害が1例、50代以降の入眠障害2例に対し途中覚醒が3例、熟眠障害が3例というところを見ると、入眠障害は若年に熟眠障害は老年に多いという一般的傾向がうかがえなくもない。

・治癒までの日数・平均治療頻度・平均治療回数

 
  平均病歴 平均日数 平均治療頻度 平均治療回数
内服群 48.5月 212/4 = 53.0 69/212 = 1/3.0 69/4 = 17.2
非内服群 35.0月 153/7 = 21.8 36/153 = 1/4.2 36/7 = 5.1

 治癒に至る平均日数、平均治療頻度、平均治療回数、及び平均病歴の関係をみると、服薬群と非服薬群の間に大きな差が見られる。両群の成績を左右するファクターとしてここで考えたいのは、症例各自の不眠に対する意識の在り方でる。これに関して(表4)15症例は来院時、不眠に漠然とした不安を抱いている群(5,6,10,12,14,15)と、不眠が続くことが、さらに悪い事態につながることを仮想し、転じて、眠らなければならないという強迫観念を持つ群(1,2,3,4,7,8,9,11,13)に別れた。この強迫観念を持つ群と表7の服薬群がほぼ一致することから、服薬群と非服薬群は、病気の性質が異なるかのように考えられた。

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