女子美公開講座 第四回 2008年01月12日14:56

<版画 エッチング制作の理論と実際>

最終回は去年の12月25日だったのですが、その後仕事でごたごたしてレジメがまじってしまい、
年も変わって一息ついて、ようやく片づけしたら出てきました。
講師は女子美術大学教授、馬場章先生です。

版画というと芋版と消しゴム版画しか知らず。
つまりデコのところにインクをつけて紙をのせて刷る、ということしか知らなかったわけで。
逆に穴がほげたところに入ったインク以外をふき取っておいて、
それを紙にうつす、という発想じたい、全然知らなかったためにとても新鮮な驚きがありました。
だって、ふつうに線を引こうと思ったら、線だけ彫ればいいわけですよ。
凸版だったら線を残してまわり全部を彫らなきゃいけないじゃあないですか。
まるでふつうに絵を描いたように版画の作品ができるということを、
ふしぎだなぁと思っていたのですが、これか、ってかんじがしました。

さてと、前置きはそのへんで、さっそく講義内容へと。
なお、あくまでも先生の講義をしろうと目線で解釈したレポートなので、そこんとこヨロシク。

版画の種類について
版の形式による分け方:凸版画、凹版画、平板画、孔版画
版の材料による分け方:木版画、銅版画、石版画、シルクスクリーン

木版画は木の板を彫って彫り残した凸部分にインクを付けて刷ることから凸版画。
銅版画は彫刻した凹部にインクをつめて刷ることから凹版画。
石版画いわゆるリトグラフ。これは彫りません。
水と油が反発する性質を利用してインクをのせて刷ります。
シルクスクリーン。絵柄に合わせて紗の目を塞ぎ、空いた目の部分からインクを落として紙で受けて刷ります。

今回の講座では、特に凹版形式の銅版画について詳しく説明してくれていました。

@エングレービング(彫刻凹版) 凹版画の技法で最初に行われていた。
エングレーブは彫刻するの意で、なまえのとおりビュランという道具で直接版を彫ることから
英語ではエングレーブ、フランス語ではビュラン彫りと呼ばれる。(彫りはフランス語じゃないけど)
ドイツのアルブレヒト・デューラーにしてその頂点を極める。
彼は金工師のむすことしてニュルンベルクに生まれ、
1510年に秀作「メランコリア」や「騎士の死と悪魔」など銅版画100点を制作した。
その後、この技法は絵画の複製などに用いられるようになった。
Aドライポイント
最初のころはエングレービングの補助的な技法として用いられた。
銅版を鋼鉄の針でひっかいてキズをつけ、できためくれを取り去って線を描いていたが、
後にはそのめくれの効果に着目し、ドライポイントの特徴として版画に生かすようになった。
1600年代。レンブラントはすりの時にできるめくれによる滲んだ線の効果を積極的にエッチングと併用して用いた。
で、その
Bエッチング
「1600年代、レンブラント・ファン・レインがこのエッチングで300余点の作品を残していますが、
彼の絵画の特徴とも言えるドラマチックな光の効果による演出と、
その光により作り出される影の中の形は版画作品にも遺憾無く発揮されています。
また、エングレービングの硬質な線ではなく、自由で伸びやかな線は描画の技術だけでなく
オランダ腐蝕液と言われる塩素酸カリウムと塩酸を用いた特殊な腐蝕液によるものと思われます」(レジメより)
だんだん理科が入ってきましたね。
そう。講義では実際の学生さんの制作風景のビデオをまじえての解説でしたが、
それは美術室であり、また理科の実験室の光景でした。
じつに、おもしろい。

エッチングのやりかたについて。

かんたんに言うと、銅板にグランド(アスファルトなどからできている耐酸性物質)を塗って、それにニードルで描画する。
つまりそこの部分だけグランドが取れた状態になる。
それを酸の液につけると、描いた部分の銅だけが腐食してインクを詰める穴がほげたものができるというわけです。
彫って原版を作るか、化学変化を利用して原版を作るかとかいろいろ方法的な違いはあるけれど、同じことなんじゃないの、
とはじめ思ったけど、これがなかなか。
液の濃度やつける時間で腐食の度合いを調節し、また引き上げてグランドを洗い落としてからまた塗り直し、
さらに深い色合いや強い線にしたいところを描いて再び腐蝕液に。
これを何度も何度もくりかえすことで微妙な濃淡のある作品を作ることも可能になるわけです。
腐食をとめたいところやまちがえちゃったところに、あとからマジックインキで塗り塗りしたりというさまざまなテクニックあり、
アクワチントボックスという巨大なエレキテルのような箱に版を入れて、
ハンドルを回して中で舞い散った松脂の粉を定着させたり。
仮説と実験の繰り返し。まさにガリレオの世界です。
うーん、じつにエッチングは興味深い。

じぶんでやれるかどうかはわかりませんが、これから版画の作品を見た時の参考としても、かなり有意義な講座でありました。

女子美の講座はこれが最終回で、じつは今日からまた新しい佐賀大学農学部の講座がはじまって、雨の中いってきたんですが、
それはまた、別のはなし。。。