釣り場の長老たち

最近なじみの川崎を離れてちょっと足をのばすことが多い釣りバカ日誌ですが、
それぞれの海で釣れる魚、それぞれの釣り場の情景があって、釣れる釣れないに関わらずなかなかに趣深いことが多いです。
(まあ、もちろん釣れるに越したことはないのですが)
そうした中で必ずといっていいほど出会うのが、その釣り場の「主」とでもいうようないつも来ているらしい地元のおじいさんです。
小田原の早川港に行ったときは自転車でやってきたじいちゃんが竿も持たずに防波堤を行ったり来たりしていました。
しばらくすると、向こうの方で中学生が30センチを越えるボラを釣り上げて盛り上がっていました。
じいちゃん、そちらの方に歩いて行って中学生達となにやらごにょごにょ話していたかと思ったら、腰から抜いたナイフを一閃。すぱっとボラの頭を落とし、次いでそのままわたを抜いてあれよあれよという間にさばいてしまったのでした。
(じいちゃんはそのあともでかいやつをさばいていた)
先週は横浜横須賀道路を使って三浦半島は三崎漁港、そして城ヶ島へと渡ったのですが、そこではなかなかダンディーで話好きなじいちゃんに会いました。
また、その話し方が実にいい。
今はのんびりしているけど実は昔はならした鬼の営業部長、という感じにお見受けしました。
2時頃から釣りはじめて、赤い小さい魚(後からネンブツダイと判明)が数匹という感じだったのですが、夕方くらいにそれまでと違うかなり強い引きがあって、引き上げてみると
「おっ、こいつは」
愛読書の「はじめての防波堤釣り入門」に写真入りでのっていた危ない魚ではありませんか。
「うっ、これはゴンズイ??」
するととなりで釣っていたそのじいちゃん、

「ゴンズイ、だな。あぶないあぶない」

「やっぱりそうですか」

「刺されると救急車だ、な。軽くて」

「うーん」

「靴の上から刺されてもまあ2、3時間は動けない、な」

そしてじいちゃんのクーラーの中にはこんなにでっかいカワハギやこんなにでっかいシロギスがごっちゃりと。
しかし、じいちゃんに言わせると、

「まだまだ小さい、な」

近くでけっこういい型のアジを釣り上げた人がいたのですが、

「それ、そのままつけて泳がしときなよ。それを狙ってくるやつが今けっこうまわってるみたいだから。あーあ、そいつがまわってるとアジがなかなかつれねえ、な」

「何がまわっているんですか」

「スズキだよ。5〜60センチってとこだ、な」

やがて暗くなって糸もウキも見えなくなり、そろそろしまおうとした僕の竿に
「おっ、当たりだ」
リールを巻いたら薄暗がりの中にけっこうでかい獲物の影が。

「ゴンズイだな」

じいちゃんがペンライトで糸の先を照らすとそこにはやっぱりゴンズイが。

「あぶない、あぶない」

われわれはじいちゃんに丁重にお礼を言って城ヶ島を後にしたのですが、
じいちゃん曰く

「これからがいいのに、さ。俺なんて昼はぷらぷら遊んでて夕方から毎日来てまあ、家に帰るのはいつも2時ごろだ、な」

城ヶ島大橋を渡って三浦海岸沿いの道は大渋滞。
僕たちはじいちゃんがぽつりと言った言葉を思い出していたのでした。

「帰るの?中途半端な時間に帰っても道が混んでるだけだ、な」



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