日本の奇門遁甲の現状(98年2月会報より)
 日本の奇門遁甲の現状について多少書いてみたいと思います。既に何度かあちこちで書いておりますが、日本の現在の奇門遁甲は透派の焼き直しにすぎないと私は書いて来ました。このことは逆に透派の遁甲が、日本の標準となっているということに他なりません。

 既に中国占術について知識をお持ちの方であればご存知のように、台湾の張耀文氏が伝えた透派の中国占術は、大変独創的あるいは異端的な占術なのです。例えば子平(四柱推命)では、蔵干を切り捨てたこと、用神の解釈の異なる点等があります。紫微斗数では、旧暦の生月を採用せずに干支暦の節気による生月を採用したことや、大限の取り方を子平の大運法と同様に変えて、子平の吉凶と紫微斗数の象意を連動させる方法を取っている点等があります。

以上のような改変は、本来の子平家や紫微斗数家からみれば異端の説なのです。透派の占術の改変は、各派で意見が分かれている難しい部分を思い切って切り捨てて、別の概念を持ち込むことによって体系化する方法が取られています。このことは、透派が大変すっきりとした占術の体系となっている理由でもあります。

私がかって子平の用神の取り方等ででいきづまった時に、透派の子平書を読んで、まさに氷解するように理解出来たときの驚きは忘れません。しかし、それはさらに他派や、台湾の原書を研究する段階で再び障害となってしまいました。

 私は透派の占術の善し悪しについては論じる気はありません。むしろこのような体系とした張耀文氏には敬意を持っております。私がここで書きたいのは、透派の奇門遁甲の善し悪しではなく、透派の遁甲が子平や紫微斗数と同様に、特殊である点と現在の日本の遁甲がその亜流であるということなのです。

 国内でも子平に関する書は透派以外にも多数ありますので、透派の子平が他と異なる点は読み比べれば解ることです。また紫微斗数についても最近は鮑黎明氏等により透派以外の紫微斗数書が出ています。ところが遁甲に関しては、市販本は良書が少なく、透派の遁甲書に頼らざる得ません。そこで、標準的な遁甲を紹介したいという思いから、遁甲の講座を開始しました。

 ここでは簡単に透派の遁甲の特殊性について解説したいと思います。まずこのことは意外に思われる方が多いと思いますが、遁甲盤に立向盤と座山盤の二盤を使用する点があります。透派では攻めの立向盤、守りの座山盤の二盤を使用しますが、このように二盤を使うのは異例です。中国の原書にしても、私はすべてをみたわけではありませんが、明代から清代にかけての奇門遁甲の原書、「奇門遁甲全書」「遁甲演義」「奇門遁甲統宗大全」「珍本奇門遁甲」等十数冊を読みましたが、1書たりとも遁甲に立向盤座山盤の二盤有りとするものはないのです。ただ、唯一透派が伝承したと称する「奇門遁甲天地書」のみが二盤について書かれています。

 また、台湾の近年の遁甲書も二盤有りとするものはほとんど有りません。(一部、日本からの逆輸入と思われる遁甲書に記載があります。)ここで理解していただきたいのは、私がいいたいのは遁甲に二盤有りとするのが誤りと言いたいのではなく、一般的な遁甲では一盤しか使用しないということなのです。そして日本では遁甲には立向盤・座山盤の二盤有りとするのが当然のごとく思われており、透派以外の自称遁甲家も当たり前のように遁甲には立向盤・座山盤の二盤が有ると言っています。しかし、こういったことは原書を少し読めば判ることなのです。このことからも、日本の透派以外の自称遁甲家達は結論は透派以外の遁甲のことは知らず、遁甲の原書も台湾の書も研究していない人物達であることが判ります。つまり、透派の遁甲書等で透派の遁甲を知り、多少改変して、いかにも遁甲の専門家のように振る舞っているのです。

 私はこういった不勉強な日本の自称遁甲家達に怒っているのです。かって、ある方から金函玉鏡について教えて欲しいとのメールをいただいたことがあります。金函玉鏡とは日盤のみを使用する遁甲の一種です。その方がいうには「高名な遁甲家の方や何人かの遁甲家の方にも尋ねましたが、知ってる方はいませんでした。」とのことである。遁甲をまともに研究している方なら奇門遁甲全書ぐらいは読んでいるはずです。金函玉鏡は奇門遁甲全書の巻末に「金函玉鏡全図」が附録として載っているのです。その方には、私のてもとの資料を送ってあげましたが「高名な遁甲家でさ知らなかったのに・・」と驚いておられました。しかし、遁甲家が金函玉鏡を知っているのは当たり前のことなのです。奇門遁甲全書さえ知らない人が遁甲家と名乗れるのが、日本の遁甲の現状なのです。

 次に超神接気という遁甲独特暦の修正法を、透派は伝統的な方法を採用せずに、二室(冬至・夏至)に一番近い甲・己日より陰陽遁を変局している点があります。これについても、私は国内で、本来標準的な方法であるはずの伝統的な超神接気を使用している方を知りません。だいたい、透派と同じかさらにそれを元に改変したと思われる方法を使用しているようです。つまりは、国内の自称遁甲家達は、透派の超神接気しか知らず伝統的な超神接気については知らないようなのです。私の講座では、もちろんこの伝統的な超神接気を紹介しています。

捕捉(2000年11月9日 記)
 ここに掲載した文章は「日本の奇門遁甲について」と題して、98年2月の会報に掲載した文章です。

 内容は一読していただければ、お解りのように国内の遁甲は大半が透派の亜流にすぎないことを、「立向盤・座山盤」と「超神接気」の2つの観点から解説したものです。この「立向盤・座山盤」の件については、ニフティの占いフォーラム他で既に何度も書いて来たことではありますが、あえてココにこの文書を掲載する気になったのは、最近になって、私が指摘した「立向盤・座山盤」の使用するのをやめて、他の部分は透派そのままの遁甲でありながら、「自分以外の他流派の遁甲は透派の亜流だ。」と主張する人達がぼつぼつ出て来ているからです。そこで、今回次の「超神接気」について公表した訳です。(台湾では、これが当たり前でそんな大げさなものではありませんが)この文書を読んだ皆さんは、以上の2点を持って自称遁甲家の真偽を確認していただければ幸いです。


 尚、この文書の中で透派の特徴を2点上げていますが、他にも数点透派独特の部分があります。これらについても全て公表してしまうと、また、その点を改良した自称遁甲家が出現いたしますので、ココでは公表を控えさせていただきます。(この内容は私の中級講座では紹介しています。)

 最後に、文中にも書いておりますように、この文章は透派の方々に対しての批判を目的としたものではありません。占術には様々な異説があっても良いと思っております。ですから、透派の方が立向盤・座山盤の2つの盤を使用することや、二至(冬至・夏至)に近い甲・己日から時盤三元を換局することについては、特に異論を挟むものではありません。

 ただ、私が許せないのは、透派の遁甲しか知らないくせに、自分は透派とは関係無い素振りをして、ほとんど透派と同じ内容の本を書いたり講義をしている人達なのです。内容が同じであるのであれば、まだましな方で、まったく同じだと都合がわるいので一部を改変して○○流遁甲の先生に収まっている人物が何人もいます。しかも、この改変が根拠のあるものであればまだ許せるのですが、ただ透派と同じではまずいと言うだけの理由で改変(正しくは改悪)している連中が後を絶たないのです。

無論、透派以外の方でも各派を研究した結果、透派と同じ方法に達したという方がいらっしゃるかも知れません。その方までも批判の対象とするものではありません。


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