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01遺伝子とはDNA分子の特定領域のこと:

遺伝とは、親の持っている形質が、その子孫に伝えられる現象であり、また、その形質が現れるか否かに関係なく、遺伝子が子孫に伝えられる現象でもある。形質という言葉は漠然としているが、遺伝性のある形態的特徴と生理的特徴を意味する。たとえば、身長が高い低いは形態的特徴であり、アレルギー体質、ある種の糖尿病や高脂血症、色盲、そううつ病、血友病・・・などは生理的特徴である。ここでは、数例の先天性形質を示しただけであるが、我々の肉体や行動パターンの殆どが遺伝子に左右されているのである。そして、これらの形質を支配するのは、たった1個所の遺伝子の場合もあるし、数箇所の遺伝子が関与している場合もある。

さて、こんなに凄い遺伝子とは、どんなものであろうか。遺伝子の定義を調べてみた。

以下の表に示すように、記述内容には大きな差があることが分かる。運悪くも曖昧な記述の辞典に遭遇すると、その霧を晴らすのに多くの時間を浪費することとなる。遺伝子関係の入門書として、素晴らしい書籍を紹介しよう。参考資料の「ワトソン遺伝子の分子生物学」である。A4サイズ、上下巻合計千ページで、参考文献もバッチリと記載されているので、更に詳しく調べたい時には非常に便利である。翻訳も良いと思った。


書籍番号2によると、遺伝子は生殖細胞のみに存在し、かつ数珠の玉のような粒子状物質であることが想像される。しかし、遺伝子は、生殖細胞のみに限定して存在するものではないし、また原子や分子の如き独立した粒子でもない。

書籍番号4、7、及び9によると、遺伝子は染色体上に位置するとしている。
染色体とは一体何であろうか。細胞が分裂する時にのみ現れる、棒状の物質がある。これは色素で染まるため、ギリシャ語の着色物体という意味から、染色体(chromosome)と呼ばれた。1888年のことである。
其の後の研究から、細胞が分裂をしていない時期(間期)には、棒状の染色体は形を変え、核内いっぱいに広がった状態で存在する。この状態を染色質と呼んでいる。したがって、染色質の縮んだ状態が染色体である。
このような理由から、最近では、染色体と染色質を含めて染色体と呼んでいるようだ。なんとも曖昧なことではないか。

更に染色体を詳しく見るとしよう。
染色体は、DNAとヒストン(histone)と呼ばれるタンパク質との複合体を意味する。

以上を総括するなら、染色体には、DNA、ヒストン、それと説明は省いたがRNAや酸性タンパク質などが含まれる。

となると、遺伝子はどの物質に位置するのであろうか。


明快な記述としては、書籍番号1,3,5,6及び8があり、私は書籍番号3との相性が良い。

遺伝子の定義を簡単にまとめると、以下の通りとなる。

「遺伝子はDNA分子の一領域を占め、特定の塩基配列を有し、特定の形質を発現する」

換言するなら

DNAの塩基配列≒特定遺伝情報(形質)の発信源


遺伝子の定義例
書籍番号
遺伝情報をになう構造単位。遺伝子はDNA上の一定の領域を占める遺伝の作用単位と考えられている。 1
遺伝子は、生殖細胞の染色体中に粒子として一列に並び、形態や性質を遺伝させるもととなると考えられる因子。
2
遺伝子はDNAの一部分で一定領域の塩基配列よりなり、大部分はペプチド鎖の生成に関与している。 3
遺伝子は自己増殖し、世胞世代、個体世代を通じて親から子に継代的に正確に受けつがれ、形質発現に対する遺伝情報を伝達する。各々の遺伝子は互いに独立の単位であるが、物理的に独立して存在しているのではなく、染色体上にそれぞれ固有の位置を占め、一般には線状に配列して連続群を形成している。 4
生物の遺伝をつかさどる単位となる構造ないしは実体を遺伝子と名づける。化学物質としてはデオキシリボ核酸(DNA)から成立つことが明らかにされた。 5
遺伝子は遺伝情報を担う。分離した粒子でなしに、デオキシリボ核酸(DNA)の長い鎖の一部ずつが遺伝子として機能する。 6
遺伝子は、遺伝する形質のそれぞれに対応して染色体上に一定の順序に配列している遺伝単位。遺伝子の実体は核酸であり、とくにDNAが普遍的であるが、ある種のウィルスではRNAの場合もある。
遺伝子は、生物の個々の遺伝形質を発現させるもととなる、デオキシリボ核酸(DNA)、一部のウィルスではリボ核酸(RNA)の分子の領域。ひとつの遺伝子の塩基配列がひとつのタンパク質やリボ核酸の一次構造を指令する。
染色体中に一定の順序で配列されて各々一つずつの遺伝形質を決定し、両親から子孫へ、細胞から細胞へと伝えられる因子。



(1)遺伝学辞典(田中信徳監修、共立出版株式会社発行、1977年6月20日初版第1刷):
遺伝情報をになう構造単位。遺伝子は高分子DNA(RNAウィルスではRNA)上の一定の領域を占める遺伝の作用単位と考えられている。1個の遺伝子は500−1,500個の塩基対を含む大きさをもち、突然変異や組換は、1個の遺伝子内の塩基の部分的入換によってもおこりうる。

(2)国語辞典(守随憲治、今泉忠義、松村明編集、株式会社旺文社、1984年重版発行):
遺伝子は、生殖細胞の染色体中に粒子として一列に並び、形態や性質を遺伝させるもととなると考えられる因子。

(3)理工学辞典(東京理科大学理工学辞典編集委員会編、株式会社日刊工業新聞社、1996年3月28日初版1刷発行):
遺伝子はDNAの一部分で、一定領域の塩基配列よりなり、大部分はペプチド鎖の生成に関与している。通常遺伝子1個は数百−数千個の塩基対を含み、遺伝暗号をコードしている部分(coding region)、それに先行部分(leader)と後続部分(trailer)、さらに真核生物では介在配列(intron)と暗号をコードしている部分(exon)よりなる。

(4)生物学辞典(八杉龍一、小関治男、古谷雅樹、日高敏隆編集、株式会社岩波書店、1996年7月12日第4版第2刷発行):
遺伝子は自己増殖し、世胞世代、個体世代を通じて親から子に継代的に正確に受けつがれ、形質発現に対する遺伝情報を伝達する。各々の遺伝子は互いに独立の単位であるが、物理的に独立して存在しているのではなく、染色体上にそれぞれ固有の位置を占め、一般には線状に配列して連続群を形成している。ただし、まれには互いに重複して存在する場合もある。

(5)化学大辞典(大木道則・大沢利昭・田中元治・千原秀昭編集、株式会社東京同人、1995年5月10日第1版第2刷発行):
生物の遺伝をつかさどる単位となる構造ないしは実体を遺伝子と名づける。化学物質としてはデオキシリボ核酸(DNA)から成立つことが明らかにされた。遺伝子は一般に、それが指令するタンパク質をコードする遺伝暗号(3連子、すなわち三つのヌクレオチドで一つのアミノ酸を指定する)の並びと、それがリボソーム上で翻訳されるのに必要な信号、およびそれらが遺伝子からRNAとして転写されるために必要な制御信号から成り立つ。

(6)知恵蔵(朝日新聞社、1998年1月1日発行):
遺伝子は遺伝情報を担う単位。分離した粒子でなしに、デオキシリボ核酸(DNA)の長い鎖の一部ずつが遺伝子として機能する。真核生物の遺伝子では暗号として意味をもつエクソン(exon)部分が、いくつもの意味不明の挿入部(イントロン)で中断されている。

(7)理化学辞典(玉虫文一、富山小太郎、小谷正雄、安藤鋭郎、高橋秀俊、久保亮五、長倉三郎、井上敏編集、株式会社岩波書店、1981年10月20日第3版増補版第2刷発行):
遺伝子は、遺伝する形質のそれぞれに対応して染色体上に一定の順序に配列している遺伝単位。遺伝子の実体は核酸であり、とくにDNAが普遍的であるが、ある種のウィルスではRNAの場合もある。

(8)広辞苑(新村 出編者、株式会社岩波書店、1998年11月11日第5版第1刷発行):
遺伝子は、生物の個々の遺伝形質を発現させるもととなる、デオキシリボ核酸(DNA)、一部のウィルスではリボ核酸(RNA)の分子の領域。ひとつの遺伝子の塩基配列がひとつのタンパク質やリボ核酸の一次構造を指令する。

(9)大辞林(松村明編、株式会社三省堂、1995年11月3日第2版発行):
染色体中に一定の順序で配列されて各々一つずつの遺伝形質を決定し、両親から子孫へ、細胞から細胞へと伝えられる因子。遺伝子の本体はDNA(一部のウィルスではRNA)であり、そのヌクレオチドの塩基の配列順序の一定の部分によって特定の形質を発現したり、調節したりする情報が伝えられる。



DNA
細胞の直径は10ミクロン程度であり、その中心部には細胞核がある。細胞核の主成分は、酸性を示す物質、核酸であり、デオキシリボ核酸(DNA)と呼ばれている細長い分子で、2本の対になっている。

2本鎖DNAの立体構造は、1953年3月、世界的に有名な科学雑誌「Nature」に発表された。ワトソンとクリックの、2本の鎖がよじれあった2重らせん構造モデルがそれである。

イメージ的には、2本のDNA分子で作られた、らせん階段(左図は理科年表より抜粋)である。即ち、りん酸(P)と糖(デオキシリボース、S)が交互に化学結合して、長い鎖(階段の手摺に相当する)を形成する。鎖中の各糖(デオキシリボース)の特定の位置には、1分子の塩基分子(A,G,T,Cの4種類あり)が化学結合をしている。一方の鎖の塩基分子は、他方の鎖の塩基分子と水素結合(化学結合より結合力が弱いのが大切なポイント)をして塩基対(階段のステップに相当する)をつくり、左右の鎖が離れないように引き付けている。ここで、水素結合を形成する塩基対の組み合わせには、「特定の相手にのみ結合して特定の塩基対(2種類しかありません)をつくる」という規則(相補結合性)がある。即ち、A(アデニン)はT(チミン)と、そしてC(シトシン)はG(グアニン)とのみ塩基対をつる。また、塩基対は平面構造をしている。

この相補結合性のおかげで、2本のDNA鎖のうち、一方の塩基配列が決まれば、他方の塩基配列が決まることとなる。即ち、DNAの複製時には、二重らせんがほどけ、各々の鎖に対して相補的な鎖が合成されるので、まったく同じ二重らせんが2組できることとなる。

また、化学結合より弱い水素結合のお陰で、転写プロセスのところで述べるように、RNAポリメラーゼによって2本鎖DNAが1本鎖DNAとなる。