産業技術総合研究所
環境管理研究部門
環境分子化学研究グループ
故・佐藤 優
2007年に亡くなられましたが、私の心の中には、元気に生き続けています。
Science Vol.297 p218-222で、Zwallyらは 「表面融解が誘起するグリーンランド氷床の流れの加速」 という題で、地球温暖化がグリーンランド氷床に与えている影響について 紹介しております。 氷床の流動の観測結果は 夏に速度が増加して冬に低下することを示しておりますが、 夏の速度増加は氷床表面で融解した水が割れ目を伝って 氷を乗せている基盤岩との界面まで到達して そこに溜まった水が氷床の流動に一役買っているという話です。 このため、過去に考えられていたよりは 氷床の温暖化に対する応答が急速かつ大規模しかも ダイナミックなものであると述べております。 Science Vol.297 p382-386で、Arendtらは 「アラスカ氷河の急速な消失及びその海面上昇に対する寄与」 と題して、過去1950年代から実施してきたアラスカ氷河の 航空機レーザー高度観測結果から 1950年代中葉から1990年代中葉まで67氷河平均で 年間52cmずつ氷河が薄くなっており、 アラスカ全体に引き直した場合に年間52km3程度の氷河がなくなり これは年間1.4mm程度の海面上昇に寄与していることを報告してます。 また、この氷河薄化は1990年代中葉から2001年にかけて そのスピードを3倍程度増加させ、 この期間に限れば年間1.8m薄くなっているそうです。 この氷河消失で消えてしまった氷の量は 同じ時期のグリーンランドの消えた氷の量の倍に達するそうで これまで観測されてきた海面上昇における氷河の寄与分では アラスカの氷河が最大であったろうと報告しています。 Science Vol.297 p386-389で、Jacobsらは 「20世紀終わりのロス海の淡水化」 という題で南極ロス海(南極最大のロス棚氷前面の海) の過去40年間の海洋観測結果から 棚氷及びその前面の海面での周回流内部の塩分濃度が 極端に低下してきている結果について報告しています。 この変化は気温の温暖化、海洋の温暖化、 降水量の増加、海氷形成量の低下、西南極氷床の加速した融解の 複合した現象の結果であると論じてます。 Vibrational Spectroscopy, 31, 167-172, (2003):佐藤 優 PSCsの赤外スペクトルの実験的シミュレーション: 高角度反射スペクトロスコピーにより低温で観察した硝酸/氷混合物 冷却された基盤上に堆積させた硝酸/氷粒子の 高角度反射スペクトルを、極成層圏雲(PSCs)を モデル化したものとして、赤外線帯域で記録した。 観察されたスペクトルは実験的に求められた透過スペクトル、 及び文献に記載された粒子の理論的に予測された 消光スペクトルと比較した。 氷及び硝酸1水和物(NAM)の高角度反射スペクトルは 透過及びシミュレートされたスペクトルと良く一致していた。 その一方で、硝酸3水和物(NAT)の高角度反射スペクトルには 硝酸水溶液の液相のスペクトルの特性を示し、 結晶のNATの透過スペクトルとは大きく異なっていた。 この違いは粒子表面上の液体の形成の文脈で 説明されるものであろう。 補足説明: 以上の研究は、極成層圏中には 熱力学的にNATが存在することが信じられ、 また現場での粒子採取結果もNATの存在を 強く示唆しているにもかかわらず、 分光的には液体に類似したスペクトルしか観測されておらず なぜそうなるのかを解明することを動機として 室内実験でそれを再現したというものです。 なお、極成層圏雲はオゾン層の破壊において鍵となる 活性な塩素ラジカルを不均一反応で生成させる、 及びそれを捕捉する働きを持つ窒素酸化物を 硝酸の形で輸送してしまって塩素のオゾン破壊作用を 助長させる上で、主体的な役割を果たしている雲であり、 極成層圏が一定の低温に達した時点で出現します。 温暖化効果気体(炭酸ガス、メタン、N2O、フロン類など)の 成層圏中の濃度増加で放射収支が変化することで 極成層圏の冬の温度は今以上に低下して オゾン層の破壊は塩素濃度が低下した後も 長引くであろうことも予想されております。 |
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