2002.02.27
観測条件:2002年2月、上空を北西の季節風が吹く日を選んで観測。 |
山梨県は、周囲に富士山、南アルプス、八ヶ岳など3,000メートル級の雄大な山々を有する山岳県である。その中央部が甲府盆地であり、西部には南アルプス(赤石山地)と巨摩山地が並列して南北に連なり、北部から東部にかけては八ヶ岳、関東山地、南東部には御坂山地、丹沢山地の一部である道志山地がそびえている。 当然ではあるが、「盆地」内の大気や河川の水は、平野部や高原地帯のそれより、はるかにキタナイのである。簡単に言えば、日の出と日の入りという、太陽エネルギーのサイクルに応じて、盆地内の大気は上下運動を繰り返し、平地よりも長時間盆地内に留まるからである。 大気分子の運動エネルギーは、輻射エネルギーの吸収、大気分子相互間の衝突作用、山腹斜面との相互作用などによって与えられるであろう。甲府盆地のように、低面積に比較して周辺の山々の山腹斜面の占める面積が大きい地域では、山の斜面に生ずる「山谷風」が重要な役割を果たすのではなかろうか。山の斜面は、日射量に対応する気温の上昇・降下に伴って、斜面近傍の大気を斜め上方へ押し上げたり、斜め下方へ吸引したりするポンプのような役割を果たす。このように山の斜面に生ずる風を「山谷風」と呼んでいる。すなわち、日の出とともに、盆地内の大気は山腹を駆け上り(山風)、日射が弱くなると風は斜面を下に向って(谷風)吹く。この様子が、上図に示されている。 上記のように、山風によって上方へ運ばれた盆地内の大気は、日射エネルギーの減少につれて、谷風によって下方へ吸引されてしまう。さらに、盆地の数千メートル上空には、氷点下の季節風が吹いていて、上昇してきた大気を冷やして下向きに追いやるであろう。あたかもエアカーテンか鍋蓋のように、盆地の大気を閉じ込める役割をしている。 上図からも予想されるが、地上の風向きは、上空の季節風の方向とはまったく異なる。我家の庭で撮影した画像を動画で示す。ただし、300KBなので取込みには時間が掛かるかもしれません。 感想: (1)甲府盆地内の大気に含まれる汚染物質は、対流による拡散や「山谷風」によって森や林の木々に衝突し、それらに効率良く捕捉されるであろう。また、捕捉された汚染物質は、落葉期あるいは降雨によって土壌中に吸収され、沢の流れ、小川を経由して、笛吹川、釜無川、富士川などに流入(甲府盆地の河川略図)する。また、「山谷風」によって輸送される汚染物質は、当然のことではあるが盆地を囲む山々の頂きまで到達するので、人家も果樹園も無い高山でさえ、予想外の汚染物質が検出されるかもしれない。 (2)農村地域では、高齢化にともなう遊休果樹園や荒れ果てた畑が年々増加している。また、農村地帯では、剪定枝は果樹園や畑で野焼きをするのが常識のため、「山谷風」による予期せぬ山火事が多い。さらに、荒廃した畑や遊休果樹園や人家も、接するように混在している場合が多いので、防災意識の啓蒙が必要であろう。 (3)甲府盆地では、盆地の底に当る地域で、農薬を大量に消費する果樹栽培が行われている。上述のように、これらの汚染物質は「山谷風」にのって、高度の高い地域にまで拡散するであろう。もしもではあるが、盆地の底部で、生物兵器や化学兵器が散布されたとしたら、と想像すると無力感に陥ってしまう。それらに対抗する手段は無いからである。 (4)上述のように、盆地には宿命的なハンディキャップが存在する。農薬大量消費型果樹産業が相応しい筈はない。盆地に適した産業形態に移行すべきではなかろうか。 |
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