東 京 発 (菊民夫記1992.2.17)
 
 
 四年前、事務所に一通のファックスが飛び込んできた。発信地は東京発である。一月 十四日、緊急に十人余りでの同窓会を兼ねた新年会の案内であった。場所は新宿。ファ ックスの地図を見ながらの上京である。 昔の学友との再会は十六年ぶりである。久しぶりに再会する友にも、白いものがめだ ちはじめている。田舎から出てきたこともあり、久しぶりの東京での解放感も手伝っ て、夜の明けるまで語らい合った。当時を振り返ると、昭和四十三年は大学紛争に明け 、大学紛争に暮れた年であった。紛争の発端は医学部の登録医制度に反対する医学部学 生が無期限ストの突入であり、他大学の応援や、学園の民主化等で、紛争は一気に全学 に拡大し、その年の七月五日全学共闘会議が結成され、多くの大学が無期限ストに突入 したのである。お茶の水周辺は、デモあるごとに、シャッターの閉め音、機動隊の靴 音、催眠ガスの臭いが鼻をついた。授業が再会されるまでの十一カ月もの在り余る時間 は、これからも経験することのできない『時間』であり、田舎から出てきた者同志が、 我が四畳半の下宿で、顔を突き合わせ、建築論議を闘わせたのもこの頃からである。食 べる者にも不自由をし、夜裸電球の下で聞いた『夜明けのスキャット』が、昨日のよう に聞こえてくるのである。
 時間が過ぎ...... 子供の成長に驚きながら、できること ならこの子供達にもその当時の『時間』与えてやりたいものである。その時間からなにか を見いだしてくれるであろうに...心の豊かさと情熱を。(PTA投稿)



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