信長貴富先生新曲
男声合唱・ピアノ・パーカッションのための『起点』
(メンネルコール広友会、2005年委嘱作品、詩:木島始)
歌詩に関する解説


  木島始は1928年生まれで、昨年(2004)8月14日に76歳で亡くなった。京都市出身、
岡山の第六高等学校在学中に敗戦を経験して、その後、新制東京大学文学部英文科を出て
英語教師として法政大学に勤めるかたわら、詩人・翻訳家として活躍した。25歳のとき
最初の詩集『木島始詩集』を刊行して注目され、以後、多数の詩集や訳書を出し続け、児
童書の作者としても知られている。

 組曲の第1曲「起点」は最初の『木島始詩集』に収められた詩による。これは1945年6
月29日の岡山大空襲と、広島県西高屋で被爆同級生を看護していて迎えた敗戦の日の記
憶をたどった作品。

第2曲「声立てず内部に潜んで」は、木島が68歳以後に取り組んだ
四行連詩という形式の作品のひとつで、イエルサレムに住むエリカ・アドラーという女性
の「老人病棟で」というホロコーストを歌った四行詩に答えたもの。1999年刊の四行連詩
集『越境』から採られている。

第3曲「飛ぶものへの打電」は、1972年刊の思潮社版『木島始詩集』所収の詩に拠っているが、
おそらく1957年のソ連による人類初の人工衛星スプートニク1号を題材とした詩である。
スプートニク1号は本体わずか58pの球体で、地上との無線の送受信の実験をおこなって
成功した。木島はそれを「わたしたち」地球上の人類の運命と重ね合わせて描いている。

 合唱曲になった木島の詩には『遊星ひとつ』『路標』など未来への希望を述べた向日的
な作品が多い。しかし、この『起点』は、戦後の知識人の、人類全体に対する、個人的体
験を踏まえた危機意識を柱として構成された組曲である。      (深沢眞二)