曲目解説

アルトサクソフォーンのための「バラード」(アンリ・トマジ)

 アンリ・トマジ(1901-1972)はフランスのマルセイユに生まれた作曲家で、1927年には、当時の作曲家にとって最高の栄誉とされた「ローマ大賞」を得ています。この曲は1939年に作られ、作曲者の親友で当時世界最高のサクソフォーン奏者として活躍していたマルセル・ミュールに捧げられました。

 タイトルにある「バラード」とは、もともとは詩の一形式を表わす言葉でしたが、18世紀以後は、物語の内容を持った器楽曲のタイトルにつけられるようになりました。このトマジ作曲の「バラード」も楽譜にはS.マラールの詩が添えられています。マラールの詩の内容はとても叙情的なもので、曰く「ためらいがちに鳴り響くサクソフォーン」がひとりの道化師を苦悩と絶望から立ち直らせるものとして登場します。

 曲は大きく4つの部分に分けられ、冒頭はイギリス古謡に基づくテーマが示された後、サクソフォーンが主題を奏でます。叙情的な旋律と和音構成が魅力的で、展開しながらクライマックスへと達し、もう一度古謡が再現され終結します。第二の場面はジーグと呼ばれる舞曲で活発テーマが楽しく奏でられます。中間部には喜びや感謝を感じさせる壮大な旋律が現れ、「道化師」というイメージから想像される単に滑稽なだけの音楽では終わらない味わい深い音楽が創り出されています。第三の場面は一転しジャズの手法を取り入れたブルースとなり、感情的な起伏の激しいフレーズの後、苦悩、悲しみの極限にまで達すると第四の場面となり、気を取り直したかのように、希望に溢れるジーグ(第二の場面の舞曲)が再現されて、華々しく曲を終えます。

(出版:ビュッフェ・クランポン;レンタル譜)

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