曲目解説

歌劇「ウィリアム・テル」序曲(ジョアッキーノ・ロッシーニ)

 19世紀前半、イタリアのオペラ界に新しい息吹を与え、オペラ作曲の巨匠として今も名声を保持しているロッシーニ(1792-1868)は、37歳までの半生に37曲のオペラを作曲しました。その代表作のひとつであり彼の生涯最後のオペラ作品が、「ウィリアム・テル」です。

 有名なスイスの伝説をもとにしているオペラの内容は、1207年当時オーストリアの圧政に苦しんでいたスイスが、この苦境を革命によって打破する模様を題材としたものです。主人公のテルは弓の名手でありスイス独立運動のヒーローとして登場。劇中、最も有名な場面でその弓が注目されます。

 オーストリアの悪代官ゲスレルへの敬礼を拒否したテルとその愛児ジェミーに対し、ゲスレルがジェミーの頭にりんごを載せ、テルに「射てみよ」と難題を突きつけます。テルは断りますが、ジョミーの説得により矢を放ち、テルは見事に頭上のりんごを射抜く、という場面があります。

 この「序曲」は、その後4時間にもおよぶ劇の本編の内容に密接に関係してはっきりと対照づけられた四つの部分からなっています。

 第1部はバスクラリネットの独奏によって静かにスイスの「夜明け」が描かれます。

 第2部は、愛国心によって奮起した志士たちの戦の象徴である「嵐」の急襲を示す疾風の描写から始まり、やがて全楽器によって暴風雨が到来。この激しい嵐が遠ざかって、フルートの静かな独奏で次の部分にうつります。

 第3部は「静寂」。嵐の静まった後に平和な牧歌が歌われます。田園に鳴らされる牧笛の旋律がイングリッシュ・ホルンにより奏され、スイスに訪れた平和の姿が映し出されます。

 第4部は、平和をもたらした国軍の凱旋を示す有名な「スイス軍の行進」です。高らかに歌われるトランペットに導き出され、華やかにきざむようなリズムで行進曲が始まります。それは次第に最高潮に達し、興奮と歓喜に溢れて終わります。

(未出版)

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