左の写真は大変見にくいのだが、真ん中でハープを横にして
こっちを見ているのがボスのキングさんで一番左でポーズをとっているのが
プレイヤー、後方でリローネを構えているのがパール、一番右でキタローネ
を持っているのがイーレンフェルトである。
雨の肌寒い駿河台をカザルス・ホールに向かう。
どうせがらがらだろうと思っていたら、大はずれで満員に近い。
そんなに有名な団体なのだろうか?
たまたま持っていたCDをレコ芸で見かけてそこに出ていた
来日と言う情報を手がかりに直前に予約した段階では
これほどの人気のある団体とは思っても見なかった。テレビの録画もある。
BS衛星放送の朝にやるクラシック番組とのことである。
さて、このハープ・コンソートの17世紀スペイン音楽の演奏は基本的には即興によるものであり
そこに踊り手の舞踏が即興で加わる形である。
基本的な音型が提示され、それが低音部で維持されてゆく上に、様々なヴァリーエーション
が展開されてゆく。個々の曲がどうと言うよりも、スペインの町中や宮廷で演じられたであろう
その当時の音楽風景が彷彿とする見事なパフォーマンスであった。
音楽的表現としては繊細で奥の深いハープを聴かせたキングが圧倒的に優れている。
ソプラノのサナブラスはかなり「生声」に近い発声で、フラメンコ歌唱やファドなど
を連想させる、表出力のある歌いぶりであったが、今ひとつ声が不安定なのと
劇的な情感の把握が弱く迫力に欠けた面もあった。
ガンバとリローネを操ったパールはなんせ美人で見て楽しかったが、今回の演目では
それほど見せ場がなく、テクニックの安定が印象づけられた程度であった。
何と言っても場を盛り上げたのは、ダンスを担当したプレイヤーの役者振りだろう。
例のどんと舞台を踏みならすフラメンコ風(?)のスペイン舞踊も面白かったが
後半のバグ・パイプの演奏やら闘牛士での道化振りなど地味になりがちな舞台を
抜群のサービス精神で盛り上げた。
収穫はこの時代の音楽が舞踏と密接に結びついていたことが、目で見える形で
実感できたことだろう。ジーグ・ブーレ・サラバンド等々我々がバロック音楽で「聴く」ことしかできない
音楽の様式の原型を体験できたことは幸せである。
テキストによれば17世紀の舞踏は
フランスの宮廷舞踏(メヌエット、等)
スペインのフォーマルダンスであるダンサ(エル・グラン・ドゥーケやフォリーア)
南米の熱狂的なバイレ(チャコーナ、ファンダンゴ、タランテーラなど)
の3つに分かれているらしい。
いずれにしても当時の舞踏家は様々なステップを駆使して、音楽家の即興と
丁々発止とやり合っていたわけである。今回も演奏家が二群に別れて
音楽で「戦争」を再現する場面があったが実に面白い。
まさに見物(みもの)であった。
しかし考えてみればつい最近まで音楽はそう言うものだったのである。