「負けず嫌い」と「負け嫌い」

◆負けず嫌い(1998/4/18)
    今日、気が付いたんですけど、「負けず嫌い」って変な言葉だと思いませんか。

    文字通りに解釈すると、「勝負に負けてもいないのに、負けることが嫌い」という意味になると思うんですけど、実際の用法はそうじゃありませんよね。実際には、とにかく「無条件に負けることが嫌い」なことを云うはずです。でもそれだったら「負けず嫌い」の「ず」は不要ですよね?

    この変さ加減は、「食わず嫌い」と並べてみると良くわかるとおもいます。

    で、変だなあと思い国語辞典を開いてみました。そこには次のような記述が・・・。

    論理的には「負け嫌い」

    おお!でも何故(^_^;)?

◆むらたけさんから情報(1998/5/10)
     むらたけさんから以下の情報をいただきました。
    「負けず嫌い」については、「大野晋の日本語相談(朝日文庫)」で読んだ覚えがあります。

    この「ず」は打ち消しの助動詞ではなく、意志・未来推量の「む」の仲間の「むず」で、
    「むず」とは「むとす」つまり「〜しようとする」ってな語感の言葉だ、ってな説明がして
    あったと記憶してます。

    方言にそういう使い方の残っている言葉があると書いてあったようだけど、用例忘れました。

    ってことで、またうかがいますんで、よろしく。
    くるくるくりりん掲示板(1998/4/24)より

     ありがとうございます。
     なるほど、故に「負けず嫌い」=「負けようとすることが嫌い」となるわけですね。興味深いお話です。方言として残っているというのも興味深いです。いったいどこの方言でありましょうか?

◆むず(1998/5/11)
     意志・未来推量としての「むず」が、方言の中に残っている地域はどこか?gooを用いて、ちょっと調べてみました。
     以下はその結果です。
    「武家共通語と謡曲」(http://kuzan.f-edu.fukui-u.ac.jp/yokyoku/index.html)より
    これは一時代前のことになるが、中部地方などで「行こ う」の意味で使われる「行かず」などの「ず」は「むず」 「んず」の変化したものであるのだが、甲州では武田信 玄が敵を欺くために否定の「ず」を肯定の意味に使わせ たのだ、などという。

     これみたいですね。
     更に、「行かず」を使っているのは、具体的に中部地方の何処なのか絞り込んでみました。
    コトタマ往来313(http://kuzan.f-edu.fukui-u.ac.jp/yokyoku/iruma.htm)より
    「行かう」を「行かず」と云ふのが、甲、信、三、尾等の諸地方に広がって居る。或る人 は「行かんず」の転とする。実際尾張では「行かアずに」などと使って、否定そのままの 云ひ方ではない。然るに甲州の人は、信玄公が軍略の必要上肯定を否定に言ったのに因る と言って居る。

     甲州、信州、三河、尾張。かなり広範囲で使われている言葉なんですね。ちょっと驚きました。さらに次のようなページもHIT。
    「静岡弁を勉強しず」http://www.spa.is.uec.ac.jp/~miura/hoge2.htmlより
    静岡弁をマスターするためのポイント
    (略)
    「〜ず」については

    標準語とは意味が逆になる
    (略)
    ●〜ず
    〜します。
    「今、行かず」=「今、行きます。」

     なるほどです。
     となると、この様な用法に馴染んでいる中部地方のみなさんは「負けず嫌い」にも違和感を感じないのでありましょうか。

◆「負けず嫌い」に疑問を抱いた方のページ(1998/5/11)

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