●矢岳越え(/3) 大畑駅

・2003年11月30日作成
訪れた日 2003年11月22日
 
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矢岳トンネルを抜けたディーゼルカーはまるで空中に放り出されたかのようだ。眼下には霧島連山、桜島、そして雄大なえびの盆地が広がった。その光景は鉄道の車窓のレベルを超えて言葉も出ない。89年、急行「えびの」でここを越えた時、不覚にも眠ってしまって見ることが出来なかった車窓を拝む事が出来た。14年かけてリベンジを果たす事が出来た。

肥薩線は球磨川に沿って走る区間も素晴らしいが、何と言ってもこの矢岳越えが車窓の白眉である。ループ線、スイッチバックを繰り返し急勾配を越えてゆく。かつて、肥薩線が鹿児島や宮崎と熊本を結ぶ本線であった時代、ここは特急や急行列車も走り、たいそう賑わっていたのだが、高速道路の完成に伴い、この区間を越える定期列車は4往復に過ぎない。そして、うち1往復は観光列車である。また、この区間での列車交換が無くなってしまったと聞く。スイッチバック駅に両方向から進入してくる迫力ある景色は過去のものになった。

年に何度もないような快晴の土曜日、人吉駅を10時14分に出発したステンレスのディーゼルカーはガラガラ。かつて乗った急行「えびの」とほぼ同じダイヤだが、乗客は数名。ほぼ全員が観光客だった。レイルバスのような軽快ディーゼルカーは嫌いなのだが、今日ばかりは歓迎する。車窓を楽しむには国鉄型の重厚な車両より適している。

気合の入った旅ではあるのだが、出張の合間という事もあり、例によって事前知識が無かった。カメラも携帯電話と現場撮影用の旧式デジカメだけが頼り。今回は寝ないように席には座らず立って車窓を眺める事にした。

人吉駅を出た列車は延々と急勾配を登ってゆく。民家や道路も見えない。その雄大な景色は北海道を思わせるようなものであった。景色は雄大で飽きさせないものであるが、唸るエンジン音は一定で、速度も出ない。これでは眠ってしまったのも仕方ない。このような単調な旅が15分近く続く。

やがて最初の2重スイッチバック駅の大畑駅が見えてくる。すると左手に急勾配から下ってくる2両編成のディーゼルカーが見えるではないか。この区間での列車交換は無い筈。突然登場した謎の列車に車内はざわめく。先に大畑駅に着いた列車は引き込み線に入った2両編成の到着を待つ。この僅かな間を利用して、駅の外に出てみた。

大畑駅はスイッチバックの為に出来たような駅で、もともと集落があったとも思えない山中の駅である。かつては蒸気機関車の増結が行われた駅で給水塔が構内に残っている。これら作業のために駅員がいた時代もあったが現在は無人化されている。駅舎は明治の開業以来の木造のもの、この駅の魅力は語りつくせぬものがあるが、民家も無い秘境に放り出されても困るのでそのまま乗ってゆく事にする。

「これから我々が向かう・・・」運転士がループ線の上の方を指して乗客に説明している。観光バスの様相を呈してきた。謎の2両編成は貸切観光列車で、この列車進入を合図にこちらは出発。進行方向が変わり、引き込み線に入る。さらに進行方向を変えて本線に入る。右手には大畑駅を出発した列車がすれ違ってゆく。すっかり見とれていて写真を撮るのを忘れた。

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大畑駅に進入
給水塔が蒸気機関車時代の名残
渋い駅だった
待合室には定期券が貼られていた
大畑駅に進入してきた臨時列車
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