先生をする

私は社内で、あるソフトウェアの講習会の講師をしています。 毎年のように海外出張に行っているソフトウェアの分です。 入社1年目にはすでに講師の補助をしていて、そのうち一人でやるようになり、ここ5年くらいは年に数回やっています。 今年は基礎講習が7回、応用講習が3回の予定で、もしかするとそのソフトウェアの会社でやっている回数と同じくらいかもしれません。

すでに何十回としているので、だいたいのポイントは頭に入っていますが、最近、時間内に終わらないことが増えました。 10年位前まではコンピュータもまだあまり使えない人が多かったので、ユーザーインターフェースで手間取る人が多かったのですが、最近はその点で問題ある人はほとんどいなくなりました。 しかし、そのソフトウェアは化学工学という学問の知識があって初めて使えるものなのですが、その知識が無い人がすごく増えてます。 これは大学などで化学工学というものの人気がすごく低くなっているのが大きな原因といえます。 大学も予算つけてもらわなければ研究ができませんが、ある程度成熟しきった分野より、今はバイオとかナノとかエコとかそんなものがキーワードについていないと最先端ではないようです。 でも、化学工学という学問は化学プラントを作る上で一番大事なものなので、そこができていないと化学会社なんかは非常に困るのです。 ただ、大学と企業とのニーズには大きなギャップがあり、結果として化学工学を知らない学生が非常に増え、そういう学生が入社してくるというのが実情です。

従来も化学工学を専攻した学生ばかりが化学会社に入るわけではありませんでした。 普通の化学や、機械とか電気が専門の人も多いです。 でも、今ほどは人を減らしていなかったので、仕事にも余裕があって勉強する時間があったり、失敗しても許されるし、先輩もいろいろと教えてくれていました。 今は、人が減ってますから、会社に入ったら即戦力と思われていて、今の新人はかわいそうです。 10年でようやく一人前と言われるのが普通だと思っていたのですが。 今はあたらしいプラントを作る機会もほとんどありません。 設備投資なんかは最近少し増えましたが、ずっとありませんでした。 かくいう私も、実際に設計してプラントが建ったことはありません。 一部設備が建った程度です。

こういう状況はうちの会社に限らず、どこの会社も同じようで、よく最近の若い者は化学工学を知らんという話が出ます。 で、化学工学を教えてる大学が無いのかというとそんなことはありません。 地方大学などでは、まだ化学工学を看板に揚げているところもあります。 でも、うちの会社なんかは大学もブランドものみたいなところばかり採用して、なかなか地方大学から採用しようとしていないような感じです。 せっかくなので、ぜひ、そういう大学の学生さんにも応募してもらいたいと思うのですが。

ともかく、最近は工場の幹部の方々の中で化学工学をどうにか覚えてもらわなければならない、というような話になってきていて、今年度、私が化学工学を6日間の日程で教えることとなりました。 今までのソフトウェアの講習は、すでにテキストがあったのですが、今回は何もありません。 以前の上司は、教科書の例題をやらせておけば良いというのですが、私自身、ソフトウェアの講習を通じて、最近の新しい人たちがどこまで知らないのかを嫌というほど見ていますので、その上司が言うとおりにやったのでは6日間が単に無駄になるだけというのがわかっていました。 なので、結局、資料は全部手作りです。 さすがに、サンプルになるものはあります。 それはすでに出版されている教科書類です。 私が学生の頃は、本当に大学の教科書という感じでとっつきにくいものばかりでしたが、最近は先生方も学生に理解してもらうことをベースに作成しているようで、いくつかわかりやすいテキストがありました。 それの一つを教科書としています。 ただ、教科書といっても、それをなぞるだけでは意味が無いので、自分なりに順番をアレンジします。 また、ある方のやっている化学工学の講習会が、すごく参考になっています。 結局、できたPowerPointのページは300ページ超。 演習問題とその回答を含めると400ページを超えます。

とりあえず、うちの事業所の若手20名ほどに対して行った講習では、理解度はやはりピンからキリまでという状態ですが、全般的にみて7割くらいはわかってもらえたかと思います。 なにより、講師の印象は全員良いとアンケートにあったのが一番うれしいことでした。 あとは少しずつ、もっとわかりやすい資料にすることですね。

しかし、大人相手の講義でこれだけ苦労するのだから、小学生とかを相手にしている先生たちはすごいと思います。 私の仲の良い同期には先生がたくさんいますが、彼ら彼女らには脱帽せざるをえません。


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