高瀬は、目の前にそびえる旧アウガスト王国の宮殿を見上げて、しみじみと、感慨深く呟いた。
「長い道程だった………」
殆ど誘拐同然に新しい冒険に引き摺り込まれて、敵は市本と見るもおぞましい悪魔の大軍。気がつくと、主戦力である筈の未崎一美が寝返り、ある意味では市本よりも怖いリライアとか言う傭兵と、伝説の吸血鬼ドラキュラ伯爵の暗躍に、頼りの冴香と麗美は戦いの最中に何度も現実世界へ戻された。
幸い、高瀬は太古の科学文明が残した『神と戦う為の兵器類』を発見し、それを使いこなす事に成功するものの、圧倒的な戦力差は埋まらず、それでもどうにか王国の復興を果たした物の、今度は内部紛争に巻き込まれ、市本より手強い老獪な大臣派との政治的戦いの後に、ようやく、王国をフィナ王姫の下に置く事に成功。精鋭部隊を率いて大魔王市本の居城となっている旧アウガスト王宮の侵攻に成功し、今、これまでを振り返って、見上げているのだ。
戦況の打開に成功したのは、太古の文明の遺跡から、高瀬が発掘して使えるように修復した物を主戦力として起用したからなのだ。
例え高瀬の専用装備が優れた物でも、全く違う文明の遺品を高瀬が整備したとしても、その性能には限度があった。
それが通用するとは、整備した高瀬自身も信用していなかったのだが ―― 実際、実戦配備した部隊での成功例は、高瀬率いる勇者隊だけだったのであるが…… ―― 、何とか使えると言う事が判り、ここまで漕ぎ着ける事が出来たと言う訳なのだ。
MISSION.1
「……どう言う事だろう……」
高瀬は王宮を見上げて呟いた。
「何か気になる事でも? 将軍」
高瀬の部隊の隊長が尋ねた。
「確かに、市本の軍団はティアランドの制圧の為に動いていた。しかし、彼等から取り戻した国はどうなっていたか覚えているか? あれが戦災で潰された国に見えたか?」
「…そう言えば…、ですが、捕虜となった人々を使ってあのように整備したのだとすれば、当たり前なのでは……」
「病人や怪我人の全てを完全に手当てしてからか? それに、子供や老人には重労働を科していない。彼等は何を俺達に見せたかったのか………。それに、彼等の侵攻当初に比べて、今回の作戦での悪魔達の抵抗が全くと言って無かったのは何故だろう? これが本当に最後の決戦だと言うのだろうか………??」
そう呟く高瀬をジッと麗美は見詰めていた。
「ウダウダ考えるのは辞めて、サッサと突入しようよ」
いつになく殺気立った声で冴香が高瀬に言ったその時であった。
固く閉ざされていた宮殿の門が、重い音を立てて彼等に向かって開かれたのであった。
その先には、悪の魔王然とした市本が腕組みをして立っていた。その顔には、いつもの凶悪な笑みが浮かんでいた。
「最後の決戦だ!! 三人で未崎とリライアを倒して来い! 待っているぞ」
市本は、漆黒のマントを翻して、重そうな鎧の音を響かせて宮殿の奥に消えた。
「JACK POTだぜ!! ここからは、俺達三人だけで行く」
「し、将軍!!?」
高瀬を勇者として信奉している兵士達が高瀬に詰め寄った。しかし、高瀬に代わって麗美が彼等に言い利かせた。
「最後の決戦だと、敵の総大将が言いました。最後のケジメだけは私達だけで着けたいのです。明日の日の出までに私達の内の誰かが、ここに戻れば、私達の勝ちです。戻らなければ、撤退なり突入なり好きにして下さい」
兵士達の中には、尚も喰い下がろうとした者も居たが、そんな彼等の前で、高瀬が右手を挙げて見せた。
「俺達は必ず勝つッ!!」
一斉に兵士達の歓声が上がった。
そんな高瀬を、麗美は再び静かに見詰めていた。しかし、その口許には穏やかな微笑が刻まれていた。
「何だよ。その笑いは…?」
「ナイショ☆」
麗美はクスッと笑って言った。
全ての悪魔達を撤退させ、三人だけとなった王室で、未崎は市本に尋ねた。
「本当に三人だけで来ると思っているのか?」
市本は、王座に座って孤空を見上げた姿勢のままに、呟くように言った。
「来るさ。あいつはギャグは外しても、期待だけは決して裏切ったりはしない奴だ。そして、お前は冴香との決着を着けねばならない。勝てるか?」
未崎は鼻先でフッと笑って市本を見て言った。
「誰に向かって言っている」
「判らんさ……才能は互角だ。素質もね。肝心なのは、どちらが真剣に魔道を究めたかではなく、どちらに勝つ為の執念があるかの違いだと思っているよ。それに、向こうには高瀬も着いている。あいつの作戦は舐めて掛かると大変な事になる。痛い目に合っているのは一度や二度じゃないだろう?」
市本の言葉に未崎は思わず胸を押さえた。市本の援護の念撃波を打ち抜いた高瀬の光闇破砕砲の直撃で、現実世界へ強制転送させられた記憶が蘇ったのだ。
確かに、あの戦いは高瀬の作戦勝ちであった。市本や未崎の読みの先を高瀬は確実に動いていた。単に運が良かったとだけでは言い切れない、高瀬の軍師としての素質が開花した出来事とでも言えた戦いであった。
「しかし、俺の相手は高瀬じゃない」
そう言った未崎に、それまで黙って彼等の会話を聞いていたリライアが尋ねた。
「それでも負けたらどうする」
「負けたら………」
市本とリライアが同時に未崎を見た。
「負けたら、現実世界に戻って思いっきり後悔する」
MISSION.2
宮殿の中へ駆け込んだ冴香と麗美だったが、高瀬がゆっくりと後に続くのを振り返って見た。
「晴明ッ!!」
「急ぎましょう、高瀬さん!」
しかし、高瀬はゆっくりと首を左右に振って言った。
「急ぐ必要は無いよ。この宮殿の中に敵は三人だけだ。ならば、無用の体力の消費をせず、大胆に行こうよ。俺達が焦るんじゃなくて、あいつ等を焦らしてやるのさ」
麗美は高瀬を見詰めてから、もう一度笑って見せた。
「ここには兵達はいないから、その笑みの意味を教えてくれてもイイと思うんだけどね」
高瀬の言葉に、麗美は頷いて静かに話し始めた。
「この世界に来たばっかりの頃は、高瀬さんがあんまり普通の人だったから、少し不安だったんだけど、やっぱり高瀬さんは選ばれし勇者だったんだって、改めて考えてたんだ………」
「俺は今でも普通の人のつもりだよ。ただ、ホンの少しだけ他人よりも生きる為の運が良かっただけなんだ。選ばれしなんてのは買いかぶり過ぎだよ」
麗美の話を聞いて、高瀬は穏やかに否定した。しかし、麗美は両手を握って力一杯に話を続けた。
「買いかぶってなんかないよ。この戦いに決定打を与えた時の戦いだって、高瀬さんは、あたしや牙香オ姉がどう動くかさえ読んで、市本さんの念撃波のタイミングだって読んで、兄貴を狙い撃ちしたんだもん。あの攻撃は、運だけじゃ絶対に出来ないよ。高瀬さんには、軍師の才能があるんだよ。きっと!」
麗美の拳に冴香が手を置いて、高瀬を見た。高瀬も冴香の考えに気づいたのか、麗美の残る片方に手を置いて、麗美と冴香の二人を交互に見て言った。
「今さら言う事は、ほとんどないけど…、必ず勝とうな!!」
「最初に現実世界に送り返すのは、晴明に取られちゃったけど、最後は必ず勝ち誇った笑いを兄貴に叩きつけてやるんだからネッ!!」
麗美は、冴香はともかく、高瀬にもかなり気合いが入っているのに気づいて、元気良く笑って言った。
「必ず三人で一緒に帰ろうネ!!」
高瀬は麗美に頷いて見せると、冴香の方を向いて話し始めた。
「冴香、対未崎一美の秘策があるんだけど、聞いてくれるかな?」
冒険が始まったばかりの状況なら、冴香は高瀬の話に耳を傾けはしなかったであろう。しかし、今の冴香は、兄を最初に倒した所を実際にその目で見ているので、真剣な眼差しで高瀬を見た。
「今の晴明の言葉だったら信じてあげる」
冴香の台詞に、高瀬は大きく頷いて、右腕から海鳴の盾を外して冴香に渡した。
「未崎の物理干渉呪法に打ち勝つには、今の冴香の実力では不可能に近いんだ。コレで防御だけだったら、互角になれる……」
「悔しいけど、晴明の言う通りだ。…でも、晴明と麗美は二人であのリライアとやり合うつもりなんだろ?」
冴香は高瀬から海鳴の盾を受け取りながらも、高瀬達の心配をした。
「市本さんみたいな化物が二人も出て来ると確かに苦しいんだけど、彼女の攻撃に物理攻撃は少ないんだ。無駄な装備で動きを鈍くするくらいだったら、それが最も必要な人物が装備するべきだと思う」
「でも……」
「心配は要らないよ。リライアと言う人は、市本さんと違って、プライドが高い人だと思うから、俺達は二人を相手にする必要は無いと思う。彼女は市本さんみたいに何をするか判らない人じゃなくて、何をするか敵に判らせておいて、その通りにやって見せる事で相手の出鼻を挫くタイプなんだ。それだけの実力がある人を相手にして、俺達に出来る事は全力を尽くす事だと思う」
冴香は高瀬の顔を見て頷いて言った。
「判った。有り難く使わせて貰うよ」
「それと、もう一つ…」
高瀬は少しだけ間を置いた。これは、老獪な大臣達との政治的戦略で高瀬が学習した技であった。
「この盾を渡しといて、この作戦を言うのも何なんだけど、未崎は冴香が必ず攻撃魔術で攻めて来ると予測していると思うんだ。だから………」
その作戦を聞いた瞬間、冴香の顔が嬉しそうに輝いた。
「それ、絶対に効くよ!! 兄貴だったら絶対に引っ掛かる。海鳴の盾が効いてるから、兄貴は絶対に、あたしがそんな攻撃を仕掛けるなんて思わないよ。晴明って悪知恵が兄貴より働くんだ!」
「あんまり嬉しくねーぞ…その言い方……」
「思いっきり誉めてんだよ。これでも」
MISSION.3
未崎の思いっきり情けない回答に、市本は苦笑して提案を出した。
「それじゃ、賭けにならない。で、俺は冴香の勝ちに賭けてやろう」
「俺が勝ったらどうするんだよ?」
市本は未崎の不満気な問い掛けに、再度苦笑して答えた。
「俺がこれまでに収録したお前の不用意な発言のマスターテープの全てでどうかな?」
「乗った!! 本当に全部くれるんだろうな?」
「俺は悪意に満ちた悪戯は大好きだが、嘘は余りつかない方だと、自分を評価している。本当にお前が冴香に勝った場合は間違いなく全てのマスターテープを大阿蘇に送ってやるさ!!」
「マンションで結構だよ」
未崎は、市本の思惑に気づいて、ジト目で市本を見ながら言った。それに対して、市本は「チッ!」と舌打ちした。
リライアは、そんな二人の遣り取りを見て、窓から外を見て深い溜め息をついていた。
「着いて行けん……」
未崎が指定された部屋へ向かったのを見届けてから、リライアは、市本の方を見て苦笑気味に言った。
「大したタマだな。未崎に賭けの対象を持ち出す事でプレッシャーを掛けたと言う訳か……」
「さてね」
市本はサラリと受け流した。
「あの高瀬とか言う奴…。貴様が待ったと言うだけの人間なのかどうか、見届けさせて貰うが……?」
「殺せるなら殺しても構わないよ」
「本気か?」
「おそらく、お前さんは負ける事は絶対に無いが、満足出来ない勝ち方になる事だけは、確実だと言って置く」
市本の言葉に、リライアは嘲笑の薄笑いを口許に浮かべて、静かに言った。
「バカな事を……。戦いに満足も不満もない。勝つか負けるかだけの事だ」
「長い事戦場に身を置いていると、そう言う事が結構あるモノなのさ。満足出来ない勝ち方と言うのも、一度は必ず経験して置いた方がイイ。幾らお前さんでも、高瀬だけは一撃で倒せない」
リライアの口許からは、薄笑いは消えていない。
「ならば、高瀬を一撃で倒して見せよう」
そう言ったリライアは、市本に背を向けた。
「GOOD LUCK!!」
市本はリライアの背に向かって言った。
リライアは、王室の出入り口の所で市本を振り返って言った。
「次の戦場では、是非敵同志でありたいモノだな」
「そいつは困ったな。俺は当分、ヨグ・ソトトを敵に回すつもりは無いんだがな」
市本は然程困った風でもなく、あっさりと言った。
「ならば、次に敵として出会ったならば、私を殺して欲しい。私は生きるのに飽きているのだから……」
「ますます困ったな。俺はフェミニストなんだ」
そう言いながらも、市本の口許は左右が上方に曲がって笑みの形になっていた。
「約束したぞ」
そう言って、再び市本に背をむけたリライアに、市本は言葉を投げかけた。
「高瀬との戦いが、満足出来る終わり方だったら、本気で考える事にしよう」
「私が本気で生命の遣り取りが出釆る相手は貴様だけなのだ」
そう言ったリライアの背中に、高瀬への殺意が一瞬走ったのを市本はしっかりと視ていた。
MISSION.4
高瀬達が未崎の待つ階層に到着したのは、市本と未崎が別れてから、優に一時間が経過していた。
未崎は、上の階層に通じる階段の前で、腕組みをして目を閉じ、それなりのポーズを着けていた。
「待った……」
そう言った未崎の背後で、炎が舞い上がった。迫力の舞台演出であった。
「今釆たトコ☆」
未崎が高瀬達が到着するまでの間に考えていた、最も効果のある台詞が、冴香のこの一言で完全に無駄になった。
「違うだろがッ!! てめー等がノッタラクタラして来る間に俺が考えた台詞が次に続くんだよッ! ったく、一時間も掛けて釆やがって……。俺はこの台詞を言う為にこの時を待っていたと言うのに…」
「言えば」
冴香のそっけない応えに、未崎は恨みがましい目付きで高瀬を見た。
「判りましたよ………」
高瀬は大きく深呼吸をして気分転換をはかった。
「シーン『MISSION.4』、未崎さんの背後に炎が舞い上がった直後から行くからね! 3、2、1、キュー」
麗美がカチンコを鳴らした。
冴香が沈欝な表情で言った。
「あ…、兄貴……」
未崎の目がパン・アップされた。
「あまりにも長く待ちかねたぞ。貴様等を打ち滅ぼすこの瞬間をッ!!」
四人の間に見えない緊張が走った。
「愚劣極まる貴様達には勿体無いが、今こそ見せてやろう。冴香、貴様が超えようとしているこの兄の真の実力をッ!!」
未崎が冴香に向かって攻撃すべく、呪神の杖を構えて呪文を唱えようとした瞬間、冴香は海鳴の盾を榛えて、未崎に見えないように素早く何かを操作した。
「貴様ッ!!」
自分の最初の攻撃が、物理干渉呪法である事を読まれた未崎の叫びであった。
「来たれサラマンダー!!」
冴香の召還呪文の中でも、最強の精霊の召還であった。
前方に突き出された冴香の手から、巨大な炎の精霊が出現して、未崎に突進した。
しかし、未崎には余裕があった。
「無駄、無駄、無駄アッ!! サラマンダー如きに破られるような対魔術障壁は、俺は張らないッ!」
未崎の声が示す通り、冴香が召還したサラマンダーは、未崎の直前で消滅させられた。が…、未崎は頭に激しい衝撃を感じた。
「が……!!?」
未崎の最後の意識に見えたのは、冴香が高笑いしながら、シルフを召還して、その風の精霊力を利用した攻撃であるカマイタチで自分を攻撃するように命令した所までであった。
未崎は自分の部屋で、ガバッと飛び起きると、真っ直ぐ市本の事務所に向かった。
自分がなぜ負けたのかが、納得出来なかったからなのだ。
「ぶいッ!!」
冴香は、消滅した未崎の体があった所で、高瀬と麗美に向かってXサインを出した。
「今の、シーラさん、アップで録画してくれたかな?」
冴香は高瀬に尋ねた。
「未崎さんの負け方としては、地上最低の負け方だったから、肉体が消滅して、冴香がアップでXサイン出すまでをちゃんと残してくれてるよ。……きっと」
「盲点だったモンなーッ。対魔術障壁が物理攻撃に弱いって言うのは……。晴明が気づかなかったら、あたし、勝てなかったかも知れないよ」
「俺も…、大地の鎧と海鳴の盾の特性が同じだったら、気づかなかったと思うよ。…でも、未崎さん、再生画像見たら、落ち込むだろうなぁ……」
未崎の到着が予測された事のように、シーラはコーヒーを用意して、微笑んで言った。
「負けた所の再生準備、整ってますわよ。直ぐに見ます?」
未崎は血走った目で言った。
「是非!!」
サラマンダーが未崎の魔術障壁で消滅した所から、再生画像が始まっているのは、シーラの心憎いばかりの配慮であった。
「サラマンダー出現から消滅までが、計算された幻影だったんですね。確かに一美さんの対魔術障壁は完璧でしたが、冴香さんが使用した幻影装置は、あの世界の遺跡にあった物を、高瀬さんが、修理した物で、魔法攻撃では無かったんです。そして、サラマンダーの幻影の影に隠れて飛んで来た、冴香さんが投げた石が未崎さんに激突して……」
未崎は苦い顔をして自分が切り裂かれるシーンを見ていたが、冴香のXサインのアップシーンになってから、バンザイをして叫んだ。
「負あ〜けぇ〜たぁ〜ッ!」
「コーヒー、入りましたけど……」
「帰ります。現状で、未崎一族最強の魔道師が、石コロをぶつけられて負けるなんて情けない負け方したんですよ…」
未崎は、停止画像になっている冴香のXサインを見ながら、かなり落ち込んだ様子で、トボトボと市本の事務所を後にした。
―― 敗北記念に、新記録に挑戦するぞッ!!
何の新記録かは、判ると思うので、読者の皆さんの持てる限りの煩悩で想像して戴きたい。
とにかく、未崎一美の出番はこれで終わりなのだ。
MISSION.5
玉座に座り、目を閉じて未崎の戦いを知覚していた市本は、意識を戻して「ぶっ!」と吹いてしまった。
「まあ、こーゆー負け方もあるよな……」
市本は、装備していた鎧を全て脱ぎ捨て、初めてこの世界に出現した時と同様のジーパンにTシャツの姿になると、ジーパンの後ろのポケットから、人形 ―― この世界での戦いの合間に作っていた手作りの人形 ―― を取り出して玉座に座らせた。
「神に民衆の必要性を知らしめるとか、民衆に神の無力を教えるとかは、本当はどうでも良かったんだ。だが、世界一つを大きな戦いに巻き込むには、何かしらの理由が必要だっただけの事さ……。実際、未崎もリライアも、ティアランドの人々も、俺の予定の上をしっかりと歩いてくれた。ナイアルラトホテップも、無能な神を演じてくれた。全てが俺の思った通りに動いた。……だが、高瀬よ、これが最初の難関だ。リライアに戦いが勝つか負けるかなんて単純な物なんかじゃないって、しっかりと教えてやってくれよ」
市本は、背後に気配を感じて、ゆっくりと振り返ると、そこにレイナが立っているのを認めた。
「迎えに来たぞ」
市本は、レイナを見てゆっくりと頷いて、もう一度玉座を見た。
「師匠…、この冒険で、高瀬は成長したと思うか?」
レイナは市本の肩に手を置いて静かに言った。
「かなり成長したとは思うが……、現実世界に戻れば、元のように優柔不断の根性無しに戻るだろうな。だが、戦場では出来る限り出会いたくはない相手には変わらないさ…」
市本はレイナの答えに満足したように、もう一度頷いて言った。
「先に帰ろう」
その頃、フィナ王姫の作成した王宮内の地図に従って移動する高瀬達は、戦いの場へ向かうリライアとハチ合わせになってしまっていた。
「着いて来い。戦いの場は直ぐだ」
相変わらずリライアは、必要最小限の言葉しか話さなかった。
「疑問があるんですが」
「………」
リライアは何も言わなかったが、その背中が高瀬の疑問を促しているように感じられたので、高瀬は話を続けた。
「貴女のような一流の戦士が、どうして市本さんの側に着いたのですか? 貴女程の実力ならば、迷わず市本さんの敵になる事を選ぶ筈です。…少なくとも、俺はそう思っていました」
「……青い事を言う。私は傭兵なのだよ。私は私の最低限度の価値基準によって、戦場を選ぶ事しか出来はしない。今回はたまたま市本和也が作成した戦場を選択しただけに過ぎない。それだけの事だ………」
リライアは高瀬の質問に、否定的な答えを返したが、本音を言えば、正に高瀬の問い掛けは、正論でもあった。彼女は口許に薄く笑みを浮かべて、高瀬に関してのこれまでの認識を改める事にした。
少し広い部屋に出た所で、リライアの歩みが止まった。
「私からも質問がある」
「俺に答えられる範囲でしたら……」
「戦いに、勝ち負け以外の答えが見つけられる物なのだろうか?」
高瀬は、リライアの質問の意図が判らずに、少し戸惑ってしまった。
「……俺には何とも言えません。しかし、これまでの俺の経験から言えば、戦いの結果は、戦った本人同士しか判らない事が、数多くあると思います………」
そう言って、高瀬は冴香を見た。
「彼女は、兄に最終的に勝つ事で、かなりの満足を得たと思われます。けど、それが……、その戦い方が魔道士として満足の行く勝利だったのか? と言われたら、俺の価値感から言えば『NO』ですが、彼女の価値感から言えば『YES』でしょう。戦いの後に本当の意味を見出す者が居るとしたら、それは、戦いを実際に体験した者だけであり、どのような結果になろうとも、生き延びた者だけが、本当の戦いの意味を知る者だと、俺は思っています」
リライアは、高瀬の言葉の意味を噛みしめるように、いちいち頷いて聞いていた。
冴香と麗美は、高瀬の言葉の意味が当たり前であるかのように腕組みをして、高瀬の後ろに控えていた。
リライアは、片足を引いて軽く構えると、高瀬を見て言った。
「始めようか。破壊神に選ばれし勇者『高瀬』よ……」
MISSION.6
現実世界の事務所に戻った市本は、周囲を見回して、シーラに尋ねた。
「未崎は?」
「帰りました」
忙しく、高瀬とリライアの戦闘データの取り込みと、同時画像出力の為の準備を整えながら、シーラは答えた。
市本は未崎が負けた時の状況を思い出して、思わず苦笑して呟いた。
「石ぶつけられて負けたんじゃあな……」
「過程がどうであろうとも、負けは負けだと言っていましたわ」
シーラが市本にそう言った時、リライアが片足を引いて構えた。
「珍しいな。リライアが構えるなんて…」
レイナが画面を見て、真剣な面持ちで言った。
「対処のしようが無い場合は、構えから攻撃に入るのがセオリーだ。何だかんだと言っても、高瀬との戦いに真剣に取り組むつもりなんだろうな」
画面を見ている市本の言葉を聞いて、レイナは市本を見て言った。
「和也との対戦の権利を得る為だ。真剣にもなろうさ……。尤も、真剣になればなる程に、奴の運は強力に作用して、奴を守る事になる。相手が真面目で強い程に奴の運は広範囲に影響を及ぼす。全く、恐ろしい奴だよ。高瀬晴明と言う人間は………」
リライアが構えたのに対して、冴香と麗美も高瀬の前に出ようとしたが、高瀬が彼女達を押さえた。
「彼女は一対一をお望みのようだ。頼むから、引いてくれないか?」
「三対一でも構いはしないが」
高瀬は、リライアの台詞に、少し薄笑いを浮かべて言った。高瀬がこのような態度を取るのは、非常に珍しい事である事を注記して置かねばならない。
「俺も、俺の能力と言うのに少しは理解して来ているつもりなんだ。三対一だったら、俺の能力は分散されて、充分な結果を望めなくなる」
「ほう……。己れを少しは理解していると……」
リライアの目が嬉しそうに輝いた。
「認めたくはないけど、このゲームでは、俺も市本さんや貴女のような化物になれると言う事だけですけどね。…おそらくは、物事の結果を導き出すフラグの計算が非常に甘くなっているのでしょう」
麗美は、この冒険すらも、高瀬に取っては、未崎が作成したヴァーチャル・リアリティ・ゲームのイベントの一つに過ぎないと言う事に気づいた。
「クリアする立場にある者には、非常に嬉しいバグです。特に、貴女のような超一流の戦士として設定された方を敵とする場合は……」
高瀬は火炎剣を抜き、風雷の兜のシールドを下ろした。
「高瀬晴明、行っきまぁ〜す!」
高瀬の構えは、地擦り下段。
三年に及ぶ冒険生活の内、その半分以上を戦場で過ごせば、幾ら戦闘音痴の高瀬でも、ソコソコ隙の無い構えくらいは出来るようになっていた。
対するリライアは動かなかった。
否、リライアはすでに仕掛けていたのであった。しかし、リライアの攻撃が高瀬に命中しなかっただけなのであった。
精確にして強力無比なリライアの攻撃が命中しないと言う事実がいかに恐ろしい事であるかは、美原会長の『幻夢境戦記』を読んだ読者の皆さんには、御承知の事と思われる。しかも、全ての攻撃が高瀬を殺すつもりで放たれた物であったのだ。
高瀬は、構えを上段に変えて言った。
「いかに凄い攻撃でも、当たらなければ、無意味です」
高瀬は火炎剣をプラズマ・レーザー・プレードに変え、一気に振り下ろした。
リライアは、その間合いギリギリに後ろにかわした。ところが、剣はリライアの左肩を切り落としていた。
「長さが変えられるんだったな」
そう言ったリライアの五体は完全に修復されていた。
冴香と麗美が同時に息を呑んだ。
「攻撃は行なわれなかった方を選択したと言う訳ですか…」
高瀬の場合は、高瀬の運が彼を傷付ける方向には、決して働かず、リライアは過去から現在に至る幾つかの未来の内の一つを選択出来るのであった。
どちらが有利であるかは、少し考えるとすぐに判るであろう。
すなわち、リライアが選択する未来の全てが、リライアが傷付く未来であった場合は、リライアには、最も小さい傷を負う未来しか選択出来ない物の、高瀬の場合は、傷を負う未来が最初から存在していないのであった。
リライアの額に汗がにじんだ。
この状況の場合、市本や未崎ならば、幾らでも突破する手段があるが、リライアは余りにも真面目過ぎるので、打開策が殆ど皆無だった。
MISSION.7
一方、事務所のディスプレイで、麗美の視覚と聴覚より収集した、高瀬とリライアの戦いの様子を見ていた市本は、高瀬の予想以上の成長に驚いていた。
「俺の予想では、後二、三回の冒険を経験して、初めてあいつは自分の能力に気づく筈だったんだぞ!!」
ナラカがコンピュータ操作をするシーラに代わり、コーヒーを入れて持って来て言った。
「自分が設定されたゲームのキャラクターだと認識しているだけです。予定は何も狂ってはいません。もし、彼が本当に自分の能力だと認識しているのでしたら、三対一の戦いを断わったりはしなかったでしょう。どのような状況で、どのように働くかが判ったところで、その能力を自在に扱えねば、意味の無い事ではありませんか?」
ナラカが入れてくれたコーヒーを一口飲んだ市本は、彼女を見上げて言った。
「それだけでも、充分過ぎる程の成長なんだよ。あのリライアが手詰りになってしまっている。こりゃ、父上の能力を使うかも知れんぞ。端末を俺に回せ!! 高瀬からの視覚データも取る必要がある!」
間も無く、テュートがコネクタを市本に渡した。
市本は暫く、それ見詰めてからテュートに尋ねた。
「これは、どう言うギャグかな?」
「端末」
市本とテュートは暫く互いを見詰め合っていたが、突然に同時に笑い出した。そして、笑うのを先に止めたのは市本の方であった。
「お前、向こう半年の間、事務所立ち入り禁止な!」
市本はにこやかに笑って言った。
「なんでーッ!?」
と、叫ぶテュートの両方の肩を、レイナとナラカがガッチリと押さえて事務所から引き摺り出して行った。
チラリとテュートを見たシーラは、そのまま作業を続行する事にした。
二メートルの長さで固定したプラズマの剣を構えた高瀬の周囲がプラズマの障壁に包まれた。光闇破砕砲発射の前触れであった。この障壁は、市本の五指念導弾を除く念攻撃の全てを遮断した実績を持つ強力なエネルギーの流れであった。
対するリライアの目が銀色の輝きを持った。
それは、最大の威力を持つ攻撃を仕掛ける高瀬に対して、彼女もまた、最高の技で持って対応しようとする礼儀のような物であった。
先に動いたのは、リライアの虹色の触手であった。
しかし、人間を超えた大賢者バルザイにすら反撃の手段を与えずに消滅に至らせたその触手が、高瀬の装備の障壁を貫通出来ないでいた。
「こ…、これは…」
リライアの呟きに高瀬が答えた。
「貴女との戦いで、壊すつもりでしたから、この一週間ずっとエネルギー・チャージをして来たんですよ」
僅か30秒のチャージで、市本の念撃波を超えるエネルギーを蓄積出来る装備が、一週間もかけて蓄積したエネルギーとは、一体、どれ程の物なのか!!?
金色に輝くプラズマの鎧を身に纏った高瀬は、リライアに向かって走り込んで行った。瞬間的に死角に移動する市本の攻撃方法に慣れた高瀬は、リライアが何処に立っていた事になっているのかが予測出来ていた。しかし、リライアは動かなかった。彼女もまた、高瀬がどちらを攻撃するのかを読んでいたのであった。
誰も居ない所へ切り込んだ高瀬であったが、剣の鋩がリライアの方を向いているのに、彼女は気づいただろうか?
「フル・ファイアッ!!!」
高瀬の声と同時に剣が伸びて、リライアの腹部を貫いた。同時に、剣全体が青白い輝きと暗黒の輝きの渦を形成して、高瀬の全身を覆っているプラズマの鎧をも巻き込んで、リライアに流れ込んで行った。
高瀬の背中の光と闇の翼が爆発した。許容量を超えたエネルギーの使用によってオーバーロードしてしまった為であった。
全身から煙を立ち昇らせて高瀬が膝を突くのと、リライアの全身が消滅するのとが、同時に行なわれた。
MISSION.8
「や……、やったか……!?」
火炎剣を杖にして立ち上がった高瀬に麗美の声が飛んだ。
「まだだよッ!!」
高瀬は、ぎぎぎぃっと首を後ろに巡らせると、リライアが立っていた地点の空中 ―― 即ち、リライアの首筋の下辺りがそこにあったであろう空間 ―― に、鈍い銀色に輝く二つの器官が虹色の輝きを放ちながら浮いているのが目に入った。
見る間に、器官から神経節が再生し、骨格、内蔵、筋肉とあたかも人体模型が作成されるようにリライアが再生され始めた。しかも、それは生きて脈動しているのであった。
吐き気以前の問題であった。
三人は、声も無く、リライアが再生される様子を立ち竦んで見ていた。
「良くやった……と、誉めてはおく。……だが、私は死ぬ事を許されてはいないのだ」
完全に修復されたリライアが、高瀬の前で俯き気味に呟いた。美の女神ですらも、彼女の前では、その美の意味すら失ってしまう程に完成された美しい裸体のリライアを見て、高瀬の視線は男の本能に従って、彼女の顔から、胸、そして……。
ぶひょおッ!!!!
高瀬は、出血した。鼻から大量に。
「やった………!!」
冴香が頭に手を当てて言った。
麗美は他人のフリを装っていた。
「おい……」
なぜ、高瀬がそうなったのかが理解出来ないリライアが、高瀬に近づいた途端、高瀬は自分が作った血の池地獄に仰向けに倒れた。大量の失血により、貧血を起こしたのであった。
「おい!!」
リライアは、高瀬が出した大量の血に、その美しい身体が汚れるのも構わずに、高瀬の胸倉を掴んで起こした。
「私は納得出来んぞ!! 貴様も選ばれし勇者ならば、それらしく、戦って倒れろ!」
リライアは、激しく高瀬を揺すったが、幸せな顔で失神した高瀬の頭は、カッタンカックンと虚しく揺れただけであった。
暫く高瀬の胸倉を掴んでいたリライアは、高瀬から手を難した。高瀬の頭が、ゴンと床にぶつかる音がした。
立ち上がったリライアの全身は、高瀬からの返り血を浴びて、壮絶な美をかもし出していた。
冴香も麗美も、彼女の気持ちが判るだけに、何も言えなかった。なぜなら、高瀬の敗因は、リライアの攻撃による物ではなく、悲しい男の本能による自滅だったからであった。
「私は…、去る………」
そう言ったリライアが門を創造して、ティアランドを立ち去った後も、高瀬の鼻からは、ときおり、血がどぴゅッと吹き出していた。ナカナカにシュールな光景であった。
MISSION.9
王室に飛び込んだ高瀬、冴香、麗美の三人は、そこに無造作に脱ぎ捨てられた鎧と、玉座に座らせられた市本そっくりの人形を発見した。
「これが最後の敵だっつーたら笑うぞ!」
高瀬は人形を取り上げて呟くように言った。
その瞬間であった。高瀬の手の中の人形が、念撃波の発射体制に入ったのであった。
「何ッ!!」
高瀬が人形を投げ捨てるのと、人形が念撃波を発射するのとが、同時に行なわれた。
高瀬が被っていた風雷の兜が、半壊して宙に舞った。
「晴明ッ!!」
「高瀬さんッ!!」
冴香と麗美が同時に叫んで高瀬に駆け寄った。
「生きてる」
高瀬は何とか応えて見せた。高瀬の無事を確認した冴香は、高速呪文を唱え、両手を突き出して叫んだ。
「雷撃召来ッ!!」
しかし、冴香が呼び出した雷撃は、市本人形の手前で空しく消滅してしまった。
「人形のクセにッ!!」
麗美の下段蹴りが、市本人形に打ち込まれたが、それは、しっかりとガードして、麗美の伸びきった足首の筋を足場にして大きくジャンプした。
思わず麗美は、足首を押さえて転げ回った。
空中でもう一度、念撃波の発射体制に入った人形の真正面に、冴香は回り込んで、海鳴の盾を構えた。発射された瞬間、海鳴の盾は砕け散り、冴香は高瀬の近くまで吹き飛ばされた。
市本人形が着地する寸前を狙って、高瀬が火炎剣で斬り込んだ。しかし、市本人形は、空中で向きを変え、火炎剣の峰を蹴って、高瀬に襲いかかった。
市本人形の蹴りの反動を利用し、これに腰の回転力を加えた高瀬は、火炎剣を大きく振りかぶって市本人形をたたっ斬った。火炎剣が真っ二つに折れると同時に、市本人形も上半身と下半身に分断された。
肩で息をしながら、高瀬は冴香と麗美を見て言った。
「……被害状況を確認してくれないか? 俺は、大地の鎧を除いて、全ての装備を失った………」
「晴明から借りた海鳴の盾破損。麗美は足首をやられたみたい。ひょっとしたら、筋が切られてるのかも知れないわ」
冴香が自分と麗美の状態を報告した。麗美は、痛みで声が出せない状態なのであった。
「リライアで終わりと思っていた俺達が甘かったと言う訳なのは判るけど……、たかが人形にここまでやられたと言うのは、思いっきり腹が立つなあ………」
高瀬は、その場に座り込んで言った。冴香が麗美の足首に回復呪法をかけてやっていた。
高瀬は市本人形の下半身に折れた剣をぶつけた。すると、下半身は、ボン! と音を立てて破裂し、多数の紙吹雪を周囲に撒き散らした。同時に、上半身が両手を叩き出した。
「あんたの勝ちだ。おめでとう☆だから、あっしはゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ………」
高瀬と冴香は同時に、疲れたように言った。
「つまんねーオチ……」
高瀬は、今はひたすら「ゴメンナサイ」のフレーズを繰り返す市本人形を見ながら、大地の鎧を脱ぎ捨てた。
「とにかく、凱旋と言う訳だが…、…酷い有様になったなあ……」
「でも、姉貴は兄貴に勝つ事が出来たし、高瀬さんはリライアさんに勝って、人形とは言え、市本さんにも勝つ事が出来たんだもの。これから先は、ティアランドの人々の問題だし、あたし達の役目は終わったんだと思うよ」
高瀬の言葉を聞いて、麗美が高瀬に向かって言った。
市本人形にやられた所がまだ少し痛むのか、片足を引き摺るようにして、麗美は立ち上がった。
高瀬も立ち上がって、冴香と麗美を見た。
「…本当に長い戦いだったけど、ありがとう。そして…、一つだけ言っておく事がある」
冴香と麗美が同時に高瀬を見た。
「俺は…、二度と、絶対に、こんな腐れ果てたゲームには付き合わないからなッ!!」
冴香が服の汚れを払い落としながら立ち上がって、高瀬に言った。
「そりゃ、無理だ」
「高瀬さんが、市本さんに逆らえる訳ないもんネ☆」
冴香の言葉を麗美が継いだ。
「不幸だ…。俺は………」
「ホラ、帰るよ」
高瀬は、冴香に引き摺られるように城の出口ヘ向かった。
破壊神話第二章 ティアランド編 最終話 完結