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  Beat 5 《Jap The Ripper》

 退屈な……いや騒がしい入学式が終わると、麗実はキャンバスへと足を運んだ、が、そこは戦場と化していた。体格の良いランニング姿の女生徒が麗美の肩をガッシリと掴んだ。

『あんた良い体格してるね。陸上部に入んない?』

『いや、彼女の体格は剣道部向きよ!』

『いやいや、この筋肉の付き方は茶道部向きだわ!』

あっという間に、麗美は部活勧誘員達に囲まれてしまった。

 

  Beat 5 《もうかりまっか》

 勧誘員達の追撃を何とか振りきり、ようやく腰が落ち着ける場所、第一学生ホールのテーブルの一つに麗美は腰を下ろした。巨大な広さを誇るそのホールには、何百もの椅子とテーブルが所狭しと並べられ、壁をびっしりと囲むように、様々な自動販売機が設置してある。ジュース・アイスクリーム・カップラーメン・パン・菓子類・雑誌(マンガ)……何でもある。一見するとそれ等の自販機と区別がつかないが、煙草!・酒類!・ファミリープラン?等のあからさまに怪しい非公認と思われる自動販売機も置いてある。これ等には車輪のようなものが付いており、いつでも移動可能のようだ。しかも、このホールは二十四時間開放されているらしい。一体何のために……答えは明白だった。部室を持たない準クラブ、すなわち愛好会の絶好の寝ぐらとなっているのだ。

『お疲れ様。どうぞ☆』

『あっ、どうも有難う!』

 麗美は、反射的に差し出されたジュースの紙コップを手に取ってしまったが、はっ、として右隣に腰を下ろした人物の顔を見た。大きな眼鏡、どんぐり眼、鼻先のそばかす。人種、恐らくフランス系。一見してロリロリ、否、牧歌的な印象を受ける少女だ。

『新入生だよね?』

『ええ、まあ。』

 麗美は曖昧な返事をしたが、学年を偽るのは不可能に等しい。学年ごとに制服のリボン(ネクタイ)の色が違うからだ。

『うんうん。あなた、怪奇現象とか超能力とかって信じちゃうほう?』

 いきなり何の話だろう。が、質問の内容に対する、麗美の答えは決まっていた。

『ええ、信じちゃうな。』

『本当! 私、フリーシア、オカルト研究会の部長やってま〜す☆』

 気が付けば、空いていたテーブルの椅子は全て人で埋まっている。どうやらこのテーブルは、オカルト研究会の縄張りだったらしい。

『えっとねぇ、この背の高い人が、エリコトル君。』

 紹介された背の高い男は、麗美の方を見てニッコリ笑った。濃灰色の髪と瞳、身長180cm以上はあると思われる痩せた長身の体格。人種、恐らくロシア系。

『そしてこっちが、ジャイブ君。』

 彼は、よお、といった感じで麗美の方に軽く手を上げた。一見して軽い感じだ。人種、間違いなくアメリカン。

『そうそう、ジャイブ君はね、ここ(蟠桃学園)に来る前は、イギリス軍特殊空挺部隊SASにいたんだよ。』

 何でそんな扱が蛾桃学園なんかに通ってるんだ。麗美は頭がクラクラしてきた。ここはもしかしたら、とんでもない学園なのかも知れない。

『という訳でぇ、私達の部員って3人しかいないのよ! 超スーパー弱小準クラブなの! お願い、入って〜!』

 うるうるした瞳で懇願された麗美は、狼狽を通り越して呆然としてしまい、思わず、

『じ、じゃあ、入っちゃおうかな……。』

などと口走ってしまった。父親譲りの楽天的な性格が裏目に出た。オカルト研究会のメンバーは大騒ぎとなった。さっそく新入部員歓迎会という事で麗美は学生ホールから引っ張り出された。

『やはり、ここはボルシチの旨いロシア料理の店で親睦を深め合うという事で……。』

『何いってるの、フランス料理に決まってるでしょう!』

『金(部費)ないんだから、ハンバーガーショップが最適だ。』

 各国の代表が、お国の料理自慢を展開していると、麗美の眼前に、どぎつく赤い紙切れが差し出された。

『やあ、ペイビー、新入生だね。我がヘビメタ研が誇るスーパーバンド《カタストロフィー》のライブ、今夜8時から第二。学生ホール貸し切りでぶちかますぜ! 良かったら観に来てくれよな。』

 安っばいエレキギターを、肩からだらしなく垂らした鶏冠頭のドハデな男は、そうのたまうと、半ば強引にチケットらしい赤い紙切れを麗美の手の中に押し込んで、千鳥足、失礼、軽快なステップで麗美の前から去っていった。一部始終を見ていたフリーシアが、領きながら麗美の近くへ歩み寄る。

『うんうん。それは最近噂のヘビメタバンド《カタストロフィー》のチケットだね。彼等はこの学園だけじゃなくライブハウスなんかでもライブをやってる人気バンドよ。ヴォーカルのヒロって呼ばれる男の子が凄く人気あるのよ。でもね、このバンドのライブには、色々と怪しげな噂も多いのよ。ライブ中に怪しげな化物の幻影を見たとか、毎回必ず数人の客が、ヒロの歌声を聞いて発狂して病院送りになるとかね。でもここにチケットがある。これは調査するチャンスだね。』

『恐らく集団効果のある、LSD系の新手のドラッグじゃないかな。セックス・ドラッグ・ロックンロ−ル(若者が快楽を感じる3大オブジェの例え)は何時の世も変わらないさ。』

 ロシアの血を引くエリコトルが横槍を入れた。LSDは、俗称アシッドとも呼ばれる幻聴・幻覚を引き起こすドラッグである。精神不安定状態の時に使用すると死にたくなったりするらしい。

『ドラッグの線は検討済みだ。学生生活治安部が、その線で《カタストロフィー》のライブを抜き打ち捜査したらしい。しかし、ドラックを使用した形跡はなかったらしい。』

陽気なアメリカンが勝ち誇ったように答えた。思わぬ方向に、しかも急激に話が流れて行くのを麗美は感じた。その躊躇振りをどう勘違いしたのか、牧場の少女フリーシアはあっけらかんと答えた。

『ノン・プロプレム! 私も行くから大丈夫よ。そんながさつなチケットなんて、簡単に偽造出来ちゃうもんね☆』

『そんな事より、歓迎会、歓迎会!』

『夜までまだ十分時間がありますからね。』

『で、結局何処行く?』

『本人の希望を尊重しましょう。』

余りの目まぐるしい話の展開に、麗美はただ目をパチクリして事の成り行きを見守る他なかった。

『麗美ちゃん何食べたい?』

突如、ソプラノボイスのフリーシアが麗美に問い掛けた。この問いに、麗美は間発入れず答えた。

『中華料理。』

 

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