| BACK | NEXT |
 
 

  Beat 11 《WILD ROAD》

 ジャイブは、黄金のナイフで2匹目のインプに止めを刺した。その刹那、爆音と共に炎の塊がホールの中に突進してきた!
 後退りしていた3匹目のインプに炎が掠った瞬間、あっという間にインプは煙と化した。火だるまはのたうち回り、アップライトやアンプのコードを引きちぎった。その一つが暗幕に引火し、暗幕は炎を上げて燃え始めた。やがて、炎の塊は、馬のいな鳴きに似た絶叫を上げて消滅した。魔界へ逃げ帰ったのだ。あれだけの手傷を負えば、暫くは何者の召喚にも答えないだろう。しかし、事態は一つも好転していなかった。暗幕に燃え移った炎が、どんどん燃え広がっているのだ。更に、アムドゥシアスの消滅により、今まで倒れていた女生徒達が正気を取り戻し、第二学生ホールは大パニックとなった。

『えっ? なに?』

『ちょっと、火事よ!』

『いゃ〜ん! 何で私裸なの!』

飛び交う黄色い悲鳴を掻い潜り、ジャイブは第二学生ホールから脱出した。逃げる途中、床に突き刺さっていたもう一本の黄金のナイフも回収した。

『やれやれ、んっ? あれは学生治安部と夜間警備研究会、及び 学生新聞部の適中だな。隠された真実は、オカルト研のみが知るってか。』

ジャイブは懐から缶コーヒーを取り出し、ぐっと飲み干した。

『んーっ、一仕事した後は、アメリカンコーヒーに限るね。さて、麗美を回収して、部長を追わなくっちゃな。しかし、未崎麗美、部長が見抜いた通り、唯の新入生じゃなかったね。』

そんな一言で、全てを納得してしまうオカルト研の連中とは一体……。

 

  Beat 12 《破れぬ夢を引きずって》

 カツカツカツ。鎮馬由香里は月夜の校舎を走っていた。由香里の頭には、様々な考えが渦巻いていた。由香里は制服の胸元をはだけて左乳房を出した。やはり、あるべきはずのペンタグラムの刻印が消えている。という事は、アムドゥシアスは魔界へ追い返されたという事だ。奴等は一体何者だ……。まあいい、奴等の顔は覚えた。次の機会に100倍にして借りを返してやる。我が魔力と財力を持ってすればた易い事だ。

『残念だが、次はねえぜ。』

眼前に迫っていた裏校門に人影が立ち塞がっている。筋肉質の体格に白髪の青年だ。由香里の瞳は驚愕に見開かれた。

『あ、あの、変な連中に追われて……。ここまで逃げて来たんです。』

由香里の迫真の演技も、やはり相手には通用しないようだ。

『気持ち悪いから女言葉はよせ。魔導師キルポルト。ヒロからシズマ重工の御令嬢の肉体に乗り換えたのか?』

暫く沈黙していた由香里だったが、くぐもった笑い声と共に目の前の男を睨んだ。

『ヒロは移動手段に過ぎん。ヒロとこの女が繋がっているとは幸運だったよ。この女、何かと利用価値が高い。どうだ? 私と手を組まないか……いや、徒党を組むのはお前は嫌いだったな。では、私と取り引きをしよう、バウンティーハンター市本和也! 今後私に関知してくれなければ、金・色・情報・その他お前の望むものは出来るだけ提供しよう。今の私にはその力がある。それにこの女、中々のものだぞ』

由香里は制服の上半身を剥ぎ取った。学生とは思えない豊満な乳房が胸元からこばれ出る。由香里は誘うように嫣然と微笑んだ。清楚な顔立ちに浮かぶその淫靡な表情は、並の男なら、そのまま押し倒してしまいたい衝動に駆られる。が、市本の思考ルーチンはあらゆるものを超越していた。

『そうか、では大魔王サタンと大天使ミカエルのチークダンスをやって貰おう!』

『えっ? なっ、それは……。』

『なんだ、出来ないのか。では交渉は決裂だ。』

市本は口許に邪悪な笑みを浮かべた。その刹那、由香里は黄金のナイフで市本に切り掛かった。しかし、市本は簡単に、黄金のナイフを片手で受け止めた。そう、人差し指と中指の間で受け止めたのだ。

『アセイミーナイフか。面白いもん持ってるな。』

アセイミーナイフ、月の魔力を封じたといわれる不可思議なナイフだ。

パキッ!

『ば、馬鹿な! アセイミーナイフをへし折るなんて!』

市本は由香里の手首を掴んだ。

『さて、お遊びはここ迄だ、キルポルト。』

『ま、待て、私を無理矢理取り出そうとすれば、この女も死ぬ事になるぞ!』

キルポルトは最後の切り札を切った。が、やはり市本の思考ルーチンはあらゆるものを超越していた。

『それがどうした。』

そう言って、市本はジーンズのポケットから、手帳のようなものを取り出し、キルポルトの眼前で開いて見せた。

『さ、殺人許可証(マーダーライセンス)!』

市本は、由香里の額に手刀をぶち込んだ。手刀はた易く由香里の頭蓋骨を突き破り、大脳内部へと到達した。この時点で由香里は絶命した。市本は、前頭葉に寄生しているキルポルトを引きずり出した。由香里の鮮血で染まった左拳を、市本はゆっくり開いた。市本の左手の中で、何かが蠢いている。LSI、そう、パソコン等に組み込まれている大規模集積回路、LSIだ。それがまるでゲジゲジのようにカサカサと蠢いているのだ。これがSBTの正体だ。ここにキルポルトの精神体が宿っており、獲物の耳穴などから侵入し、その獲物の思考を乗っ取る。現代の魔導師達が生み出した、最先端の不老不死だ。市本は親指と人差し指でSBTを押し潰した。プチという音と共に、キルポルトの精神体はこの世から消滅した。

『さてと、俺は破壊は得意だが創造は余り得意ではないな。それに、どのみち人間形態では回復系の術は使えん。シーラ、手早くやってくれ。傷口は必要最小限に押えてある。』

市本の背後から、カツカツと乾いたハイヒールの音が鳴り響く。校舎の影の隙間を縫って差し込む月明りが、その人影を照らし出す。流れるような長い黒髪、透き通るような白い肌、ぞっとするような美女だ。しかしその美しさは、人間で言うところの美ではなく、魔性に属する危険な美しさであった。
 シーラは、倒れている由香里の額に右手をかざした。シーラの右手が眩しい光に包まれる。するとどうだろう、由香里の額の傷口が見る見る塞がって行くではないか。由香里は何事もなかったかのように目を開いた。由香里が最初にやった事は、はだけた胸を、恥じらいを込めて隠す事だ。実にお嬢様らしい行動と言えよう。

『気が付いたか。私は一体……なんて言葉は吐けないはずだ。記憶はそのままだからな。あんたには、色々尻拭いをして貰わなきゃならん。』

『私は……一体どうしたらよいのでしょう……。』

由香里お嬢様はポロポロと涙をこばした。第二学生ホールが紅蓮の炎に包まれているのがお嬢様の瞳に映った。突っ張っていたけど、根はとても純情だったヒロ……自分の意思ではないにしろ、彼を悪魔召喚の生贄なんかにしてしまった……。

『重要なのは、過去ではなくて未来だ。安心しろ、この事を知っているのはお前を含め3人……いや、4人にしてくれ。』

暗闇の中から、ブロンドヘアーの少女が3人に近づいて来た。

『うんうん。面白いもん見せて貰っちゃったな。』

蟠桃学園オカルト研究会部長のフリーシアだ。

 

| BACK | NEXT |