第六条(天皇の権能の限界、天皇の国事行為の委任、摂政)@ 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
A 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
B 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。この場合には、第一項の規定を準用する。
第十条(戦争の否認、大量殺傷兵器の禁止)@ 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを認めない。
A 日本国民は、非人道的な無差別大量殺傷兵器が世界から廃絶されることを希求し、自らはこのような兵器を製造及び保有せず、また、使用しない。
第十一条(自衛のための組織、文民統制、参加強制の否定)@ 日本国は、自らの平和と独立を守り、その安全を保つため、自衛のための組織を持つことができる。
A 自衛のための組織の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。
B 国民は、自衛のための組織に、参加を強制されない。
第十八条(法の下の平等)@ すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
A 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
B 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。ただし、法律で定める相当な年金その他の経済的利益の付与は、この限りではない。
C 栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第十九条(人格権)@ 何人も、名誉、信用その他人格を不当に侵害されない権利を保障される。
A 何人も、自己の私事、家族及び家庭にみだりに干渉されない権利を有する。
B 通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二十条(思想及び良心の自由) 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十一条(信教の自由及び公金の支出制限)@ 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
A 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
B 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない。
C いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
D 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第二十二条(表現の自由)@ 言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
A 検閲は、これをしてはならない。
第二十三条(集会及び結社の自由) 何人も、集会及び結社の自由を有する。
第二十四条(居住及び移転、国籍離脱の自由)@ 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住及び移転の自由を有する。
A すべて国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を保障される。
第二十五条(学問の自由) 学問の自由は、これを保障する。
第二十六条(家族生活における個人の尊厳と男女の平等)@ 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
A 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二十七条(生存権、国の社会的使命)@ すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
A 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第二十八条(環境権)@ 何人も、良好な環境を享受する権利を有し、その保全に努める義務を有する。
A 国は、良好な環境の保全に努めなければならない。
第二十九条(教育を受ける権利)@ すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
A すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子どもに普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
第三十条(勤労の権利及び義務)@ すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
A 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
B 児童は、これを酷使してはならない。
第三十九条(住居の不可侵)@ 何人も、第三十七条の場合を除いては、正当な理由に基づいて裁判官が発する令状によらなければ、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることはない。
A 捜索又は押収は、捜索する場所及び押収する物を明示する各別の令状によらなければならない。
第四十条(拷問及び残虐刑の禁止) 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第四十一条(刑事被告人の権利)@ すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
A 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、また、公費で自己のために強制的手続きにより証人を求める権利を有する。
B 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する。
第四十二条(自己に不利益な供述、自白の証拠能力)@ 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
A 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
B 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第四十五条(公務員を選定罷免する権利、公務員の性質、普通選挙の保障、投票の秘密の保障】@ 国会議員、地方公共団体の長及びその議会の議員その他の公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
A すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
B 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
C すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。
第六十一条(衆議院の解散及び特別会、参議院の緊急集会)@ 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
A 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
B 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。
第六十三条(定足数、表決)@ 両議院は、各々その在籍議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
A 両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第六十四条(会議の公開、会議録、表決の記載)@ 両議院の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
A 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
B 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
第六十五条(役員の選任、議院規則・懲罰)@ 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
A 両議院は、各々その会議その他の手続き及び内部の規律に関する規則を定め、また、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第六十六条(法律案の議決、衆議院の優越)@ 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
A 衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の五分の三以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
B 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
C 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
第六十七条(衆議院の予算案先議、予算案議決に関する衆議院の優越)@ 予算案は、さきに衆議院に提出しなければならない。
A 予算案について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十八条(条約の承認に関する参議院の優越)@ 条約は、さきに参議院に提出しなければならない。
A 条約について、衆議院で参議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が、参議院の可決した条約を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、参議院の議決を国会の議決とする。
第六十九条(人事案件の参議院の優越)@ 法律で定める重要な公務員の就任については、国会の議決を経なければならない。
A 前項の議決については、前条の規定を準用する。
第七十二条(弾劾裁判所、訴追委員会)@ 参議院に、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、参議院議員で組織する弾劾裁判所を置く。
A 衆議院に、前項の訴追のため、衆議院議員で組織する訴追委員会を置く。
B 訴追及び弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
第七章 内閣
第七十三条(行政権) 行政権は、内閣に属する。
第七十四条(内閣の組織、国会に対する連帯責任)@ 内閣は、法律の定めるところにより、内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
A 内閣総理大臣は、内閣を代表し、国務大臣を統率する。
B 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
C 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。
第八十九条(憲法裁判所の裁判官、任期、定年、報酬)@ 憲法裁判所は、その長たる裁判官及び八人のその他の裁判官で構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、参議院の指名に基づいて内閣が任命する。
A 憲法裁判所の裁判官は、任期を八年とし、再任されない。
B 憲法裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
C 憲法裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、減額することができない。
第九十一条(最高裁判所の裁判官、任期、定年、報酬)@ 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
A 最高裁判所の裁判官は、任期を五年とし、再任されることができる。
B 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
C 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第九十二条(下級裁判所の裁判官・任期・定年、報酬)@ 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
A 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第九十三条(憲法裁判所及び最高裁判所の規則制定権)@ 憲法裁判所及び最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
A 検察官は、前項に規定する規則に従わなければならない。
B 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
第九十四条(裁判官の独立、身分保障)@ すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。
A すべて裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。
第九十五条(裁判の公開)@ 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。
A 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序、善良の風俗又は当事者の私生活の利益を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第五章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
第百八条(改正の手続き及びその公布)@ この憲法の改正は、改正案につき各議院の在籍議員の三分の二以上の出席により、出席議員の過半数の賛成で議決し、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。
A 前項の規定に関わらず、この憲法の改正は、改正案につき、各議院の在籍議員の三分の二以上の出席で、出席議員の三分の二以上の賛成で可決することにより成立する。
B 第一項の承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、有効投票の過半数の賛成を必要とする。
C 第一項又は第二項の憲法改正案は、国会議員又は内閣が提出することができる。
D 第一項の承認を経たとき、又は第二項の可決があったときは、天皇は、国民の名で、直ちにこれを公布する。
〈関係法令〉
・皇室典範(昭和22年法律第3号)
・国事行為の臨時代行に関する法律(昭和39年法律第83号)
〈参考法令〉
・大日本帝国憲法(明治22年公布)
・日本国憲法(昭和21年公布) この試案の条文は、読売新聞社メディア企画局開発部の許諾を得て、「読売新聞平成6年11月3日付朝刊17面『読売の憲法改正試案』」より転載したものです。著作権者に無断での改変・転載等は禁じられております。