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Last Update = 2001.12.19
暗い夜道における赤鼻のトナカイ

 「真っ赤なお鼻の〜」という歌詞で有名な童謡『赤鼻のトナカイ』の日本語版歌詞中にとても気になる表現があります。それは、サンタのおじさんが笑いものにされているトナカイを「暗い夜道はピカピカのお前の鼻が役に立つのさ」と慰めている有名な部分です。
 皆さんもご存じの通り、サンタクロース氏がクリスマスイブの夜に子供たちにプレゼントを配るために使用しているのは、トナカイが引いている(空飛ぶ)そりです。元々の伝説ではトナカイ8頭だてでそりを引いているようですが、後世になってから、「ルドルフ」という名の赤鼻のトナカイがトナカイたちの先頭に加わり、その光る鼻で霧の夜を照らしつつ夜空を駆ける、という物語が創作されたようです。

 ところで、このトナカイたちに引かれたそりは、日本国内の公道を走る場合、どのような法的性格を帯びるのでしょうか(この際、空を飛ぶらしい、ということは抜きにして考えます(^^;)。

道路交通法(昭和35年法律第105号)
 (定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 八 車両 自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。
 十一 軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、〈中略〉かつ、レールによらないで運転する車(そり〈中略〉を含む。)〈中略〉をいう。
 十七 〈用語略〉 〈前略〉車両又は路面電車(以下「車両等」という。)〈後略〉

 道路交通法第2条第1項第11号の定義によると、サンタクロース氏の乗るそりは、「動物(トナカイ)の力により、かつ、レールによらないで運転するそり」ということになりますから、道路交通法上は「軽車両」ということになります。また、軽車両は、同条第1項第8号により「車両」にあたることになり、同条第1項第17号により以下同法中の「車両等」にあたることになります。

 (車両等の灯火)
第五十二条 車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間をいう。〈中略〉)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。〈後略〉
 2 〈略〉

 道路交通法第52条第1項によると、車両等は、日没から日出までの時間(=夜間)、道路上では政令で定めるところによって灯火(=ライト)をつけなければならないこととされています。前述のとおり、トナカイが引くサンタのそりは道路交通法上の「車両等」にあたりますから、この規定に従わなくてはなりません。
 ところで、この条文には「前照灯」(=ヘッドライト)や「尾灯」(=テールランプ)などが挙げられていますが、これらは例示であり、どのような灯火をつける必要があるのかは、政令の定めに委ねられています。

道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)
 (道路にある場合の灯火)
第十八条 車両等は、法第五十二条第一項前段の規定により、夜間、道路を通行するとき〈中略〉は、次の各号に掲げる区分に従い、それぞれ当該各号に定める灯火をつけなければならない。
 五 軽車両 公安委員会が定める灯火

 道路交通法施行令第18条第1項第5号は、車両等のうち軽車両については、夜間に道路を通行するときは「公安委員会が定める灯火」をつけなければならないこととしています。「公安委員会」とは「都道府県公安委員会」のことです(道路交通法施行令第1条の2)。軽車両が夜間どのような灯火をつける必要があるのかは、各都道府県の公安委員会がそれぞれの地域の実情に合わせて定めることができるのです。
 さて、ここでは、東京都の例を見てみることにしましょう。

東京都道路交通規則(昭和46年東京都公安委員会規則第9号)
 (軽車両の灯火)
第九条 令第十八条第一項第五号の規定により軽車両〈中略〉がつけなければならない灯火は、次に掲げるものとする。
 一 白色又は淡黄色で、夜間、前方十メートルの距離にある交通上の障害物を確認することができる光度を有する前照灯

 東京都道路交通規則第9条第1項第1号によれば、軽車両は、夜間に道路を通行するときは、前照灯(=ヘッドライト)をつけなければなりません。そして、その前照灯は、「白色又は淡黄色」で「前方十メートルの距離にある交通上の障害物を確認することができる光度を有する」明るさでなくてはなりません。
 さて、トナカイが引くサンタのそりは、前述のとおり軽車両にあたりますから、東京都内の道路を夜間に通行するのならば、この規定に従う必要があります。ところが、『赤鼻のトナカイ』の歌詞によれば、「サンタのおじさん」は、トナカイのピカピカの真っ赤なお鼻を「暗い夜道」の走行に役立てているのです。この歌詞からは、トナカイの赤鼻による明かり以外に灯火を用いていることは推認できません。では、トナカイの赤鼻は「前照灯」にあたると言えるでしょうか。一般に、トナカイの赤鼻がいくらピカピカでも、それ自体が発光するわけではありません*1から、「灯火」とは言えません。月明かりや雪明かりを反射して光るのであれば、それは「反射器材*2」に過ぎません。また、仮にピカピカの鼻を灯火であるとしたとしても、「赤鼻」は「赤色」ですから、「白色又は淡黄色」の要件を満たすことができません。よって、トナカイが引くサンタのそりは、軽車両であるにもかかわらず、法律でつけることを義務づけられた灯火をつけないで走行していることになるのです。*1:もっとも、赤鼻のトナカイを描いた漫画などの中には、赤鼻自体から光を発するように描いたものもあるようです。その場合は前照灯にあたると言えるかもしれませんが、発する光は「白色又は淡黄色」である必要があります。*2:「反射器材」にあたるとすれば、幸いなことに色が「赤色」ですので、東京都道路交通規則第9条第2項の基準を満たせば、「尾灯」(=テールライト)の代わりとして用いることができる可能性はあります。
 では、灯火をつけないで走行すると、どのような罪になるのでしょうか。

道路交通法
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五万円以下の罰金に処する。
 五 〈中略〉第五十二条(車両等の灯火)第一項の規定の違反となるような行為をした者
 2 過失により前項〈中略〉第五号〈中略〉の罪を犯した者は、五万円以下の罰金に処する。

 道路交通法第120条第1項第5号は、車両等の無灯火違反の法定刑を5万円以下の罰金としています。また、同条第2項では、過失犯の法定刑についても5万円以下の罰金としています。

刑法(明治40年法律第45号)
 (罰金)
第十五条 罰金は、一万円以上とする。〈以下略〉

 刑法第15条本文の規定により、罰金は1万円以上とされていますから、無灯火違反の法定刑は、1万円以上5万円以下の罰金ということになります。
 なお、軽車両には「反則行為に関する処理手続の特例」制度が適用されません(道路交通法第125条第1項)ので、違反者には反則行為の告知などの特例手続が行われることはなく、そのまま刑事手続の流れに従うことになります。

 よって、サンタクロース氏は、夜間、赤鼻のトナカイの「赤鼻」による明るさのみに頼り、東京都内*3を前照灯をつけないでそりを走行させた場合、1万円以上5万円以下の罰金に処せられる可能性があります。*3:他の道府県にも軽車両の灯火に関しては同様の規定があると思われます。
 みんなの夢を担うサンタさんが犯罪者となることのないよう、サンタクロース氏にはぜひとも前照灯を装備したそりで子どもたちの家々をまわってほしいものです(^^;

〈関係法令〉
・道路交通法(昭和35年法律第105号)〈6月25日〉
・道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)〈10月11日〉
・東京都道路交通規則(昭和46年東京都公安委員会規則第9号)〈11月30日〉
刑法(明治40年法律第45号〈官報4月24日本紙〉)

このページの沿革平成13年12月19日作成
条文最終基準日平成11年11月30日
条文確認典拠法令データ提供システム(総務省行政管理局)
自警特別別冊警務要鑑平成12年版(財団法人自警会)

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童謡『赤鼻のトナカイ』は、原作詞者MARKS JOHN D氏及び日本語訳詞者新田宣夫氏が著作権を有する著作物です。なお、著作権法第32条第1項の規定に基づき、このページにおいて、その一部を引用して利用しました。
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