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Last Update = 2002.1.20
商船規則の二重廃止

 成立にあたって、様々な議論を呼んだいわゆる「国旗国歌法」。その附則第2項に、とある法令を廃止する旨の規定があるのをご存じでしょうか。

国旗及び国歌に関する法律(平成11年法律第127号)
   附 則
 (商船規則の廃止)
2 商船規則(明治三年太政官布告第五十七号)は、廃止する。

 この「商船規則(明治三年太政官布告第五十七号)」とは、西洋型商船を所持している者あるいは新規に購入した者が遵守すべき事項を定めた法令です。
 免許制、航行方法、入港その他の行政手続及び税金などに関する規則が定められています。そして、この中に、国旗について定めた条文があります。
商船規則(明治3年正月27日太政官布告)
   規 則〈抜粋〉
一御国旗之事
 右ハ決而取外シ候事不相成附属之艀舟ニ至迄必可揚置事
一御国旗之寸法別紙之通ニ候事〈後略〉

 これによると、第2項で国旗は決して取り外してはならず付属の艀舟に至るまで必ず掲揚しておかなければならないということが定められており、第4項本文及び別紙で国旗の寸法が定められています。ここでは省略しましたが、他にも掲揚すべき時間帯などが定められている条文があります。

 従来、日本には国旗の様式を一般的に定める法令がありませんでした。そこで、国旗については、日の丸に関する諸問題と合わせて、長年の議論になっていたところであります。
 しかしながら、この「商船規則」のように限られた範囲で適用される法令については、いくつか国旗について定められているものがありました。そこで、従来、国旗については慣習法的に定着していることに加え、これらの法令があることを、法的な根拠としていたのです。これらの経緯は、商船規則が国会答弁*1や裁判所の判決*2の中に登場することからも言えると思います。
*1:第145国会平成11年6月29日衆議院本会議国務大臣答弁 *2:大阪高等裁判所平成8年ネ第1143号損害賠償請求控訴事件判決
 そのような経緯から、今回、国旗及び国歌に関する法律の制定にあたって、商船規則を廃止することとしたのだと思われます。

 ところが、なんと、商船規則は今回国旗及び国歌に関する法律で廃止しようとする以前に既に廃止されていたのです。

船舶法(明治32年法律第46号)
附則
第三十六条 明治三年正月二十七日布告商船規則〈中略〉其他ノ法令ニシテ本法ノ規定ニ牴触スルモノハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廃止ス

 このように、商船規則は、船舶法第36条で明らかに*3廃止されています。
*3:あえて言えば、「その他の」という表現は例示を表すに過ぎないので必ずしも商船規則全体が「本法ノ規定ニ牴触スルモノ」に当たるとはいえない、すなわち商船規則のうち国旗の様式を定めた部分に限っては船舶法に抵触しないので廃止の対象になっていない、とむりやりに理論づけられなくもないとは思いますが、明文で廃止法令として掲げている以上は並列列挙と解すべきであり、廃止されていないとするのはかなり無理のある解釈になるのではないかと思います。

 ということは、国旗及び国歌に関する法律附則第2項は、存在しない法令*4を廃止しようとしたことになってしまうのです。
*4:既に船舶法によって廃止されていたということになると、前述の国会答弁や裁判所の判決で述べた商船規則の有効性の根拠は何か、という問題が生ずることになります。

 余談ですが、商船規則の法令番号についても触れたいと思います。
 国旗及び国歌に関する法律附則第2項では「明治三年太政官布告第五十七号」と表記してあるのですけれども、この第57号というのは、本当は法令番号ではありません。当時の法令には番号が付されておらず、また明治維新の混乱期であったため記録が散逸してしまっていました。そこで、後年、内閣官報局が明治維新以来の全法令を収録する法令全書を編纂するにあたって、同年に制定された法令に法令の形態を問わず通し番号を便宜上付したものなのです。ですから、太政官布告の第57号というわけではなく、諸文献から明治3年に制定されたことが判明した法令を日時順に編集した結果、法令全書の明治3年の巻の第57番目に収録されたというにすぎないのです。例えば、同年の第58は太政官布告ではなく、民部省の達であるようです。
 よって、商船規則についての法令番号の表記は、船舶法第36条に規定されているとおり「明治三年正月二十七日(太政官)布告」とするのが正しいのではないかと思います。

 これらの見解についてぜひ専門家の意見を聞いてみたいのですが、内閣法制局の職員の方など見ておられましたら、ぜひご意見をお寄せください。

〈関係法令〉
・商船規則(明治3年正月27日太政官布告〈法令全書明治3年第57〉)
・船舶法(明治32年法律第46号〈3月8日〉)
国旗及び国歌に関する法律(平成11年法律第127号〈官報8月13日号外〉)

このページの沿革平成13年7月14日作成
平成14年1月20日誤字訂正
条文最終基準日平成13年7月14日
条文確認典拠法令全書(内閣官報局)
官報平成11年8月13日号外第156号(大蔵省印刷局)
法令データ提供システム(総務省行政管理局)

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