ご質問  非抜歯による矯正治療とは


お答え    大切な歯だから抜かないで歯科矯正治療ができれば、それが最善に決まってます。私だって、できる場合は、ちゃんとそうします。しかし、どう考えても無理な場合は、抜歯をお願いします。
 ちまたで、「非抜歯矯正」というのがありますが、基本的には、以下のような方法をとります。
1)歯列の側方拡大
 歯のはえる場所が足らなければ、顎の大きさを広げればよいわけです。
 →しかし、歯の位置は内側の舌べろの大きさや動きによって決まりますので、矯正装置で広げても、舌べろの大きさが変わらなければ、元に戻ります。成長によって、身体が大きくなってゆく時には、舌べろも大きくなってゆきますが、短期間の矯正治療の間に舌べろがすばやく大きくなるとは考えられません。よって、この治療は無駄になる場合が多いのです。
 萌出方向の異常により、歯が内側に向いている場合は、広げても後戻りする可能性が減りますので、意味がある場合があります。

2)大臼歯の遠心移動
 第一大臼歯(6歳臼歯)を後ろに下げる治療のことです。
 叢生など前歯の歯並びの異常は、6歳臼歯より前の「歯のはえる場所」と「歯の大きさ」のバランスが崩れている場合に起こります。これを解消するためには、6歳臼歯を後ろに下げて、それより前の歯がちゃんと並ぶようにスペースを作ってあげればよいわけです。
 →しかし、6歳臼歯を下げるとその後ろにはえる第2大臼歯(12歳臼歯)や第3大臼歯(親知らず)のはえる場所がなくなります。前歯のほうの問題は片付くかもしれませんが、後ろのほうに新しい問題が生じます。結局のところ、問題の先送りだけで、根本的な解決にはなっていないわけです。

3)前に拡大する
 第1大臼歯を後ろに動かせない場合は、歯列全体を前の方向に拡大すれば、歯のはえる場所を確保することが出来ます。
 →しかし、これだと、現在の前歯の位置よりも前歯がもっと前に出ます。普通の顔だった人が、出っ歯ちゃんに変身です。
 また、唇の筋肉は、前の状態から変わっておりませんから、矯正装置をはずすと、前の歯並びに戻ります。よって、時間とお金の無駄になる可能性が高いわけです。

4)歯を小さくする
 歯のはえる場所を広げる方法を上に紹介してきましたが、歯が小さければ全部並ぶはずです。で、歯を小さくする人がいます。 →しかし、歯を削ると虫歯になりやすくなります。また、歯の削った部分は直線的になりますので、汚れもたまりやすくなります。
 一番大きな問題は、歯と歯の間の歯肉に行っている血管がつぶされることです。あまりに歯を小さくしすぎると、血管が下の大きさに戻ろうとして、歯と歯の間に隙間があいてくることがあります。

★まとめ
 無理な治療計画は、後戻りという結果となって現れます。
咬合誘導とか非抜歯矯正とか耳障りの良い言葉をつかう人が多いですが、現実的に無理なものは無理です。無理な治療は、結局のところ、お金と時間の無駄です。歯医者が儲かるだけで、貴重な時間が通院のたびに失われます。


 ガンの治療でも、切らずに治すという方法がありますが、それがすべてではありません。そういう治療法を選択する可能性は、あるかもしれませんが、そうでない可能性もあります。ガンの大きさ、ガンの性質、患者さんの体質などで温存療法ができない場合だってあるわけです。
 歯科矯正治療においても治療法はひとつではありません。「となりの子供が非抜歯でできたから、ウチの子も。」と、いうのは、無理な場合があります。歯の大きさ、顎の大きさ、顎の骨の位置関係が全く同じでしたらできるかもしれませんが、そんなことはめったにないでしょう?

 「バイブル商法」という項目でも書きましたが、本に書かれているから正しいわけではありません。自分の所に患者さんがくるように美辞麗句を並べ自分の治療法だけが最善であると宣伝するだけで、専門家から見れば中身のない、そんなものをどうして信用してしまうんでしょう?


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