ご質問 3日で矯正?
お答え 大学で教えられている「歯科矯正治療」は、歯を動かす治療です。どんなにかんばっても、一月に1mm動かすのがやっとです。1cmもの出っ歯を治すためには平均2年ぐらいかかるのが普通です。
この治療期間の長さが何とかならないか、という要求や希望があるのは当然です。これに対しては、歯科治療の中の技術のひとつである「補綴」という治療法があります。簡単に言うと、出っ歯なら出ている歯を削って、人工の歯を前よりも内側に入れてあげるわけです。
治療期間が短いと言う利点がありますが、欠点もあります。
1)歯は、傷つけないほうが良い。
果物屋さんで、傷のあるリンゴときれいなリンゴが同じ値段で売っていたら、どちらを買いますか? きれいなリンゴのほうでしょう。なぜかと言いますと、傷から汚れやいたみが始まり、悪くなっている可能性が高いからです。歯も同じで、傷(虫歯や、歯医者が削ったあと)がないほうが良いのです。
2)人工の歯は天然の歯よりも持たない
生きている歯は、血管から栄養を与えられて、常に良い状態に保たれています。抜けるまで、死ぬまで使えます。これに対し、人工の歯では材料の寿命があります。丈夫な金属で作られている自動車でも10年持たせるのは大変ですね。飛行機も金属疲労で事故が起きます。
3)歯の神経を抜くことが多い
歯の中には血管と神経がいっしょに入っています。歯を削って、人工の歯を入れるとなると、歯の神経にさわってしまうことになるので、あらかじめ歯の神経を抜く治療をすることが多いわけです。しかし、こうすると血管も一緒にとられてしまいます。歯への栄養が行かなくなるわけです。たとえ話としては、枯れ木と生木を考えてください。枯れ木はポキンと折れますが、生木はしなってなかなか折れません。歯の神経を抜くと、歯の寿命が10年短くなると言われています。
虫歯が進行した時には、神経がそれを感じて痛みを発するわけですが、神経を抜いてしまうとその防御機構もなくなってしまいます。かぶせた人工の歯のワキから新しい虫歯ができても、それを感知することができません。結局、虫歯がかなりひどい状態にならないと発見できず、治療が手遅れになることがあります。
4)力学的に無理がある
歯の角度を変えた場合、歯の頭(歯冠)と歯の根っこ(歯根)の正常な角度が崩れます。そうすると、食物をかむ力が歯を痛めつけることになる場合があります。歯をひっここ抜く方向に作用したり、ぐらつきがでたりします。最悪の場合は、歯が途中から折れます。
5)歯茎は歳をとれば減ってゆく
歯と人工の歯の境目は、歯肉の中に隠すように歯科医は治療しますが、歯肉は年齢とともに下がってゆきます。そのスピードはお手入れの状態や歯周炎の状態によって異なりますが、遅かれ早かれ合わなくなります。合わなくなったら、一度外して再製作ということになります。つまり、一度で終わる治療ではなく、何回か繰り返し、お金が何度かかかるわけです。
6)虫歯になりやすい
人工物は接着剤でくっつけますが、10年持つ接着剤はありません。
また、人工材料と自分の歯では、膨張率が違いますから、その境目はどんどんひび割れてゆきます。
この他にも、技術的な問題として、境目を完全にぴったりと隙間なく合わせることは不可能です。(数十ミクロンの隙間は必ずあります)
上記のような理由で、できた隙間に食べカスが溜まると、虫歯が発生するわけです。一度できた虫歯は、痛みと言う体の防御機能を外した歯で好き勝手に大きくなる危険性があります。(上述)
7)歯ぐきが黒ずんでくる場合がある
白い歯の土台は、やはり金属です。金属は、口の中でイオンになります。これが歯肉に取り込まれると、歯肉が黒くなってきます。笑った時に黒い歯ぐきが見えると、みっともないです。
医療の内容は、患者さんが選ぶものです。たとえ、がん細胞があったとしても、それに対して手術をするか、化学療法にゆくのか、民間療法にするのかは、患者さんの自由です。不正咬合に対しても、歯科矯正治療という選択肢もあるし、上記のような補綴治療もあるわけです。ただし、欠点や利点をちゃんと理解していることが必要だと思います。
私としては、上記のような補綴による矯正治療はお勧めしません。芸能人など時間的に余裕のない人は仕方ないかもしれませんが、できるだけ自分の歯を残したほうが幸せだと思います。
全部の歯を抜いて、総入れ歯にすると、見てくれだけはきれいだと思いますが、入れ歯にするとかむ力やかむ能率が、10分の1になりますから、後が大変です。昔、役作りのために全部の歯を抜いた役者さんがいたそうですが。
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