ぎいちの戯言 その41:フッ素の利用


 

 学校歯科医を拝命しております。拝命と書くのは、教育委員会から任命を受けてやっているからです。

 私の担当している小学校では、フッ素洗口をしておりますが、昨年反対派が潰しにかかってきました。「やりたくない人はやらなくて結構。」で20年以上続けてきております。個人の選択の自由です。そんなことまで強制するつもりは毛頭ございません。

 でもね。世の中には守らないといけない人がいて、守る方法が限られている場合、フッ素洗口というのは非常に有効な手段なのです。

 たとえば、上記の写真を見て、歯科医師なら「汚いな!」と思います。歯垢がベッタリ付いているのがわかるからです。しかし、子供(あるいは、親)は気にも留めてません。で、歯垢染色液で

染め出しをしてあげます。

 磨けているのは、下の前歯2本の先っぽだけですね。これが事実です。学校健診をする時に同時に歯磨き指導をしていますが、長蛇の列になります。フッ素洗口をしなくても管理できる子供(親)であれば問題ありませんが、世の中そんな人ばかりではございません。

 虫歯の原因としては、砂糖など食物の要素もあります。有名な例としては、昭和20年の日本の砂糖消費量は歴史上最低でしたが、この年の虫歯発生数は史上最低でございます。砂糖を絶てば、虫歯は減りますよ。確実に。でも、疲れた時に甘いものが欲しくなりますよね。

 公衆衛生という考え方があります。少ない費用で多くの人たちの健康を守る、という考え方です。フッ素は、歯を堅くする元素です。歯磨きしない子供でも、キャンディーが好きな子供でも、歯を強くすることで虫歯にならないように守ることができます。100%でがありません。30%から50%減らせます。

 世の中には、必ず反対意見があります。反対意見があるのは正常なことであると思います。それをどうこう言うつもりはありません。自由なことです。しかし、間違ったことを言うのはよくありません。


 推測統計学と学問のような単語を使ってはいますが、この図のミソは丸の大きさにです。都市の大きさと骨折の起きる確率に意味があるのなら別ですが。

 高齢者の骨折は骨粗鬆症との関連が深いことが知られています。都市規模との関連性は考えられません。この論文を書いた人が別の論文では骨粗鬆症における骨盤や脊柱のフッ素濃度を調べたものがあるのですが、骨のある部分ではフッ素濃度が高いのだが、別の骨の部分ではフッ素濃度が低いという結果で、統計学的に有意差(意味がある数字)でがなかった、と結論づけています。
 上の図の散布図を丸の大小を消したものが下の図です。丸の大きさにごまかされているだけなのがおわかりでしょう。加えて、黒い丸のほうが白い丸よりも重さを感じる視覚的効果もねらっているようですね。この白丸と黒丸の意味や違いはなんだろう?と考えちゃいます。作為的なものを感じます。(丸の色の意味は論文には書かれていない。)


 調べてみると、この年の英国の骨盤骨折の発生率は、人口1万人あたり17人でした。(こんなこともInternetで調べられます。) つまり、人口千人あたり1.7人です。下の図の直線はこの1.7の平均値を描いたものです。平均値を境に点が上下に分布しているのが理解できるでしょう?

 MEDLINEでこの元論文を探してみたのが、以下。

Water fluoride concentration and fracture of the proximal femur.
  Cooper C, 、Wickham C, 、Lacey RF,、Barker DJ

.
MRC Environmental Epidemiology Unit, Southampton General Hospital, United Kingdom.
STUDY OBJECTIVE--The aim of the study was to examine the relationship between water fluoride concentration and the incidence of hip fracture, since evidence on this is at present inconsistent. DESIGN--Numbers of hospital admissions for fractures of proximal femur were obtained from hospital activity analysis data for the years 1978-1982. The fracture rates were compared with water fluoride concentrations in 39 county districts of England and Wales (fluoride concentrations had been measured in these districts between 1969 and 1973 as part of the British Regional Heart Study). PATIENTS--During the study period, 4121 men and 16,272 women aged 45 years and over were discharged from hospital after hip fracture. RESULTS--Poor correlations were found between discharge rates and both total (r = 0.16, p = 0.34) and natural (r = 0.01, p = 0.95) water fluoride concentrations. CONCLUSIONS--Water fluoridation to levels of around 1 mg/litre is unlikely to reduce hip fracture incidence markedly in this country.

 結論(CONCLUSIONS)には、「この国では、水道水1リットル当たり1ミリグラムレベルのフッ素添加は、腰骨の骨折を著しく減らすことはないようである。」って書いてありますね。この筆者であるCooperさんは、骨粗鬆症の研究者であり、骨粗鬆症による腰骨の骨折を減らす可能性を調べており、この論文ではフッ素にその効果があるかどうかを調べたわけです。決して、フッ素の毒性を調べたわけではありませんし、上水道へのフッ素添加で骨折が増えるとも書いてません。しかし、フッ素反対派はそんなことはお構いなしに、自分たちに都合の良いデータだけ曲解して使うんですね。「統計でウソをつく法」とか、「社会調査のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ 」といった本は人生のうちで一度は読んでおくべき本だと思いますね。世の中には自分に都合の良いように統計処理する人はおります。道路の交通量予測なんていうのもありますね。


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