ぎいちの戯言 その54:保険治療と自費治療のはざまで
ここ静岡県では、「歯科矯正からの治療依頼はすべて自費」というS技官の命令がありまして、私の所から開窓術(埋伏歯=正常にはえることができない歯を助けるために歯肉を切ってもらう手術)を頼むと、病院の受付で「自費になります。」と、冷たく言われるそうです。
具体的な症例をお見せしましょう。
下顎左側のレントゲン写真です。第二小臼歯、第一大臼歯は正常に萌出しておりますが、第二大臼歯は第一大臼歯の遠心(後ろ側)に引っかかってはえてくることができません。さらに、第三大臼歯(親知らず)が第二大臼歯の遠心にのっかかっています。この患者さんは14歳ですので、まだまだ将来がある子供です。
このまま放置すれば、第二大臼歯は自然にはえてくることはありません。第三大臼歯はたとえはえてきたとしても(はえてこられない場合も考えられます)、斜め向きですから噛める状態にはならないでしょう。
これを治療するためにはどうするかというと、第二大臼歯を後ろに移動して第一大臼歯の引っかかりから解放し、その後で上方に引っ張り出してあげればよろしいわけです。残念ながら、第三大臼歯は第二大臼歯の後方への移動を邪魔しますから、抜歯していただきます。
まあ、このような状態になるのは大臼歯のはえる場所が足りないから起きるわけです。つまり第一、第二、第三大臼歯の3本がはえる場所が元々ないわけですから、残念ですが第三大臼歯には退場していただきます。
さて、一番上にも書きましたが、これを病院の口腔外科に依頼しますと、受付の段階で「矯正歯科からの開窓や抜歯の依頼は、すべて自費になります。」と言われるのです。静岡県に君臨する社保庁のS技官が決めたからです。(藤枝市民病院を一ヶ月保険医停止処分にしたお方です。)
保険点数の中には、「インプラント除去料」という項目があります。自費で入れた(保険治療ではできない)インプラントが悪くなった場合、これを除去する時は健康保険が使えます。上記の開窓術や抜歯術との整合性はどこにあるのでしょうか? インプラントの除去術も自費にするのが本筋でしょう。でも、それでは苦しんでいる人、困っている人を助けられません。
歯の一本や二本、はえてこなくても、S技官は全く知ったことではないかもしれませんが、直接患者さんを診る立場としては、何とか助けてあげたいと思います。その時に、費用は安い方が嬉しいわけです。 この2本の処置のために自費で10万円近くのお金をかけるよりは、保険で1万円程度で済ますことができれば、それは患者さんにとってすごく助かることだと思います。
自費治療と保険診療を峻別することは必要だと思います。歯科矯正治療が健康保険に入っていれば何ら問題はないわけですが、現在の保険財政で歯科矯正治療をその中に入れたら、財源が足らなくなるのが明らかですから、将来的にも健康保険適用になることはないでしょう。(顎変形症や口蓋裂による歯列異常は健康保険適用になってますが。) また、診断の能力、治療技術のない歯科医が歯科矯正治療に参入してくる危険性もありますので、歯科矯正治療を業として私としては、反対したいところです。
このよな財政的政治的な問題で保険適用にならない治療について、保険治療と自費治療の峻別を語ることは馬鹿げています。人間の口が二つあって、ひとつは自費用、ひとつは保険用と区別できるのなら峻別は容易ですが。
歯科矯正では、埋伏歯を矯正装置を使うことによって、助けることもやってます。治療内容については、埋伏歯の治療のページをご参照ください。