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ぎいちの戯言 その63:マウスピース矯正


 変なダイレクトメールが来ましたので、出しておきます。

マウスピース矯正

 おそらくは、一般歯科開業医のところに送るモノでしょう。差出人は一般歯科開業医。矯正専門医ではない。調べたみたけど、日本矯正歯科学会の認定医でもない。

 マウスピース矯正のやり方は、十分知ってます。大学の医局にいたときにたくさん作りましたから。でも、マトモに治った症例ってほとんどないなあ。

 マウスピース矯正ねえ。患者さんが希望されれば、材料費だけで作ってあげます。1個、1000円で良いですよ。ただし、治らない可能性が高いことを事前にご了承いただいた方のみです。ただし、動き始めたら何回か作り直さないといけませんので、結構高くなります。

 そうそう、治る症例と治らない症例があります。前歯部開咬や顎偏位症例は100%治りません。軽い前歯部叢生なら、かなりがんばれば治るかも。

 なぜ? 歯が動くときには痛みが出ます。取り外しのできない装置(マルチブラケット装置)なら我慢するしかありませんが、取り外しのできる装置なら無意識のうちにはずしてしまいます。痛みというものは、人間が自分の体に加わった危険を感知する能力ですから、逃げて当たり前です。

「1日8時間の使用で治る。」 → 1日は24時間あります。ふつうの矯正装置は1日の半分以上(12時間以上)使わないと効きません。装置を使っている時間は歯を動くかもしれませんが、装置をはずしている時間に戻ってしまいます。歯並びが戻る原因はいろいろあります。

あと、たとえ治ったとして、その後の保定はどうするのでしょうか? マウスピースを一生使い続けるの?

また、精度の問題があります。マルチブラケット法なら0.1ミリ単位でも歯を動かせますが、マウスピースでは無理です。

大学に在籍しているときに実際に一人一人オーダーメイドでポリウレタンというかなり高級なゴム素材を使って作り、患者さんにお渡ししましたが、マトモに治った人は一つもありませんでした。あ、患者さんと私の根性が足らなかったのかもしれませんが。矯正泉門で開業している人が。なぜ、使わないか?です。

 我々歯科矯正治療だけで仕事をしている人間は、より安全で確実なマルチブラケット法を選択します。治るかどうかわからないものよりも、治る方法を選ぶだけです。

 あと一番最初にも書きましたが、このハガキの文面は一般歯科開業医を対象にしたもののようです。歯科矯正の専門教育を受けていない歯科医に対して、講習会のかたちで変な知識と技術を広める人たちがいます。受講条件に、「矯正専門医、お断り。」って、書いてある講習会もよく見ますね。

 その講習会を真に受けて(矯正専門医なら眉にツバつけながら聞くような内容ですよ)、、患者さんに試してみる(ホント、試してみる感じ)歯科医がいるのです。歯科矯正を専門でやっている人なら、後々のことを考えて治療を始めますが、こういった講習会上がりの人や知識のない人は目先の不正咬合に原因や成り立ちなどを一切考えずに安易に手を出し、メチャクチャにしてしまいます。何でもかんでも拡大とか、なんでもかんでも非抜歯だとか、無茶を理解しない人は無茶ができるのです。患者さんも賢くなってください。

 むか〜し、ある一般開業医が話すのをたまたま聞いて唖然とした発言、「反対咬合ならチンキャップでしょう!」 反対咬合の成り立ちによって、治療方法使用装置はいろいろです。反対咬合→チンキャップというような、ワンパターンではあり得ません。間違った治療方法を選択すれば、治るものも治らないわけです。

 ついでに書いておきます。歯科矯正治療をやっている人の種類。

1)シロート矯正=専門教育を受けていない人。どこかにも書いておきましたが、大学では診断学と治療学はたいした講義をしてません。また、治療の実習はありません。

2)講習会あがり=講習会を受けただけで、できる気になっている人。基礎知識がないので、講習会の講師に簡単にダマされる。

3)大学の矯正の医局に残った人=1月でやめる人もいるなあ。5年残ったら、認定医取るでしょ。ブラケットを使った歯科矯正治療はだいたい2年かかります。後戻りするかどうかは2年ぐらい診るとわかります。ですから、最低4年は一人の患者さんを見続ける必要があるわけで、学会の認定医の修業年限を5年としているのは、それなりの意味があるわけです。

4)学会認定医=大学の矯正の医局に5年以上在籍し、患者さんを実際に診て、論文を書かないとなれない。結構ハードル高い。

5)学会専門医=学会で症例を審査して、判定された人。お金がかけっこうかかる。(ほかにも理由があって、出していない先輩も多くいます。)


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