ぎいちの戯言 その69:「抜かないで治す歯並び」とかいう本が。。。
数年前に東海4県の一般歯科開業医に本を送りつけ、「こんなことをしてはいけない!」と日本矯正歯科学会からおとがめを受けた人が筆者です。
日本人は新聞や本に書いてあると信じちゃう人が多いのですが、患者さんにとって非常に楽で都合のよい本というのは、専門家からしたら眉に唾をつけながら読む本である場合が多いのです。
書くのは自由だし、読むのも自由なのですが、眉つば本を信じ込んだ人に正論を言っても、自分に都合のよいように解釈し信じ込んだ人に常識的な結論を納得してもらうのはすごく大変なのです。
昨日の朝刊にタイトルのような本の広告が出ておりましたので、ちょっと反応しておきます。
結論から言って、抜かないでも治せる症例もあるけど、抜かないと治らない症例もあるだけです。そりゃ、やろうと思えば(無理をすれば)できないことはないですけど、治療後が悲惨な結果になる場合もあります。
下に紹介する症例は上顎前突症(出っ歯)を上下左右の小臼歯4本抜歯して治した症例です。並べるだけなら非抜歯でもできますが、上顎前歯の前突感(前に出た状態)は絶対に改善されません。前歯の前に唇があるわけですから、前歯が後ろに下がらないと口唇も後ろに下がりません。当たり前のことですね。抜歯するかどうかは、歯の大きさ、顎(歯の生える場所)の大きさ、上下顎骨の位置関係。歯のはえている角度、成長のあるなし、など症例分析(診断)によります。あと、本人の希望(抜きたくない、とか)も考慮に入れ決定します。メリットとデメリットを十分に考えて決めるわけです。最初から、「抜かないで治す」という結論があるわけではありません。
以下、症例です。歯を抜かなければ、上顎前歯は後方に下がりませんし、口唇も下がりません。そのことを十分理解して、非抜歯治療をされるなら、それは患者さんの自由ですが、この症例で、「抜かないで治してくれ!」と言われたら、私は治療をお断りします。非抜歯ならきれいな出っ歯になると思いますが、それで治療費をいただくのは嫌です。
抜歯治療の実際
治療前 |
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終了時 | ||
治療前の横顔 |
治療後の横顔 |
治療前後の重ね合わせ(スパーインポーズ) |
治療前 |
治療後 |
治療前後の重ね合わせ |
治療としては、上下左右の第一小臼歯を4本とって、その隙間(スペース)を使って上下の前歯を後ろに下げたわけです。 口唇は上下の前歯によって後ろから支えられておりますから、前歯が後ろに下がると口唇も後ろに下がります。
図の直線は審美線(エスティックライン)と言いますが、これは鼻尖(鼻の先)と下顎の先を結んだ線のことです。この線の内側に上下の口唇がおさまるほうがカッコイイということになってます。芸能人でしまった顔に見えるのはこのタイプです。
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非抜歯治療の実際
非抜歯で治療したため、上下前歯が唇側傾斜(前に出た状態)してます。このため、舌が前方位を取り、上下前歯を押す癖がついてしまいました。
口火エルは前歯が後ろから支えるわけですから、抜歯して再治療したあとは、口唇が後退してます。
治療前 | ||
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治療後 |