舌と下顎(したあご)をつないでいるヒモを舌小帯と言います。
舌が口の中にとどまって、飛び出していかないように下顎骨とつながっているわけです。
なんらかの理由で、このヒモが短い場合があります。舌小帯拘縮症とか、舌小帯硬直症という病名がつきます。
で、病名がつきますと健康保険を使って、簡単な手術(舌小帯伸展術)で治せます。(二千円ぐらいしかかかりません。)小児の医療費補助がある自治体ならばもっと安く治せます。
症状としては、下の写真のように、舌を持ち上げた時にハート形になるのですぐにわかります。発音ではタ行やラ行の発音が不明瞭になり、ゴックン(嚥下)が上手にできないので食事が遅かったりします。舌が上に上がらない(挙上できない)ため、歯の位置にも影響を与え、不正咬合や歯列不正の原因にもなります。
乳幼児では、伸展術をしないでも使っていれば自然に伸びる場合もあるようですが、4〜5歳にもなって下の写真のような状態であれば、言語の獲得の面からも伸展術((ひもを伸ばす手術)と舌のトレーニングをしたほうが良いと考えております。成人してからでは舌の動きが癖になってしまい、治療するのが非常に困難になるのは経験上わかっております。よって、早ければ幼稚園、遅くとも小学生のうちに治したほうが良いと考えております。
多くの小児科医は命に関係ないので伸展術に消極的ですが、滑舌が悪く、歯並びが悪い状態になるのは必至ですので、治せたら治したほうが良いと考えます。
歯並びでは、前歯部開咬(前歯がかみ合わない)、前歯部反対咬合、上顎前突などになる可能性があります。舌が上顎につかないので、上顎の叢生(歯並びのガタガタ)が生じることもあります。
以下に、症例をご紹介します。
初診時:前歯部開咬(前歯がかみ合いません。前から5番目まで噛んでません)。上顎右側側切歯の口蓋側転位(上顎右の前から2番目の歯が後ろに隠れています) | ||
(下の写真の説明) 口腔外科で舌小帯伸展術を施術後、舌のトレーニングをして1ヶ月後の写真です。左側の上下第一乳臼歯が噛んできてます。 ※手術をするまでは正しい舌の動かし方を知らないので、ちゃんと教えてあげたほうが早く治ると思っております。(舌のトレーニングの練習方法があります。) |
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舌小帯伸展術実施、3年11ヶ月後。永久歯にはえかわったところです。上顎左側犬歯が八重歯の状態でしたが、歯科矯正治療は望まれませんでした。 |
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上下の前歯はしっかり噛んでます。 矯正装置はひとつもつかってません。 |
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(下の写真の説明) 変化はかみ合わせだけでなく、上顎の歯並びにも現れています。舌は、内側から歯並びを支えますから、舌小帯が短いことにより舌の運動が制限されればそれだけ歯並びが小さくなります。 |
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上顎右側側切歯(2番)の萌出スペースが足りません。 |
上顎右側乳犬歯(C)が抜けて、スペース(場所)ができたら、舌の力で表側に出てきました。(舌小帯伸展術施術後4ヶ月の写真) 永久歯でこの上の写真の状態になりました。 |
※ちなみに、上に紹介した症例では歯科矯正の装置はひとつも使ってません。歯のはえる環境を整えただけです。(全然儲かりません。)
以前、先輩の歯科医師から「矯正医は、予防というモノをやらない。」と非難されたことがありましたが、う蝕予防だけでなく、こういった歯並びを悪くする環境を変えてゆくのは、りっぱな予防矯正治療だと考えております。
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