襲人が血を吐いて宝玉、びっくりしていますが襲人だってびっくり。ああっ、私死んじゃうのかしら?
動転してしまって他の人まで起こして騒ぎを大きくしそうな宝玉を見た襲人は、青ざめながらも気を持ち直して宝玉を止めます。
「明日薬でも飲めば私は大丈夫ですから、下手に騒ぎを大きくしないで下さい。」
それを聞いた宝玉は、じゃあせめてもと襲人が寝付くまで一生懸命世話しました。
次の日になると、着替えるのももどかしく医者の先生を呼んできてもらい、これこれの症状と説明して薬を教えて貰って自分で襲人に飲ませてあげたのでした。
さて次の日は端午の節句、王夫人は薛家の母娘を呼んで宴を開きますが、宝釵はまだ昨日のことが尾を引いて宝玉の相手をせず、王夫人も金釧児の事で宝玉にはさわらず、黛玉も宝玉が元気がないのは宝釵に相手にされないからだと見ていい気がせず宝玉にかまったりしない。
いつも冗談で場を和ませる煕鳳も、昨日の金釧児の事を知っていたので下手なことを言い出すこともできません。こんなに白けきった状態では他のもの達も楽しめるわけがなく、結局すぐにお開きになってしまったのでした。
ムシャクシャした気分の宝玉、帰ってきて晴雯に手伝ってもらって着替えをしていると、落とした扇子に気づかず晴雯が踏折ってしまいました。普段はそれくらい気にもしない宝玉ですがその日は気が立っていたので少しきつく注意をします。
それを受けた晴雯、出ていくと言い出します。
騒ぎを聞きつけた襲人が間に割って入りますが、襲人まで晴雯に攻撃されてしまいます。
「晴雯ちゃん、遊びに行ってらっしゃい。ここは私たちが悪かったから。」
「私たち?はっ、私、たち、って誰と誰ですか。ずいぶん偉いもんじゃないですか。そうですねぇ、宝玉さまに仕えているのはあなただけですよ!」
言葉尻をとらえて攻撃する晴雯に襲人もあまりの侮辱に真っ青になります。
完全に頭に来た宝玉、王夫人に言って晴雯を追放すると言い出します。っていうか部屋を出ていってしまいます。それを見て晴雯も真っ青になって謝って泣き出しますし、襲人はじめ他の女中達も寛恕を願います。
それを見た宝玉も泣き出してしまいさんざんな様子の怡紅院に、黛玉が遊びに来ました。
晴雯たちはそれを見て出ていったしまいましたが、襲人と宝玉だけが残って黛玉を迎えます。
と黛玉まで襲人と宝玉を見てあなた方とか言い出してきてびっくり。でも襲人を姐さん姐さんと黛玉が呼んで懐くので場の雰囲気が和んで皆泣きやんだのでした。
薛蟠から呼ばれて外出した宝玉、お酒をだいぶ聞こし召して帰ってきました。
と誰かが長椅子で寝ています。襲人だと思った宝玉が近づいて話しかけるとなんと晴雯。
お互い落ち着いて考えると、何であれぐらいで、といった感じだったので、宝玉が一緒に行水しようと持ちかけます。嫌だと晴雯が言うと、じゃあ一緒に果物を食べようと誘います。
晴雯が、自分は扇子を誤って折ってしまうような人間だから果物の用意なんて出来ないと言うと、
「なに、物なんて使うための物だが、それ以外に使ったってかまいやしないんだ。もし壊すのが楽しければ壊してしまえ。ただ、物に八つ当たりだけはしちゃいけないよ。」
それを聞いた晴雯、早速宝玉の扇子を破ります。
それを見て止めに入った麝月の扇子を宝玉が抜き取り、それも晴雯が破ってしまいます。
笑顔を見せる晴雯を見て、宝玉は扇子で笑顔が買えるなら安い物だと喜んだのでした。
湘雲が遊びに来ました。
厚着をしている湘雲を見て、服の話が始まります。
湘雲は他人の服を着るのが大好き。宝玉の格好をして遊んだり、史太君のマントを着て雪だるまを作りに行って思いっきりすっ転んだり…。
話が盛り上がっている所に宝玉がやってきました。
湘雲がお土産があると言い出します。見ると、前に姉妹達が湘雲からもらったことがあった指輪。黛玉が同じ物をお土産にしてもしょうがないでしょうと言うと、
「これは襲人姉さんや、鴛鴦、平児姉さんの分なのよ。」
とのこと。湘雲曰く、
「小者に任せると、あなた達の分ならともかく女中の分はうやむやになって結局届かなくなっちゃうでしょう?」
宝玉がほめると、
「そんなことぐらい、金の麒麟が教えてくれるでしょ!」
と言って黛玉が出ていってしまい、あわてて宝玉が追いかけていったのでした。
王夫人や史太君としばらく話をしたあと、湘雲は翠縷のみを連れて怡紅院へと向かいました。
二人は目に映る物を例に挙げて世の陰陽の講義を始めます。いちいち感心する翠縷ですが、ふと光る物を見つけて駆けていって持ってくると、湘雲が下げている金の麒麟よりも大きくて立派な金の麒麟、でした。
怡紅院に着いた湘雲を迎えた宝玉と襲人、早速例の物を見せてあげようとしますが、あれっ、探しても見つかりません。さてはと気づいた湘雲が、
「そそっかしいですね。はい、これでしょう。」
まさしく探していた麒麟を見た宝玉、さてさて何と言い出したのですやら。
拾った麒麟を見せた湘雲が、
「これが印章だったら大変よ。」
と言うと宝玉、
「印章なんかより麒麟の方が大事ですよ。」
やっぱり宝玉、そう言うと思ってました。
襲人は昔湘雲が史太君の元で栄国邸にいた頃、湘雲付きの女中として働いていました。
今では宝玉付きとしてまめまめしく働いている襲人ですが、湘雲とは仲良しです。湘雲と襲人、宝玉を交えて宝釵や黛玉の噂話に花を咲かせます。お土産に持ってきた指輪を渡したり、また襲人が作りかけの靴(宝玉の)の手伝いを頼んだり…。
そこへ宝玉に賈政からお呼びがかかります。何でも雨村が遊びに来ていて宝玉に会いたがっているとのこと。
宝玉は雨村が気に入らないらしく厭がりますが、湘雲と襲人は二人して、
「勉強が嫌いでも役人の方と面識を作っておくことは良いことですよ。」
と言うと、宝釵もそんなことを言う、自分をわかってくれるのは黛玉だけだ。と言い返して出かけてしまったのでした。
一方の黛玉、湘雲が宝玉の所へ遊びに行っていると聞いて自分も怡紅院へとやってきます。先日宝玉が見つけた麒麟の飾りをきっと湘雲に見せるだろうと思った黛玉は、ついてもすぐに姿を現さず、そっと隠れて話を聞きました。すると宝玉が、自分をわかってくれるのは黛玉だけと言っているところに出くわしました。
嬉しいやら悲しいやら、結局姿も見せずに黛玉が逃げ帰ろうとすると、ちょうど出てきた宝玉に捕まります。
「安心してね。黛ちゃん病気はきっと安心できないからなんだから。」
何もかもわかっているという顔の宝玉、黛玉にそう一言声をかけます。
「何のことだかわからないわ。」
と言ってとぼけて逃げてしまう黛玉。ああ、また逃げられてしまうのかと呆然としてしまった宝玉、扇子を忘れた宝玉を追ってきた襲人を、黛玉と間違えて続きを話しかけてしまいます。
「ああ、僕のこの気持ち、黛ちゃんを思って僕も病んでいるというのに…。」
勘違いしているなと気が付いた襲人、聞かなかったふりをして宝玉をせき立てます。
追い立てたあとの襲人、宝玉の言葉を思い返して自分も呆然としてしまっていると、
「そんな日向でぼーっとしてると倒れちゃうわよ。どうかしましたの?」
と宝釵がやってきました。
襲人とりあえず適当に濁して宝釵をごまかすと、宝釵に湘雲がいるか聞かれます。
湘雲に針仕事の手伝いを頼んだことを言うと、宝釵が顔を曇らせました。湘雲が宝釵にだけこぼしたそうですが、何でも史家では針子を雇えず、自分で全部やっているとのこと。せっかく栄国邸に来たときには休めるのですから、よけいに仕事をさせるのはかわいそうです。
そんな話をしているときに、一人のばあやが叫びながらやってきます。
「金釧児さんが、金釧児さんが井戸に飛び込んで自殺してしまいました!」
それを聞いた襲人と宝釵、驚くの驚かないの。とにかく王夫人の元へと向かう宝釵ですが、うなだれて泣いている王夫人に何とも声をかけにくい…。
実は王夫人、金釧児を追い出しはしましたが本当はしばらくしたら呼び戻して、ちょっとお灸を据えるつもりでした。金釧児は昔から仕えてくれている娘の様な者。それがこんな事になってしまい、あまりの悲しみに物も言えないくらいです。
宝釵は何とか王夫人を慰めます。王夫人も金釧児の親に多額の葬儀代を渡し、死装束を付けようとしたのですが、あいにく新調した服が黛玉の誕生祝い用の物しかないとのこと。あの黛玉の物を回すとまた何かと気を回されてまずかろうと王夫人が言うと、
「私のがありますから、それを使って下さい。」
それを聞いて喜んだ王夫人は、直ぐに女中を付けて宝釵に取りに行って貰います。
宝釵が服を持って帰ってくると、宝玉が王夫人の側で泣いているのを見かけます。それと察した宝釵はあえて話しかけずに王夫人に服を渡し、王夫人はその服を金釧児の親に渡したのでした。
金釧児が死んだと聞いてうなだれていた宝玉、宝釵が来たのを機会に王夫人の所を抜け出したのですが、腑抜けていたところを賈政に捕まってしまいます。
ケース:1
腑抜けた宝玉を捕まえた賈政、雨村との投げやりな態度を注意します。いつもの宝玉なら言葉操り抜け出すのですが、今日はそんな気力もありません。それを見た賈政、最初はただ注意するだけのつもりがだんだんむかついてきてついには本当に怒りだしてしまいました。
ケース:2
そこへ、普段何の付き合いもない家から使者がやってきます。会ってみると、屋敷の役者葵官が消えてしまい、宝玉がどうやらその行方を知っているらしいとのこと。
急いで宝玉を呼び出すと、使者と賈政二人で問いつめます。その時宝玉が腰に巻いていたのは蒋玉函と交換した赤い腰帯。実はその蒋玉函が葵官なのです。しらを切り通せないと悟った宝玉、最後には仕方なく口を割ってしまったのでした。
「勉強しないばかりか、おまえは何をしているのだ!」
ケース:3
使者を見送った賈政ですが、その目の前を賈環と小者たちが走っていきます。
叱りつけると、井戸から死体が上がって来たのでびっくりして走ってきたとのこと。しかも賈環、ここで宝玉が金釧児にすり寄って、断られてぶったところ怒った金釧児が飛び込んだのだとあらぬ事を告げ口します。
あ…あいつは何をやっているのどぅわ~!!
直ぐに宝玉を引っ立てると、小者に命じて宝玉を笞打ちにします。しかし直ぐに手ぬるい!と自分で笞を奪い取りさんざんに打ち付け始めたのでした。
それを聞いた王夫人、取る物もとりあえず急いで駆けつけて賈政にかき口説きます。それでもやめない賈政に、ついには王夫人、宝玉を殺してしまうのならいっそ自分も殺してくれと宝玉に覆い被さり、ついにそこで賈政も笞を離したのでした。
騒ぎを聞いた煕鳳や宝釵、李紈らがやって来ると、王夫人が賈珠が早く死んだ事を悔しがり、今の宝玉の姿を痛ましがって泣いていました。それを聞いた李紈も、亡夫の名前を出されてつられて泣いてしまい、周りも皆泣き出してしまったのでした。
ついに史太君がやってきました。
これはまずいと愛想笑いをする賈政ですが、一蹴されてしまいます。しかも史太君、王夫人と宝玉を連れてこの家を出て行くとまで言い出してしまいます。
何か言うたびに一蹴される賈政、改めて宝玉の姿を見ると、確かにやりすぎてしまったとまさに後悔先に立たず。
皆で宝玉を屋敷の中へ移すと、急いで介抱し始めますがどうも意識もなさそう…、って本当にやばいのでは?
何とも居所のない賈政、屋敷の中までついていくと、
「いつまでいるつもりだい!はっ、この子の死ぬところを見届けようって言うのかい!」
さすがにこれには堪えた賈政、すごすごと帰っていったのでした。
さて駆けつけた人々の中には襲人もいました。
しかしお嬢様方やご主人様達が周りに集まっていて、宝玉の所までたどり着けません。仕方なく外に出ると茗烟を見つけ何があったのか問いただします。
茗烟の方も詳しくは知らなかったのですが、蒋玉函のことと、賈環がいいつけた金釧児の事が理由らしいと聞いてああそうかと納得した襲人、屋敷に戻ると幾分落ち着いたので怡紅院へ運ぼうというところでした。
怡紅院へ運ばれたあともごたごたしていましたが、しばらくすると宝玉の周りも落ち着いてきました。
ここで襲人やっと宝玉の側に近寄ることが出来、心を込めて看病をしたのでした。
襲人がやっと看病を始めると、宝釵が薬を持って訪ねてきました。襲人は宝釵にどうしてこんな事になったのかと聞かれると茗烟から聞いた話をそのまま話し始めます。
と、途中で宝玉が話を遮りました。ちょうど蒋玉函の事に絡んで薛蟠の名前が出たからでした。
宝玉の気遣いに気が付いた宝釵は、自分から兄のことを批判することでその場を納め、襲人に宝玉の看病を任せて帰っていったのでした。
宝釵が帰った後、襲人やその他の女中達は用事などで出払ってしまいました。うたた寝をしていた宝玉、枕元に蒋玉函や金釧児が現れる夢を見ます。
とその中に黛玉が現れたとき最初は幻だろうと思っていました。しかし目を腫らし声を殺して泣いている黛玉を良く見るとそれが本物だと気が付きました。
痛むお尻をかばう宝玉と慰めあっていた黛玉ですが、煕鳳が現れると聞いて逃げてしまいました。
その後も、煕鳳、薛未亡人、史太君の使いのものなどが見舞いに現れたのでした。
宝玉が寝付いた後に訪ねてきた見舞い客を、襲人が接待していると王夫人からのお呼びがかかりました。
何事だろうと思いながら襲人は後のことを麝月らに頼んで王夫人の元へと行きました。話と言っても宝玉の様子のことで、口当たりの良いシロップをもらって帰ろうとする襲人に王夫人は思いだして尋ねました。
「賈環が告げ口したって本当かい?」
知っていましたがとぼけた襲人、逆に宝玉に対する皆の接し方を考え直した方が良いのではと提案します。
その言葉を聞いて、襲人の思慮深さを知った王夫人は、賈珠を失った後の悲しみなどこもごものことを交えて嘆き始めます。
さらに襲人は王夫人に促され、宝玉を大観園から外した方が良いのではないかと提案します。さすがに大きくなった宝玉や黛玉、宝釵らを一緒に住まわして間違いでも起こしたら家名に関わるというのです。
そこまで考えていたのかと感心するばかりの王夫人、何とかしようと約束して襲人を帰らしたのでした。
帰ってきた襲人はちょうど起きていた宝玉にシロップを飲ませてあげます。飲んでみておいしかった宝玉は黛玉のことを思いだしましたが、襲人に注意されてばかりいたのではばかって、襲人を宝釵の所へ使いに出して晴雯にハンカチを持たして黛玉の所への使いにしました。
ハンカチを貰った黛玉、宝玉がいつも自分のことを気にかけてくれていることを思い知り、感情の高ぶりに任せて貰ったハンカチに詩を書き付けました。
ふと気が付いて体が熱くなっているのを知った黛玉が鏡を見るとなんと顔が赤らんでいます。
黛玉はこのころから直しようのない病に冒されていたのですがまだこの時には気が付いていなかったのでした。
襲人は宝釵を訪ねましたが、ちょうど外に出ていていなかったので、手ぶらで帰ってきてしまいました。
宝釵は宝玉が折檻されたのは薛蟠が言いつけたのでは、と思っていました。そこへ襲人までそれを匂わす様なことを言ったため、これはと思って何とかしなければと考えていました。
薛蟠の方では、周りから自分が告げ口したと思われているのに気が付いていましたが何も言えませんでした。
ちょうどその日酒を飲んで帰ってきた薛蟠、薛未亡人、宝釵と宝玉の折檻のことで言い合いになります。自分のせいだと決めつける周りに腹が立った薛蟠は、宝玉を殺して自分も死んでやると騒ぎ出します。
宝釵がそれを止めて諌めると、
「おまえはどうせその首飾りと宝玉の縁があるからと宝玉の事をすぐにかばうのだろう!」
それを聞いて怒った宝釵は泣き崩れてしまいます。さすがに言い過ぎたと気が付いた薛蟠は部屋に引きこもってしまったのでした。
次の日も薛未亡人の所へと向かう宝釵でしたが、途中で黛玉と会いました。
宝釵が目を腫らしているのを見た黛玉、
「涙では傷は治せませんわ。」
さてさて宝釵はこの言葉に何と応えたのでしょうか。
宝釵は黛玉が自分に対してあてこすって言った言葉が聞こえていましたが、敢えて無視して先を急ぎました。
無視されてしまった黛玉ですが、怡紅院の近くで一人花に囲まれてたたずんでいると、たくさんの人が宝玉の見舞いに来ているのに、煕鳳の姿がまだ見えないのが気になりました。
煕鳳と言えば、呼ばなくても現れる口達者というイメージが強いのに、確かに現れないのはなぜでしょう?
すると、史太君、邢夫人や王夫人を助けてやってくる煕鳳が見えてきました。
「ああそうか、親のある人は幸せだなぁ。」
そんなことを考えていると、紫鵑がやってきて薬を飲む時間を伝えに来ました。
少しだるくなっていた黛玉は紫鵑に肩を借りて返りました。瀟湘館に着くと、飼っている鸚哥が黛玉のまねをして詩を口ずさみます。おかしくなった黛玉と紫鵑はともに笑い、餌をやって水を換えてやったりしたのでした。
一方宝釵は梨香院に着くと、薛未亡人と昨日のその後のことを話し始めまた泣き出してしまいました。
宝釵と薛未亡人の話し声が聞こえた薛蟠は、急いで駆け込んでくると、いきなり宝釵に謝り始めました。しかも、今後悪い友達とは付き合わないとまで誓いをたてます。
にわかには信じられない宝釵と薛未亡人、しかもなんだか宝釵の首飾りや着物など気にしだしてなんだか気味が悪い…。
とりあえず落ち着いた二人は、薛蟠をおいて二人で宝玉のお見舞いに行くことにしたのでした。
二人が怡紅院に着くとどうもあわただしく、史太君らが来ている様子。とにかく入って互いに挨拶を交わすと、宝玉に具合を訊ねます。
聞かれた宝玉、前に食べた吸い物が欲しいと言います。
史太君に命じられた煕鳳が早速指示をとばして作らせますが、めんどくさいと嘆いていました。
何でも元春妃が来たときに作った面倒な型を使った料理だそうで、型を見つけるだけでも一苦労。で見つかると少し多めに作らせるように指示しました。
それを聞いた史太君がなぜかと聞くと、
「せっかくだからみんなで食べましょう。」
とのこと。それを聞いて史太君はしっかりしていると笑ってしまいます。
史太君には煕鳳もかなわないという話から、良く喋る人と喋らない人の話が出てきました。史太君は喋る煕鳳もかわいいけれど、喋らない李紈もかわいいとのこと。そこで宝玉が、
「この家のお嬢さん方で喋る人を可愛がると言えば、煕鳳姉さんと黛ちゃんでしょうね。」
というと、
「いやいや、薛未亡人の前でなんだが、私は何と言っても宝釵がここの姉妹達の中では一番だと思うねぇ。」
せっかく史太君に黛玉をほめて貰おうと思って話題に出したのに、宝釵がほめられてしまった宝玉は宝釵に向かって笑いかけました。でも宝釵の方は知らんぷり。
そうこうするうちに食事の時間が来てしまい、皆が帰っていきました。
それを見送っていた宝玉ですが、襲人に言われて窓から宝釵に話しかけます。
「今度針仕事に鶯児ちゃんを貸して下さいな。」
いいですよと言う返事をして帰っていく宝釵達、途中で湘雲も交えて食事を始めます。
宝玉の分を取り分けた王夫人は、玉釧児に命じて宝玉の所へ持って行かせます。一人では大変だろうと思った宝釵は、ちょうど宝玉に呼ばれていたのを思い出して鶯児をつけて行かせました。
怡紅院に着くと、玉釧児を見て金釧児を思いだしてしまう宝玉は、鶯児をのけて玉釧児にばかり話しかけます。
鶯児が気を悪くしてしまってはと思った襲人は、鶯児をお茶を口実に他の部屋に連れていったのでした。
残った宝玉と玉釧児、金釧児のことで宝玉を恨んでいる玉釧児は、最初相手にしませんでしたが、無視しても気を悪くせず何度も優しく話しかける宝玉に根負けしてしまい話をするようになります。
そこで宝玉が料理を取ってもらい、食べ始めますが、
「まずくて食べられないよ。」
といって玉釧児にも食べさせます。あら、別にまずくないじゃない。そうか、私にも食べさせようとわざと言ったんだ、と気が付いた玉釧児、
「まずいんだったらもういらないんですね。」
といったりしてふざけあいました。
宝玉が玉釧児とふざけているところへ、傅家から使いの老女がやってきました。
宝玉は本当は傅家の様な成り上がりのがさつな家は嫌いなのですが、この家にいる【傅秋芳【傅秋芳】〔ふ・しゅうほう〕
成り上がり傅家の麗人。出し惜しみした兄のせいでいき遅れている。】という麗人の噂を聞いていて、ここで老女をないがしろにしてはこの麗人までないがしろにしてしまうと考えて会うことにしました。
使いのものが来たとき、ちょうど食事中だったため、玉釧児は吸い物を持ったまま老女の方を見ていました。宝玉も食事中だったので良く見ないで吸い物を取ろうと手を出してしまいました。
がしゃーん!!
勢い良くこぼれた吸い物、玉釧児は特にかからず、火傷もせずに済んだのですが、宝玉の方が玉釧児を気にして一生懸命確認します。
で自分は大丈夫なの?と確認してみると、あら、火傷してるじゃないの。それを見ていた老女達は噂は本当だったんだと笑って帰っていったのでした。
さてお客さんがみんな帰って行ったのをみた襲人は鶯児を連れて宝玉の所へやってきます。
網袋を編んで欲しいと言うことですが、どんなのがいいかと相談します。とそこへ襲人の食事のお呼びがかかってしまい席を外しました。
鶯児と二人きりになった宝玉、鶯児にいろいろと聞き始めます。と宝釵の良いところは見た目だけじゃないんですという話になったとき、当の宝釵がやってきました。
鶯児の編んでいるものを見た宝釵は、
「せっかく作るのなら宝玉を入れるものを編めば良いではないですか。」
と提案し、色を聞かれて答えてあげると宝玉がすぐに襲人を呼んで用意させます。
呼ばれて慌ててやってきた襲人、王夫人から自分にだけ食事が運ばれてきたと訝しみます。
宝釵がなにやら意味ありげなことを言いますが、先日のことを思い出して深く追求せずにありがたく頂くことにしました。
宝玉に言われて宝釵の言った材料をそろえて持ってくると、宝釵は既に帰ってしまっていました。
そこへ邢夫人から使いのものがやってきて果物を置いていきました。
黛玉にも分けてあげようと思った宝玉は秋紋を呼ぶと、半分を瀟湘館へと持って行かせます。
とそこへ黛玉の声が聞こえてきました。
急いで中に呼び入れるように命じる宝玉ですが、さてさてこの後一体どうなるのでしょうか。
さて宝玉の容態もだいぶ良くなって一安心の史太君ですが、またぞろ賈政が何を言い出すかわからない。そこで賈政付きの小者頭のものを呼び、
「宝玉の回復にはまだ時間がかかるので、自分の客が宝玉に会いたいと言ったからと言って宝玉を呼びつけたりしないように。」
それを聞いた宝玉は喜んで、日がな一日大観園で遊び回っていました。
宝釵などが時々諌めましたが聞き入れず、そういったことを一言も言わない黛玉のことをただただ感心していたのでした。
金釧児が死んで以来、煕鳳の所へあまり付き合いのないものから贈り物が届くようになりました。
意味が分からない煕鳳が平児に聞いてみると、
「金釧児姉さんの後がまを狙っているんですよ。」
とのこと。そうか、勝手に持ってきているだけだから貰うだけ貰っておこう、と決めた煕鳳はしばらくしてからやっと王夫人の所へ相談に上がったのでした。
「別にいいのだけれどねぇ。」
と言う王夫人ですが、決まりだしという煕鳳に仕方なく、玉釧児に姉の分と合わせて二人分あげようということに決まりました。
王夫人は賈政のお部屋(妾)の趙氏と周氏のお手当について訊ねました。
煕鳳がこれこれですと答えると、
「きちんと渡しているよねぇ。」
これまたどうしてと聞き返す煕鳳、何でも一貫文足りないと誰かがぼやいていたとか。
その理由について理路整然と答える煕鳳に薛未亡人も感心するばかり。
王夫人は次いで襲人について聞き始めました。
現在は史太君付きの女中として晴雯、麝月らよりも多く貰っているとのことでしたが、自分の懐からでかまわないから襲人の手当は趙氏、周氏と同じにしなさいというお達し。…つまり襲人を宝玉のお部屋として扱うということですねぇ。それを聞いた煕鳳は薛未亡人に自分もそうするべきだと思っていたと笑いかけます。
ただ正式に妾とするのはまだまずかろうということで、しばらくは今のままとするとのことでした。
王夫人の話が終わって出てきた煕鳳に、何人かが女中はどうなったか気になってでしょう、ご機嫌伺いに近づいていきました。
そういう輩が大嫌いな煕鳳はめちゃくちゃに悪態をついてさっさと帰ってしまったのでした。
宝釵と黛玉、二人で帰ろうと歩いていましたが、惜春の所へ寄りましょうと宝釵が提案します。しかし黛玉は水を浴びたいと断ったので宝釵は一人で行くことにしました。途中で怡紅院に寄ると、宝玉は寝入っており、その側で襲人が払子を置いて刺繍をしていました。
宝釵がいきなり話しかけるとびっくりした襲人ですが、宝釵に席を勧めていろいろと話をしました。
ちょっと用事があるからと襲人が席を外しましたが、その刺繍の見事さに感心した宝釵は襲人の座っていたところにそのまま座って刺繍の続きを始めました。
黛玉の方はといえば、湘雲に、襲人におめでとうを言いに行きましょうと誘われて怡紅院に来ていました。
襲人は何をしているか覗こうと思った黛玉が宝玉の部屋を覗くと、ぐっすり寝ている宝玉の側で虫を払うための払子を脇に置いて熱心に刺繍している宝釵がいるではないですか。
急いで湘雲を呼んだ黛玉、二人とも笑い出しそうになるのを我慢してその場を離れたのでした。
宝釵が刺繍を進めているといきなり、
「金玉姻縁がなんだ!僕は木石姻縁を選ぶ!」
と宝玉が叫んでびっくり。そこへ襲人が帰ってきて、黛玉と湘雲から妾の話があると言われてびっくりしていると言い出します。
宝釵もそれを教えに来たのだと言い、王夫人からもお呼びがかかって、ああ本当なのかと思った襲人は、後を他の者に任せて宝釵と一緒に怡紅院を出て、自分は王夫人の所へと向かいました。
王夫人の話もまさにその事で、帰って来ると宝玉にどうしたのかと聞かれましたがその場は濁して、夜になってから本当のことを教えてあげました。
大喜びの宝玉につい釘を刺してしまった襲人、しまったと思って話を変えてその日は眠りについたのでした。
今日も一日遊び回っている宝玉、ふと前に聞いた詩をまた聞きたいなと思い立ち、梨香院の【齢官【齢官】〔れいかん〕
大観園、子供芝居の小旦。】が上手だと思い出してすぐに頼みに行きました。
ついてすぐに齢官の所へ行って頼みますが、すげなく断られてしまいます。
よくよく見てみると前に「薔」の字を書いていた女の子ではありませんか。
ばつが悪くなった宝玉がすごすごと帰ろうとすると、賈薔が慌ててやってきました。手には鳥かごを持ち、珍しい鳥が入っています。
宝玉への挨拶もそこそこに齢官の部屋に入る賈薔に興味を持った宝玉は、中の様子を覗きます。
「ほら、珍しい鳥だろう?」
「この屋敷では人を買って芸を仕込んでいるというのに、
その私にそんな鳥見せるなんてなんて人でしょう!」
「えっ、すまない、気が付かなかった。すぐにこの鳥は逃がしてあげるから。」
…やっと「薔」の字の意味が分かった宝玉、一人呆然と怡紅院へと戻ったのでした。
怡紅院へと戻ると、襲人は黛玉と話をしていました。
齢官と賈薔の様子を見て、女の子を独り占めできないことをやっと悟った宝玉は気が抜けてしまっています。
何かあったんだろうと悟った黛玉はあえて深く追求せずに薛未亡人の誕生祝いをどうするか訊ねました。
行きたくないと言う宝玉を襲人が何とか行かせようと説得しますが、黛玉が脇から、
「せっかく虫を払ってくれた方のためにも出席しなくてはねぇ。」
どういう意味かと訪ねる宝玉に説明する襲人、
「じゃあ明日は出席しますよ。」
そこへ湘雲がやってきて、もう家へ帰るとのこと。黛玉、宝玉、後から来た宝釵も加わって寂しがりますが、湘雲の家人が側にいるのを見た宝釵は、ここで下手に渋ると後で湘雲が告げ口されて叱られてしまうと気付き、皆で送ってあげることにしました。
門を出てしばらくすると、湘雲が宝玉を手招きして呼び寄せます。
「もしおばあさまが私のことを忘れてても、あなたの方から言って、私をちょくちょく呼んで下さいね。」
了解した宝玉、約束すると湘雲は自分の家へと帰っていってしまったのでした。
いろいろあった一年ですが、宝玉にとって最高の出来事が起こりました。
な、なんと賈政が遠方の地に赴任することになったのです。今で言うところの単・身・赴・任。
これが宝玉、嬉しくないはずがありません。もう日がな一日誰の目も気にすることなく遊び回っていました。
そんな時、探春が風邪をこじらせてしまいました。
一応使いのものを出してお見舞いはしていたのですが、自分で足を運ぶ前に探春の方から使いに【翠墨【翠墨】〔すいぼく〕
探春付きの女中。】が来てしまいました。
探春が手紙を書いてきたので読んでみると、ぜひ集まってほしい、詩会を開こうではないか、というのです。
それは良い考えだ!
乗り気の宝玉は翠墨とともに秋爽斎へと向かいます。と、途中で賈芸の手紙を渡されてしまった宝玉、見れば二鉢の白海棠をくれるというので貰っておきます。
秋爽斎に着くと、既に迎、惜春、黛玉、宝釵が集まっていました。早く始めようとせかす宝玉ですが、李紈がまだ来ていなかったのでもうしばらく待ってから始めました。
集まったものたちはみな乗り気でしたが、李紈、迎春、惜春はあまり詩を作るのは得意ではありません。そこでもっぱら詩を作るのは宝玉、黛玉、宝釵、探春の四人に任せることにして、李紈が会長、迎春がお題を決める係、惜春が浄書と試験監督を務めることになりました。
皆の号も決まったことだし、じゃあ早速稲香村へ行って始めましょうと急かす宝玉ですが、
「今日は相談だけにしましょうよ。」
といわれてしまいました。定期的に開くことにしようということになりましたが、最初は発起人である私がやりたいという探春の希望で結局最初は秋爽斎ですぐに始めることになったのでした。
お題は何にしましょうか、ということになって、ちょうど李紈が来る途中で白海棠(賈芸からの贈り物)を見たというのでそれをお題にし、韻を決めてそれぞれが作り始めました。
一番に作り終わったのは探春。続いて宝釵。時間切れ間際に何とか書いた宝玉でしたが、とにかく見てみるとやっぱり宝釵のが一番良い。あれ、黛玉は、といわれて特に考える風もなくさらさらさらっと書き上げてしまいます。
とにかく誉めまくる宝玉ですが、今回は結局宝釵のものが一番ということに決まりました。
さて第一回目が終わって、皆でこの詩会の名前を付けましょうということになりました。一回目のお題が海棠だったのだから海棠詩社にしましょうという探春の案が入れられ、この大観園の詩会が結成されたのでした。
さてここは怡紅院、宝玉から湘雲への贈り物を頼まれていた襲人が、その準備をしていました。
宝玉にいわれていた器を探しますが見つかりません。他の者に聞いてみると探春のお見舞いに持って行ったままだとのこと。早速取りに行って貰おうとしますが、秋紋が先日史太君と王夫人に使いをしたときにいいことがあったという話をし始めます。王夫人の所へも使いを出そうとしていたところだったので、晴雯が一番に名乗りを上げて行ってしまい、結局秋爽斎には秋紋が行って来ました。
帰ってきて宝玉の様子を聞かれた秋紋、湘雲の所へ使いに出す老女の前で詩会を作っていたことを話してしまいました。
宝玉、帰ってくると襲人に湘雲への贈り物は手配したといわれて、
「そうだ!雲ちゃんが足りないじゃないか!」
といってすぐに栄国邸へ呼ぼうとしますが、襲人にあちらも大変だからと止められて一旦は諦めました。
しかし使いの老女が帰ってきて宝玉の様子を聞かれて詩会を開いているといってしまったため、悔しがっている湘雲のためにも早速史太君にお願いして湘雲にも来て貰ったのでした。
やってきた湘雲に早速お題を知らせて一つ作って貰います。一つといわず二つも作った湘雲、皆にいい出来だと誉められ、次は自分が開きますからねと約束して散会しました。
宝釵の所に泊まった湘雲、自分の案を宝釵に品定めして貰いますが、宝釵から見ると用意する料理や飾りにかかるお金が多すぎてどうも湘雲には荷が重そう。
その事をはっきり教えてあげると、納得した湘雲、ではどうしましょうと相談します。
自分の家に蟹が届いている事を教えてあげると、この蟹をメインにまずは史太君達も呼んで宴会を開くので、詩会はこの宴を散会した後に開くようにすればどうだろうか、と提案します。
それはいい案だと喜ぶ湘雲、では次はお題はどうしましょうかということになりました。
最初が海棠の花がお題だったので、次は菊の花がいいのではないかということになりましたが、菊のお題は今までに多くの人が使ってきているので何か一工夫しよう!ということで菊にちなんだ題を作ってその題で好きなものを作ることにしました。
二人で十二個の題を作った宝釵と湘雲、明日はこの中から好きなものをそれぞれが作って十二の詩集作ろうと決めると、その日は眠りについたのでした。
さて次の日、湘雲が早速史太君らを招待すると二つ返事で出席するとの事。王夫人らも誘われて皆で集まり景色を愛でながらの宴会となりました。
張り切る湘雲は、慣れないのだからと止められるのも聞かずに給仕に走り回ります。
仕事を取られた形の鴛鴦、平児ら女中の面々は、煕鳳の許しを得て自分らだけで別の卓を作ることにしました。
しばらくして、盛り上がってきた鴛鴦達の所に煕鳳がやってきました。
「あら、なんのご用でしょうか?たまには私たちにも楽しませて下さいな。」
「なぁに、私にそんな口をきいて。そういえば内の旦那があんたを妾にしたいんだって言ってたわねぇ。」
「まあ、そんな事したら平児ちゃんに焼き餅妬かれちゃうわ。」
それを聞いた当の平児、手にしていた蟹を擦り付けてやろうと身を乗り出したところを避けられてしまい、何と主の煕鳳の顔にべっちょり。
「ちょっとあんた酔っぱらってなんてことするの!」
周りにいた人たちは大笑い。平児は謝ると急いで顔を拭き、湯を持ってきたのでした。
余所から笑い声が聞こえてくるのが気になった史太君が見に来ると、お腹を抱えて笑っていた鴛鴦、
「若奥様が私たちの分を食べちゃうものですから、怒った平児と喧嘩になったんです。」
やれやれと笑った史太君、煕鳳の分を用意してやって顔を洗ってきた所にすすめてやったのでした。
あらかた食べ終わった面々はそれぞれ花を見たり水遊びをしたりしていましたが、史太君らが帰宅するのに合わせて詩会の準備をはじめました。
用意された十二の題と、今回の決まりを聞いた面々は口をそろえて、
「目新しく良い案です。でも難しそうですね。」
しばらくは、黛玉は窓際で釣りを、宝釵は水辺でぱらぱらと花を投げ込み、湘雲は襲人ら女中達に振る舞っていました。宝玉は当然の事ながらあっちでふらふらこっちでそわそわしています。
すると、黛玉が胸が痛むので熱い焼酎を飲もうとしたところに宝玉が寄ってき、それにつられるように宝釵も酒を一口飲むと筆を執って一番目の題「菊を憶う」に印を付けました。
「ねえねえお姉さま、僕二番目は半分出来てるから取らないで。」
「まあ、私だってまだ一つ出来たばかりなのにせっかちね。」
続いて黛玉、何も言わずに「菊に問う」「菊の夢」の二つに印を付けます。
やっと宝玉が「菊を訪う」に印を付けると探春がやってきて、
「「菊を簪す」は誰もやらないのかしら。じゃあ私が作らせて頂きますね。」
湘雲も「菊に対す」「菊を供う」の二つに印を付けますが、さて湘雲にだけ雅号が無いことに気が付きます。
皆は大観園内の邸の名前から雅号を付けていたのですが、あいにく湘雲は住んでいません。そこで史太君が昔実家で使っていたという邸の名前から付けることにすると、早速宝玉がその号で印を付けたのでした。
何とか十二の詩が揃うと迎春に集められ、清書して張り出されました。
十二の詩を見比べた李紈、
「どれも秀作ですが、一番は「菊を詠ず」、次いで「菊を問う」「菊の夢」で、この三つを作った瀟湘妃子(黛玉)が第一席だと思います。」
これを聞いた宝玉は大喜びです。
この後しかし、と黛玉が自分の作品を批評しはじめたのをきっかけに皆がそれぞれの作品の批評をはじめます。
やっぱりこの面子では最下位になってしまう宝玉が唸っていると、
「いえ、あなたのも良い出来ですが、他のがそれより良かっただけですよ。」
と李紈に言われてしまいました。
詩の発表も終わってまた蟹を並べて皆で食べはじめると、宝玉が蟹と桂花で一首作り披露しました。
それを見た黛玉笑って、
「そのぐらいだったらすぐにたくさん作れるわ。」
と言い、宝玉にせがまれて一つ作りますがすぐに破ってしまいました。
「駄目ね、あなたの詩の方が良いわ。その詩ならさっきの菊の詩より良い出来ですからとっておきなさいな。」
その後を受けた宝釵が自分も一首出来たのを詠んで見せると、
「大作とはこういうのを言うんですね。僕のも破り捨てなくちゃだめだ。」
皆で感心していると、そこに平児が再びやってきました。さてさていったい何の用事なのか。
さて平児がやってきて言うには、
「煕鳳様が、蟹が残っていたら少し分けて下さいとの事なんですが。」
承知した湘雲が十匹ほど用意すると、李紈らが平児を押しとどめて先に蟹だけ届けさせてしまいました。
使いのものが返ってくると、お返しの品と飲み過ぎるなとの平児への言づて。許しが出たなら、とすすめられるままに飲み食いしはじめる平児に、
「あなたもまるで奥様、若奥様って風情なのに、生まれあわせが悪くて人に使われる身なんて。」
と李紈が言えば続いて宝釵も、
「本当に、この邸には百人に一人といないような出来た人ばかりですわ。」
史太君の所の鴛鴦が上がれば王夫人の所の彩霞もなかなか、そして何よりかにより宝玉の所の襲人。各部屋の女中達を誉めていると、
「私の所にいた女中達も旦那が亡くなったときに暇を出してしまいましたが、残していれば私のために役に立ってくれていたでしょうに…。」
李紈が泣き出してしまい、そのまま散会することにしたのでした。
帰りしなに襲人が平児にふと尋ねました。
「今月のお手当はいつ出るのでしょう?」
とそれを聞いた平児、
「これは他言無用ね。実はいま煕鳳様が人に貸し付けて利子を取っているので、それが返ってくるまで待って欲しいの。」
「ずいぶんな言いぐさね。人のお金で儲けようなんて。」
襲人も別に急ぎでお金が必要だったわけでは無かったので冗談で平児を責めていると、煕鳳からの使いがやってきたので平児は挨拶すると急いで返っていきました。
平児が返ってきてみると、劉ばあさんが【周奥さん【周奥さん】〔しゅう・おくさん〕
周瑞の妻。】らに相手して貰って遊びに来ています。
前回の無心のお礼にと初物を届けに来たのでした。遅くなっては、と思った劉ばあさんが帰ろうとしたので周奥さんが門の方を見に行くと、史太君がおばあさんのことを聞いてぜひ一度会いたいとのこと。
縁が出来たと喜ぶ周奥さんですが、劉ばあさんの方はあまりのことにびっくりして逃げようとする始末。で仕方ないので平児がなだめて連れていきます。
史太君の所へ着くと、史太君以下賈家のお嬢様連もそろっていました。機嫌の良い史太君が田舎の話をせがむと、次から次へといろいろな話を話して聞かせる劉ばあさんですが、さすがに内容が作り話になっていきます。
雪の夜に薪を盗む娘の話(作り話)をしていると、邸の一部でぼや騒ぎが起こりました。
ところが薪の娘のことが気になる宝玉は、ぼやは無視して劉ばあさんに話の続きをせがみます。でも史太君が薪の話をしていたからだとその話はさけて次の話にすすめてしまったのでした。
劉ばあさんが話を続けていましたが、探春が湘雲へのお返しの詩会を開こうと宝玉に持ちかけます。宝玉が雪が降ったときに開こうか、と言ったのを聞いた黛玉がさっきの話にかけて冗談を言うと、周りのものは笑ったというのに宝玉だけは笑いませんでした。
劉ばあさんの話が終わって皆がそれぞれ帰ろうとしたところ、宝玉がさっきの話の続きを聞きに寄っていきます。
宝玉に色々つついて聞かれた劉ばあさん、元々作り話のさっきの話に尾鰭がついて幽霊の仕業だったということに落ち着いてしまいました。
それをすっかり信じ込んだ宝玉、劉ばあさんにいわれや祠などについて詳しく聞くと、次の日茗烟を現地に派遣し祠を修理してその娘さんの霊をまつりろうと考えました。
茗烟が帰ってくると、話とは全然違うところにそれらしい祠を見つけてきました。…・て作り話なんだから言われたところに本当にあるわけはないわな。
聞かれるままに見てきたものを話す茗烟ですが、宝玉の望むようなものではなくがっかり。また今度探してみてくれと茗烟をなだめてお願いしていると取り次ぎのものがやってきました。
史太君の所の女中がやってきて宝玉を呼んでいるとのこと。いったい何の用事なでしょうか。
急いで行ってみると、そこにいたのは史太君の所の【琥珀【琥珀】〔こはく〕
史太君付きの女中。】。
「急な話があるそうなので急いで下さい。」
宝玉が急いで出向くとそこには王夫人をはじめ姉妹らが集まっていました。
「湘雲への返礼の宴会を考えよう。」
それならばと宝玉は、細かいことを決めたりせずに一人一人が好きな料理を一品ずつ持ち寄って湘雲へのお返しにしようと提案し、史太君らもそれはよいと賛成したのでした。
次の日も朝早く、李紈はばあやや女中を指揮して宴会の準備を進めていました。
とそこに豊児が劉ばあさん、板児を連れてやってきました。
「すいませんがこの鍵を使って二階の倉から机を用意するようお願いします。」
了解した李紈は【素雲【素雲】〔そうん〕
李紈付きの女中。】に持たせて倉へと向かいました。
「一つ一つ大事に運ぶのよ。ほら、慌てないで、縁をぶつけないように!」
小者達の指揮をしていた李紈、劉ばあさんに倉の中を見てみないかと勧めます。
待ってましたとばかりに板児を連れてのぞきに行った劉ばあさんですが、何がなにやら良くわからなかったもののとにかく高そうな物がいっぱいあるということだけは認識して念仏を唱えながら戻ってきたのでした。
鍵も閉め終わって戻ろうかとした李紈でしたが、
「史太君が舟に乗りたがるかもしれないわね。」
と思いまた倉を開けて舟を準備させました。
あれやこれやと忙しく準備していると、もう史太君が来てしまいました。
史太君はと見ると本当に今日の催しを楽しみにしている様子。そこへ【碧月【碧月】〔へきげつ〕
李紈付きの女中。】が鉢にたくさんの菊の花を持ってやってきました。
それを見た史太君、一つ手に取ると自分の鬢に刺しました。
劉ばあさんにも一つすすめると、待っていましたとばかりに煕鳳が進み出てやたらめったら刺してしまい、周りのみんなはもう笑い転げるばかり。
皆が煕鳳を責めて劉ばあさんに取るように勧めますが、茶目っ気たっぷりの劉ばあさん、ポーズを決めたりなんかしてさらに笑いをとる!のでした。
大観園内をまわって行きますが、危ないから、と手を引こうとした琥珀を、劉ばあさんは大丈夫と断りました。…と行っている側から、
ほらっ、スッテ~ン!
転びました。
惜春が絵がうまいと聞いて庭の絵を頼んだり瀟湘館へ遊びに行ったりした史太君ら一行、舟の用意があると聞いて乗りに行きます。
朝食の準備をするために分かれた煕鳳、李紈、鴛鴦らですが、
「劉ばあさんって面白いですわね。」
「からかっちゃおうか?」
「そういうことはやめなさい。」
…どれが誰の科白でしょう?それはさておき準備が終わった頃には史太君らも舟から上がり食事にやってきました。
鴛鴦が早速劉ばあさんを呼んでこれこれと言い含めると、合点した劉ばあさん席に着きます。
皆が席に着き食事がすすめられると、やにわに立ち上がった劉ばあさん、
「劉のばあさん大食らい、かぶりついたら脇目もふらぬ。」
といったきり頬を膨らませ何も言わずに座ってしまいました。
ただじゃすまなかったのはそれを見ていた周りの人。
・湘雲は口の中のご飯を吹き出す
・黛玉は笑いすぎて息が詰まる
・宝玉は史太君の膝元に転がり込む
・史太君は宝玉を抱えて大笑い
・王夫人は煕鳳を指さして言葉が出ない
・薛未亡人は口の中のお茶を探春の裙に吐き出す
・探春はご飯茶碗を中身ごと迎春にぶちまけ
・惜春は乳母にお腹をさすってもらう
有り様…。
笑いも落ち着き何とか食事を終えたみなさん。奥の間に入って世間話を始めます。
鴛鴦と煕鳳は劉ばあさんに悪意があってしたわけではないのと謝ります。
劉ばあさんの方もうけたので気にしておらず上機嫌です。と珍しいものばかりではしゃぎまわる板児、劉ばあさんに怒られてます。…いや、劉ばあさんも十分にはしゃいでると思うけどなぁ。
遠くから聞こえてくる楽の音に、邸で雇っている子供役者達を呼ぶことを思いついた史太君は、また別の亭で音を楽しむことにしました。
用意してある舟に乗って、遠く聞こえる音色に耳を傾ける…、風情があっていいですねぇ。
蘅蕪院が見えてくると史太君はいったん降りて少し休むことにしました。
入ってみると何とも…って物が全然ないじゃないですか。宝釵に聞くとどうもそういった物にあまり興味がないとか。
それじゃいけませんよと史太君は鴛鴦らに後日置物や掛け軸を飾り付けるように命じたのでした。
またしばらく舟に揺られた後、皆で酒令をする事にしました。
鴛鴦を読み手にして、読み手が三回引いた牌で詩を作っていくゲーム。
史太君、薛未亡人、湘雲、宝釵、黛玉、とやった後、迎春がとちりました。
この迎春の失敗、鴛鴦と煕鳳があらかじめ頼んでおいて、次の劉ばあさんをリラックスさせてもっと面白いことを行って貰うために仕掛けたもの。
迎春のおかげでリラックスした劉ばあさん、一回口を開けば皆が大笑いするという案配で存分に楽しんだのでした。