皆を笑わせ存分に楽しんだ劉ばあさん、酔いが回ってうっかり椀を取り落としてはまずいから、と木製の椀を貸して欲しいと申し出ます。
それなら、と煕鳳が早速豊児に命じて邸の竹製の杯セットを取ってこさせようとすると、鴛鴦が進み出てきて自分が史太君の所にある大杯を持ってきてあげます、と言い出しました。
自分としては冗談のつもりで木製の椀が欲しいといいだしたのに、よりによって大杯を持ってくるといわれた劉ばあさんおどおどし出してしまいます。
見かねた史太君や王夫人は劉ばあさんにつまみを取り分けてあげて煕鳳らにも少し控えるように釘を刺します。
酒の合間に頂いたつまみがおいしかった劉ばあさんは、ぜひ自分も帰って作ってみるかいと作り方を聞きますが、あまりの手間暇と無駄遣いにあきれるやら感心するやら、で自分で作るのは断念したのでした。
子供役者らが待っている亭へとたどり着いた一行は、皆で思い思いに楽しみはじめました。
と、王夫人のお酒が切れたのを見た宝玉は自分の分を注ぎに移動します。
宝玉に貰った王夫人は、頼んでいた追加分を持って皆の所を注ぎに回り始めました。
年長者である王夫人がその様なことを仕始めると落ち着かないのは煕鳳や李紈といった者たち。それに気づいた史太君は王夫人を押しとどめて煕鳳らに任せるように言い含めます。
その時劉ばあさんの様子を何とはなしに見ていた宝玉、面白いことに気が付いて黛玉の側にやってきました。
「ほら、劉ばあさんお酒と音楽で踊りだしそうだね。」
「昔、舜の楽で獣達が踊りだしたというけれど、今はお牛が一匹きりなのね。」
それを聞いた周りの姉妹達はまた劉ばあさんで一笑いしたのでした。
だいぶん飲み過ぎた史太君達は、酔い冷ましに散歩に出かけます。
しばらく歩いて劉ばあさんの的外れな驚き方を見て心和ましていた史太君らの所に、小女たちがお菓子を持ってやってきました。
お菓子を見るとどうも油物ばかりで、皆あまり食が進みません。がこんな物は珍しくてしょうがない劉ばあさんと板児は出てきた物を片っ端から食べてしまい、結局は片づけることが出来たのでした。
そこへ乳母が大姐児を連れてやってきました。
大きな柚子をおもちゃ代わりにしていた大姐児ですが、板児が探春の所で貰ってきていた仏手柑を手にしているのを見て自分も欲しいとだだをこね始めます。
泣き出しそうで、取りに行っている暇がないと見た周りの者は急いで大姐児の柚子と板児の仏手柑を取り替えて(板児も仏手柑に飽きていた)事なきを得たのでした。
櫳翠庵へと行くことに決めた史太君は、仏前には上がらずに縁側で妙玉に茶を点てて貰います。
史太君は劉ばあさんにも一口飲ませますが、その時の一言でまた失笑を買った劉ばあさんでした。
史太君らが自分で茶を点てて飲み出すと、妙玉が宝釵と黛玉を連れて奥へ行くのを目にした宝玉はすぐさま後をつけていきます。
奥の一室で別の茶を楽しんでいる三人を見た宝玉はすぐに入っていってお相伴に預かります。
とそこを道婆が通りかかった時、
「その茶碗は片づけずにそこに置いておいて。」
と妙玉が言うのを聞いた宝玉は、
(あれはさっき劉ばあさんが使ったやつだな。)
と気が付きますがここは黙ってお茶を頂くことにします。
「今日は宝釵さんと黛玉さんだけに差し上げるつもりだったのに、あなたも飲めるのはお二人のおかげですよ。」
と妙玉が言うと、
「そうですね。それじゃぁお礼はあなたではなく宝釵姉さんと黛ちゃんに言うことにしましょう。」
見事宝玉に切り替えされた妙玉でした。
堪能した三人は妙玉の元を辞する事にしました。
出ていき際にそっと耳打ちした宝玉、
「どうせあの椀を捨てるのでしたらいっそ劉ばあさんにくれてやってしまいなさいな。」
了解した妙玉は宝玉に預けると、帰りに持たせることにしたのでした。
櫳翠庵を出た一行はさすがに疲れが見えた史太君、薛未亡人が離脱して人数が減ってしまいました。
王夫人も横になって一休み仕始めてしまい、残ったもの達は劉ばあさんを連れ回して遊ぶことにします。
また皆に知らず知らずにからかわれる劉ばあさんですが、物珍しさの余り飲み食いしすぎて腹を下してしまいました。
ばあやの一人に頼んで便所へ連れていって貰ったのですが、そのばあやが劉ばあさんを置いて遊びに行ってしまい自分がどこにいるのかわからなくなってしまいます。
わからないままに歩き出す劉ばあさん、一つの邸に紛れ込んでしました。
小女を見つけたと思って話しかけると掛け軸の絵だったり、いかれたばあさんを見つけたと思ったら鏡に写った自分だったり…と楽しんだ(?)劉ばあさんは寝台を見つけて眠りこけてしまったのでした。
困ったのは襲人達の方。用を足しに行ったはずの劉ばあさんが帰ってきません。
行きそうな所を手分けをして探しに出ますがなかなか見つからず、ふと気が付いた襲人が便所から怡紅院へと向かいます。
怡紅院へ着いても誰もいないののを見た襲人は、やれやれ小女たちは…と溜息をつきますが、気を取り直して見回りを始めます。
するとなんと寝室方から天をも揺るがす大いびきが聞こえて来るではないですか!
慌てて揺り起こす襲人、何事もなかったかのように後を整えると劉ばあさんに、
「おばあさんは庭石の上で寝てたのよ。いい、間違っちゃでめですよ。」
と釘を刺して皆の所に戻ったのでした。
あとであそこが宝玉の部屋だったと聞いた劉ばあさんもうびっくりたまげてしまったのでした
皆がそれぞれに散会して部屋に戻った後のこと。
劉ばあさんがさすがに明日にはもう帰りますと煕鳳に告げにやってきました。
「劉ばあさんといるのが楽しくて、史太君や大姐児が体調を崩しちゃったわ。」
などと煕鳳が冗談を言うと、
「確かに、内ら田舎者の子供とは違って上品だでなぁ。」
と劉ばあさんがうなずきます。もしや何か悪い神様のせいではと思い当たった劉ばあさんが調べてみるように言ってみると、彩明に調べさせた煕鳳、確かに悪い神様に当たったみたいだと思い当たり、
「さすがおばあさん、年の功ですわね。」
というとすぐに紙銭を求めさせて供養したのでした。
あまりに大姐児が病を呼び込みやすいのを気にした煕鳳が劉ばあさんに大姐児の名前を考えてくれと頼むと、
「七月七日生まれとは良くないですなぁ。では巧哥児(巧は七月七日に通している)と名付けて禍をもって禍をけすのはどうでしょう。」
といい、煕鳳もまた、
「おばあさんの様に苦労して長生きしている方にこの様に名付けて貰えればこの子の事も安心できますわ。」
と喜んだのでした。
どうも気分が優れない史太君は医者を呼んで見て貰うことにしました。
医者の見立てではただの風邪で二、三日安静にしていれば治るとのこと。診察が終わり医者が帰ると王夫人や煕鳳、宝玉らが見舞いに来て、また劉ばあさんも暇乞いにやってきたのでした。
鴛鴦や平児にたくさんのお土産を持たされた劉ばあさん、こんなに良いことばかり続いてどうしたことだろうと怪しみながら皆にお礼を言いつつとうとう帰っていってしまったのでした。
食事と見舞いが終わって帰ろうとする黛玉を、宝釵が呼び止めてある部屋へと連れていきました。
何だろうと怪しむ黛玉ですが宝釵に、
「酒令の時にあなたが使った句は、何から引用しなさったのかしら?」
といわれて、しまった!と気が付きます。
ついうっかり使ってしまった句、実は西廂記から引用したものだったのです。
とぼけたり泣きついたりしてごまかそうとする黛玉に宝釵は、
「私とて、あの手の本なら読んだことぐらいあります。でもね、あなたのような人があのような本を読んで変な影響を受けてしまうのでは、いっそのこと勉強なんてしない方がましというものですわよ。」
そういわれてつくづく納得する黛玉だったのでした。
そこへ素雲が二人を呼びにやってきました。
何だろうと行ってみると、惜春の史太君に命じられた観内の絵を描くための、詩会の休席についての話し合いでした。
この姉妹らにとっては劉ばあさんはどこの馬の骨ともしれない人物。惜春も大変ねぇと慰めつつ黛玉は劉ばあさんにあだ名を付けます。
そのあだ名を聞いた皆は大笑い。しかも宝釵まで、
「煕鳳姉さんは学問は得意でないので俗語で笑いを取りますが、黛ちゃんは容赦ありませんね。」
とまで言ってほめたのでした。
とにかく休みをどれくらい取らせようかという話に戻ったのですが、やっぱり黛玉がチャチャを入れて話は進みません。
しかも笑いすぎた湘雲が椅子から転げ落ちてしまいます。
急いで宝玉が助け起こしに行くと、それとなく黛玉に目配せをしました。
気づいた黛玉はさりげなく奥へ入って鏡台で解れた鬢を直して戻ってくると、
「あなたも一緒に笑ってないで話を進めなくちゃ。」
と李紈を指さして言い放ったのでした。…あんたがチャチャを入れなきゃ良いんじゃないかなぁ、黛ちゃん。
宝釵の提案で惜春の休席は半年となり、表に出たり人と合ったりが一番自由な宝玉が助手として付いて、わからないところや難しいところを他の人に聞いて来る役になりました。
宝釵が、必要になりそうなものを一つ一つ宝玉に書き留めさせていると、また黛玉のチャチャが入ります。
「味噌や生姜が必要なら鍋も必要じゃないかしら?」
「別に味付けに使うのでは無くて絵を描く道具に使うんですよ!」
といった会話があったかと思えば、
「ねえ探ちゃん、宝釵姉さんまるで嫁入り道具の目録を作っているみたいね。」
なんて言い出したり。
こんな黛玉をとっちめながら宝釵が作り上げた目録を、宝玉が預かっておいて日を選んで史太君に届けてそろえて貰うことにすると、そのまま皆で史太君の見舞いへと向かいます。
史太君の病気もただの風邪だったらしく、その後順調に回復へと向かったのでした。
劉ばあさんも帰った後の栄国邸、王夫人が単身赴任中の賈政に届け物の準備をしていました。
と、史太君からお呼びがかかります。何事かと行ってみると、もうすぐ煕鳳の誕生日なのでお祝いの準備をしようとのこと。
史太君には一つ案があり、皆でお金を出し合って大きなお祝いをしてやろうと提案します。
王夫人の賛成を得られた史太君は、早速屋敷中の者を集めてお金を集めることにしました。
史太君、薛未亡人、王夫人、邢夫人、尤氏ときて、李紈がお金を出そうとしますと、寡婦である李紈には出費はつらかろうと史太君が肩代わりしようとします。
するとそれまで黙っていた煕鳳が、
「李紈姉さまの分は私が出しますわ。おばあさまにあまり出させては後で私恨まれてしまいますもの。」
李紈の分は煕鳳が、宝玉の分を王夫人が、黛玉の分は邢夫人が、宝釵の分は薛未亡人が出すことになり、女中やばあやらもおのおの出せる範囲で出すことにしました。
「お部屋さまたちにもお声をかけた方がよろしくないかしら?」
煕鳳に言われて気が付いた史太君が使いの者を走らせます。
「これだけ集まったのにまだ欲しいのかい?」
尤氏に突っ込まれた煕鳳は、
「どうせ金があったって、何に使うか知れやしないんだから、私らで使わして貰った方が良いのよ。」
それぞれの額を書き出させると、集まるお金はかなりのものになりました。
尤氏を世話係に指名した史太君は、その日を楽しみにしながら散会させたのでした。
煕鳳の所に相談に行った尤氏ですが、まあがんばりなさいなと素っ気ない煕鳳。次の日になってお金を集めに煕鳳の所によると、
「これだけあるなら私が出す分なんていらないじゃない。」
「まぁ、あれだけ気前の良いこと言っておいて何でしょこの態度!」
確かにたくさんあったので、平児や彩霞、二人のお部屋さまらにも返してやり、史太君の好みを相談したついでに鴛鴦にも返してあげたのでした。
さて当日です。
この日はちょうど海棠詩社の定期詩会の日でもありました。
誕生祝いの前に詩会を開こうと集まる姉妹達ですが、宝玉の姿が見あたりません。
使いを出しても埒があかず、襲人を呼んで聞いてみると北静王の側室が亡くなってどうしても出かけなくてはいけなくなってしまったとのこと。
それでは仕方ないかしらと納得した李紈らは、宝玉には帰ってきたら罰として何かやらせることにして初めてしましょうと相談し始めます。
とそこへ史太君からお呼びがかかり、皆で参上すると宝玉がいないことに気が付いた史太君が急いで使いを走らせて呼び戻すように言ったのでした。
問題の宝玉、前日の内に茗烟に言いつけて馬を用意させていました。
周りには北静王の所と言いながら、人里離れた寺にやってきます。
その寺で香や香炉を借りたかと思うと、なにやら供養のための香と祈りを捧げはじめました。
茗烟と二人で供養を済ませた(茗烟には何を供養しているのかわかっていないけど)宝玉は晴れ晴れとした顔。
一人で付いてきた茗烟、またなにを言い出すのかと心配していましたが、すんなり帰ってくれたので安心したのでした。
急いで帰ってくると、玉釧児がただ一人泣いているのを見つけてしまいました。
宝玉は玉釧児に近づいていくと、
「僕、今日は何をしてきたと思う?」
と言いますが、史太君達が心配しているからとすぐに会場へと連れて行かれてしまいました。
会場に着くと、史太君や王夫人らに怒られてしまいます。
でもまあ何事もなかったことだし、なにより宝玉が帰ってきて安心した史太君が許したので皆で芝居を見ることにしたのでした。
みなと一緒に芝居を見ていた史太君ですが、煕鳳が楽しめるようにと尤氏に言いつけるといったん下がってしまいました。
ところが、煕鳳がお酒を勧めても受けてくれないんですと尤氏がいいだしたものですから、史太君が自分で出ていって煕鳳の相手をしようとしだします。
慌てた煕鳳は皆に勧められるままに飲んでいき、つい飲み過ぎて気持ちが悪くなってしまいました。
理由を作って退席した煕鳳と、それを見てすかさず追ってきた平児が自分の部屋へと戻ろうと廊下を歩いていると、自分の所の小女が走って逃げていくのを見つけてしまいました。
急いで捕まえて尋問すると、賈璉に頼まれて煕鳳を見張っていたとのこと。
何をしているんだ内の旦那は、と思った煕鳳は急いで部屋へと戻っていきます。
入り口でもう一人の小女を蹴り倒し、戸の影で聞き耳を立てると、
「まったくとんでもない鬼女を嫁にもらっちまったもんだぜ。」
「ホントあの人が死んじまったら、平児さんを本妻にお上げなさいな。」
「まったくあの女のせいで平児に手が出せないんだ、平児も悔しがってるのさ。」
ここまで聞いた煕鳳は後ろにいた平児を思い切りぶん殴ると、戸を蹴破って中で賈璉の相手をしていた鮑奥さんを蹴倒し殴りつけます。
何の罪もないのに殴られた平児は、悔しさのあまり鮑奥さんに殴りかかりました。
それを見た賈璉、
「おまえまで図に乗るな!」
と叫ぶと殴りかかります。身構えた平児は、
「人の陰口叩くのに、他人を巻き込むんじゃないよ!」
とにかくムシャクシャしている煕鳳は、平児に鮑奥さんを殴るように命令してしまいました。
切れてしまった平児は、刀を見つけて自殺しようとします。とにかく周りにいたものが止めますが、平児が刃物を持ったのを見て、
「みんなで私を殺そうって言うのかい!」
と煕鳳が言えば、賈璉も酔っていた勢いで刀を抜いて振り回しだしてしまいました。
芝居が見終わった史太君達が煕鳳はどうしたのだろうと思っていると、駆け込んできた煕鳳に、
「私が部屋にちょっと戻りましたら、旦那と鮑の女房が私を殺して、平児を本妻にしようなんて言っていたんです。」
と言われ、どうなっているんだと慌てている所に賈璉が刀を振り回してやってきます。
王夫人、邢夫人が無礼を窘めるのに聞く耳持たない賈璉でしたが、史太君に賈赦(賈璉の父)を呼べと言われて鼻白みやっと外へと出ていったのでした。
史太君らが煕鳳を慰めますが、煕鳳が落ち着くと平児を避難する声が挙がります。
が自体を飲み込んだ尤氏らが、平児は濡れ衣でとばっちりを食っただけでかわいそうなのは平児の方だと取りなしたので、すぐに使いを出して慰めることにしたのでした。
そのころ平児は、李紈らに大観園に連れて行かれていました。
宝釵らに慰められ、史太君からも慰めの言葉を頂いた平児は機嫌を直します。
平児が落ち着いたのを見た李紈や宝釵らは煕鳳を見舞いに行ってしまい、それならと宝玉が平児を怡紅院へと連れていくことにしたのでした。
出迎えた襲人、平児に慰めの言葉をかけます。
大変だったねと下にも置かぬもてなしをする宝玉を見て、日頃の宝玉の女の子に対する噂は本当だったのかとうなずく平児。
そうとは知らずに宝玉は汚れた服とくずれた化粧を直すようにすすめてきました。
用意される服は襲人のまだ使っていない服、化粧品はどれも宝玉が選んだ余所では手に入らないような一級品ばかり。
身繕いも終わって一段落した所に李紈から使いが来たので、平児はお礼を言って怡紅院を後にしたのでした。
さて宝玉、常日頃から平児のよくできた人柄と、それに見合わぬ不運な境遇を悲しみ、何か彼女のためにしてあげたいと思っていました。
そんな折りもおり、今回のような事件が起こり、嬉しいやら悲しいやらの宝玉君だったのでした。
三者三様、賈璉、煕鳳、平児と別々の所で夜を過ごしまして次の日になりました。
邢夫人は朝早く賈璉を迎えに行くと、すぐに史太君と煕鳳の所へわびを入れに行かせます。
それを迎える史太君、賈璉にきちんと謝るように申しつけます。賈璉はと見れば脇で煕鳳がうなだれているのを見て、悪いことをしたと思い返し皆の前でわびを入れたのでした。
次いで連れてこられた平児に対しても腰が低い賈璉、対する平児は殴った煕鳳が謝る前に自分の方から頭を下げてしまいます。
自分でもひどいことをしてしまったと思っていた煕鳳は、平児にその様な態度をとられてますます恥じ入ってしまったのでした。
仲直りした三人が部屋に戻ろうとしていると、林奥さんが駆け込んできました。
鮑奥さんが首をくくって死んでしまったとのこと。しかもその親族が告訴すると言い出しているというのです。
慌てた賈璉は金を包んで大人しくさせようとしますが、名前を聞いてまたはらわたが煮えくり返ってきた煕鳳は、
「そんな事しなくていい!あなたも払っちゃ駄目ですからね!」
と言い放ち林奥さんを追い返してしまいます。
とは言えそういうわけにはいかない賈璉は、いくらかのお金を包んで渡し、役人を呼んで文句のつけ様のないようにしたのでした。
と、部屋に戻った煕鳳と平児が話をしていると、李紈や宝釵らが尋ねてきたと取り次ぎがやってきます。
はてさて今度は一体どうしたというのでしょうか。
煕鳳の所へやってきた李紈ら姉妹達、煕鳳に二つのお願いを伝えにあがったとのこと。
まず一つ目は、惜春が描くことになった大観園図の材料の手配を、史太君から煕鳳に回すように言われたことについて。
これはすぐに了解して貰います。
次が問題です。
二つ目は園内で開いている詩会への煕鳳の参加の要請だったのです。
自分に学がないことを知っている煕鳳は、
「どうせ私に会費だけ払わせるつもりなんでしょ。」
と言います。それに対して李紈は、
「どうも会としてのまとまりがないので、あなたに参加して貰って引き締めて欲しいのよ。」
「李紈姉さんは皆の教育と監督を任されているというのに、私まで巻き込もうって魂胆なのね。いいわ、ここで断ったら後で何と言われるか知れない。明日から早速参加貸せていただきます。」
なんだかんだとこの件についても了解を貰うことが出来たのでした。
さて皆が帰ろうとしていると、【頼ばあさん【頼ばあさん】〔らい・ばあさん〕
頼大の母。年長者として敬われている。】がやってきました。
頼ばあさんは煕鳳へのお祝いの言葉を述べるとともに孫の躾の事を話し始め、最近の宝玉の甘やかされぶりを嘆き注意します。
とそこへ【頼奥さん【頼奥さん】〔らい・おくさん〕
頼大の妻。】と周奥さんがやってきました。頼ばあさん、二人の登場で本来の用事を思い出します。
孫が主家のおかげで役職を貰い任地に赴く事になったので、そのお礼の宴を開くのでぜひ参加して欲しいのだそうです。
煕鳳らが喜んで参加する旨を伝えると満足して退出しようとしました。
と周奥さんの顔を見て思いだした頼ばあさん、
「そういえば周のせがれは何で追い出されるのでしょう?」
と聞くと、
「昨日さぼった上に粗相をして、注意しても反省しやしなかったからよ。」
との返事。それは良くないと、笞打ちと厳重注意にして貰ったのでした。
宝釵はとても多忙でした。
史太君らに挨拶には上がらなければならないし、姉妹らとの集まりもある。夜も遅くまでお裁縫。
一方の黛玉は憂鬱でした。
ただでさえ虚弱で持病持ち。しかも最近は史太君がご機嫌でいろいろな席に皆を集めたのでいつにもなく疲れ気味。
人が来ないと寂しいし、人が来ると鬱陶しい。何ともやりきれない毎日でした。
宝釵が黛玉の見舞いにやってきました。
黛玉の病を親身になって心配し、いろいろと助言してくれる宝釵に対して、
「先日に続き今日も姉さんの良さを身にしみて感じましたわ。でも私は所詮は居候の身、姉さんの様にはまいりません。」
「何を弱気になっていらっしゃいますの。どうせ後は嫁入り道具をお願いするだけじゃないの。」
この言葉の意味を理解した黛玉は真っ赤になって宝釵を責めます。
ひとしきり笑った宝釵は謝るとともに、
「私だって家族はありますが、あなたとそれほど変わる身の上ではありませんわ。でもあなたがこの家にお世話をかけるのが心苦しいというのでしたら、母に頼んで滋養のあるものを差し入れしますわね。」
その言葉に、宝釵の心遣いを心底ありがたく思った黛玉は感謝の言葉を述べ、その日は宝釵を見送ったのでした。
一人になった黛玉は、ふと気が向いて一つ詩を作り上げました。
そこへ宝玉が雨の中やってきます。
笠と蓑を着た格好が面白かった黛玉は、
「漁師のお爺さんのような格好ね。」
と囃します。すると宝玉、
「北静王に頂いたんですけど濡れなくて良いですよ。黛ちゃんにも一つ貰ってきましょうか?」
「いやよそんな、漁師のお婆さんみたいになっちゃうわ。」
言った黛玉、先に宝玉のことを漁師のお爺さんと言って、今自分を漁師のお婆さんと言ってしまったことに気が付いて真っ赤になってしまいます。
夜も更けたので宝玉が帰ると、宝釵の所から早速差し入れが来ました。
使いのばあやをねぎらおうと引き留めると、これから賭場を開くので、と断られてしまい、代わりに駄賃を渡しました。
つくづく宝釵の親切と思いやりをありがたく感じ、かつ自分に身寄りがないことを深く悲しみながらその日は眠りについた黛玉でした。
明くる朝、煕鳳が邢夫人に呼ばれました。
何事かと行ってみると、
「うちの旦那が鴛鴦を気に入ってるそうで、妾に貰いたいと言っているがどうだろう?」
それは良くないと思いますよ、と煕鳳が言うと、
「余所では妾の五人や十人珍しくないと言うのに、うちの人が持つのはいけないって言うのかい!」
邢夫人は、旦那には頭が上がらないくせに変にわからず屋。それを知っている煕鳳は駄目だと観念して、
「おばあさまも自分の息子ですもの。女中の一人や二人、きっと承知して下さいますわ。私がおばあさまの機嫌を取っておいて頃合いを見て抜けますので、そこで話してみて下さいな。」
それを聞いた邢夫人は喜んで、
「先に鴛鴦に言っておけば、万に一つに否やもあるまい?」
賛成してみせる煕鳳ですがその実、
(鴛鴦が承知するとは思えないわね。でも鴛鴦が断ったときに私が席を外していると、私が鴛鴦に変な入れ知恵をしたと思われそうだし…。私も一緒に行きましょう。)
と思っていたのでした。
史太君の所へご機嫌伺いの挨拶をした邢夫人は、一人で鴛鴦の所へ出向きました。
その時鴛鴦は針仕事をしていましたが、邢夫人が見るに確かにかなりの器量好し。
早速話を切り出す邢夫人は一方的に話すばかり。鴛鴦の方は顔を赤くしてうつむいています。
相手が断るはず無いと思いこんでいる邢夫人は、返事をしない鴛鴦を恥ずかしがっているだけと考えてひとまず帰っていったのでした。
さて途中までは一緒にいた煕鳳でしたが、用事を見つけて抜け出していました。
部屋に戻って平児に話すと、
「そりゃ、無理でしょうねぇ。」
…あ、やっぱりそう思う?
「ああ、お義母さまがこの後来るはずだから、平児おまえちょっと席を外しておいで。」
了解した平児は、食事の用意を手配して大観園へと向かったのでした。
鴛鴦の方でも、
「きっとまた来るわね。ここは逃げなくちゃ。」
と思い、琥珀に出かけると伝えて大観園へと避難することにしたのでした。
てこてこ歩いていた鴛鴦、平児とばったり。
「あら、これはこれは新しいお部屋さま。」
そしたらマジで怒っている鴛鴦を見て、失敗した!と思った平児は、自分の知っているいきさつを洗いざらい話してあげたのでした。
「襲人さんやあなたにはいつも本心を言い合った中ですから言いますけど、私はたとえ本妻にと言われたっていきゃしませんよ!」
鴛鴦がそういうと、いきなり笑い声がしました。誰かと思えば襲人。勝手な話だと憤慨する三人ですが、
「そんなに賈赦さまが嫌なら賈璉さまの先約があるって言えば。」
といえば、
「それなら宝玉様の名前を出せば史太君も嫌とは言いませんよ。」
どうしても他人事の二人を見た鴛鴦は怒りだし、尼になっても死んでも行くもんかとまで言い出します。
とそこへ鴛鴦の嫂がやってきました。
おめでとうとへらへらする嫂をしたたかに罵倒する鴛鴦、困った鴛鴦の嫂が平児や襲人に話を振ったところで鴛鴦の味方をします。
やり込められた嫂が出ていくと、ふと襲人はこんな所で何をしていたのか気になりました。
宝玉様を捜してたら二人を見つけたのでつけてきたのに気づかないんですもの、と襲人が笑うと、また笑い声がしてきました。
今度はなんと宝玉が出てきます。(ばればれ)
襲人だって人のこと言えないよ、と笑う宝玉はとりあえず三人を怡紅院へと連れていきますが、聞いてしまった話の内容が気に入らなくてふさぎ込んでしまいました。
鴛鴦の嫂の報告を聞いた邢夫人と賈赦は、そのあまりの態度に鴛鴦の父親の【金彩【金彩】〔きん・さい〕
鴛鴦の父。賈家の使用人で遠方で働いている。】と兄の【金文翔【金文翔】〔きん・ぶんしょう〕
鴛鴦の兄。賈家の使用人。】を呼びつけます。
父親の方は遠方に出ていていませんでしたが兄の方はもう一度鴛鴦の説得に向かわされました。
兄まで出てきたことに観念した鴛鴦は、一見素直な態度に変わり、
「喜んで行くにしても、一言史太君にご報告させて下さい。」
と言い、周りのものは納得したものと思いこんで史太君の所へと連れていきました。
史太君は王夫人や薛未亡人、李紈や宝釵ら姉妹に家中の頭立った女房とともにくつろいでいるところでした。
これはいいタイミング!と喜んだ鴛鴦は、やにわに泣きながら史太君に飛びついて今までのいきさつを説明しました。
それを聞いた史太君の怒るまいか!
側にいた王夫人に向かって、
「おまえ達はこの子まで私から取り上げて、私を笑いものにしようと言うのかい!」
言われた王夫人、濡れ衣ですが抗弁できない。薛未亡人も実の姉を庇うにかばえない。李紈は鴛鴦が訴え始めると皆を連れて部屋を出てしまっていました。
「これではいけないわ!」
立ち上がった少女は誰か。何と探春でした。周りの立場を理解した探春は自分がやらねばと一度は出た部屋に舞い戻り、史太君に対し王夫人の無実を訴えました。
考えてみればと納得した史太君は、
「そうでした。この人(王夫人)ほど出来た人はいないというのに私としたことがどうしたのでしょう。それにしても宝玉や、自分の母親を庇わないでどうするね。」
「そうは言っても自分の母親のために伯母や伯父を非難できないと思ったんです。」
とにもかくにもおさまった史太君、皆と冗談を言う余裕まで出来てきました。
とそこに女中が取り次ぎに来ました。
「邢夫人がお見えになっていらっしゃいます。」
さてさてどうなってしまうのでしょうか。
何も知らずにやってきた邢夫人ですが、門の所で気を利かしたばあやに聞いて事が露見したことを知りました。
とは言えここまで来ていきなり帰るわけにもいかず、おべっか笑いをしながら入ってきました。
「あんたもずいぶん亭主思いの孝行女房だ事だねぇ。」
「この鴛鴦ほど気の利く上に私の寵愛を笠に着たりしない出来た子はいません。賈赦には金をくれてやるから自分で余所から探してきなさい。」
一方的に言い募った史太君は、鴛鴦の騒ぎで出ていってしまっていた人たちを呼び戻すと邢夫人を無視してしまったのでした。
ゲームを始めた史太君、薛未亡人、王夫人、煕鳳の四人ですが、鴛鴦も一緒に側に引き寄せます。
とちった煕鳳、史太君に掛け金を巻き上げられてしまいますが素直に払いません。
平児が更にお金をもってやってきましたが、
「ああ、私の所じゃなくておばあさまの所へもってお行き。どうせあそこの小箱に納まっちゃうんだからね。」
と言って皆を笑わす煕鳳でした。
史太君の所から退出した平児は、入り口の所でばったり賈璉と出会ってしまいます。
まだいかない方が良いと止める平児ですが、賈璉は大丈夫だろうと入っていってしまいました。
部屋の入り口で中を覗いた賈璉、煕鳳が目配せしているのを見て逃げようとしましたが史太君に見つかってしまいます。
「何をこそこそしているんだい!」
先日の賈璉の暴挙を忘れていない史太君の機嫌はどんどん悪くなっていきます。
何とか抜け出した賈璉と邢夫人は賈赦に報告すると、さすがにこれ以上恥をさらせない賈赦は仕方なく街で妾を捜してきたのでした。
【頼大【頼大】〔らい・だい〕
栄国邸の執事頭。】の家の宴の日がやってきました。
史太君は王夫人や薛未亡人らを従えて存分に楽しみますが、さすがにここに邢夫人と賈赦の姿はありません。
宴の主役(?)、【頼尚栄【頼尚栄】〔らい・しょうえい〕
頼大の息子。】の友人に【柳湘蓮【柳湘蓮】〔りゅう・しょうれん〕
色事、芸事何でも得意の色男。】という者がありました。
友人の祝いにとやってきていた柳湘蓮でしたが、賈珍や薛蟠といったもの達にまとわりつかれて嫌になってしまい帰ろうとします。
それを見た頼尚栄が、宝玉に紹介するように頼まれていたのを思いだしちょっと待ってくれと止めて宝玉に湘蓮を預けます。
二人で別室へと移動した宝玉と湘蓮は実は二人とも秦鐘の友達でした。
秦鐘の墓参りの事で話をかわす二人ですが、湘蓮はすぐに旅に出てしまうとのことでした。
もう帰ろうと部屋を出た湘蓮、ばったり薛蟠とかち合ってしまいました。
自分のことを、彼の稚児達を見るのと同じ様な目で見てくる薛蟠に腹が立った湘蓮は、薛蟠に外で落ち合いましょうと持ちかけ出ていきます。
舞い上がった薛蟠は、どうして呼び出されたのか考えもせずに一人で出向いてしまい、湘蓮にぼこぼこに殴り倒されてしまいました。
薛蟠がいないことに気が付いた賈蓉が探しに出向くと、そこにはぼこぼこの薛蟠が無様に寝ていました。
帰ってきた薛蟠を見た人たちはなにがあったのか察しは付いていましたが、
「あれは良い薬になっただろう。」
と思ってかわいそうだとはだれも思いませんでした。
薛未亡人と宝釵が梨香院に帰ってくると、香菱が目を腫らして泣いていました。
何事かと思うと、薛蟠がぼこぼこになって寝ています。
話を聞いた薛未亡人がすぐに柳湘蓮を見つけてこいと騒ぎますが、落ち着いている宝釵は、
「酔った席での喧嘩を大事にして蒸し返しては良い笑いものになってしまいますわ。従兄達がこのままにするはずはありませんからきっと近いうちにわびを入れさせることでしょう。だいたい今回のことは兄さんにとって良い薬ですよ。」
言われて気が付いた薛未亡人は宝釵の思慮深さを誉めると、騒ぎ立てる薛蟠を黙らせて適当にいなしたのでした。
ぼこぼこにされた薛蟠ですが、その後柳湘蓮が旅に出てしまったと聞き何とか溜飲をおろしたのでした。
とはいえやはりぼこぼこにされたことが恥ずかしい薛蟠は、しばらくこの地を離れて旅に出たいと考え始めました。
そこへちょうど薛家の使用人の一人、【張徳輝【張徳輝】〔ちょう・とくき〕
薛家の使用人。大番頭を任される重鎮。】が買い付けの旅に出ると聞いて自分も付いていくと言い出してしまいました。
「いつも一人前になれと言うのに、やる気を出した途端に反対なんてしないで下さい。」
心配する母親に言い放つ薛蟠に困惑した薛未亡人は、宝釵に相談します(ってお母さん娘に頼り過ぎですよ…)。
「兄さんが少々失敗しても、周りについて行くものは立派な者ばかりですから大丈夫でしょう。それに、これで少しはましになって帰ってくれば良い事じゃないですか。」
その通りだわ!とうなずく薛未亡人は、浮かれてそわそわした薛蟠を見送る事にしたのでした。
薛蟠がいなくなって暇になってしまった香菱を、薛未亡人は自分の側に置いておこうと思いました。
と、香菱が日頃大観園に興味津々なのに気づいていた宝釵が、
「私の所も人が少々足りませんし、この際香菱を園内に入れても良いのではないかしら。」
と提案し、了解を取ってあげます。
早速引越をする事になった香菱は、【臻児【臻児】〔しんじ〕
香菱付きの侍女。】とともに史太君らの所に挨拶まわりに出かけることにしたのでした。
香菱を見送った宝釵の所に、平児がやってきました。
何でも賈璉が賈赦にたいそう殴られて、傷薬を分けて欲しいとのこと。
どうしてそんな殴られてしまったのか知らない宝釵が平児に聞きました。
「全部、雨村の居候のせいですよ。賈赦様がほしがっていた扇子を賈璉様が譲って貰うのに失敗しまして、その後雨村が持ち主を冤罪にかけて奪い取ったんです。」
「扇子ぐらいで人を貶めるのは…と反論した賈璉様を、賈赦様が狂ったように殴ったんですよ。」
それはかわいそうに…、と思った宝釵は、鶯児にすぐに薬を持ってこさせるといたわりの言葉をかけて平児を送り出したのでした。
挨拶まわりから帰ってきた香菱は、ぜひ自分にも詩の作り方を教えて欲しいと思いました。
でも宝釵らは史太君の所に出かけてしまっていたので部屋にはいません。
そうだ!黛玉さんに会いに行こう。と思いついた香菱が瀟湘館へ行くと、黛玉の方でも香菱が園内に来ると聞いて会いたいと思っていたところでした。
さっそく詩の教授を頼まれた黛玉は、詩集を一冊貸してとにかくたくさんの詩に触れてみなさいと言いつけます。
それからの香菱は寝ても冷めても詩のことばかり。昼もぶつぶつ、夜もぶつぶつ…。読んだ詩集を返して試しに作った詩を批評してもらい、また新しいのを借りてきてぶつぶつ、ぶつぶつ…。
それを見た宝玉や探春らが誉めたり冷やかしたり…。気分転換にと李紈らが惜春の絵を見せてみたり…。でも香菱の熱は冷めません。
明くる日の朝のこと。
やれやれ頑張ってることですね、と半ばあきれた宝釵がゆっくり寝かしてあげようかしらと近づいたとき、
「あぁ、出来たわ。今度こそ良い出来のはずよ。」
そんな香菱が微笑ましく感じた宝釵さんでした。
起きた香菱はさっそく夢で作った詩を書き取って黛玉の所へ見せに行きます。
さて宝釵に話を聞いてどんなのが出来たのか気になっていた李紈や探春、宝玉達は、ちょうど瀟湘館へと向かう香菱を見つけました。
よ~し、どんな出来か見せて貰わなくちゃいけないわよね。
…さて香菱が夢で作った詩とは一体どんなものなのでしょうか。
さて香菱、こちらでもやってくる一団に気が付いて早速出来たばかりの詩を見せて言いました。
「もうこれで駄目でしたら諦めますわ。さあ、どうでしょう?」
見せて貰った黛玉たちは、みな良い出来だと誉め、次の詩会から香菱も参加決定と囃し立てます。
にわかには信じきれない香菱が疑っていると、ばあやが皆を呼びにやってきました。
「たくさんの姉妹様らが来ておりますよ。」
言われて史太君のところに移動した皆が見たのは大変なものでした。
邢夫人の嫂が娘を連れて邢夫人を頼って来ました。
舟でばったりあったのが煕鳳の兄、【王仁【王仁】〔おう・じん〕
煕鳳の実兄。ごくつぶし。】。身内と知った面々が話し込んでいると、なんと李紈の叔母(叔父の嫁)が娘連れでいるところにばったり。
さらに宝琴の嫁入りの準備をしようと上京してきた【薛蝌【薛蝌】〔せつ・か〕
薛宝琴の兄。薛蟠、宝釵の従弟。】、【宝琴【薛宝琴】〔せつ・ほうきん〕
薛蝌の妹。薛蟠、宝釵の従妹。梅翰林の息子と婚約中。】とも一緒になってまあ急に人口密度が増えたことではありませんか。
なんにせよ久しぶりに会った身内に話の花が咲く宝釵や李紈。ここでまた浮いてしまうのが黛玉でした。
「あぁ、私にも一人でいいから身内のものがいれば良かったのに…。」
そんな黛玉に気が付いた宝玉が慰めてあげたので、黛玉も落ち込むのをやめて皆の話の輪に入っていったのでした。
怡紅院へと帰ってきた宝玉、襲人、麝月、晴雯らに今日会ったお嬢さんたちの事をとにかくべた褒めで教えてあげます。
あの宝釵よりすごい妹さんが来たと聞いた晴雯や麝月は、一人襲人をおいて見に行きますが、帰ってくるなりまたすごい誉め様。
そんなにすごいのなら、と襲人も見に行こうとすると探春がやってきました。
「これで詩会も賑やかになりますね。」
と宝玉が言うと、
「ええ、みなさん詩は作れるようですし、もし出来なくても香菱のように教えてしまいましょう。」
早速詩会を開こうと急かす宝玉ですが、黛玉は病み上がりで迎春が寝込み、宝釵と李紈は親戚が来たので詩会どころではあるまいと探春に言われ、探春の提案で新たな姉妹たちを史太君に頼んで引きとどめてもらいに行ったのでした。
宝琴がとても気に入った史太君は、無理に頼んで王夫人の養女にしてしまい、しばらく王夫人の所で寝泊まりするように言います。
また邢夫人の嫂についても世話するように言いつけ、元々頼ってきていた嫂は大喜び。邢夫人は煕鳳にその世話を任したのでした。
あまり邢夫人が好きではない煕鳳でしたが、【岫烟【邢岫烟】〔けい・しゅうえん〕
邢夫人の姪。】の人当たりの良い態度や落ち着いた性格に好感を覚え、色々世話してやります。住むところは迎春と同じ所に落ち着きました。
李紈の身内は最初別の所を探すと言っていたのですが、李紈と李紈の叔母のその寡婦としての貞淑ぶりが気に入った史太君と王夫人によって、【李未亡人【李未亡人】〔り・みぼうじん〕
李紈の叔父の妻。寡婦。】・【李紋【李紋】〔り・もん〕
李紈の従妹。】・【李綺【李綺】〔り・き〕
李紈の従妹。】と揃って稲香村に厄介になることになります。
さらに、湘雲の身内が遠方の地に赴任してしまうと聞いた史太君は、湘雲を呼び一緒に住まわすことにします。まさに大観園の最盛期の到来でした。
宝釵の所に住むことになった湘雲ですが、病み上がりの黛玉と忙しい宝釵の代わりに香菱と詩の話で昼も夜もありません。
あまりの騒がしさに宝釵にからかわれる始末でした。
宝釵の所に宝琴がやってきました。
そこへ黛玉と宝玉もやってきます。が、ちょっと前までの黛玉と宝釵の間の緊張感みたいなものがなくなっている…。
はれ?
と思った宝玉が、西廂記にかけて遠回しに黛玉に尋ねてみました。
「私は今まで宝姉さまの事を見誤っていたの。あの方ほど出来た方はいらっしゃらないわ。」
はりゃりゃ、そうだったんですか。納得した宝玉でした。
李紈の所から使いが来ました。詩会の相談だそうです。
皆が集まってきますが、湘雲が来ない。と待っているとやってきた湘雲、まるで孫悟空の様な格好。マントを払うと本当に男の子みたいな格好です。いやぁ変わった女の子ですなぁ。
雪が降って来ていましたので、この雪で詩会を開こうということになりその日は散会します。
楽しみで仕方がない宝玉は夜も眠れません。やっと夜が明けたかと思うと急いで会場へと飛んでいき、早すぎるとばあやたちに笑われてしまいました。
出直そうと戻る宝玉は、史太君の所へと向かう探春と会い、一緒に挨拶に向かいます。
朝食を食べるのももどかしそうな宝玉を見た史太君は、また何かやろうとしているなと気が付きます。
鹿肉があると聞いた史太君は、宝玉用に取っておかせることにして行かせてあげたのでした。
鹿肉のことを知った宝玉と湘雲は、二人で食べようと詩会の会場に運びます。
皆が集まってきているのに部屋に来ない宝玉と湘雲を探した皆ですが、なんとバーベキューをしている宝玉と湘雲を発見します。
煕鳳の不参加を知らせに来た平児がそこに加わりいい匂いが…。宝琴や李未亡人らはこれにはびっくりしてしまいます。
探春まで参加し、一度は断った宝琴も宝釵に勧められて一口…おいしい!。帰ってこない平児の様子を見に来た煕鳳も参加して…って今日は違うんじゃないですか?やることが。
食べ終わって、邪魔になるからと外していた腕輪を探す平児ですが…あれ?見あたりません。
何か知っている様子の煕鳳は、自分が後で見つけてやるからと平児に言うと李紈らに今日の集まりの内容を尋ねます。
そうだ、詩会だったと思い出した一同にお題が発表されます。しかし詩を作る順番については一つも断りがありません。
自分が一番にやるから出来た人が続けて下さい、と李紈は言いますが、
「やっぱり順番を決めておきましょう?」
と宝釵が提案しました。さてさてこれからどうなりますことやら。
順番を決めることを提案した宝釵、それならどうやって決めましょうかと考えたところくじ引きで決定。
一番手には李紈が当たりましたがここで横から煕鳳が。
「私一つ思いつきましたから、一番手は私にやらせて下さいな。」
煕鳳が作る聯句とは如何なるものかと興味がわいた一同は、早速一番手を煕鳳に任せました。
出てきた句は必ずしも奇なものではありませんでしたが、連句をやるにはなかなか良い始まりの句です。
煕鳳はその後平児や李未亡人とともに出ていってしまいましたが、すぐさま続ける李紈に香菱、探春…。
最後の宝釵までまわると李紈がお酒の用意をしに席を立ってしまいました。宝琴が後をつけようとするとすかさず湘雲が続けます。
負けてはいられぬと宝琴が続けると、やり返す湘雲、それならと宝釵と黛玉も宝琴とともに湘雲の応戦に立ち上がりました。
はりゃ~、すごいものですねぇ…。
呆気にとられて見ていた宝玉、黛玉につつかれて参戦しますが湘雲の一蹴で場外へ。
他の者などもう入る余地も無し。ついていけないと判断した探春が四人の読み出す句を書き写しておくと、帰ってきた李紈と李綺の二人が終わりの句をつけてやっと納まったのでした。
終わってみて皆の作品を批評すると、
宝玉君、落第!
あぁ、むごい仕打ち…、とは思わない宝玉、えぇえぇ良いですとも。何なりと罰を受けましょう。…なんか良い奴だなぁ、この人。
妙玉のいる庵に行って梅の枝を貰ってこいとのこと。おやすいご用と出ていく宝玉と、残った一同。
ちょっと元気がなかった岫烟と李綺、李紋にも紅、梅、花、で詩を作って貰うことにしましたが、李綺はあまり得意ではないという事で宝琴にお鉢がまわってしまいました。
宝玉が梅の枝を背負って帰ってくると早速三人は出来た詩を発表します。
宝玉も梅の枝だけでは手ぬるいと、一首作るように命じられてしまい四苦八苦。
何とか出来た詩を批評していると、史太君が現れてしまいました。
気にしなくて良いから、と言われても、そうはできないのが当たり前。
にわかに忙しくなる李紈や探春らですが、何をやっていたのか聞かれて、
「詩を作ってました。」
と答えると、
「正月用の燈謎を作りなさいな。」
と言われてそれももっとも、と納得してしまいます。
では作りましょうか、と始めると、
「暖香塢の惜春の所へ行って絵の進み具合を見てみよう。」
との史太君のお達しで一同暖香塢へ。
さて惜春、今日は雪が降っててやる気がしないわ、と休んでいました。
そこへ突然の史太君の抜き打ちチェック!
頑張って描き上げなさいとお小言を頂いてしまう惜春。そこへ煕鳳がやってきました。
「あらおばあさま、駄目ですよ。お寺に納めるお布施を払いたくないからってこんな所に逃げ込んでちゃ。」
やってくるなりのこの言葉に一同大笑い。史太君も言い返しますが、ふと向こうの丘に宝琴が女中に梅の枝を持たせてやってくるのが見えました。
「あら、一面の銀に宝琴と梅の花が絵になって…。」
と言っていると、その後ろから宝玉も現れます。
「みなさんの分も妙玉さんから頂きましたから、部屋の方に送っておきましたよ。」
何だかこういうところでいやにまめまめしいのがいかにも宝玉君でありました。
暖香塢を後にした一同が史太君の部屋で世間話をしていると、薛未亡人がやってきました。
「今度の雪の日には私が一席設けてご招待しますわ。」
「あら、それなら今のうちにお金を預けといて下さいな。ねっ、手間が省けるでしょ。で当日はすっぽかして着服しちゃいましょ。」
まったく煕鳳ってば…。
宝琴がお気に入りの史太君は、色々宝琴に尋ねます。
もしや宝玉の嫁にと考えてるのでは?と思い当たった薛未亡人は先に宝琴の婚約のことを知らせておきます。
それじゃ仕方がないわねぇ、と史太君、その日はそのまま散会したのでした。
明くる日の朝。
史太君は直々に惜春に昨日の宝琴と梅の花も絵の中に書き加えるようにと言いつけます。
(はあぁ、また面倒なことが増えるのねぇぇ~。)
力が抜ける惜春ですが、返事は「はい。」
面倒なことだ、と上の空の惜春は放っておいて、李紈、李紋、李綺の三人が昨日のうちに燈謎を作ったので解いてみてくれって。
なかなかひねってあって面白いと解いていきますが、湘雲がさっそく一つ作ってしまいました。
何のこっちゃ?と悩む一同を後目に宝玉が答えを言い当てる。ってどうしてそうなるの?との答えにまた大笑い。
宝琴が諸国を旅して回っていたと聞いた一同が、一つ珍しいものを作ってくれと頼みます。
うなずいた宝琴が考えていると宝釵が、宝玉が、黛玉が…と出来上がります。
そこで宝琴もできあがりました。さてさてできあがった燈謎は一体いかようなものか。