迎春が泣く泣く帰った後の栄国邸。
邢夫人があの性格ですから、生母の亡き後の迎春の面倒を我が子のように見てきた王夫人の悲しみは人一倍でした。
そんなときにやってきた宝玉は、王夫人の様子を見ると、
「やっぱりおばあさまに言って迎ちゃんを奪い返して、また大観園で穏やかに過ごさしてあげましょうよ。」
そんな宝玉の様子におかしくもあり、悲しくもあった王夫人は、
「おばあさまには言ってはいけませんよ。」
と口止めして帰らしたのでした。
自分の意見が入れられなかった宝玉は、瀟湘館に駆け込むと黛玉に向かって珠のような女の子たちが去っていく悲しみをぶちまけます。
それを聞いた黛玉は、一つ溜息をつくと横を向いてしまいました。
そんなところに史太君のお呼びで探しに来た襲人がやってきます。
急いで出ていく宝玉でしたが、後に残された黛玉の目は赤くなっていたのでした。
急いだ宝玉は、しかし史太君のお昼寝で後回しになってしまいました。
仕方なく園内を散策する宝玉は、女の子たちが集まっているのを発見してそっと近づきます。
そこにいたのは探春、李紋、李綺、そして岫烟でした。
楽しそうに池で魚と戯れている四人を見た宝玉は、影からそっと小石を池に投げ込んで驚かしながら姿を現します。
みんなで竿を持って釣りに興じますが、宝玉だけ釣れず終いには勢い余って竿を折ってしまい皆から笑われてしまいました。
やっと起きた史太君の再度のお呼びで参上した宝玉は、そこに王夫人と煕鳳が来ているのを見て何事だろうと怪しみました。
何でも馬道婆が街で呪いを請け負ったかどで逮捕されたのだそうです。
宝玉と煕鳳が倒れたときの事をつぶさに聞いた史太君は、その症状が発見された呪い人形と同じ事から間違いないと確信します。
趙氏と何度か会っているのを目撃していた一同、
「あの妾奴は心得知らずの大馬鹿女だ。」
と思ったのですが、いかんせん馬道婆は捕まってしまい趙氏を問いつめる証拠がないため、天の裁きを待つしかなかったのでした。
部屋に戻って賈政と話をしていた王夫人は、迎春の様子を報告するとともに宝玉の言葉も賈政に教えてあげました。
それを聞いた賈政もその意見の無邪気さに笑ってしまいましたが、ふと宝玉の勉強をどうにかした方が良いだろうと考え始めました。
依然通っていた家塾にもう一度通わせようと考えた賈政は、すぐに宝玉を呼び出すと、
「お前の病気も納まったようだし、明日は儂も一緒に家塾へ向かうから、支度をして遅刻せず来なさい。」
これを聞いて逃れきれないと観念した宝玉は、とっとと帰ってすぐに寝たのでした。
賈政に連れられて家塾に向かった宝玉は、出てきた賈代儒に賈政が宜しく頼むとすぐに席へと向かいます。
ふと見回してみると、秦鐘はおろか金栄すらも居らず、あまりに寂しい様子。
とはいえ再開初日ということで、明日に実力テストを宣言されてそうそうに帰宅を許された宝玉だったのでした。
帰宅を許され意気揚々と帰ってきた宝玉は、史太君、賈政への報告を済ませると急いで瀟湘館へと向かいました。
科挙の勉強を扱き下ろし、愚痴を言っていた宝玉に、
「あら、中にはすばらしいものも在るのですから、そう全てを否定するものではないわ。」
と黛玉に言われてしまいます。
黛玉だけは自分の気持ちを分かってくれると思っていた宝玉は、黛玉にそんな風に言われて面白くありません。
そんなところに秋紋が迎えに来たので、その日はそうそうに引き上げたのでした。
宝玉が怡紅院に戻って、襲人に何かあったかと尋ねると、
「何もございませんでしたが、王夫人の所から、
”いま宝玉は賈政から勉強するように言われているので、これに戯れる女中は晴雯のようになるぞ。”
と言われたのが悔しくて…。」
それを聞いた宝玉は、皆を慰めると安心させようと明日の予習を始めたのでした。
そんな夜、どうも宝玉が寝苦しいと思ったらちょっと熱がある様子。
しかし賈政に知れたらまた仮病か、と言われるからと、騒ぐのは控えてとにかく暖かくして寝てしまいました。
次の日の朝のこと。
宝玉と襲人が気が付いた時には既に日が昇っています。
しまったと思って宝玉が急いで家塾へと向かうと、賈代儒は怒っていました。
熱が出たことを説明して許して貰った宝玉は、代儒が指し示す文の解釈を発表します。
と代儒が指す文に、自分に対する当てつけを感じた宝玉が拒否すると、…また怒られました。
仕方なく訳しますが、
「徳を好まず、色を好むもの。」
についてですから、訳した途端に、
「お前はそれその通りの人間ではないか。分かっているならなぜ直さん。」
と説教されてしまったのでした。
さて宝玉が家塾に通うようになって急に暇になった怡紅院の面々。
とりあえず繕い物など始めた襲人でしたが、晴雯の事を考えると自分の今後もどうなるものかと悩んでしまいます。
王夫人や煕鳳の話しぶりから宝玉の妾となるだろうとは思っていましたが、二姐や香菱の事を考えると宝玉の本妻次第ではどうなるか知れません。
本人たちの態度から本妻は黛玉だろうと思った襲人は、ちょっと黛玉の所に遊びに行くことにしました。
黛玉、襲人、紫鵑の三人で世間話を始めますが、話題が二姐や香菱の話になって、
「お二人とも何であんな目に遭わなきゃならないんでしょ。それにしても…」
続けて煕鳳や金桂の話題になる襲人に、
(普段決して人の陰口など叩かない襲人がどうしたのかしら。)
と思った黛玉が、警戒心を抱きました。
そんなところに宝釵から使いのばあやがやって来ます。
届け物を持ってきたばあやは、黛玉のことをじろじろ見て、
「はぁ、やっぱりここの若様とお嬢様はお似合いだって本当ですねぇ。」
そんな風に言われて機嫌が悪い黛玉に気が付いた襲人は、ばあやにはさっさと帰って貰ったのでした。
襲人も帰った後、黛玉が一人ぼーっと、
(こんな思いをするぐらいなら、お父様たちが生きている内に許嫁にしておいて欲しかった。…でも生きていたら宝玉さんとは許してくれなかったかしら。)
と思っていた所に、雨村が面会に来たと取り次ぎが来ました。
王夫人や煕鳳も、お祝いを述べに来たとのこと。
何のことか分からない黛玉がおろおろしていると、
「何言っているの、あなたのお父様が今回後妻を娶って、あなたにも縁組みを組んだからと迎えに来たんじゃないの。」
そんな馬鹿なと王夫人らにとりつくと、
「あら、何でお信じにならない?」
と言って出ていってしまいました。
急いで史太君の所に向かった黛玉が、
「どうかずっとここにいさせて下さい。」
とお願いしますが取り合って貰えません。
あの黛玉が、
「女中としてでもかまわないからお願いです。」
とまで言っても追い出されてしまったのでした。
何もかもあきらめ、とぼとぼと皆の無情さに悲しみながら黛玉が歩いていると、向こうから宝玉がやってきました。
あった途端に一言、
「黛玉さん、おめでとう。」
目の前が真っ暗になった黛玉は、宝玉に抱きついて泣きじゃくってしまいました。
と自分の無情さを訴える黛玉を見た宝玉は、
「何を言っているんですか。私にはあなた以外にいませんよ。」
と言うなり刃物を取り出し胸をかっさばき、血を吹き出して死んでしまいました。
紫鵑の声で気が付いた黛玉は、自分が夢でうなされていたことに気が付きました。
ただあまりのことに具合が悪くなり、夜もまんじりとして寝付けません。
そんな調子で朝方の頃。
黛玉が咳をして痰を吐き、苦しんでいました。
急いで紫鵑が介抱すると、痰の中に血が混じっています。
びっくりした紫鵑は雪雁をやって人を呼びに行かせたのでした。
瀟湘館を飛び出した雪雁は、出たところで翠縷と翠墨に会いました。
主人に言われて遊びに来ない黛玉を呼びにきた二人は、黛玉の様子を聞いて急いで主人に知らせます。
探春と湘雲は惜春の所で園の絵を見ていたのですが、それを聞いて見舞いに行くことにしました。
ただ惜春一人は、
(黛玉さんもあんなに聡明な方なのに、あと少しってところで悟りが出来ていないのね。)
と思っただけで見舞いは遠慮したのでした。
二人が見舞いに来て紫鵑に具合を訊ねると、痰壺を指し示して口をつぐんでいます。
湘雲は駆け寄って中をのぞき込んで、
「これをお吐きになったの。大変だわ。」
なんて言ってしまいました。
自分の吐いたものなど良く見ていなかった黛玉は、そういわれて自分の具合の悪さを知ってしまいます。
急いで取りなす探春ですが、弱々しい黛玉は一体どうなってしまうのでしょうか。
「このろくでなしが!園内に入り込んで何をかき回してるんだい!」
いましも探春と湘雲が帰ろうとしていた矢先にこんな怒鳴り声が聞こえてきました。
変に神経質な上に病気で朦朧としていた黛玉は、この声を聞いて自分のことを言われたのかと勘違いして昏倒してしまいます。
急いで外を見に行った探春が見つけたのは、園内見回りのばあやが自分の孫娘を追い払っていたところでした。
怒鳴りつけて追い払った探春は、すぐに部屋に戻って意識の戻った黛玉に説明してあげます。
それを聞いて溜息をつく黛玉を見た探春は湘雲と二人で慰めるのですが、諦めきっている黛玉には利きません。
そんな黛玉を叱りつけて元気づけた探春は、黛玉の様子を報告しに湘雲と史太君の所へ向かったのでした。
紫鵑と二人きりになった黛玉は看病して貰いながらもぐったりしていました。
とそんなところに襲人がやってきます。
翠縷に聞いて驚いた宝玉が様子を見てくるようにと言いつけたのですが、宝玉の方でも具合が悪くなっていたと聞いた黛玉は、
「心配させて勉強に支障をきたしてはいけませんから、大したことないと言って下さいね。」
と言いつつ溜息をついたのでした。
さて史太君の所へ報告しに行った探春と湘雲は、史太君が心配しないようにと当たり障りのないところを報告します。
それを聞いた史太君、
「あの二人も病気ばかりで大変なことだねぇ。」
医者の手配を確認すると、二人を宜しく頼むように言伝たのでした。
宝玉と黛玉の診察を頼まれた王先生は、すらすらと病状を言い当て、これこれの薬と処方を書き付け退出していきます。
賈璉が受け取った処方通りに調合するよう言いつけていると、周奥さんが用件の報告にやってきました。
忙しいので奥に行くようにと言いつけられた周奥さんは、煕鳳の所へ向かいます。
黛玉の様子を見てきた周奥さんは、
「黛玉お嬢様の具合も大層悪そうで大変ですわ。紫鵑さんにも看病のために手当を前借りしたいと言われて来たのですが…。」
これを聞いた煕鳳は、
「手当の前借りなんて、下手にやると誰も彼もとやってきてしまうので出来ないけど、私の方から病気見舞いとして幾らか出すのでそれを使いなさいって言ってちょうだい。」
と言ってやります。
そこで最近街で噂されている事を思い出した周奥さんが、
「本当にこんな大家ではやりくりだけでも大変なことだというのに、外では金が唸ってるとでも思ってるんですものね。」
と報告します。
これを聞いて不安を感じた煕鳳は、
「噂だからと言って馬鹿には出来ないわね。本当のことでもまずいのに、現状はこれですもの。周奥さん、すぐにその噂の元を絶っておいてちょうだいな。」
承った周奥さん、紫鵑に渡す銀子を受け取るとすぐに退出したのでした。
さて表で働いていた賈璉が、賈赦に呼び出されました。
行ってみると、何でも最近宮中の方で太医が出入りしているが、元春妃から何か連絡はないのかとのこと。
特に聞いていない賈璉は、賈政の所に聞きに行くことにします。
賈珍と合流した賈璉が賈政の所に行きますが、特に聞いていないとのこと。
そんなところに宮内官から、元春妃の御不例と見舞いの許可が伝えられました。
次の日すぐに用意をした史太君・王夫人・邢夫人・煕鳳、賈赦と賈政は元春妃の見舞いのために参内します。
さすがに後宮には入れない賈赦、賈政は入り口で止められますが、残りの四人は枕元まで窺いました。
互いに慰め合い、また最近の兄弟姉妹の様子を聞いた元春妃は、宝玉が勉強を始めたことを聞いて安心して親子離ればなれを悲しみながら別れたのでした。
こちらは梨香院、薛家の人々。
今日も今日とて薛蟠が逃げ出し、金桂と宝蟾の二人がやり合っていました。
こらえきれなくなった薛未亡人が注意をしに行くというので、止めても聞かないと判断した宝釵は自分も付いていきます。
薛未亡人の言葉をまったく聞かない金桂に宝釵が忠告をしますが、聞くどころか逆に宝釵に対する当てこすりで返してくる金桂。
その態度に腑が煮えくり返る思いの薛未亡人でしたが、自分だって腹が立っているはずなのに、
「喧嘩を止めに来た人間が腹を立てていてはいけませんわ。」
という宝釵の言葉に従い、渋々諦めてほっとくことにしたのでした。
二人が戻ってきて香菱と三人になり、宝釵が香菱に何某かを言い含めていると、
「あぃたたたっ、ひっ、左の脇腹が…。」
急に苦しみだした薛未亡人にびっくりしておろおろするばかりの宝釵と香菱。
はてさてこれからどうなってしまうのでしょうか。
金桂に毒づかれたことを思い出して腹立ちのあまり腹痛を催した薛未亡人。
最初はおろおろするばかりだった宝釵と香菱でしたが、すぐに気が付いた宝釵が薬を選んで飲ませると落ち着きを見せてきました。
痛みが引いた薛未亡人はもう悔しさと悲しさで身が切られる思い。
そんな様子を見た宝釵は、
「家は私たちで平気ですから、賈家の御婆様や伯母様とお話でもして気散じて来て下さいな。」
そう言われて金桂のことを考えるのはやめて、今度でもゆっくり訪問しようと考えた薛未亡人でした。
いつもあわただしい栄国邸に、宮内官が元春妃の本復を伝えてきました。
喜んだ賈赦と賈政はすぐに史太君の所に報告に向かいます。
報告を受けた史太君も大喜び。
そんなところに賈赦が用事で出かけてしまい、賈政だけが残りました。
「私が言うのも何だが、宝玉もそろそろ嫁をとっても良いんじゃないかえ。」
「いえ、まだまだです。下手に嫁をとって大成しなければ、余所様の娘に申し訳ありませんから。」
そう言われて機嫌が悪くなる史太君を見た賈政が前言撤回するのを見て、苦笑いする史太君や王夫人でしたが食事の用意が出来たというのでお開きになったのでした。
史太君に宝玉の嫁入りを切り出されて本格的に考え始めた賈政は、宝玉を呼んで勉強の進み具合をテストすることにしました。
呼ばれて固まる宝玉。
一つ一つ質問に答え、冷や汗がたらりたらり。
テストした結果に満足した賈政が、一つ問題を出しました。
宝玉がうんうん唸って考えていると、賈政が部屋の前を駆けていく小者を見つけて問いただしました。
「薛家の奥方様がお見えになっているんです。」
これを聞いた宝玉は、最近ご無沙汰の宝釵も来ているのではないかと気が気でなくなってしまい、
「少しなら出来ました。」
と言ってさっさと答えてしまうと、何とか賈政に許して貰って史太君の所へと走ったのでした。
たどり着いた宝玉が飛び込むと、しかしそこに宝釵はいませんでした。
面白くない宝玉でしたが、話題が宝釵のことになると目を輝かして聞き入る始末。
薛蟠のいい加減さと宝釵の報われなさを嘆く薛未亡人を宝玉が慰めていると、巧姐児が具合が悪くなったと言って煕鳳が出ていってしまいました。
「どうも病気になるものが多いねぇ。黛玉ちゃんも頭はいいけど体は弱くて。宝釵ちゃん位頭が良くて大らかなら良いのにねぇ。」
と言って史太君も薛未亡人が帰るのに合わせて巧姐児の見舞いに向かったのでした。
こちらは賈政。
宝玉の嫁取りのことを聞いた食客たちに良い縁談はないかと訊ねていました。
と一人がどうでしょうかと持ってきた話に興味を持った賈政が詳しく訊ねると、どうも邢家の知り合いとのこと。
で詳しく邢夫人に尋ねたら邢徳全の方の知り合いだとかで、あまり良い娘ではない様だったので断ることにしたのでした。
さて煕鳳。
史太君に見舞いにこられてびっくり。
これこれと説明していると、邢夫人が賈政に他家の娘の事を聞いているのを見て、
「あら、御婆様。宝ちゃんなら宝玉と金鎖の縁があるじゃないですか。」
これを聞いた史太君は、どうせなら薛未亡人がいるときに言えば良いのにとつついたのでした。
巧姐児に与える薬を調合していた煕鳳は、賈環が見舞いに来たのを見て露骨に嫌な顔をしました。
それに気が付かない賈環は、そのまま帰ればいいのに、
「牛黄を使ってるんですよね。僕見たことないんだ、見せて下さいよ。」
と言って勝手に入ってきました。
手を出した賈環、つい手が滑ってしまい出来上がっていた薬を全部ひっくり返してしまいます。
「この前世からの仇敵が!お前のお袋は私のことを呪い殺そうとして、貴様は娘を殺しに来たか!お前とは孫の代まで仇と思え!」
そんな言葉を背に受けてほうほうの体で逃げ去っていった賈環でした。
さて家に駆け戻った賈環でしたが、趙氏にばれて大目玉を喰らってしまいました。
それで逆切れした賈環は、
「そんなに言うのなら俺がとどめを刺してきてやる!」
何だか前にも一度見たような気がしますが…。
びっくりした趙氏は慌てて止めますが、以後この件によって煕鳳と趙氏・賈環との間は最悪の状態となったのでした。
さて北静王の誕生日が来ました。
賈赦は賈政・賈珍・賈璉・宝玉の五人でお祝いを申し上げに向かいます。
迎えた北静王の方では、懇ろに礼を述べるとともに宝玉を一人側に呼んで話を求めました。
聞かれるままに答える宝玉を好ましく思った北静王は、以前見た通霊宝玉を似せて作った宝玉をプレゼントとして贈りました(あれ?北静王の誕生日では…)。
家に帰った宝玉は、賈政や史太君に北静王から聞いた話を伝えました。
何と賈政の前回の赴任時での働きが良かったので、今回出来た欠員に賈政が推されているとのこと。
まあ、期待してはなるまいといなす賈政でしたが、史太君らは内心大喜びだったのでした。
宝玉が退出した後の史太君の所では、まこと密やかに密談(密かにやるから密談か)が行われていました。
「であんたたち聞いてきたのかい。」
「はい。O.Kですが当主がいないのでまだ返事はしかねると…。」
煕鳳らの暗躍で、徐々に思わぬ方向へと進んで行く宝玉の縁談だったのでした…。
こちら怡紅院。
麝月と秋紋が喧嘩しているのを叱りつけた宝玉は、さっき煕鳳や史太君の様子がちょっとおかしかったと襲人に報告します。
さては縁談の話だな、と気が付いた襲人は、その場は濁して次の日宝玉を塾に送りだした後に瀟湘館に向かいます。
もし縁談の話なら、瀟湘館の様子にも変化があろう、というのです。
があの黛玉に下手なことを言おうものなら藪蛇になってしまうので、にわかに切り出せない襲人は諦めて帰ってきたのでした。(何だか最近襲人の様子がそわそわしていて、…なんか嫌ですね。)
怡紅院に戻ってきた襲人は、怡紅院の前でうろうろする二人の男を見つけました。
何だろうと思っているとその内の一人、鋤薬が気づいてやってきました。
賈芸の手紙を宝玉に渡したいとのこと。
本人でなくても良いから渡したい、と言って近づいてくる賈芸に不穏なものを感じた襲人は、すぐに大きな声で置いて帰るように言いつけます。
そこまではっきり言われてはそれ以上近づけなくなった賈芸は、折角襲人に近づくつもりが夢と終わってしまったのでした。
塾から帰って手紙を見た宝玉は、見てすぐに破り捨ててしまいました。
皆、内容が気になりましたが、宝玉が教えてくれないので気になります。
その上宝玉が上の空になってしまったのでなおさらのこと。
次の日塾に向かう宝玉は、麝月を呼び出すと、
「次ぎにまた賈芸が来たら追い返しなさい。」
と伝えて出ていったのでした。(内容は宝玉の縁談に関するおべっかでした。)
宝玉が塾に着くと、賈政の昇進が伝えられました。
急いで帰った宝玉は、喜ぶ史太君らにお祝いを述べて回ります。
しかも王子騰が祝いの芝居をだすことになり、黛玉の誕生日とも重なって史太君の喜びもひとしお。
当日になり芝居がばんばん掛かる中で、薛未亡人は来ているのに宝釵が来ていないのが気になった宝玉が、
「どうしてお姉さんは来られなかったんですか。」
と訊ねますが、歯切れの悪い返事ばかり。
実は史太君らは密かに宝釵を嫁と決めていたので、婚期前の面会を避けていたのでした。
皆が多いに楽しんでいるところに、薛家の使用人が飛び込んできました。
急いで帰るように言われた薛未亡人と薛蝌は、急なことにビックリ仰天。
帰ってみると、何と薛蟠が外で人を殺して捕まってしまい、今にも死刑にならんとしていると言うではありませんか!
気違いのように騒ぐ金桂もうるさいのですが、あまりのことに息も詰まりそうな薛未亡人。
薛蝌はすぐに旅支度を調えると、薛蟠が事件を起こした地に旅立ち、助命の働きかけに向かいました。
しばらくして薛蝌からの手紙を見た宝釵は、予断を許さぬ状況に薛未亡人に伝えにくくてなりません。
手紙を持ってきた使用人に様子を尋ねた宝釵と薛未亡人。
さてさて一体使用人は何と答えたのでしょうか。
薛蝌に派遣されて帰ってきた使用人が、宝釵らに問われるままに答えたところに寄ると、
「旦那様は、酒の席で使用人と酒の味で口論になり、換えろ、換えない、でやりあっている内に杯を投げつけて殺してしまったそうです。」
また気を失いそうになる薛未亡人ですが、何とかこらえると王夫人をつてに賈政の方から上役に取りなしてくれるように頼みに行きます。
渋々引き受けた賈政(こういう不正は嫌いな人)が何とか話を持っていった後、また薛蝌から手紙が来ました。
その手紙を見てあてのなさに愕然とした薛未亡人でしたが、手紙を持ってきた使用人の話から酒の席で同席した者を買収し、役人にも袖の下を贈れば死罪は免れるとのこと。
急いでお金を用意し、再度賈政の方に働きかけを頼むと、薛蝌の方でも色々と働きかけを続けたのでした。
おかげさまで裁判のやり直しが行われることになりました。
相手方の母親が泣き叫ぶ中、買収された面々は最初の証言を覆し、次々に証拠が減っていってしまいます。
ついには殺人から過失にまで減刑されてしまい、保釈金さえ払えば出られるようになってしまったのでした。
そんな薛蝌のところに某貴妃のご訃報が届けられました。
おかげで裁判官も忙しくなってしまい、薛蟠の方の取り調べが一時停止になってしまいます。
もう少しというところで進まなくなった薛蝌は、もしや元春妃の事かと心配して急いで薛未亡人の元へと戻ったのでした。
亡くなったのは、別の貴妃でした。
とはいえ薛蝌が帰ったおかげで一安心し、家を空けることが出来るようになった薛未亡人は、賈政への礼などがてらに栄国邸へと遊びに行きました。
最近宝釵がなぜ現れないのかと不思議に思った惜春でしたが、李紈の取りなしで納得してしまいます。
宝玉も宝釵がいないとつまらないし、薛未亡人の話から薛蟠が蒋玉函に会っていたことを聞いてしまって上の空だったのでした。
怡紅院へと戻った宝玉、襲人に昔蒋玉函から貰った腰帯の話を聞きますと、
「薛蟠さんもあんな状態ですし、変な人と関わるとあなたも痛い目にあってしまいますわよ。」
言われた宝玉、さっき黛玉が居たのに話しかけ損なったことを思い出してすぐに考えを打ち切って出かけてしまいました。
宝玉が瀟湘館に着くと、黛玉は琴の本を読んでいました。
感心する宝玉に、講釈する黛玉。
紫鵑がやってきて話を弾ませ、楽しそうに過ごす黛玉でした。
帰りがけに蘭の花を持った秋紋にあった宝玉が黛玉に、
「やぁ、蘭の花だ。黛ちゃんこれでこれこれの曲が出来ますね。」
言われた曲は、蘭に例えた夢やぶれる話。
宝玉が帰った後に一人になった黛玉、
「今でさえこんな身の私。きっと私も夢潰えて果ててしまうのだろうか。」
またまたこんな事を考えて涙する黛玉だったのでした。
いつもの如く黛玉が一人泣いていると、宝釵の所から使いの者がやってきました。
宝釵からの手紙を受け取った黛玉が中を見てみると、四首の詩が書き付けられていました。
(わざわざ私にだけこの様な手紙を下さるのは、きっと私のことを認めて下さっているからなのね。)
黛玉が何度も手紙を読み返していると、瀟湘館に来客が訪れたのでした。
来たのは探春・湘雲・李紋・李綺。
と、ふと漂う微かな薫りに気が付いた黛玉が、
「あら、桂花の様な薫りね。」
この言葉に探春が、
「黛玉さんも南方の癖が残っているのね。この時期に桂花はないでしょう。」
と言うと、湘雲や黛玉に土地と人とでやり込められ、
「土地と人には宿命があるのですから、あなたとて明日は南方にいるかも知れませんわよ。」
って事で落ち着いて皆帰っていったのでした。
また一人になった黛玉が食事を終えてくつろいでいると、何だか寒くなってきました。
雪雁を呼んで上着を取り出して貰った黛玉、雪雁が漁っていた箱から何かが出てくるのが見えました。
手に取ってみると何と今まで宝玉と二人で戯れた記録の数々。(詩を書いたハンカチとか、切られた香袋。)
見る見るうちに涙が溢れてくる黛玉におろおろするばかりの雪雁でしたが、紫鵑が気づいて慰めました。
何とか落ち着いた黛玉は、ふと思いついて宝釵への返事とともに詩を書き付け、てすさびに琴を取り出して弾き出したのでした。
こちら宝玉、塾がお休みということで瀟湘館へと遊びに行きますが、あいにくお昼寝中とのこと。
仕方なくうろうろする宝玉でしたが、最近惜春に会っていないことに気が付いて惜春の所へ遊びに行くことにしたのでした。
蓼風軒に着いた宝玉が中を覗いてみると、惜春と、何と妙玉が碁を打っていました。
そっと覗いていた宝玉でしたが、ついに吹き出してしまい見つかってしまいます。
いきなり宝玉に会ってしまった妙玉は見る見るうちに赤くなってしまい、宝玉もつられて赤くなってしまいました。
そうそうに引き上げようとする妙玉に、付き添って帰る宝玉。
と瀟湘館の側を通るとき、中から琴の音が聞こえてきました。
二人で静かに聞いていましたが、にわかに曇る妙玉の表情。
と琴の弦が切れる音がしたかと思うと、妙玉は一人走り帰ってしまったのでした。
帰り着いた妙玉は、一人座禅を始めます。
が宝玉とのやり取りを思い出している内ににわかに悪夢にとりつかれ、大勢の人間に拐かされる夢に大声を上げて悶絶してしまいました。
驚いた櫳翠庵の尼たちは、すぐに介抱すると医者を呼んで対応します。
何とか命は取り留めた妙玉でしたが、しばらくは落ち着かず心の療養が必要となってしまったのでした。
妙玉の話を彩屏から聞いた惜春、
「あの人も汚れのない人ではあるが、俗世との縁が切りきれていないのですね。私ならその様なものに惑わされないであろうに!」
と言いきってしまったのでした。
彩屏と話をしていた惜春の所へ、お客さんがやってきました。
誰かと思えば鴛鴦。
史太君の今度の誕生日に皆で写経を納めて功徳を積んでおこうとのこと。
承知した惜春に用意されていた紙などの写経用の道具類を渡し終わった鴛鴦は、急いで史太君の所へと戻ったのでした。
鴛鴦が戻ってみると、史太君は李紈を相手に遊んでいました。
とそんなところに宝玉がきりぎりすをお土産に遊びに来ます。
どこからそんなものを手に入れたのかと聞かれた宝玉、
「先日、先生の所で対句の試験をだされたときに、詰まった賈環にそっと教えてやったのでそのお礼に貰ったんです。」
それを聞いた史太君、
「あんたもあの子には痛い目に遭わされているのになんでまたそんなことをしてあげたんだい。あの子にしてももので礼を購うなんて先が心配だね。」
賈蘭はどうだったのかと聞かれた宝玉が、良くできていたと答えたのを聞いた史太君と李紈は、またもや亡くなった賈珠のことを悲しみ、賈蘭を呼んで食事を供にしたのでした。
さて、賈珍が代理で栄国邸の表の仕事をこなしていると、荘園からの届け物が届きました。
勝手の分からぬ賈珍が普段誰が処理しているのかと訊ねると、周瑞が見ているとのことだったのでそのまま回すことにします。
そこへ鮑二がやってきました。
暗に周瑞の横領をほのめかす鮑二に、難癖をつけに来たと判断した賈珍は追放処分を言い渡します。
周瑞と鮑二がいなくなってしばらくすると、表で誰かが喧嘩をしているとのこと。
誰かと思えば、鮑二と【何三【何三】〔か・さん〕
周瑞の養子。】。
逃げ出していた周瑞も呼びだし、鮑二と何三を追放して片を付けた賈珍でしたが、どんなに頑張ったところで既に使用人たちには甘く見られなめられてしまっていたのでした。
近頃、賈政が出世したことで甘い汁を吸おうという輩が多くなっていました。
ここにも一人居りまして、その名も賈芸。
早速ない金はたいて贈り物を揃えた賈芸は、煕鳳の元へとご機嫌伺いに向かいました。
以前に色目を使っていた小紅に案内されて煕鳳の前に出た賈芸でしたが、煕鳳には贈り物を受け取って貰えないばかりか巧姐児には大泣きされて踏んだり蹴ったり。
仕方なく小紅に送られて帰る賈芸、帰りがけに小紅に戯れかけていちゃいちゃ、いちゃいちゃ。
煕鳳に渡すつもりだった贈り物の刺繍を小紅に贈った賈芸は、その日はすごすごと帰っていったのでした。
さて賈芸を追い出した煕鳳は、平児から取り次がれて水月庵での幽霊騒動を耳にしました。
賈璉が今日は帰れないことを煕鳳が聞いていると、小女中が飛び込んできて幽霊を見たと騒ぎ出します。
その手の話は信じない煕鳳は、その小女中を叱りつけると仕事に戻ってしまったのでした。
仕事を終えた煕鳳が眠りにつこうとしますが、今日に限ってなかなか寝付けません。
そうこうする内にいきなりの寒気に襲われた煕鳳、飛び起きると平児を呼び出し側で寝させることにします。
そのおかげで何とか寝付いた煕鳳でしたが気分が優れず、朝になって起きても体調が思わしくありません。
そんなところに王夫人の所から使いのものがやってきました。
「すいませんが、賈璉様がいらっしゃいましたらすぐに来て欲しいのですが…。」
さてさて一体何が起こったというのでしょうか。
さて煕鳳の所にやっていた王夫人からの使いが言うには、
「先日の洪水で被害が出たので賈政に役所から仕事の話が来ている。が賈政がいないので賈璉に来て欲しい。」
ということでした。
しかし賈璉は昨日から出かけているので、賈珍の方に伝えるように頼むと、煕鳳はまた普段の仕事を始めたのでした。
このことで俄に忙しくなった賈政は、宝玉の勉強を見る余裕がなくなってしまいました。
喜んだ宝玉は勉強の手を抜き始めますが、さすがに塾をさぼるとばれるのでこれだけは欠かさずこなすことにします。
そんなある日のこと。
寒さが厳しくなってきたので襲人が上着を選んで宝玉の塾行きに持たせました。
塾で勉強していると風が冷たくなってきたのでその上着を出してみた宝玉は、それが雀金裘だったことで急に呆然となってしまいます。
塾が開けて帰る宝玉は、次の日の塾を具合が悪いということで休みにして貰いました。
帰ってきても呆然としている宝玉、襲人・麝月が気をかけますが、…やっぱり呆然としてる。
次の日になって塾は休みを貰ったことを告げると、もと晴雯の部屋を掃除して貰いそこで静かに勉強したいと言い出しました。
何も疑っていない襲人は、すぐに支度をさせて宝玉のやりたいようにさせてあげます。
雀金裘を見て思うところのあった宝玉は、詩を作り、香を焚くことで思いを果たしたのでした。
気が済んだ宝玉は、瀟湘館へと遊びに行きました。
着いてみると黛玉はちょうど写経をしていたところ。
琴や詩の話で盛り上がっていた二人でしたが、宝玉の言葉につい溜息混じりの独り言をつぶやいてしまった黛玉は何となく気まずい雰囲気になってしまいます。
居づらくなった宝玉は、探春の所へ遊びに行くと言って瀟湘館を後にしてしまったのでした。
宝玉が帰ってしまった後の瀟湘館では、黛玉が一人、最近の宝玉の様子にやりきれない思いを抱いていました。
そんな黛玉の様子を見ていた雪雁は、つい溜息をついてしまいます。
それに気が付いた紫鵑が、雪雁を外に連れだしてどうしたのかと訊ねると、
「宝玉様の縁談が決まってしまったんですって。」
飛び上がらんばかりに驚いた紫鵑が詳しく訊ねると、何でも雪雁は侍書から聞いたとのこと。
私たちは聞いてないと紫鵑が言うと、
「宝玉様が聞いたらわがままを言うかも知れないので隠しているけど、史太君様にも既に話が通っているんですって。」
そんなときに、いきなり物音がしてビックリした二人は、黛玉に聞かれたら大変と話を打ち切ったのでした。
ところが黛玉、二人の話を盗み聞きしてしまっていたのでした。
当然相手が自分なはずはありませんから、夢も希望もなくしてしまい自暴自棄になってしまいます。
普段から養生を心がけていても治らない体調を、意図的に崩そうとし始めてしまったのでした。
日に日に弱まっていく黛玉。
史太君や王夫人らも見舞いは出しますが、いつものことだろうと高をくくって気が付く様子もありません。
しかも宝玉が見舞いに来ても素っ気ない態度をとってしまいます。
さてさて耳にする噂全てが宝玉の縁談を囁いているように聞こえてしまう黛玉は、これから一体どうなってしまうのでしょうか。
一人自分の人生を悲観した黛玉は、養生をやめて自殺を図ろうとしていました。
必死で看病する紫鵑と雪雁ですが、当の本人に治す意志がないのですからどうにもなりません。
そんなある日のこと、黛玉の様子がますます怪しくなったのに気が付いた紫鵑が、雪雁に看病を任せて史太君らに知らせに走りました。
残された雪雁、長年使えた主人の有り様におろおろしてしまい、紫鵑の帰りを待ちわびます。
と物音がしてほっとした雪雁が覗いてみると、侍書が見舞いにやってきたところでした。
黛玉には意識がなくなっていると思った雪雁は、侍書を見て先日聞いた宝玉の縁談のことを持ち出します。
それを聞いた侍書は、
「あら、その話は賈政様の取り巻きが持ってきた話で、一応史太君様もお聞きになっただけで退けたそうよ。第一史太君様は園内から嫁をとるつもりなんですって。」
そんな話をしているところに紫鵑が戻ってきました。
黛玉の様子を見ると飲み物を欲しがっていたので、急いで口元に寄せてやり、一口二口含ませてあげます。
そこへ紫鵑の知らせでやってきた史太君や王夫人・煕鳳は、黛玉の顔色が良くなっているのを見て一安心して帰っていったのでした。
さて黛玉、侍書が来たときにも実は意識はありました。
雪雁と侍書の話を聞いていた黛玉は自分の早とちりに気が付き、しかも園内の者といったら自分しか在るまいと思うと俄に元気が出てきて飲み物を欲しがったのでした。
自殺を図る原因が取り除かれたのですから、回復も早くなります。
黛玉の容態は見る見るうちに回復し、以前の状態を取り戻すことが出来たのでした。
こちらは史太君。
黛玉の様子から九分かたそうと悟り、宝玉と黛玉の住まいを遠ざけようと提案します。
それを聞いた王夫人は、
「それは逆にあまり宜しくないでしょう。いっそ二人の縁談を決めてやっては。」
といいますが、
「黛ちゃんは確かにいい子だが、体も弱いし性格的に猜疑心が強い。やはり宝玉の嫁には宝釵ちゃんだろう。」
といい、とりあえず宝玉の縁談については戒厳令を敷いて煕鳳に園内の監督を強化させたのでした。
史太君に命じられ、園内を巡回していた煕鳳は、紫菱州の側で騒いでいるばあやを見つけました。
聞くと岫烟の小女に盗人呼ばわりされたというのです。
真相はただ、物が失せたので近くにいた人に聞いただけだったのですが、岫烟をなめたばあやが騒いでいたのでした。
煕鳳がそのばあやを追放しようとすると、岫烟が飛び出してきて許してやるように頼みました。
煕鳳は、岫烟がそう言うなら、とばあやを放すと岫烟の所に遊びに行きます。
と岫烟の生活の貧しさと、その控え目な性格に感動した煕鳳は、そうそうに自分の部屋に戻ると豊児に自分の持ち物を送ってあげたのでした。
そんな受け取れませんと送り戻した岫烟に、今度は平児もやってきてたってと言われてしまい仕方なく受け取ったのでした。
平児と豊児が戻るときに、薛家のばあやとばったり会ってしまいました。
岫烟の所から来たのだと気が付いたばあやは、一部始終を聞いて薛家に戻ります。
ばあやの話を聞いた薛未亡人は、早く薛蝌の嫁にとってやれればと悔しがりますが、薛蟠のせいでそれどころではありません。
「岫烟ちゃんが、あの金桂みたいな女だったらどうでも良いのです。あんな良くできた女の子、薛蝌が早く嫁に貰ってくれればもう言うこともありません。」
それを聞いた薛蝌も、金陵にやってくる際に供に旅した身。
自分の部屋に戻ると、岫烟の苦境を聞いて彼女を思って不慣れな詩を一つ作り上げました。
とそんなところに宝蟾がやってきます。
薛蟠のために働いてくれる薛蝌に、金桂から労いの品だとのこと。
ありがたく受け取る薛蝌に流し目くれて帰る宝蟾に、
「なにやら怪しいぞ。あの二人何をしでかすか分からないから気をつけるようにしなくちゃ。」
と思うと、貰った品をどうしたものかと困ってしまったのでした。