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こなかりゆ のエッセイ vol.2

 

 

musee vol.26 2000/07

そういえば、野球の『試合』って、英語にするとベースボール『ゲーム』にな る。

わたしは発育期、ちょうどアメリカにいたんですけど、たぶん肉や骨になったの は、ハンバーガーやビーナッツバター&ゼリー・サンド。そして同じように脳の 記憶中枢は、毎日約5時間、見聴きしていた、アメリカのテレビ番組の主題歌や ライフ・スタイルを吸収しちゃったのかもしれない。

その頃は、気がつかなかったんだけど、確かに驚くほどよく曲を暗記していて、 実際、今、聴いてみると、あれ?ジャズじゃん?と気がついたりして。

ジャズは何なのか?って、ジャズは何でもだから、それには答えられませんが、 このアメリカのテレビ番組集を聴けばわかるように、ジャズはあまりにもアメリ カなの。

アメリカのテレビ番組って本当に多岐に渡っていて、面白いんだけど、アメリカ にはもうひとつの側面があって、それは『ゲーム』なんですよね。実にいろんな 種類のゲームがある。友達や家族が集まってやるのが、ルーレット、チェス、チ ェッカーズ、モノポリー、クルー(探偵推理ゲーム)、スピン・ザ・ボトル(瓶 を回して女の子どうし服を脱いでいくゲーム)、ライト・フェザース(呪文を唱 えて、寝ている子の体を床から浮かせるインディアンの遊び)トランプ、手品、 チェイン・レター、など。歩道でレモネードを売ったり、公園でお菓子屋さんを 開いたり、裏庭でバザーを開いて貯金したりするのもどこかゲームで。タマゴ隠 しゲームやバービー人形遊びや自分や友達に本名とはまったく違う名前をつけあ ったり、そんなことばかり毎日やって生きてたんですけど・・・・・。

学校も遊び感覚が強くて、例えば、「Backwards Day」と言って、いつも逆のこ と(後ろを向いたまま廊下を歩いたり、文章を全部逆から書いてみたり、シャツ を裏返しに着なくちゃいけない)をやらなくちゃいけない日が1年に1日だけあ ったり。あるいは、教室の中で勉強しなくてもいい授業があったり(廊下でも、 校庭でも、どこでもいいから、自分の好きな場所を見つけて勉強してもいい の)。独立記念日には、コロニアル時代の服(ボンネットとロングドレス)を着 て授業を受ける、など。学校もゲームのような多少バカげたおかしい所だったの で、学校が嫌いだったことは一度もなかったな(笑)。学校は、教科書を暗記す るためにある機関というよりは、発想が遊びの中から生まれることや、知ること って面白い、って教えてくれる場所だった。だって、宇宙の謎が少しでもわかる ことはどスリリングでわくわくすることはないし。やっぱり何と言っても閃きと 発見はスリリング。それがジャズ。

大人になるにつれ、音楽を知るようになるにつれ、子供の頃にやってたゲーム が、わたしの音楽に反映されてることがわかってきた。わたしにとってのジャズ は、友達たちと子供の頃に遊んだ感覚にどこか似ている。鬼ごっこや隠れんぼや ジャングル・ジムや恋の駆けひき(ウソです、ウソです)のようなもの。わたし の音楽もずいぶん複雑なゲームになってきたけど(笑)。

ジャズと言えば、何かと精神性が取り上げられがちですが、ここはあえて、『試 合』というより、『ゲーム』と呼ぶにふさわしい、遊び心と邪気のなさと、単純 さとバカバカしさを紹介したいとおもいます-。"HOWDY DOODY!"

TELEVISION'S GREATEST HITS (V.A)

 

Riyu's Paper interview

近況について〜

G)GOOD HUMOUR(インタビュア)
R)こなか りゆ

G)ひさしぶり。まずは、2000年になった今の心境はどう?。
R)去年の暮れから、ずっと気になって書き直している曲を、今も直してるから、年が変わったって実感ない。
G)からだの方はもう大丈夫なの?
R)まあ。
G)結構、半年くらい休んでるよね。
R)神経の方はだいぶよくなってきたから、あとは体力が戻れば、たぶん、春くらいからLIVEやRecordingができると思う。
G)でも、寝てる間も曲書いたりはしてるんだ?。
R)どうしてもピアノに向かっちゃう。今、書き直してるのは 去年の夏にレコーディングしようとして作ってた曲。
G)ああ、ずいぶん前にDATで聴かせてもらったやつ?。
R)そう。
G)あれ、すごくよかったじゃないか?。なんであれじゃ完成じゃないの?。
R)AメロはOKなんだけど、Cメロは、ため息つく、イメージなのに、そこに至るまでのBメロが少し内向してるから、全体に重苦しい気分になって、ちょっと意図とは違うの。
G)こなかの場合、曲の作り方が、素手でイメージを追いかけるって風に極端で、まあ、だから変わった展開の曲になるんだろうけど、作り方としてはたいへんそうだよね。今回のインタビューは、そのあたりの実作について聞いてみたいな。
R)うん
G)まず、どんな時に曲ができるの?。
R)真夜中にベットに横になってるときとか、窓の光の色がいろんな色に変わるんだなあとか、ぼんやり思っているとき、曲のきっかけが始まって、あとは走ったり、ジャンプしたり、水に潜ったりするイメージを追いかけるの。
G)獲物追いかけるみたいに?
R)よく見失うけどね(笑)
G)どれかの曲で、具体的にそのイメージの流れを教えてくれる?。
R)指定してくれると話しやすいけど
G)「じゃあ、「おばあちゃんは女の子」
R)あれは、カーンと晴れた青空と、その下に広がる草の上をバッタがピョンピョンいっぱい飛んでいくようなイメージがあってだから、仮曲につけてたタイトルは「Countyside」だった。マークのギターもそんな風になってるでしょ?
G)子供の頃、見た風景?
R)もちろん、それもあると思うけど、仮歌で歌ってた一行目の歌詞が〜♪Universe♪〜だったから、もっと宇宙っぽい風景だったと思う。わたし、音って星に似てると思うから。ピタゴラスもね、星を音符と考えた哲学者なんだよね。
G)それで、歌詞にピタゴラスが出てくるんだ?
R)たぶん、大昔の人は星がどうして空から落ちてこないのか、不思議に思ったはずだし、流星雨の夜は真剣にこわがったと思う。
G)で、Countysideということは?
R)言葉でいうと強引に聞えるかもしれないけど,Universeが、わたしの田舎ってことになるのかな。
G)なるほどね。こなかの作るものは、『犬の気持ち』にしても、『おかしなタマゴ』にしても、こなかが変身して犬とか宇宙人になってる、って気がしてくる瞬間があるんだけど、それはやっぱり歌ってるときもイメージを追いかけているからなの?
R)そうかもしれない。犬が歌うとこうなるだろうとか、宇宙人がうたうとこうなるだろうとか、想像力膨らませているうちに、本気になっちゃうみたいだから。だから、いわゆるラヴソングを歌うと、人から感情がないと言われるの。自分という対象が自分で一番イメージしずらいからじゃないかな。
G)ああ、自分のことは自分でもよくわからないよね。
R)そうじゃなく、自分の感覚に忠実になろうとすると、冷静になることが必要になってくる。冷静になって、恋愛とは?とか考えはじめるから。そうすると恋愛というのは幻想じゃないかとか、単に子供を産む相手を探そうとするメスの生理じゃないだろうかとか、自分の本当の感覚がわからなくなってくる。
G)でも、こなかの場合は、自分の心情とか、思いを人に訴えたいわけじゃないだろう?
R)そう、そもそも、いい曲をこの世界に残すことが、わたしの夢なの。
G)いい曲というのは、普遍的という意味なのかな?
R)いや、宇宙にはまだまだ知らないことが山ほどあるということ。
G)知らないことや、見てないものを明るみにだすってこと?
R)自分の感覚や、生理の中にさえ、まだ知らないことがいっぱいあるし、月に初めて降りたアポロ乗組員のように新しい発見いつも希望的に歌いたいの。



こなか りゆの1st Full Albumについて〜

最初のインタビューでも少し触れたが、こなかは去年の夏以降、体調を崩し、長期休暇をとっている。こなかの発言どおり、体調も少しづつ回復し、また春くらいから人前に登場できるようになると思うが、こなかの新たな出発を記念して、前々からメジャーでの発売を待たれていた"HICCUPS"の楽曲に、HICCUPSレコーディング時の未発表曲、それから、ポリスターでの録音盤を足したCDが発売される。ジャケットはHICCUPSと同じ、コンコルドグラフィック。"HICCUPS"の頃からのファンの方には、新録はお互いもう少し待ちましょうということにして、14曲、全曲New Masteringされたこのアルバムははっきり言って歴史に残る名盤です。海外での英語ヴァージョン発売も検討中なので、こなかの体力が戻り、書きためていあるという数10曲の新曲が録音されるまで、このアルバムをぜひ聴いてください。

G)3月に出るアルバム、聴いたけど、ものすごいね。New Masteringされて声や音がさらに生き生きしてる。
R)ありがとうございます。
G)こんな音楽を4年前にもう作っていた人がいるんだということを伝えるだけでも、価値のあるCDだと思う。もちろん、今の方が時代が追い付いてきてるからグッドタイミングだと思うけど。
R)このCDを出そうと思ったとき、ファンの人のこととか考えて、いろいろ悩んだんだけど、どうしても初期こなか りゆを一枚にまとめて、わたしの外側に出してやる必要があったの。このCDのマスタリングがあがった朝、なんと48時間完徹になってフラフラだったけど(笑)本当に心からよかったと思った。
G)今後、どんな方向に音楽性が移っていくか楽しみだけど、アーチストは最後には、処女作に帰るというものね。その意味でこのアルバムには、こなかのラフでヒップなカッコよさとか、キュートな面とか、ユーモアとか、実験的な部分がバランスよく入ってると思うよ。
R)その時々の気分でやってきた録音を一枚にまとめると、自分というものを客観視できる。
G)今回からね、何回かに分けて、もう忘れているかもしれないけど、"HICCUPS"時のレコーディングについてロングインタビューをしていきたいな。
R)うん
G)まずは"HICCUPS"前夜から
R)まず、ここの(GOOD HUMOUR)尾上文さんと、尾上さんがやってるボーイ・ミーツ・ガールというユニットの今井忍さんと、彼等の友だちでピアニストのロケット・マツさんとかが、わたしのまわりにいて、わたしが作った曲をいろんなヴァージョンで4chのテープレコーダーに録音していったの。たとえば、「シャックリ」とかも、公表してないけど3 versionくらいあるし、「エバンストンの夏」もメデスキーとの versionがある。とにかく発表したらすごい量になるくらい、いろいろあるの。「夢見がち」と「あららら、あららら」のカントリーディスコ versionとかね。
G)へえ、聴いてみたいなぁ
R)去年、わたしのこのアルバムの Masteringを終えてハワイへ移住しちゃったけど、エンジニアの石崎さんとかも当時からの仲間で、レコーディングのときもリハーサルから全部録音してるから、そこにも違うアレンジのアウトテークがいっぱいあるの。テープには「石崎、趣味の世界」とか書いてあるんだけど(笑)それで、だいたい、一日、一曲の感じでどんどん曲を作っては彼等の家に行って録音するの。そうこうしてる内に、楽曲がいっぱい溜まって、みんなでスゴイスゴイとか内輪で盛り上がって、誰かに聴かせようということになって、「こなかは、アメリカ育ちだから、やっぱりアメリカのカントリーとか、ジャズに詳しい人がいいんじゃないか」ってことになって。麻田さんという人に会いにいったの。麻田さんという人は70年代にトム・ウェイツとか、マリア・マルダーとか、まだ当時、日本ではほとんど誰も知らなかったアメリカの"Musician's Musician"たちの日本LIVEをもくもくと企画していた人だって聞いて。それで、聴いてもらったら、ものすごく気に入ってくれて、そのとき麻田さんは、ちょうどメデスキー、マーチン&ウッドのクアトロLIVEを企画していたので、みんなで見に行って、
G)どうだった?
R)ものすごくアバンギャルドで、ベースのクリス・ウッドなんかは最後ウッドベース壊しちゃうしね。この人たちとレコーディングするのかあと最初は思った。
G)ハハハ
R)いやあ、ほんとパワーがすごくて、からだもみんながっちりしてて大きいし
G)オビのMonster vs. Hamsterって、そういうことか
R)でも、麻田さんから、彼等のCDを借りて、何度も聴いているうちに、彼等のちょっとユーモラスな子供っぽい感覚とか、なんとなく不器用な感じとか、コードまちがってたり、スネアがコキっとか、かすってたりしてても、そのままCDにしてるラフさや、現代アートっぽいタイトルのセンスとかが、わたしに似てると思って、ぜひ一緒にレコーディングしたいと思うようになったの。
G)で、Studioに入るわけだ?。最初に会った彼等の印象はどうだった?
R)最初に、麻田さんから紹介されたんだけど、みんなステージで見たときとは印象が違って、"Hi !"なんてカジュアルで、品がよくって、好奇心の強いインテリという感じだった。日本の食べ物にも詳しくて、食事中にも、「これ、長芋っていうんだよね?」とかしゃべるしね。ビリー・マーチンは休んでる間中、インディアンっぽい絵を紙に描いて、スタジオの壁に貼ってるし(笑)。「この曲は、ゼンマイ仕掛けの人形が、だんだん止まっていく感じ」とか曲のイメージを話しながら、使う楽器やエンディングを一緒に考えて、Studioの空気感がずっとアーティーなまま過ぎていった。

次回に続く

 

「私の音楽でいろんなボーダーをとっぱらえたらいいな!」

 

 

CDでーた掲載

96年4月にインディーズで発表した1stミニ・アルバム『HICCUPS』が矢野顕子などから絶賛、外資系レコード店でも高い評価を得たこなか りゆ。そんな彼女がミニ・アルバム『A FUNNY EGG』でデビュー。
「私はずっと音楽をやっていこうと思っているから、たまたま今回メジャーっていう環境になりますけど、音楽に向かう姿勢とか気持ちとかは全然変わってないですね」
12歳までN.Y.で育ち、帰国後「価値観のギャップを感じた」という彼女特有の視点から物事をとらえた詞は、ユニークで、鋭い。そして海外ミュージシャンによるラフでグルーブ感あるあったかいサウンドに、自由奔放なメロディー、表現力豊かでかわいらしい歌声が魅力。

「私の音楽で性別とか年齢とか国籍とかいろんなボーダーをとっぱらえたらいいなと思っています」 たとえば天気がいい日曜日の午後、彼女の音楽がよりいっそう、ゆったりとしたひとときを演出してくれるはず。

 

アメリカ仕込みのスマートな曲調が◎

WHAT'S IN?掲載

幼少時代シカゴやニューヨークで育ったという経歴の持ち主で、早くからジャズやカントリーに親しんできた模様。そのせいか5月25日に出る7曲入りの『A FUNNY EGG』では、マーク・リボー(元ラウンジ・リザーズ)を筆頭にニューヨークの先端派やアシッド・ジャズ系のそうそうたるメンバーが脇を固めているのです。彼女の歌はスイートなベイビー・ボイスで、メロディーのほうはゆるやかな快感脱力もん。これで「37歳のbaby」なんていう曲を歌われた日にゃあ、男も女もそそられて当然です。上原さくらちゃんへの詞&曲提供などでも活躍していたこなかさん、今後はミニ・アルバムが連続して届く様子。

 

こなかりゆ のエッセイ vol.1

 

 

GOOD HUMOUR こなかりゆ's News掲載

NYレコーディング
『OOPS!』は、NYのマジック・ショップという、仲間たちがロフトを改造して手づくりで作ったという、まるで友だちの家のようなスタジオでレコーディングした。小学校の頃、わたしは、この街のブロンクス区に住んでいたんだけど、ひさしぶりのNYの印象は「あれ、こんなにデカかったっけ?」だった。木の高さも日本の2倍、舗道の広さも日本の2倍、注文したアイスコーヒーのカップも2倍、人間の太さも2倍、空も2倍、太陽の光の量や強さは4倍・・・・。とにかく広い!そしてデカい!。1ブロック歩いただけで、ハアハア言ってるし、一食たべるとブクブクだぜ! でも、スタッフ陣には「こなかは、NYにいるときの方がイキイキしてて、フェロモンも多い」って評判だった。日本にいるときとは別人なんだって。

NYでの録音は5日間。初日は、ミュージシャンたちも、みんな硬くて、遠慮しあっているみたいで「どないしよう」ってハラハラしてた。初対面の人たちとパーティで話すとき、共通の話題を探したり、あたりさわりのない話をしたり、気を使い合ったりするじゃない? そんな感じ。それが2日目の終り頃、『あるヒップな事件』をきっかけに団結心が、いっきに高まった気がする。その事件の張本人、セバスチャンはブースに入る前やブースに入っているとき、Jail! Jail! と、大きな奇声をあげて、みんなを笑わせてばかりいたから。

3日目に、ピーター・シェラーがキーボードを弾きに来た日が、今回のレコーディングで一番成果があった日だと思う。ピーターはとてもイマジネーションが強い、映像的なミュージシャンでアプローチが、すごくユニーク。『SPACE IS A BIG ◯』という曲の歌詞を英語に訳して、楽曲のイメージを説明してたら、歌詞に出てくる、お好み焼きって部分が気になったのか、”Can I put in some okonomiyaki?(お好み焼きを入れてもいいか?)”って彼の方から言ってきて、サンプラーで、お好み焼きを思わせる音を、いっぱい散りばめてくれた。具が盛りだくさんの。そしてトラックシートには、そのまま『お好み焼き』って欄ができたの。 『MISHY-MUSHY』は、今回のNYレコーディング一番人気で、マークも”This is your Hit song”とフランス人っぽくうなづいていたし、この曲を録音しているときには、みんなかなりエキサイトしていた。わたしが作ってきたループにユヴァールがドラムを足して、ピーターはメロトロンを弾いた。マークはギターのIdeaが閃くときエンジニアのジョーに、ぶっとんだ顔して「今すぐ録って」っていうの。(録音のタイミングをのがしたりすると、体ごこダウンして、気分が乗らなくなったりする)スペイシーなギターが4本ぐらい入って、セバスチャンにはウッドベースを弓でチベットの馬頭琴のように弾いてもらった。

4日目には、ジャズ・パッセンジャースのメンバーがヴァイブスやホーンのダビングに来てくれた。素晴しかった。特にサックスのロイは濃い口髭をはやした、わし鼻のイタリア系の顔をした人で、性格も極端に、せっかち、マイペース、楽天的。演奏の順番を待っている間、「はやく吹きたい!」「次は俺だろ?」と、うるさく、待つのがすごく苦痛なのか、部屋の中をトカゲみたいに行ったり来たり、歩き回る。ブースで演奏しているときも、間奏だけでいい、って言ってるのに「ここもやるよ、あそこもやる、ああ、全部入れるわ!」って言って、しゃがんだり、お尻を突き出したり、いろんな格好をして、オーバーアクションで吹いてくれた。
終わっても「ほかの曲はないの?楽しかったのに!もっと吹きたいよ」ってな感じで・・・。帰り際に、ロイとカートと3人で写真を撮ってもらおうと、カメラの前でポーズとってたら、突然、ロイが大きなオナラをして・・・。みんな吹きだしちゃって、カートは「またかあ〜」って顔で笑ってたけど、ロイは「ほら、これでナチュラルな、いい写真が撮れただろう?」だって。

最後の日になると、みんな、もうすっかり打ち解けて、チャーリーは愛犬のスカウトを連れてきたり、マークは奥さんと生まれたばかりの赤ちゃんを連れてきたり、「インディアンはいつも、これを噛むんだよ」と言ってシソの葉くらいの葉っぱを、みんなに配って回ったりした。でも、みんながやっと仲良くなった頃に、いつもレコーディングって終るんですよね。

 

ワールドワイドな音の世界を見せてくれるよ

PeeWee掲載

幼少期に体験したことは後々にとっても大きな影響を与えるらしい。音楽もまたしかり、りゆちゃんはこの時期、6歳から12歳までをシカゴとニューヨークで過ごした。
「毎日3時に家に帰ってきて、ボーっとテレビの前に座ってると、いろんなジャンル、いろんな年代の音楽が、ごちゃまぜになって耳に飛びこんできたんです。私、小さなころ、すごいテレビっ子で、いっつもマンガやドラマばっかり見てたから」 なーんだ、私たちといっしょじゃん。ただそれが英語だっただけじゃん。でも、英語だったこと、アメリカの文化だったことがやっぱり違うわけだ。
「もちろん、アメリカにも悪いところはいっぱいあるんでしょうけど、すごくいいなと思ったのは、やりたいことに忠実で、なんか人生がボードゲームみたいなんです(笑)。みんなが一発大逆転の夢を見てて、いちばん大事なのはチャレンジや勇気だと思ってる。テレビでも”Oops,I made a misstake,that's all”って歌が日曜日には流れていました」
確かに、だれも完璧な人なんかいないっていわれたらちょっと救われる。でもそんな環境から日本に来たら、窮屈で大変。男だから、女だからとか、10代は10代らしく、20代は20代らしくとか、他人といっしょでないとヘンにおもわれるとかことごとく違う。
「自分の直感にもっと素直になり、他人の自由も尊重するようになれば、人生ラクになるし、楽しくなる。ドラマチックに思いきり生きられるようになると思うんです。性別とか、年齢とか、国籍とかいろんなボーダーを取っ払えたらいいのになと思います」
そうだそうだ、とわかってはいるけど、他人の目ばかり気にしてしまう。彼女の音楽に触れれば、少しは勇気がわく。ラクになれる。素直になれる。

 

「宇宙からやってきた帰国子女」

 

 

ぴあ掲載

「おばあちゃんは女の子」「赤ちゃん火星に行く」など、一見シュールな曲名の彼女の歌。でもその音はジャズやカントリー風味で、とても暖かく懐かしい。まさに新作に付いた”SFカントリー”というキャッチフレーズ通りだ。独特のミックス感覚は、アメリカで過ごした子ども時代が強く影響しているようだ。
「日本語と英語って発声方法が全然違いますよね。歌い始めたのは、自分でもっといろんな声を出してみたくなったからだと思うんですよ」
奔放な言葉遊びが楽しい詞の中には、彼女の子ども時代らしきアメリカの情景も出てきて、不思議と郷愁を誘う。
「ある意味、私は12歳のままで止まっているんです。でも子どもの頃見た風景っておばあさんになったとしても永遠に残るものですよね。歌で風景を伝えられたらいいな」

 

愛・宇宙規模

音楽と人掲載

矢野顕子は「愛」というでっかいテーマをさらりとわかりやすい言葉で唄い、そして深いところで私達をうなずかせる力をもっている人だ。こなかりゆは「愛」という言葉を使わないでそれを表現し唄い、こちらが笑って油断している隙に心をギュンとそっち側へ持っていっちゃう人だ。すでに4枚目を数えるミニ・アルバム『HOKEY-DOKEY』の中の1曲目”おばあちゃんは女の子”では、「森と湖/草原と光/みんな生まれてきた/おばあちゃんは女の子/白髪になっても/背中が曲がってきても/女の子はずっと女の子/ホントは子育てなんて/したくない」なんて詞を書いている。おませな女の子がおばあちゃんと遊んでいて、ふと思った「いつかこうなるんだろうなぁ」風な冷めた視点がなんとも可愛い。そしてここには言うまでもない「愛」がある。さて、年齢も明かさない、国境もビュンビュン飛び越える「枠なし」人間のこなかりゆとは一体どんな人なのか? 資料用の写真では、人懐っこい笑顔が印象的なんだけどなあ・・・。

●詞を書く時って、なかなかこんな素直に言葉が出てこないと思うんですけど。
「私は『芸術』やっている意識があまりなくって、むしろ手紙を書きたいなって思うんですよ。それは詞だけでなくって、歌にしても曲にしても。みんな『芸術、芸術』って言い過ぎてて、そういう意識が雑念になっちゃうと思うんですよね(笑)。なかなか難しい。やっぱり人って自分をよく見せたいっていう気持ちが働いちゃうから--でもそういう時にジョセフ・スペンスっていう人のCD聴くんです。その人バハマのおじいさんでギタリスト・・・今はもう死んじゃってるけど・・・中にはそういう風に音楽作っていう人もいるから」
●「そういう風に」とは?
「その人はまさに雑念のない素直な音楽を作っている人だから(笑)」
●詞を書く時に、わりとスラスラ言葉が出てくる方ですか?
「いや、それはもう考えに考えてる。もちろん詞に関しては私一人で書いている訳じゃないので--尾上文さんと一緒に書いてるんです。『手紙みたいなもの』って言いましたけど、実際に書く時はそんなにスラスラ出てくるようなものではないです」
●音楽をやり始めたきっかけって何だったですか?
「小学校の時にアメリカに住んでいた事があって--日本に帰って来た時に凄いギャップを感じて(笑)。そこから始まってると思うんですけど」
●どんなギャップだったか憶えてます?
「あのぉ・・・日本語と英語って発音がまず違うんですよ。だから英語で喋ってた時は、もっと声が低くなるんですよ。で、日本語で話すとちょっと高くなって--喉の辺りを使うんですよ。英語はもっと腹から声を出す感じ--ずっと喉の辺りしか使わなかったからフラストレーションがあったのかなって(笑)。だって、もっといろんな喋り方したいじゃないですか。いろんな音出すって楽しいじゃないですか」
●そういえば、全策『OOPS!』に引き続きニューヨークのミュージシャン達とセッションをしてますが。
「毎回もの凄い発見があって。ある意味『いい留学』させてもらっているみたい(笑)。『音楽はスポーツだ』って凄く思ったんですよ。音楽を聴いてそう思ったんじゃなくて一緒にセッションしてみて、『あ、これはバスケット・ボールの試合だな』って--音ってボールの凄く近い--ドリブルして来た人が私にパスをする。それを受けて他の人にパスをする。その人がシュートを決める--っていうように」
●こなかさんって、自分をどんな人だと思っているんですか?
「人によく言われるのは『不器用』ってことなんです。だから『不器用なんだろうなぁ』って」
●「お裁縫が出来ない」とか?
「手先のことじゃなくって」
●生き方?
「生き方っていうか・・・私って、気になるとこだけ気になっている人だから・・・気になってないとこは全然気になってない。だからバランスが悪いみたいですね。だから『こなかりゆってどんな人?』って言われたら、『不器用な人』っていう事なんじゃないかな(笑)」
●歌を聴いていると、「不器用」というよりは「器用」という感じがしますけど。
「『歌は感情』だって思う人が多いと思うんですけど、私は全然そう思わないんですよ。『歌はイメージ』だって思うから。そのイメージに忠実になるって事が大事で、その中に『入ろう入ろう』と思ってフッと入っちゃったら、あとはそのままイケるわけで--感情を出そうと思ってやってるのはなんか・・・私は全然そんなの・・・なにも感じないですよ」

 


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