八重山民謡酒場ルポ

3月3日から6日まで、石垣島に行ってきました。
今回は仕事だったので、昼間はどこにも出かけられなかったのですが、その埋め合わせに、毎晩毎晩民謡酒場通い……
「八重山の島唄」にどっぷりつかった日々のレポートです。
なお、3日ともかなりアルコール度が高くなっておりますので、細部については記憶違いもあるかもしれません。
その点はご容赦ください(汗)。

第一夜: 島唄家「琉歌」
1日目は川門正彦さんの「琉歌」。
昔「沖縄ファンクラブ」で一緒に三線を弾いていたさんきちさん(八重山民謡がやりたくて石垣に移住した筋金入りのにぃにぃ)と一緒に行きました。

このお店は、長らく関西で活動していた川門さんが、故郷石垣島に帰ってきて2000年4月にオープンしたお店で、まだ新しい、ひろびろした感じのあるしゃれたお店です。
川門さんとは前にお会いしたことがあります。3年くらい前だったかな……五反田の「結ま〜る」というお店でライブかあったとき以来。でもちゃんと覚えててくださいました。その川門さんの左手の甲に、べったりと張られた湿布薬……なんでも、抱えあげたお子さんをふざけてくすぐったら、お子さんが暴れた拍子に指を脱臼しちゃったとか。「いやー、まだ腫れちゃってて」と言いながらも、ステージに立つとあの定評のある早弾きは健在。すごい。
(とその時は思ったんだけど、その後完治した川門さんの演奏を聴いて、あの時は相当セーブしてたんだなとわかりました……いや、お見それしました、すみません〜。)

川門さんは23才のとき、沖縄県三線早弾き大会に出場して準優勝を、さらに翌年・翌々年には優勝を勝ち取ったという経歴の持ち主です。 なお、川門さんが準優勝だったときに優勝したのは、アヤメバンドのリーダー長間孝雄さん(与那国島出身)で、この人も「早弾きの名手」と言われています。

ここのステージは、川門さんと女性ふたりによる民謡ショー形式。お客さんからのリクエストもまじえつつ進行します。
この日は新潟からきたというお客さんのグループがいて、その中のおじさんがひとり、ステージに引っぱりだされました。あまり沖縄の歌は知らないというこのおじさん、まず「佐渡おけさ」を熱唱。いやー、石垣島まできて「佐渡おけさ」を聴くことになろうとは……(笑)
川門さん、そこはプロですから、ちゃんと三線で伴奏をつけていました。その次の「十九の春」も、時々リズムに破調をきたすおじさんの歌に、うまーくついていきます。ここがカラオケとは違うナマ伴奏のいいところですね。

ここでわたしも一曲飛び入り。川門さんの三線を貸してもらって、古謝美佐子の「童神」を唄いました。実は「エレキ三線」初体験。やっぱりいつもの三線とは響きが違うので、勝手が違ってちょっとやりにくい。

川門さんが一休みしている間に、ステージに川門さんの知り合いというおじさんが登場。
この人がまたうまい。エイサー・ソングを「仲順流り」から「唐船どーい」までメドレーでざーっと流していったのですが、その唄い方が只者ではないのです。どんな人だろうと思ったら、宜野湾出身で名古屋在住の上運天有二さんという人でした。なんでも名古屋のエイサー隊で地謡をつとめるほか、さまざまな音楽活動をされているとのこと。名古屋で造園業を営んでいるそうで、その会社がたまたまわたしの実家の近所だったので、後で「名古屋市名東区本郷ネタ」という超ローカルな話題で盛り上がってしまいました(笑)。

しばらくして再び川門さんのステージ。今回は噂の唄「サーターアンダギー」が聴けました。元唄は「ダンゴ三兄弟」なんですが、タルー、ジルー、サンラーのサーターアンダギー三兄弟の話がひょうひょうとウチナーグチで語られていき、もうおかしいったらない。「琉歌」にお出かけの際は、ぜひリクエストを。

川門さんのステージが終わってから、わたしも調子に乗って再びステージへ。今度はわたしひとりじゃ嫌だと、さんきちさんも引きずり込んで、ほとんど「ふたりのオンステージ」状態で、ビギンの「竹富島で会いましょう」と「がんばれ節」、そしてお客さんからリクエストをもらってTHE BOOMの「島唄」まで歌ってしまいました。楽しかったぁ。久々だったけど、けっこう息も合ってたよ……ね、さんきちにぃにぃ(笑)。
琉歌
この夜の就寝時刻: AM2:00 (^^;)

島唄家「琉歌」
石垣市大川264
TEL: 09808-3-6788 / FAX: 09808-3-8434
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第二夜: 民謡スナック「浜辺」
2日目は美崎町の民謡スナック「浜辺」。
ここは鳩間島出身の花城さんという方のお店です。お店の内装は、「典型的な沖縄の民謡酒場」といった感じ。いや実は、わたしはまだ沖縄本島の民謡酒場に行ったことがないので、そうと断定はできないのですが、ほかの民謡酒場体験者の話を聞いたり、記事を読んだりした限りでは、たぶんそうなんじゃないかな、という……

ここのステージは、男性数人(うちひとりは三線ではなくエレキギター)と太鼓やお囃子を担当する女性ひとりという民謡ショー形式。ちょうどこの日は3月4日「三線の日」なので、ということで、いきなり「かぎやで風」から始まりました。「安里屋ゆんた」や「島々美しゃ」などの八重山スタンダード、「桃里節」のような古典的な八重山民謡、はたまた「花」「沖縄(ウチナー)」「十九の春」「二見情話」のようなとってもポピュラーな沖縄の歌まで、なかなかバラエティに富んだレパートリーが展開。その中には「民謡スナック浜辺音頭」などというこのお店のテーマソングまで。この歌には途中で八重山古典民謡の「千鳥節」が挿入されていて、なかなかいいなあ、これ、と思ったので帰ってから挑戦してみた(「千鳥節」のほうね)のですが、あれれ……聴いた時はそんなに難しそうには思わなかったんだけど……意外に……(苦戦中)

多彩なレパートリーの中にはなんとビギンの「竹富島で会いましょう」「がんばれ節」までありました。これを聴いた時は、正直言って「やられた〜」と思いました。民謡酒場でこれをやってるところがあろうとは……

ここも、やはりお客さんのリクエストや飛び入り大歓迎。「石垣に来るとどうしてもここでこれを歌って帰らないと気がすまない」というおじさんが「芭蕉布」を歌ったり、常連さんらしいおじさんがいきなり「軍人節」なんて歌いはじめたりと、「琉歌」や次の日の「安里屋」とはまた違った、ディープな世界がくりひろげられます。もちろんわたしもまた飛び入りして、「童神」などを唄ってきました。

ステージに立つメンバーの中に、ひとり沖縄の人にしては色白の、あんまりウチナンチュっぽくない顔立ちの人が……この人は三浦直信さんという方で北海道出身、石垣島に移住して八重山民謡を極め、コンクールで最優秀賞までとったという人。北海道出身で沖縄にはまるって人、けっこう多いようなんですね。有名なところでは作家の池澤夏樹がそうだし……
浜辺
この夜の就寝時刻: AM2:30 (^^;)(--;)

民謡スナック「浜辺」
石垣市美崎町10-16
TEL:09808-3-0927

最終夜: 島唄ライブハウス「安里屋」
3日目はもうすっかり顔なじみとなってしまった唄うウミンチュ、安里勇さんの店「安里屋」。
この夜はふたたびさんきちさんと、そのほか「沖通団」のたにりえさんとナオミさんの4人(残念ながらたにりえさんは体調不良、ナオミさんはママ予備軍ということで、途中で帰られましたが)、というにぎやかな面子となりました。

安里さんがお店に登場するまでは、店内のビデオにBS朝日で放映されたという「とぅばらーまの島」という番組の映像が流れます。安里さんの船で八重山の島々をめぐり、ポイントポイントでその島の代表的な島唄を安里さんが唄う、という、考えようによっちゃかなりマニアックな番組。そりゃそうだろう、番組構成した人知ってるけど……自分の趣味を全面的に押し出してるのが、見え見え(爆)。

グルクンの唐揚げ そうこうするうちに安里さん登場。あ、ども、お久しぶりです……ってこともないか。
お店にきたのは2年ぶりだけど、安里さんが東京でライブするたびに顔を出してるので、この前会ったのは2月12日@五反田・結ま〜る……考えてみたら、まだひと月たってないや。
昼間漁に出た安里さんがグルクンを大量に釣ってきた、ということで、わたしたちもグルクンの唐揚げのお相伴にあずかりました(もちろんこれはお店のおごり、ということで、お勘定には含まれない)

ここのステージは、安里さんの唄三線と、太鼓&お囃子&踊り担当の芸達者なおねえさまのコンビが基本。手の空いた従業員(お揃いの黒の「安里屋Tシャツ」を着たお兄さん・お姉さん)が手拍子や囃子を入れたり、お客さんをステージ前に引っ張り出して踊らせたりと、その場を盛り上げています。
この日のステージは「鷲の鳥節」にはじまって、「安里屋ゆんた」「十九の春」といったポピュラーな唄から安里さんお得意の八重山民謡の数々という定番コース。
最終夜ということで、今夜はもうとことん遊んじゃる、とわたしもヒートアップ。お囃子だって、トゥバラーマの返しだって、ガンガン入れちゃうぞー、踊っちゃうぞー、イエイ(おいおい)

初めて「安里屋」に行った時は、ステージに飛び入りして、安里勇さんのトゥバラーマの返しをやってドッキドッキものでしたが、歳月ととも に人間大胆になるもので、この夜は酔った勢いで「伊良部トーガニー」の一番(二番はもちろん安里さんが唄いました)を唄ってしまった……
これは人間酔っぱらうと息が続かなくなる、という意味で、「二重の暴挙」だったような……(^^;)

やがて夜も更け、お客さんの数も少なくなって、そろそろお店も終りかな……という雰囲気になってきました。安里さんが「それでは弥勒節でも……」と言いました。
やったー弥勒節! この唄、なにしろ八重山では宴会のしめくくり、「六調」でぱーっと踊っていよいよおしまい、となった時に、しみじみとうたい出される唄(まあ、感覚としては「蛍の光」に近いかな)だけに、東京のライブではなかなかうたってくれない、というか、ナマではまだ一度も聴いたことがないのです。(安里さんの最新CD「浮遊人(ふゆまやー)」には収録されているけど……)

でも、さていよいよ、という時になって新たなお客さんが数人来店。おまけに観光客のグループのひとり、三線をはじめたばかりというお姉ちゃんが飛び入りで「安里屋ユンタ」を弾く、という展開になってしまって、あのなんともいえないしっとりした雰囲気は雲散霧消。結局「弥勒節」はまた幻のナマ唄となってしまったのでありました。
安里屋
この夜の就寝時刻: AM3:00 (^^;)(--;)(_ _;)

島唄ライブハウス「安里屋」
石垣市美崎町10-2 センタービル1F
TEL:09808-8-6008
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番外: サンシン大合奏会
そのほかにも、3月4日は「三線の日」ということで、石垣市の総合体育館で開かれた「サンシン大合奏会」を見てきました。
会場になっているまだ新しくてきれいな総合体育館に入ってみると、2階の観客席にいる人よりも下のアリーナにいる人のほうがだんぜん多い。ま、そりゃそうでしょう。これは観客になるより参加するほうが面白いイベントですもの。

この日は、体育館のアリーナに、八重山民謡のさまざまな流派の人400人ほど(三線だけではなく、琴や太鼓、笛の人も)が集まって、司会者の「どうぞっ」の掛け声とともにいっせいに八重山民謡の大合奏。西洋音楽になじんだわたしにとっては、これだけの大人数が指揮者もなしに合奏するなんて驚異に近い。もちろん、曲によっては前のほうの人たちと後ろのほうの人たちとの演奏がずれてしまって、まるでエコー効果のような響きになってしまうものもありましたが。 (時々、前のほうにすわっていた先生のひとりが立ち上がり、弾きながら後ろのほうのお弟子さんのところまで歩いていって調整をはかったりしてました)

八重山民謡にもいろいろ流派があって、この日は八重山古典民謡保存会と、八重山古典音楽協会(この中にも安室流保存会、安室流共和会、大浜用能流保存会の3つ流派がある)と、そのいずれにも属さない「一般の部」の人たちが、それぞれのグループごとにかたまって、全体合奏とそれぞれのグループごとの合奏、あわせて26曲ほどを演奏。八重山の定番らしく、幕開けは「赤馬節〜鷲ぬ鳥節」で、締めは「弥勒節〜やらよう節」でした。
流派ごとに少しずつ弾き方や歌い方が違っていたりするので、それぞれ調整は大変だったろうなあ、と思いました。
大合奏会の実行委員長でもある八重山古典音楽界の大御所、玉代勢長伝氏の風格あるバチさばきがナマで見られたのが大収穫です。勉強になりました。

サンシン大合奏会

手前のグループ、最前列の手前から奥に向かって3人目が玉代勢長伝氏