97/07/12付け 朝日新聞より抜粋
変わるかな 天野 祐吉
さあ、選挙だ。投票したって何も変わらないよ、なんて言っていても
ラチがあかない。あまり気の進まない人も、ここはひとつ、ヨッコラ
ショと腰をあげよう。
それにしても、きのうまでやっていた各党のテレビCMは、予想どう
りひどかった。行き止まりの現状を、「変える」とか「変えたい」とか、
とにかく「変わる」がCM合戦のキーワードだったのはいいけれど、
「変わろう!」と叫んでいるCMそのものが、カビの生えた古い政治
CMのスタイルとぜんぜん変わっていない。古くさい言葉で「新しい
風を!」なんて叫んだって、そりゃ説得力がないというもんだろう。
そのズレは、いまの政治家と国民の間の感覚的なズレ大きさをその
まま映しとっている。もうひとつ言えば、だいたいCMというのは、
だれもこっちなんか向いていないと思って作るのがふつうなのに、ど
の党も、国民が真剣に耳を傾けているという前提でCMをつくってい
るところが、これまたひどくズレている。
ま、自民党のCMだけは、その点がちょっと違っていて、国民の無
関心を一応ふまえたツクリになっていた。
例の調子でテレビから国民に語りかけている橋本サン。と、それを
聞いていた少年たちが「だれ、この人」と顔を見合わせる。別のバー
ジョンでは、やはりテレビから語りかけている橋本サンに、一人の老
人が、「言うのは簡単」と、皮肉につぶやく。そんな国民の気分をとり
こんだところが、ほかの党よりずっと巧妙ではあったけれど、それにし
たってぼくらが聞きたいのは、橋本サンのもっと素直な言葉であって、
政治に興味を失っている国民のつぶやきではない。
ま、15秒や30秒でそれを言えというのは、むりな話かも知れない。
だったら、60秒でやればいい。へんな細工をしないで、党首がこっち
を向いてしっかり60秒しゃべってくれればいいのだ。60秒もあれば、
きれいごとのお題目を並べているだけではもたなくなる。党首の人間と
しての中身が、素顔が、肉声が、いやでも出てくるはずである。
とまあ、そんなことをあれこれ考えていると、結局は「変える」とい
うのは口先だけで、選挙に行っても何も変わらないんじゃないかと、ま
たぞろ思えてしまう。
でもさ、政治や政治家は変わらなくても、一人でも多くの人が選挙に
行けば、確実に変わるものがる。投票率だ。いまは政治家に変われと注
文をつける前に、まずそこから、つまり自分たちから変わっていくのが、
この国を変えていくのに、いちばん必要なことなんじゃないだろうか。