毎日新聞掲載(2001/9/25)記事 池田大作・創価学会名誉会長インタビュー 「あらゆるテロは絶対悪」   毎日新聞 2001/9/25(火)1面掲載 【「国連特別総会でテロ対策」を提唱 創価学会池田名誉会長】    創価学会の池田名誉会長(73)はこのほど毎日新聞の取材に答え、米国の同時多発テロ事 件について「仏法者の立場から、あらゆるテロを絶対悪として許さない」と厳しく批判し た。また、首相公選制の導入は容認したが、憲法改正議論で9条改正には反対の姿勢を明 確にした。(21面に詳報)  池田名誉会長は今回のテロ事件を受け「大勢の人を巻き込んで殺すことは、殉教ではな い」「これほど残酷な宗教ならば、この世にある必要がない」と語った。一方で日本政府の 対応については「後手後手」と指摘し、国連で「国際テロ対策のための特別総会」開催を 検討するべきだと唱えた。  また、創価学会が指示する公明党が与党の一角を占める小泉内閣の高い支持率について 「90%の支持率は異常。人気があると言っても、まだ仕事はしていない」と指摘。小泉首 相の靖国神社参拝に対しても「憲法違反の疑いが強い」と批判した。 毎日新聞 2001/9/25 (火) 21面掲載   創価学会の池田大作名誉会長(73)は、毎日新聞のインタビューに対し、米国の同時多発テ ロ 事件と宗教の問題をはじめ、世相、教育、政治、憲法、創価学会の現状など幅広い分野に 関して約1時間半にわたり考えを語った。問答の主な内容を紹介する。聞き手は、毎日新 聞の北村正任・主筆と、岩見隆夫・特別顧問。(1面参照) 〔同時多発テロ事件〕〜大勢を巻き込み殺すことは殉教ではない〜 北村主筆  :同時多発テロ事件では、創価学会の方も安否が分からなくなっているよう ですが。 池田名誉会長:アメリカSGI(創価学会インターナショナル)の経理部長です。世界貿易 センタービルに突入した航空機に乗っていました。大変、優秀な人物です。 岩見特別顧問:20世紀は戦争の世紀といわれましたが、こういう事件があると、21世紀も また新たな形の戦争の世紀になるのではという不安を、全世界が持っています。テロリズ ムと宗教がどこかで関連しているのは間違いない。宗教界の指導者の立場で、事件をどう 受け止めましたか。 池田氏   :大変に暗い気持ちになりました。本来、宗教は、人の魂を救い、人間が人 間らしく幸福に平和に暮らすための役割を持っています。その宗教が、人間を殺し、破壊 し、不幸のどん底に陥れる。これほど悪い残酷な宗教ならば、この世にある必要がない。 それが、一般の方々の心情だと思います。私もそう思います。今回の事件は文明社会への 挑戦であり、平和に生きる人類の権利の破壊です。私どもは「人間の生命は全宇宙の財宝 よりも尊い」という仏法者の立場から、あらゆるテロを絶対悪として断じて許しません。 宗教が、政治、利害、宗教家の権威に利用される。この悪循環を、今回の事件にも感じま す。 岩見    :宗教者を残酷非道なテロに駆り立てている根っこにあるものは、何なので しょう。 池田氏   :権力です。利害です。宗教それ自体の延長の戦争も、ないとは言えません。 しかし、つぶさに分析してみると、どうしても政治、利害、陰謀が絡んでくる。 岩見    :イスラム原理主義の、原理主義ということも解しかねる面があります。 池田氏   :原理主義は、そのままの法義や教義を実行するという次元で解釈すれば、 正統のように見えます。しかし、時代は刻々と変化しています。もとは1000年以上も前の 宗教です。それをそのまま持ち込んでいくことは、一見、宗教者としてはとてもきれいに 見えますが、大変な時代錯誤、間違いを起こします。原理主義はとても神聖で崇高という、 その錯覚が恐ろしいです。「このようなテロは、イスラムの原理に反する」と指摘する教徒 もいます。 岩見    :日本はオウム事件を経験していますが、ちょっと似ているんじゃないでし ょうか。 池田氏   :似ています。もちろん無宗教のテロリストが多いわけですが。大勢の人を 巻き込んで殺すことは、殉教ではありません。それは、破壊、暴挙、戦争です。 岩見    :名誉会長も、この問題でアクションを起こそうとお考えですか。 池田氏   :絶対にすべきです。学会は、真剣に取り組んでいます。アメリカSGIはた だちに緊急対策本部を設置し、救援活動の応援、義援金の寄託、献血などを始めました。 平和、戦争反対、暴力をなくす。これは教義を超越した、人間本来の道であり、幸福への 道です。そこに宗教の発生があったわけですから、宗教界は一致すべきです。 岩見    :日本の仏教界が連帯して何かをやることはないのでしょうか。 池田氏   :日本の他宗教は他宗教として、行動すればいいと思う。今、学会が主導し ても、まとまるまで時間がかかります。また反発が起きます。それは愚の骨頂です。 岩見    :日本も同盟国の立場から米国を支援しなければならない。小泉純一郎首相 も支援を約束していますが、政治の動きはどうご覧になりますか。 池田氏   :はがゆくて話しになりません。日本の政治家は後手後手です。率先して平 和への国際世論をつくるべきです。国連で訴えてもいい。今こそ、国連が大事です。国連 加盟国は一丸となって「国際テロ対策のための特別総会」開催を検討してはどうでしょう か。日本も、そうした方向で努力すべきです。キリスト教とイスラム教は平和的に共存し てきた長い歴史を有しています。現在は、宗教的対立というより政治的対決の色彩が強い。 文明全体が試練に立たされている今こそ「徹底した対話を」と訴えたい。 〔世相・教育〕〜同苦を教育に〜 北村    :今回のテロ事件でも一番の特徴は命の軽視だと思うのですが、この風潮は テロに限らず、最近の日本の社会でいろいろあります。どうしてそんなに簡単に人を、子 供を殺すのだろう、ということがあります。 池田氏   :希望がないからではないでしょうか。社会全体にトンネルの出口が見えな い閉塞感が高まっています。人生に意味を与えるのは哲学であり、宗教です。ところが今、 真剣に暴力、戦争はいけない、と教育する信念がありません。もうみんなあなた任せ、自 分は関係ないと。使命感、責任感がなくなってしまっている。 北村    :自分たちに対する攻撃と受け取らずに、私のところが関係しなくてよかっ たと。平和が、社会が脅かされている、それは自分たちへの攻撃だという感じがちょっと 薄らいでしまう。 池田氏   :そこなんです。全部あなた任せです。仏法は同苦です。人が不幸である。 人が苦しんでいる。同じ苦しみを持って助け合おう。これが人間の真実の生くべき道でし ょう。同苦が大事です。 北村    :なかなか理解し合えない人間同士を、どうやって同苦というものに持って いくのでしょう。 池田氏   :一番大事なことは、教育です。不幸、戦争、恵まれない……。その人と同 苦する。同じ目線でどのように擁護するか、また平等に扱うか。その点、日本は遅れてい ます。 岩見    :歴代政権は教育改革と必ず言う。実際に政府機関で議論しても妙案が出て こない。そこでお聞きしたいのは教育基本法です。変えるべきじゃないかという意見の人 もいますが、名誉会長は慎重と聞いています。 池田氏   :国家主義に持っていく色彩が見え見えですから。もっと斬新な展望を持て る学者に、議論してもらいたい。なんでも政治の機関でやらせるのは、政治至上主義です。 人間至上主義ではありません。長らく日本の教育は、その時々の国家目標に振り回されて きました。軍事優先や経済優先だった国家目標に沿って、役割を狭められてきたのです。 教育基本法は「人格の形成」を教育の目的として掲げていますが、私は「子供の幸福」と 読み換えたらどうかと訴えたい。「教育は子供の幸福のためにこそある」。これは、私の敬 愛する、戦時中に獄死した教育者の言葉です。 岩見    :私は教育における宗教の役割は非常に大きいと観念的には思っています。 しかし、現実的に日本の教育の中で、宗教の比重は高くない。 池田氏   :そうですね。しかし、今でも欧米では、宗教を持たない家庭は少ない。日 本の宗教的権威者が悪いんです。宗教は空気や水みたいなもので、本来人間にとって必要 なものです。 〔政治〕〜もう一度本格再編が〜 北村    :7月の参院選は大変な小泉フィーバーで、その後も内閣支持率はあまり下 が らない。高い時には90%近くです。危ないという人もいますが。 池田氏   :私も同感です。日本人の、はっきりしないものに対する何となくという人 気。強い哲学性も政治観もなくして、付和雷同する。その表れの一つだと思います。90% の支持率は明らかに異常です。時代、謝意、未来に対する閉塞感が強かった分、人々は改 革という言葉に、実態も分からないままひかれている。そこが気になります。人気はイコ ール政治の力ではありません。人気があるといって、何もまだ仕事はしていない。 岩見    :小泉さんは「自民党をつぶしてもよい」なんて言うもんですから。そうい うパフォーマンスに人気が行った。 池田氏   :少しずつ見が覚めてきた人もいるが、まだ続くでしょう。次がいないから。 今は、日本が改革を必要としている。頑張ってほしいものです。 岩見    :名誉会長はずいぶん歴代総理に接触が多いようですが。 池田氏   :私から「会いたい」と言って、会った方はおりません。先方から「懇談し たい」と言うので、すべてお断りすることもできませんし、以前はほとんどの総理にお会 いしています。公明党の国会議員は一切関係していません。私個人として会っています。 一番多かったのは福田(赳夫)さんでしょうね。 岩見    :福田さん、あるいはその前後と、ここ十数年のリーダーを比べていかがで すか。 池田氏   :やはり佐藤(栄作)さんとか、池田(勇人)さんは格式がありました。政 治からしい人格、信念、風格でしょう。 岩見    :信念ということで言うと、この夏は靖国参拝騒動がありました。靖国問題 に関しては、どういうご見解でしょう。 池田氏   :一国の総理が、一宗教法人に参拝することは間違いです。靖国参拝そのも のは、憲法違反の疑いが強いことも事実です。戦没者を悼む気持ちは分かりますが、一国 の宰相たるもの、心情論だけに流されることは危険です。 岩見    :公明党は最近、宗教政党らしい純潔性とか寛容さが感じられなくなって、 自民党や民主党と同じ普通の政党という印象ですね。惜しいなあと感じているんですが。 池田氏   :全く同感です。私もそう思っています。そうなると何の魅力もなくなる。 岩見    :最近は衆院の選挙制度自体を変えたらどうだと公明党も提唱しているよう です。 池田氏   :中選挙区制が日本に一番当てはまるんじゃないか。公明党に有利とか不利 とかいう問題じゃなくて、多様化した日本社会にあって、その方が幅広く皆が選択できる と思うからです。 岩見    :今、自民党と連立を組んでいますが、自民党は相当くたびれてきたなあと 私は思っていますけれども、どうですか。 池田氏   :いつかはもう一度、本格的な政界再編のときが来るのではないでしょうか。 岩見    :そういう意味でも公明党が日本の政界に刺激を与える役割はあるんじゃな いかと。 池田氏   :そうでなければ公明党の存在価値がなくなります。自民党の補完勢力みた いになってしまうから。 岩見    :今の自民党だとそう展望はありません。 池田氏   :再編があっても長続きするかどうか……。だけど自民党単独内閣は、当分 できそうもありませんね。連立は時代の流れと思います。 北村    :創価学会は今後、政治とのかかわりをさらに深めるのでしょうか。 池田氏   :宗教は人々の幸せと世の中の平和と繁栄を願うものです。政治が腐敗、堕 落し、危機的状況にある限り、異議申し立てをするのは、宗教者として当然の責務です。 政治への監視を庶民の目線で行うことは、非常に大切なことと思います。 〔憲法〕〜9条を変えてはいけない〜 岩見    :首相公選制について、名誉会長はいいんじゃないかというお考えとうかが っていますけど。 池田氏   :否定はしません。新しい日本の何かを生み出してもらいたいという意味で。 何だか全然、政治が面白くないから。 岩見    :仮に首相公選制を導入するとなると、憲法改正を必要としますね。 池田氏   :そうなんです。私は絶対に第9条だけは変えてはいけないと思います。そ の他は、やむを得ない場合があるかもしれないが。 岩見    :憲法を見直すこと自体はいいと。 池田氏   :その通りです。議論は結構だ。9条は変えてはいけない。 〔創価学会〕〜独裁などあり得ない〜 北村    :創価学会は70年を超えました。今、創価学会はどういう段階にあるのでし ょうか。長年、指導者の立場にある点をどうお考えですか。 池田氏   :ほぼ日本の1割に(会員数が)なりました。基盤が出来上がったと見てい ます。当然指導者がいなければ、組織は正しい方向に動きません。とともに、皆に責任を 持たせ、青年を育てていかなければ、どんな団体であっても安定と発展、持続はできなく なるものです。独裁などあり得ないし、時代遅れです。学会の運営は、役員会議・中央会 議などを中心に、民主的にみんなの意見を最大に尊重して行っています。会議も私があま り出ると皆が遠慮してはいけないと思い、原則として出ないように心がけています。 岩見    :何か新しい独裁みたいな感じもしますが。(笑) 池田氏   :どう見られても、私は構いません。全部、自由ですから。ただ、私も名誉 会長として、会則通りに働いています。独裁であれば人は育ちません。世界にも開けませ ん。独裁は臆病です。必ず滅びます。 北村    :名誉会長、最近までずっとマスコミに登場しなかったのですが、最近、朝 日新聞への寄稿から始まり、登場が続いています。何か思うところがあってですか。 池田氏   :創価学会というと、すぐに公明党と見られがちです。その公明は自民と一 緒になってます。一般の方々は学会も同じように、つながってしまっていると思われかね ません。そのように思われることは学会にとっては非常に迷惑なことです。心ある会員に しかられます。また離れていきます。そこで、創価学会の主体性を明確にしておかないと、 内部的にも納得を得られないと思って発言を多くするようにしました。私たちは、公明党 を支援するために信仰しているのではない。宗教は人間と人間との心の連帯です。 もはや党派性の時代ではない。それでは必ず行き詰まる。あくまでも人間です。人間のた めの、人間による宗教活動を、私たちは進めていきます。